#マーケティング #ビジネスモデル #顧客価値
日本には、ぬいぐるみを単なる 「モノ」 ではなく、心を通わせる家族やパートナーとして大切にする文化があります。
最近では 「ぬい活」 と呼ばれ、ぬい活市場は活況を呈しているようです。
今回は、ぬいぐるみの持ち主たちの想いを乗せて、ぬいぐるみだけを旅させるユニークなサービス、「ウナギトラベル」 を取り上げます。
ぬいぐるみを旅行させるサービス
出典: ウナギトラベル
出典: リクナビ NEXT
ウナギトラベルは 2010 年に設立された、世界初のぬいぐるみ専門旅行代理店です。
病気や障がいで旅行が困難な方、育児中で身動きが取れない方、海外から日本に憧れを持つ方々のために、大切なぬいぐるみを自分の 「分身」 として旅に連れていってくれます。
東京、横浜、鎌倉から、時にはハワイまで。ぬいぐるみたちは国内外の様々な場所を訪れ、その様子は写真と SNS で持ち主にリアルタイムで共有されます。
ウナギトラベルのビジネスモデル
では、ウナギトラベルのビジネスモデルを解剖し、このユニークなビジネスの理解を深めていきましょう。
まずは 「顧客は誰か」 という注力顧客から見ていきます。
注力顧客
ウナギトラベルが価値を届けようとしている顧客像は多様です。
最も中核的な顧客層は、自分で旅行に行けない、あるいは行きにくい人々です。
病気や障がいを抱える方、子育て中でまとまった時間が取れない方、仕事の都合で休暇が取れない方などです。物理的に自分で旅行するのが難しい人たちに対して、本人の代わりにぬいぐるみが旅することにより、旅を疑似経験する感覚を提供します。
次に重要なのは、ぬいぐるみに特別な思い入れがある人たちです。
ぬいぐるみを単なる物ではなく 「自分の分身」 あるいは 「大切な存在」 として捉えていて、いわゆる 「ぬい活」 のひとつとして、ぬいぐるみに旅行をさせたいと思う人です。いつもそばにいてくれるぬいぐるみに違う景色を見せてあげたいという動機を持つ方々です。
他には、サプライズやギフト用途を求める人々、家族や友人への贈り物として特別な思い出づくりを楽しみたい人たちです。
それ以外に注力顧客となるのは、世界を体験したい、日本を知りたいという海外の人です。230また、教育的・情操的目的を持つ層、子どもへの世界を知るきっかけとして利用する教育関係者からの需要もありそうです。
競合
ウナギトラベルの競合は、旅行できない状況で旅行気分を味わうというニーズを満たすあらゆる選択肢を含みます。
直接的な競合としては、国内では 「おもちトラベル」、「すだちトラベル」、「NPO ぬいぐるみの旅」 などが存在します。海外ではフランスの 「Peluche (ペルーシュ) Travel Agency」 、イギリスの 「Teddy Tourist」 、ドイツの 「Teddy Tour Berlin」 があります。
間接的な競合も含めた、より広義の競合は多様です。
バーチャル旅行、VR 旅行、動画・写真・SNS による旅行体験など、デジタルで擬似体験できる方法があります。また、SNS やブログでの自己表現・共感、ギフトやプレゼント市場も広く捉えれば競合と見ることができます。
まとめると、競合は従来の旅行からデジタルな旅行体験、趣味・コミュニティ、ギフト需要など、多岐にわたります。
顧客価値
ウナギトラベルが注力顧客に対して、提供している顧客価値はどういったものがあるのでしょうか?
