#マーケティング #脇役戦略 #付加価値
ビジネスの世界では誰もが 「No.1」 や 「主役」 を目指すものです。しかし、あえて一歩引いて、他の誰かを輝かせることで自らも不可欠な存在になる道もあります。
今回は、雪印メグミルクの発酵バターの事例から、脇役として選ばれ続ける戦略を読み解きます。
雪印メグミルク 「The 発酵 BUTTER」
出典: 雪印メグミルク
創業 100 周年の節目となる 2025 年、雪印メグミルクは 「The 発酵 BUTTER」 を発売しました。
The 発酵 BUTTER は、100 周年の記念製品にとどまらず、未来につながる 「提案型の商品」 として開発された高価格帯の発酵バターです。
札幌研究所で乳酸菌を一つずつ選定し、「発酵 = ヨーロッパの味」 という先入観に囚われず、雪印メグミルクは日本の朝食文化に自然に溶け込む味を追求しました。発酵特有のさわやかさと、日本人が好むまろやかな濃厚さを両立させ、香りと後味に心地よい余韻を残す乳酸菌を採用した点が最大の特徴です。
商品開発にあたっては、雪印メグミルクはダイレクトリサーチプラットフォーム 「ユニーリサーチ」 を活用しました (参考情報) 。約 1 カ月という短期間で計 3 回 16 人のインタビュー調査を実施。得られた消費者への洞察が The 発酵 BUTTER の開発とマーケティングを導きました。
では雪印メグミルクの The 発酵 BUTTER の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。
この事例からは 「脇役戦略」 というテーマで学びが得られます。
脇役戦略
市場で主役の座を奪うのではなく、すでに確立された主役に寄り添い、その魅力を高めることで選ばれ続ける。これが 「脇役戦略」 です。
多くの企業は 「どうすれば競争に勝ち、市場の中心になれるか」 を考えることでしょう。しかし、既に強力な主役が存在する市場では、真正面から勝負を挑むよりも、主役を引き立てながら共存する道のほうが成功確率は高くなります。
雪印メグミルクの 「The 発酵 BUTTER」 は、脇役戦略を実践した事例です。
インタビュー調査から雪印メグミルクが得た消費者の認識は、「消費者は発酵バターのことは、パンの魅力を高める存在として価値を感じていた」 という事実でした。分厚く削ったバターをのせて食べる時間が、朝のささやかな幸福感の象徴という洞察が、高価格帯の新商品である The 発酵 BUTTER の成功につながったのです。
自らが主役になろうとするのではなく、お客さんの幸福な時間のために 「名脇役」 に徹する。その戦略の全貌を具体的に見ていきましょう。
脇役戦略を実践するポイント
脇役として選ばれ続けるには、どのようなアプローチが必要なのでしょうか。雪印メグミルクの事例から、具体的なポイントを見ていきます。
主役 (メイン商品) の存在を前提とする
脇役戦略の大前提は、すでに確立しているメイン商品という主役の存在を活かすという発想です。主役を打ち負かそうとするのではなく、その存在を認め、前提として商品設計を行います。
今回のバターの事例での主役は 「パン」 でした。ユニーリサーチでのインタビュー調査を通じて明らかになったのは、インタビュー対象者にとってバターは 「パンの引き立て役」 であり、求められていたのは 「バター単体の味」 ではなく 「パンと食べたときの幸せな時間と体験」 だったということです。
当初の雪印メグミルクの仮説では、高価格帯のバターとして 「発酵バターそのものの味わいやぜいたく感」 に価値があると考えていました。しかし、実際の消費者は 「パンが主役であり、バターはあくまで引き立て役」 と認識していたのです。
こうした認識のもとでは、パンという主役の前では、バターがその座を奪い取ることはほぼほぼ不可能でしょう。そこで雪印メグミルクは、パンという既存の強い文脈に寄り添うという判断を下しました。
置き換えではなく共存を狙う
脇役戦略のポイントは、主役の置き換え (リプレイス) を目指さず、共存を狙うという点です。
商品開発やマーケティング施策では通常、「いかに競合から自社商品へのスイッチができるか」 という視点で考えます。しかし、脇役戦略では別の勝ち筋を見出します。主役の利用文脈は変わらない強固な習慣とし、むしろ主役とともに 「どう共存するか」 がカギを握ります。
雪印メグミルクが注力する顧客設定の過程も示唆的です。
当初は発酵バターを食べるのは 「子育てを終えた夫婦世帯」 を想定していました。しかしインタビュー調査の結果、年代や所得帯ではなく 「パン好きな人」 という共通点が浮かび上がりました。パンを好きでよく食べる人に寄り添う戦略への転換を示すものです。
