#マーケティング #ビジネスモデル #本
市場が縮小していく業界で、中小企業はどうやって生き残ればいいのか。
この問いに対する実践的なヒントが、書籍『葬儀会社が農業を始めたら、サステナブルな新しいビジネスモデルができた (戸波亮) 』にあります。
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この本からは、縮小する市場の中で利益率を高め、隣接する領域へ事業を広げていく中小企業ならではの経営の戦略を学べます。
本書の概要
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この本には、穴太 (あのう) ホールディングスでの実践の記録が書かれています。
縮小市場にいる中小企業が外注業務の内製化を起点に異業種へ展開し、廃棄物まで価値に変えることで利益率の高い持続可能な事業群をつくったという話です。
市場縮小への危機感
著者の戸波亮氏は、祖母が始めた千葉県の葬儀会社を 1998 年に引き継ぎました。
しかし当時から、葬儀業界の先行きは不透明でした。日本の人口が減れば、いずれ亡くなる人も減り、葬儀の件数も減少します。さらに家族葬へのシフトによって 1 件あたりの単価も下がっていきます。
件数と単価の両方が縮むという構造的な制約のなかで、著者は未来の市場拡大を待ちませんでした。「売上の追求」 ではなく 「利益率の改善」 に舵を切りました。
そこで目をつけたのが、葬儀業務の周辺にある外注領域です。
外注業務の内製化から農業参入へ
最初の打ち手は、花・料理・返礼品といった葬儀に欠かせないサービスの内製化でした。
これは 「思いつきの新規事業」 ではなく、本業で日常的に発生している支出を自社内に取り込むところから始まっています。外注していたものを自分たちでやれば、外注コストが圧縮され利益が増えます。
そして返礼品の文脈で 「米」 に着目し、穴太ホールディングスは農業参入へと進みます。きっかけは、葬儀の参列者に贈る返礼品として米を使うという発想でした。ただ仕入れるのではなく、おいしいお米を自分たちでつくり、自分たちで売るところまで全部やる方向へ進んだのです。
農業参入の狙いは単なる儲けではなく、穴太ホールディングスのグループ全体で生産から販売まで行うことで雇用と利益を安定させ、景気に左右されにくい経営体質をつくることにありました。
葬儀会社からのビジネスモデルの進化
本書の中心テーマは、農業参入そのものよりも、そこから生まれた循環型の事業設計にあります。田んぼからできるものを徹底的に商品化し、「余り」 「副産物」 「捨てるはずのもの」 まで価値に変える発想が、葬儀会社をグループ経営体へと変えました。
結果として 2023 年時点で、穴太ホールディングスは葬儀業を含めて 8 つの事業を展開し、資産総額は 27 億円、年間売上高は 14.5 億円、ROE は 10% 、自己資本比率は 40% を超えています。農業は葬儀業と並ぶ柱に成長し、農地面積も 7ha から 52ha へ拡大しました。
本書に書かれているのは 「葬儀会社が農業を始めた話」 にとどまらず、「本業のコスト構造を見直していったら、農業を核にした循環型グループ経営へ進化した」 という話です。全体を通じて強調されるメッセージは、「変わらないことが最大の経営リスク」 ということでした。
縮小市場での生存戦略
売上よりも利益
市場が縮小しているときに、売上を伸ばそうとするとどうなるか。値下げ競争やシェアの奪い合いに巻き込まれ、利益率はさらに悪化します。著者が選んだのは 「縮小市場で売上を伸ばそうとしない」 という選択でした。
外注していた業務を自社に取り込み、浮いたコストを利益に変える。そこから隣接する領域へ事業を広げ、最終的には六次産業化による多角経営へとつなげていく。この流れは、戦略として計画されたというよりも、目の前のコスト構造を改善していった結果として自然に生まれたものです。
新規事業は隣接領域から
もうひとつの経営戦略の柱は、事業の広げ方です。
本書を読んで気づくのは、どこにも一足飛びのジャンプがないことです。すべてが本業の 「隣」 から始まっています。
穴太ホールディングスの事業展開の順を追うと、「葬儀業 → 生花の自社調達 → フラワーショップ → 仕出し料理 → 返礼品 → 米づくり → 米の副産物の商品化 → 養鶏・甘酒・化粧品…」 というステップになります。どの段階でも、前の事業で使っている原材料や販路を次の事業に活用しています。
この隣接領域からの参入は、リスクを 2 つの意味で下げています。
ひとつは需要の見通しが立っていることです。内製化した商品は自社の葬儀業で確実に使えるため、売れるかどうかの不安がありません。
もうひとつは、必要な事業ノウハウのギャップが小さいことです。全く未知の分野に飛び込むのではなく、本業の延長線上にあるスキルで対応できる範囲から始めています。
製造小売業 (SPA) というビジネスモデル
本書で描かれている穴太ホールディングスの事業構造は、アパレル業界でいう SPA (製造小売業) と同じ考え方です。
自社農場でお米を生産し (一次産業) 、グループ内外で甘酒や米粉パン、化粧品などに加工し (二次産業) 、葬儀の返礼品や自社ショップ、EC サイトで直接消費者に届けます (三次産業) 。
原則は 「自分たちで作ったものは自分たちですべて売る」 ということです。
