投稿日 2023/11/14

ピノのマーケティングがおもしろい。「ゲーム」 「パッケージ」 「店頭」 の三位一体での戦略と施策

#マーケティング #戦略 #実行

今回は、森永乳業のアイス 「ピノ」 のマーケティング事例を取り上げます。

ゲームを有効活用したピノのマーケティングから、顧客理解、戦略立案、施策実行、KPI 設計と評価までの成功するマーケティングの全体像を紐解きます。

ゲームを活用したピノのマーケティング



森永乳業のロングセラーのアイス 「ピノ」 が、テレビ CM に頼らないマーケティングを展開し、売上を伸ばしています。

おもしろいと思ったのは、商品パッケージと連動したゲームを活用した施策です。スーパーなどの商品棚を 「広告面」 と見立て、複数ゲームを用意しゲーム提供の継続的なアップデートをすることで、狙い通りの1人当たりの買い上げ点数を増加させました (参考記事) 。

大きな変化が望みにくいロングセラーブランドでありながら、成功を収めた事例から学べることを掘り下げていきましょう。


戦略から施策までの全体像


全体像を俯瞰すると、ピノのブランドとしての背景、課題から落とし込まれた目的設定、マーケティングの戦略から打ち手までがとてもきれいにつながっていた事例でした。

  • ピノの消費者イメージ (楽しいアイス) に即した施策
  • 売場を 「広告の場」 と見立てた限定パッケージ
  • 複数個を購入したくなる様々なゲーム施策
  • 継続購入を促すゲームの継続的アップデート

お客さんの理解、小売と連動した販売チャネル展開、1人あたり購入量の増加につながる施策と、目的・戦略・実行までが整合性がありうまく噛み合っています。

ピノがやったことの全体像を一般化してまとめると、次のようになります。

  • 背景や課題感の理解
  • 目的の明確化
  • 消費者理解からブランドイメージの把握。目指すポジショニングの設定
  • 戦略立案
  • 目的と戦略から落とし込まれた施策の実行 (1人あたり購入数を増やすための複数ゲーム展開とパッケージ, 売場の広告化, SNS 拡散) 
  • KPI 設計からの効果測定

では、それぞれについて順番に詳しく見ていきましょう。


戦略とマーケティングの解説


背景と課題感


森永乳業の 「ピノ」 といえば、すでに多くの人に知られているアイスブランドです。赤色の長方形の箱に、チョコレートでコーティングされた6つの小ぶりなバニラアイスが入っています。

ピノの発売は1976年で、約半世紀も愛され続けているロングセラー商品です。そんなピノは、ロングセラーゆえの 「売上増の難しさ」 「ブランドの鮮度維持」 という2つの課題感がありました。

マーケティング目的の明確化


とはいえ50年も売り続けている定番商品の売上を、これからさらに増やすというのは決して簡単ではありません。

ロングセラーとしてすでに知名度が高く、テレビ CM をやっても売上への貢献が限定的という状況において、ピノのブランドの継続性や一貫性は保ちつつも、ブランドの鮮度を高めて売上を伸ばすという難しい舵取りが求められます。

マーケティングの役割として明確にしたのは、売上を上げるために 「1人当たりの買い上げ点数を増やすこと」 でした。

消費者理解からブランドイメージの把握 & 目指すポジショニングの設定


森永乳業は消費者調査から、ピノへの消費者イメージをあらためて掘り下げました。

ピノへのイメージとして 「楽しさ」 や 「おもしろい」 というキーワードを見出しました。

さらに 「楽しさ」 を追求したところ、「新しいことをやってくれそう」 というイメージに行き着きました。王道的な楽しさというよりも 「ひとひねりした楽しさ」 「これまでになかったようなおもしろいことをやってくれそう」 というのがピノのイメージだったのです。

森永乳業は、ピノの競合商品は 「パリパリ感」 や 「滑らかな口どけ」 など、機能を訴求しているケースが多いと見て、それに対してピノは 「楽しい」 「おもしろい」 という情緒的な価値を訴求することで、独自のポジションを狙いました。