無理に主役を奪わず、主役に寄り添い、共に価値をつくる道を選ぶ。ここに脇役戦略のエッセンスが凝縮されています。
主役との関係性を可視化し、共生のストーリーを伝える
自分たちが目指す脇役と、主役との関係性を可視化することにより、どのように主役の商品やサービスと相性が良いのかをアピールし、共生のメリットを伝えることが重要です。
開発段階でも 「ベーカリーで毎週バゲットを購入するようなパン好きの人」 を対象に切り替え、パンとの関係性を前提としたコンセプト評価を実施しました。
そして雪印メグミルクは、商品コンセプト、プロモーション、売場づくりのすべてで、パンとの関係性を訴求しました。「バターを分厚く削ってのせて食べる」 という具体的な使用シーン、「日本の朝食に合う発酵バター」 というパンとの相性の良さ、「朝の幸福感」 というパンを食べる朝食時間の豊かさを打ち出した形です。
パンと発酵バターという共生関係を分かりやすく言語化したり可視化したことで、脇役としての立ち位置をあらためて強くし、パンとバターのセットで選ばれる状況をつくろうとしました。
既存の消費習慣を変えずに価値を提供する
新しい習慣としてお客さんに強要するのではなく、すでにある習慣的な行動の中で自然に選ばれることを目指します。
パンが日常にあり 「朝食にパンを食べる」 という習慣は、消費者の中で確立されている行為です。雪印メグミルクは、この習慣を無理に変えようとはしませんでした。
その代わりにやったのは、The 発酵 BUTTER をパンに載せるだけという使い方、朝の限られた時間に自然に溶け込むバター、生活習慣を変えずに幸福感が上がるという自然な付加価値の提案です。
The 発酵 BUTTER の商品設計として、「発酵のさわやかさと、日本人が好むまろやかな濃厚さの両立」 「香りと後味に余韻を残す乳酸菌を採用」 という特性は、パンを朝食に食べる習慣の中で違和感なく受け入れられることでしょう。
今の習慣の中で自然と入り込む存在は、消費者は無理なく受け入れられます。脇役はあくまで、主役が輝くためにそっと寄り添う存在でよいのです。
主役の価値を高める存在になる
脇役がいることで主役の魅力がさらに引き立つ状態をつくることが、脇役戦略の大事なポイントです。
雪印メグミルクのインタビュー調査で発見された象徴的だったのは 「バターを分厚く削ってパンに載せて食べる」 という行為でした。
消費者が感じていた価値は、バターをたっぷり載せる贅沢感、パンの上でバターが少しずつ溶けてパンに染み込んでいくうれしさ、バターによって引き立つパンの香ばしさ、これらが朝のささやかな時間の幸福感という体験をつくり出していました。
バターが主役なのではなく、バターがあることでパンがもっと良くなるという価値でした。
この発見は、そのまま商品コンセプト 「バターを分厚く削ってのせて食べる」 となり、プロモーションや売場設計にも反映されました。雪印メグミルクが The 発酵 BUTTER で目指したのは、パンの幸福度を高めるという主役強化の文脈に最適化することでした。
脇役として 「主役の魅力を高める存在」 という価値が、脇役戦略の本質です。
脇役として選ばれ続けるために
すでに確立された市場で戦うとき、主役になることだけが成功への道ではありません。
想定する注力顧客にとって、揺るぎない主役がいる状況では、正面からその主役とぶつかって主役の座を奪おうとしても相当にハードルが高いのが現実です。大切なのは主役と正面から対立するのではなく、主役の存在を前提としたうえで自らの価値を打ち出し、共生をはかることです。
脇役として、主役とともに消費者の心をつかむことを目指す。メインとなる既存商品をリプレイスするだけがマーケティングではないのです。
主役を引き立てながら、お客さんの心に寄り添う独自の付加価値を提供するのが脇役戦略として選ぶ道です。
まとめ
今回は、雪印メグミルクの 「The 発酵 BUTTER」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 脇役戦略とは、すでにいる主役を置き換えるのではなく、主役の存在を前提として共存することを目指す戦略
- 主役の存在を前提とする: 主役の存在を認め、その文脈に寄り添う
- リプレイスではなく共存を狙う: 主役からのスイッチではなく、主役を利用する既存の習慣の中で共に選ばれることを目指す
- 主役との関係性の可視化: 主役との相性の良さや利用シーンをストーリーとして明確に伝える
- 既存の利用習慣を変えない: 主役を使うのをやめるような新しい習慣を強要せず、「いつもの行動に加えるだけ」 という自然な形で入り込む
- 主役の価値を高める: 脇役があることで、主役の存在がもっと輝くという主役を強化する役割に徹する
