#マーケティング #顧客理解 #ドライバーとバリア
お客さんが本当に求めているものは何か、何が購入の障壁となり、何が背中を押す動機になるのか。これらを正しく理解できているでしょうか?
売り手が良かれと思ってやっていること、売り手が信じる商品価値と、買い手が本当に求める価値の間には、ギャップが存在することが少なくありません。このズレは、ビジネスの機会損失を招きます。
今回は、車のサブスク 「カーリースカルモくん」 の事例から、顧客理解の重要性と、購入を阻むバリアの除去、行動を促すドライバーの強化について実践方法を考えます。
車のサブスク 「カーリースカルモくん」
カーリースカルモくんは、ナイルが運営する月額定額制のカーリースサービスです。
利用期間は1年から最長11年まで選べ、軽自動車の最も安いプランで月額1万4140円 (税込み) から車をリースできます。
カーリースカルモくんの特徴は、月額料金に車両本体価格だけでなく、自動車税や自賠責保険料などの維持費が含まれている点です。
7年以上の契約なら、リース期間終了後にそのまま車を所有できる 「もらえるオプション」 の選択も用意されています。
2025年3月時点で申し込み数は30万人を突破し、利用者の8割強が7年以上の長期契約を選ぶとのことです (参考情報) 。もらえるオプションの人気も高く、カーリースカルモくんはカーリース市場での存在感を着実に高めています。
では、車のサブスク 「カーリースカルモくん」 の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
注力顧客を理解する重要性
この事例が示す教訓は、企業側の思い込みではなく、実際の顧客の行動と心理にもとづいて戦略を立てることの重要性です。
売り手と買い手の認識ギャップ
カーリースカルモくんの注力顧客像を見てみると、メイン層は 42 ~ 43 歳、年収 360 ~ 380 万円で車の知識がそれほどない人たちです。
今後に可能性のある成長層としては、大卒社会人1年目で全国転勤のある企業勤務、地方在住という属性が浮かび上がります。
カーリースカルモくんは当初、品揃えが豊富であること、つまり選択肢の多さが顧客満足度につながるという、ともすると常識的な仮説を持っていました。しかし、これは売り手である企業側の視点でした。
消費者の声に耳を傾けると、実際は違いました。
注力すべき顧客層にとって車は必要な存在であるものの、車への情報や知識がなく、多くの選択肢から選ぶことに時間や手間をかけたくないと考えていることが明らかになったのです。
こうした意向を持つ消費者にとって、豊富な車種ラインナップは価値であるどころか、むしろ選ぶのがおっくうという心理的な負担やストレスになっていたわけです。
顧客理解の恩恵
注力顧客の立場になって気持ちを理解したからこそ、真のニーズの発見につながりました。
想定するお客さんが本当に求めていたのは豊富な車種やプランの選択肢ではなく、自分に合った車を、手間なく、安心して、手頃な価格で利用できることでした。
この発見により、サービス開発にも大きな変化が生まれました。
カーリースカルモくんは消費者ニーズに応えるため、車種をあえて絞り込み、専門家が選んだ安心のモデルを提示する 「お手軽タイプ」 「安心快適タイプ」 などのプランが生まれました。
現在、これらのプランは利用者全体の約5割を占める人気商品です。
また、コミュニケーションも最適化されました。
注力顧客像が具体的で明確になったことで、ウェブサイトや広告での訴求も変わりました。車検や登録費用といった専門用語をなるべく使わず、平易な言葉で説明することにより、車のことに詳しくない消費者にもわかりやすく、申込みへのハードルを下げることができました。
もし顧客理解を怠り、車種を増やし続ける方針をとっていたら、むしろ注力顧客層を遠ざけてしまったことでしょう。お客さんの実際の行動と心理に向き合い、売り手である企業側の思い込みを捨てることの重要性を示す事例です。
バリアを解消しドライバーを押す
カーリースカルモくんは顧客理解によって、効果的なサービス開発とマーケティングを展開しました。ここではバリアとドライバーという切り口から掘り下げます。
バリア (顧客が契約しない要因) の特定と除去
カーリースカルモくんは、顧客がカーリース契約に至るまでの様々な障壁を的確に特定し、一つひとつ丁寧に取り除いていきました。