中間マージンを排除し、利益率を最大化する構造になっています。JA などを通じた出荷では、生産者が販売価格を直接コントロールしにくい面があります。穴太ホールディングスはそこを逆転させ、販売まで自社グループで完結させています。各機能はグループ内の別会社として分業しつつ一体で運営されており、中小企業の小回りの利くスケール感がうまくはまっています。
中小企業だからこそ効く内製化
利益率の改善には、内製化ではなく外注先にコストダウンを求めるやり方もあります。
大手企業はスケールメリットを武器に値下げ交渉ができますが、中小企業はそうはいきません。外注業者にとって中小企業は必ずしも重要な取引先ではなく、交渉に応じてもらいにくいのが現実です。だからこそ、業務を自社に取り込んで利益構造ごと変えるアプローチのほうが、中小企業には合っています。
穴太ホールディングスの場合、当時はセレモニーホールが 2 つ、月に 20 ~ 25 件ほどの葬儀規模でした。大きすぎず小さすぎないこの規模感が、自社で賄えるキャパシティにちょうど収まっていたわけです。
取り込んだ業務を独立した事業として育て、葬儀以外のお客さんにも商品を販売するところまで広がっています。
廃棄物をビジネスに変える
廃棄物の処理にはコストがかかります。しかし、それを商品化できれば処理コストが浮くだけでなく、新たなビジネスにもなります。穴太ホールディングスはこの考え方で、田んぼから出るあらゆるものを商品にしていきました。
たとえば、もみ殻からはモミガライトというエコ燃料を製造しています。米ぬかからはボタニカル化粧品をつくりました。
規格外米や割れ米は養鶏の飼料にして高級卵を生産し、賞味期限の近いお米は甘酒に加工し、その甘酒からさらにソフトクリームをつくって販売しています。くず米はせんべいに、米粉用の米は冷凍米粉パンにします。稲の藁は鶏舎の床敷に使い、そこから出た堆肥で蝦夷ヤマブドウを栽培する計画も進めています。
SDGs という言葉が広まるずっと前から、穴太ホールディングスはこのアプローチを実践してきました。「サステナブルな取り組み」 が社会貢献のためのコストではなく、利益を生む事業構造として成り立っています。
六次産業化の実践
本書には、六次産業化の具体的な事例がいくつも紹介されています。とくに印象に残るのが生花とお米の 2 つです。
生花の事例
著者が見つけたのは 「花は時間が経つと用途が変わる」 という気づきでした。
蕾の状態の花は、一般のお客さんにとっては長く楽しめるので価値があります。一方で、葬儀の祭壇には花がきちんと開いた状態でないと見栄えがしません。
そこで、蕾のうちはフラワーショップで一般向けに販売し、花が開いてきたら葬儀用に回すという仕組みをつくりました。同じ仕入れロットの花を二段階で活用することで、廃棄を減らしつつ販売機会を広げています。
さらに多種類の花を扱うことで、菊だけではない華やかな花祭壇を自社の差別化ポイントにしました。仕入れ・保管・販売を一気通貫で管理しているからこそ可能なモデルです。
お米の事例
入口では、特別栽培米としてブランド化を図り、コンテスト入賞で付加価値を高めています。出口は、葬儀返礼品として使うほか、グループの米販売会社から飲食店や家庭に直接届けるというシンプルな流通経路です。そこに前述のとおり、副産物の商品化が加わります。
この循環がうまく回ることで、穴太ホールディングスは農業単体でも十分な利益が出るようになりました。そのキャッシュを使って高価な農業機械への設備投資を行い、作業効率化と水田面積の拡大を進めています。
著者は言います。「従来の農業の常識とは異なるかもしれないが、ビジネスの発想からすればごく普通で当たり前のこと」 だと。農業の世界にいると 「当たり前」 に思っている廃棄コストや流通構造も、ビジネスの視点で見直せば事業の種に見えてきます。
販売ルートを自社コントロールし 「出口」 を最初からつくっておく
著者は、原材料の生産や調達を 「入口」 、販売ルートを 「出口」 と表現しています。この両方をバランスよくコントロールすることが、持続可能なビジネスの条件だと説明されています。
穴太ホールディングスの場合、生花も仕出しも米も、すべて自社の葬儀業で確実に使えるものでした。つまり、新規事業を始める前から 「出口」 が見えていたのです。
いいものを作れば売れるというプロダクトアウトの発想ではなく、「誰にどうやって売るか」 が明確な状態で事業に入っています。
加えて、出口がひとつではなく複数用意されている点もポイントです。自社の葬儀返礼品、実店舗のショップ、EC サイト、提携先への卸売と、販路を分散させることで、ひとつのチャネルが不調でも他で吸収できる構造をつくっています。
「販売ルートを自分たちでコントロールすれば農業は儲かる」 という著者の言葉の背景には、この出口設計の実体験があります。
まとめ
今回は、書籍『葬儀会社が農業を始めたら、サステナブルな新しいビジネスモデルができた (戸波亮) 』を取り上げ、学べることを見てきました。
- 縮小市場では売上拡大よりも利益率の改善を優先する
- 新規事業は本業に隣接する領域から始めると、需要の見通しが立ちやすくリスクを抑えられる
- 外注業務の内製化は、コスト削減と新規事業の種を同時に得られる有効な手段
- 生産の 「入口」 と販売の 「出口」 の両方を自社でコントロールすると利益が安定しやすくなる
- 廃棄物や副産物にも目を向けると、収益源の多層化とサステナビリティの両立につながる
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