第一に、旅に行けない人に代わって、旅行体験を疑似的に提供できる点です。
身体的制約、時間、金銭面などで実際に旅するのが難しい人にとって、自分のぬいぐるみを旅に出すことにより、自分も旅している気分や旅の思い出を得られます。SNS やライブで旅の様子を共有されることで、まるで自分がその場にいるような感覚を味わえます。ぬいぐるみの旅行先の異文化・異地体験を、安全かつ手軽に楽しめるわけです。
第二に、思い入れのあるぬいぐるみに冒険や体験を与え、旅行の物語を得られる価値があります。
ぬいぐるみが旅をした写真やエピソードを受け取ることで、ときには予期せぬ驚きや喜びを感じられることでしょう。ぬいぐるみが思い出をつくる媒体のような存在になり、持ち主にとって感情的・情緒的な満足が得られます。
第三に、癒しや心のつながり、コミュニティ形成という価値もあります。中には、持ち主同士の共感や交流が生まれ、社会との接点を持つきっかけになることも期待できます。
最後に、地域や観光地への間接的な参画や貢献という価値も見逃せません。地方自治体や観光地、企業とコラボし、地域のよりみちスポットや観光資源なとに、ぬいぐるみの旅という形で関われます。
事業能力
では、ウナギトラベルが顧客価値を継続的に提供するための事業能力を掘り下げていきます。
事業能力は保有するリソースと仕組み・オペレーションに分けられますが、まずはリソースから見ていきましょう。
リソース
重要なリソースは、強いコンセプトと創業者のストーリーです。
ウナギトラベルの創業者である東園絵さんが、銀行・証券会社勤務から起業し、「ぬいぐるみを旅させる」 というユニークなアイデアを形にしたストーリーが、ウナギトラベルのコンセプトの中心の軸となっています。
次に、SNS やウェブでの情報発信チャネルも顧客価値につながるリソースです。ウェブサイト、EC サイト、SNS (X, Instagram, Facebook など) を活用し、旅するぬいぐるみの写真やエピソードを共有します。これが旅の臨場感、擬似体験、共感・拡散を生み出します。
運営ノウハウ、撮影・旅の手配能力もリソースとして重要です。ツアー企画、ぬいぐるみの受け取り・返送、旅先での写真撮影、SNS での運用によって、ぬいぐるみの旅行代理サービスは支えられています。ぬいぐるみのサイズや重量の制限 (例:身長約 20cm, 重さ約 300g 程度まで) など、サービスを成立させるためのルール設定も、顧客価値をしっかりと提供するリソースに含めていいでしょう。
他には、自治体・企業とのネットワークも強力なリソースです。
たとえば、大日本印刷 (DNP) との協業による観光ツアー実施の実績がウナギトラベルにはあります (広島県福山市の 「よりみちスポット」 を観光した 「福山よりみちツアー」 ) 。地域の観光資源を使ったツアーを企画できる能力は、事業の幅を広げます。
多様な顧客対応力もリソースとして特筆すべき点です。多言語対応 (少なくとも日本語と英語で情報発信) や、お客さんの事情に応じた柔軟なサービス設計により、個人、海外、教育用途など様々なニーズに応えています。
自治体や企業とのコラボによるツアー設計能力も、ウナギトラベルの事業能力です。地域観光プロモーション、観光スポット巡りなど、観光地や地域と連携したツアーを提供することで、単なるぬいぐるみの遊びではなく、地域価値の発信・観光振興を兼ねたビジネスが可能になっています。
仕組み・オペレーション
次に、仕組みやオペレーションについても見てみましょう。
ウナギトラベルでは、「ぬいぐるみ送付 → 旅 → 写真 / 動画での記録 → SNS でライブ中継 → 旅の終了 → ぬいぐるみの返送」 という一連のフローが確立されています。15 年以上の実績で培われた事業能力です。
お客さんの多様なニーズに応じたプランニングやカスタマイズも重要なオペレーションとなる仕組みです。
旅行先、ツアー内容、写真の演出、サプライズ対応など、個別の要望にも柔軟に応えることで、ぬいぐるみ保有者の自分のための利用用途だけにとどまらず、ギフト用途、教育目的などさまざまな使い道に対応します。
収益モデル
ウナギトラベルの収益モデルは、主に次のような構造です。
基本的な収入源は、ツアー参加費やサービス申し込み料です。料金設定は東京ツアー (日帰り) 3,700 円、横浜ツアー 4,200 円、ハワイツアー (3 泊 5 日) 14,800 円 (当時のレート) などとなっています。
第二の収益源は、自治体や企業との提携によるコラボで得られる収入です。地域振興や観光プロモーションのために、自治体や企業と協働したツアーを企画・実施し、その対価を得ています。
付加価値サービスやギフト用途のプレミアム料金も収益に貢献します。ギフトやサプライズ、カスタマイズ演出、特別な撮影など、標準ツアー以上の付加価値をつけることで、通常より高単価での収益が生まれます。
まとめ
今回は、ぬいぐるみ専門旅行代理店 「ウナギトラベル」 を取り上げました。
最後にポイントとして、ビジネスモデルの分解要素をまとめておきます。
- 注力顧客: 顧客は誰か。注力顧客の設定がビジネスモデルの出発点となる
- 競合: 注力顧客が想定する選択肢 (自社以外の候補) 。必ずしも同じカテゴリーとは限らない。その状況で、お客さんが何かを解決したいと思ったその瞬間に、頭に思い浮かぶ全ての選択肢、同じような顧客価値を提供する存在が競合となり得る
- 顧客価値: 注力顧客にどのような独自の価値を提供するか。競合よりも相対的に優位な強み
- 事業能力: 顧客価値をどのようにして提供するか。必要な内部資源 (リソース) とプロセス (オペレーション) を含む
- 収益モデル: 生み出した顧客価値をどのように利益として獲得するか。収益モデルは持続可能性を確保する財務的な論理