選択のバリアでは、たくさんありすぎて、どの車種を選べばいいか分からない、選ぶのが面倒くさいという問題がありました。カーリースカルモくんは車種を絞り込んだプランを提供することで解決し、顧客は選ぶという最も大きな心理的負担から解放されました。
知識のバリアとして、車検や税金など、専門用語を見ると嫌になる、手続きが複雑そうで面倒という声がありました。
そこで、カーリースカルモくんは平易な言葉遣いでの説明を心がけました。諸費用込みのシンプルな料金体系を導入し、申し込みフォームの専門用語をなくすことで、月々定額ですべてお任せという分かりやすさを実現しました。知識不足からくる不安というバリアを取り除いたのです。
価格のバリアでは、一括購入や頭金の支払いは負担が大きいという問題がありました。カーリースカルモくんでは月額定額制の導入により、初期費用を抑え、毎月の支出を平準化することで、金銭的なハードルを下げました。
将来の不安というバリアとして、事故を起こしたらどうなるのか、リース契約なので任意保険が複雑そうといった懸念があります。カーリースカルモくんは、カルモあんしん自動車保険の提供により、リース契約に特化した保険を用意することによって、万が一の際の不安というバリアを払拭し、安心感を醸成しました。
ドライバー (顧客が契約する動機) の創出と強化
バリアを取り除くだけでなく、カーリースカルモくんは見込み顧客の背中を強く押す動機を設計し、訴求しました。
手軽さ・簡便性というドライバーでは、面倒な手続きはすべてお任せしたい、考える手間を省きたいというニーズに応えました。カーリースカルモくんには専門家が選んだ車種と、維持費込みのパッケージが用意されています。
手軽さが、時間を節約したい、手間をかけたくない人にとって契約動機となります。
経済的合理性へのドライバーとして、コスパを重視したい、無駄な出費は抑えたいという思いに応えました。広告での 「安い・コスト」 というキーワード訴求により、維持費を含めたトータルのコストでのお得感を明確に打ち出すことによって、価格に敏感な顧客層の心をつかんだことでしょう。
所有欲のドライバーでは、最終的には自分のものにしたい、レンタルでは所有欲を満足できないという気持ちに寄り添いました。
もらえるオプションという仕組みにより、長期契約すれば車が自分のものになるという選択肢は、いつかは所有したいというお客さんの期待価値に応えます。広告で 「もらえる」 という単語の効果が高かったのは、このドライバーがお客さんの心に響いた証拠です。
カルモに学べること
カーリースカルモくんの事例は、マーケティングで大事なことを教えてくれます。
カーリースカルモくんのケースでは、お客さんの立場になって相手の行動と心理を深く掘り下げ、車の種類や付帯サービスの選択肢が多すぎることでの選択疲れや知識不足による不安といったバリアをうまく除去しました。
そして同時に、「手間なく最適な選択をしたい」 「いつかはマイカーを所有したい」 という顧客のドライバーを力強く押しました。
バリアを取り除いただけでは、人は 「まあ、悪くはないかな」 と思うだけで、購入には至らないかもしれません。カルモの事例は、バリア除去に加えて、「これは自分のためのサービスだ」 と思わせるドライバーの両方に対応することが重要であることを教えてくれます。
お客さんの本音に向き合い、企業側の思い込みを捨て、購入を阻害する要因を取り除きながら、同時に強い動機をつくる――。マーケティングにおけるバリア除去とドライバー強化の重要性を示す実践例です。
まとめ
今回は、車のサブスク 「カーリースカルモくん」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 売り手の "良かれ" を疑うことから始める。売り手の常識と買い手の実態には往々にしてギャップがある。お客さんの声に真摯に耳を傾けることで真のニーズを発見できる
- お客さんが購入や利用しない要因となる 「バリア」 を体系的に特定し、ひとつずつ丁寧に取り除く
- 顧客が行動を起こす強い動機となる 「ドライバー」 を押す。バリアを取り除いてマイナスをゼロにするだけでなく、お客さんの背中を強く押す動機を捉える
- 顧客理解にもとづいて、商品開発からマーケティングでの言葉選びまで一貫させる
- 特定の部署だけでなく、サービス開発、ウェブサイト設計、プロモーション、顧客対応など、すべての事業活動に軸となる指針として反映させる
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