ゲームを有効活用したマーケ施策


ピノのブランドイメージは 「何かおもしろいことをやってくれそうな "楽しいアイス" 」 であるとして、ピノがマーケティング施策で選んだのがゲームでした。

ゲームを開発するうえで 「シュール」 と 「おもしろさ」 という2つの観点を重視しました。

たとえば、ピノの6種類のゲームの1つ、「ピノくん」 との恋愛シュミレーションゲーム 「ピノ恋」 です。


ユーザーはピノくんに好かれるような回答を選んでいくことで、ピノくんと両想いになることを目指すゲームです。

ピノのゲーム (ピノゲー) には目的として設定した 「1人当たりの買い上げ点数を増やすこと」 を達成するための工夫がされています。

ピノを1つ買えば、全6種類のゲームがプレーできるわけではありません。購入したピノのパッケージに施されている絵柄のゲームしかプレーできない仕様になっています。

6種類のゲームを用意することで、全てのゲームをやりたいというモチベーションから6つのピノを買いたい気持ちを生み出し、購入点数が増えることが期待できます。

施策の新鮮さを保つ (継続的アップデート) 


さらに、ゲームができるピノを発売した後も継続的にゲームの中身をアップデートし、話題性と購買動機をつくり続けました。

ピノゲーでは1回きりの話題で終わらないよう、施策の鮮度を保つ設計されています。具体的には X (施策当時は Twitter) を中心として SNS で拡散される仕掛けがあります。ゲームカセットに見立てたパッケージだけではなく、X にシェアできるゲームスコアや、他プレーヤーとのランキング機能もつけました。

パッケージと売場の広告化


施策で注目したいのは、売場と連動した施策だったことです。スーパーなどの小売店の売場を、「広告を見てもらう場」 という広告面としての役割も持たせました。


小売店の売場は、影響力のある顧客接点です。アイスというカテゴリーは、一般的に消費者はお店に行ってアイス売場に並んでいる物を見て、その場で購入する商品やブランドを決めます。

今回のピノの施策では、売場で広告の役割を果たしたのは、ピノのパッケージ (外箱) でした。ゲームのカセットのような見た目から、ゲームキャンペーンを行っていることをパッケージを使ってアイス売場で視覚的にアピールすることで、多くの消費者に知ってもらえます。

KPI 設計からの効果測定


戦略から落とし込まれた実行をやりっぱなしでは終わらず、ピノは KPI (重要業績評価指標) を設定し施策の効果を検証しています。

ピノゲーでは、KPI としたのは売上だけではなく、ピノのブランドイメージの強化も KPI に含めました。ブランドイメージを測る指標として、ピノを食べた人が 「楽しくなれたか」 を追いかける指標としたのです。

施策の成果


実際にアンケート調査をしたところ、ピノゲーを体験したお客さんの 「楽しくなれた」 という気持ちのスコアは、以前より向上していたとのことです (参考記事) 。

また、1人当たりの購入点数の増加も実現しました。2022年10月から2023年2月にかけてのピノの売上は、ピノゲーによるマーケティングを行っていない前年の同期間と比較して約 16% 増でした。ロングセラー商品でありながら、2桁増を達成する成果を収めました。

複数種類のゲームを用意し、継続的なゲームのアップデート、最も購買に近い顧客接点であるお店の商品棚を広告面にするという 「三位一体の施策」 。課題とマーケティング目的、戦略、施策、KPI 評価ときれいにつながった成功事例です。


まとめ


今回はピノのマーケティング事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントとして、成功につながるマーケティングプロセスです。

  • 背景や課題感の見極め
  • 目的の明確化
  • インサイトまでの消費者理解からコンセプトや目指すポジショニングの設定
  • 戦略立案
  • 目的と戦略から落とし込まれた施策の実行
  • KPI 設計からの効果測定


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。