2011/12/27

複雑な社会変化をシンプルに見せるとっておきのS字波モデル

2011年もいろんなことがありました。つくづく変化の激しい世の中だと思います。一方で変化が早いからこそ、一歩引いて大局的にものごとを見ることも時には必要です。私たちの社会を俯瞰的な視点で捉えるのに、おもしろいモデルがあるので紹介します。「情報社会のいま ―あたらしい智民たちへ」(公文俊平 NTT出版)という本で提示されているS字波モデルです。

■社会の変化を見るためのレンズ:「S字波モデル」とは

引用:書籍「情報社会のいま ―あたらしい智民たちへ」(公文俊平 NTT出版)


横軸は時間、縦軸には社会や技術の発展などの指標と置いた場合、出現・突破・成熟・定着の4つの局面があるというものです。発展の仕方として、1.遅い成長(出現)、2.急速な成長(突破)、3.成熟を経て発展が横ばいに(成熟~定着)、という3つの段階と考えてもいいかもしれません。

本書ではもう1歩踏み込んだモデルが登場します。S字波は小さなS字波に分解できるという考え方。冒頭でS字波モデルは社会を俯瞰的に見るために有用と書きましたが、その心はS字波の分解にあります。本書に出てきた表現で言うと、S字波は社会の流れを観察するための「レンズ」であり、レンズで拡大・縮小することで局所的にも大局的にも捉えることができるのです。

引用:書籍「情報社会のいま ―あたらしい智民たちへ」(公文俊平 NTT出版)


■現在は異なる変化が同時に起こっている

それではS字波モデルを使って、まずは大きな視点で見てみます。本書では主に先進国での近代化過程という大きな流れを軍事化・産業化・情報化の3つに分けています。下図のように大きなS字波として近代化過程が、そして、小さなS字波として3つに分解された軍事化・産業化・情報化です。現在はどういった状態かと言うと、図の縦の点線が示す通り、軍事化の定着・産業化の成熟・情報化の出現という3つの局面が同時に起こっていると著者である公文氏は指摘します。

引用:書籍「情報社会のいま ―あたらしい智民たちへ」(公文俊平 NTT出版)


本書では、軍事化・産業化・情報化というそれぞれのS字波をさらに分解して詳しく説明されています。少しだけ紹介しておくと、先ほど書いた現在は「産業化の成熟」であり「情報化の出現」という状態がそれで、前者の産業化の成熟局面で見られる現在社会の特徴としては、スマートフォンに代表されるようなちょっと昔では考えられないような高度な出力処理が可能なコンピュータを持ち、クラウド、高速な光/無線通信網、等々が当たり前となりつつある社会です。後者の情報化の出現の特徴としては、ソーシャルメディアに代表されるような新しいコミュニケーション・情報の共有です。ウィキリークスやYouTubeなどへの投稿により、あるいはソーシャルメディアを積極的に活用した政治・市民活動など、社会を変えていくケースは数多く見られます。もっと身近な個人レベルで見ても、自分の行動や気持ち、考え・意見などをツイッターやフェイスブック、ブログ等で積極的にシェアする流れです。このような情報化という新しい変化が「出現」しつつあるという指摘は、これまでの社会とは異質なものだと私自身も感じます。

■「産業の情報化」と「情報の産業化」

本書での産業化の成熟と情報化の出現についての説明でなるほどと思ったのは、「産業の情報化」と「情報の産業化」は異なるという指摘でした。産業の情報化というのは、家電や個人のデバイスなどの様々なものがIT化・ネットにつながると理解しました。すなわち、工業製品などの成熟段階として情報技術を持ち情報通信機械となる変化です。一方の情報の産業化とは、情報それ自体が商品やサービスとして生産・販売される状態です。情報の産業化が出現するということは、これまでは無料であった情報がお金と交換できる価値を持つことなのです。ちなみに、日本語で情報化社会というのは産業の情報化を表すことが多いように思います。別にこれが間違っているわけではないのですが、今回のエントリーでは情報化社会という言葉は使わず、「産業の情報化」と「情報の産業化」は区別しています。

もちろん、産業の情報化と情報の産業化には相互関係があります。具体的にはネットにアクセスする手段が自宅PCだけではなく、タブレットやスマホでより自由になったことで(産業の情報化)、私たちは各個人で情報発信をするようになりました。その結果、ネット上ではそうした情報に基づいて広告が表示されたりしています(情報の産業化)。

著者の主張で印象的だったのは、変化の激しい世の中を俯瞰するためには、産業化の成熟と情報化の出現という異なる2つの変化が同時並行で起こっているという認識が必要というものでした。起こっている出来事がどちらに該当するのか、あるいはどのように相互作用しているのか、という視点です。公文氏は、大切なのは近代化の大きな流れが「情報化の出現」に向かっているという歴史的な意味を捉え、その方向に沿った政策採用や制度設計をすべきであるという意見です。例えば企業のビジネス戦略もソーシャルメディアの普及などの情報化の進展と共存したり、それを支援する方向を目指すべきという考え方です。(参照:本書 p.187)

■情報の産業化という方向性

「情報の産業化」というのは、個人的にもとても興味のある変化です。なので、本書で書かれていた収集される個人情報に対して何らかの謝礼支払いを義務付けてみてはどうか、という著者の主張にも関心があります。著者は、収集する個人情報の有償化により、「情報化の出現」時代に入っても市場規模の拡大が実現できる可能性を指摘します。

個人情報が有償化し、そこから発展するデータを買いたい・売りたいという動きが出るということは、そこには取引の市場ができることも考えられます。データ取引市場なるもので、であれば買い手と売り手をつなげて取りまとめる中間業者のような存在も生まれるかもしれません。やや突拍子もないことかもしれませんが、ゆくゆくはデータ自体があたかも貨幣のように流通する世界になるかもしれない。データをお金を通して売買するのではなく、データそのものの貨幣化、すなわち価値として広く「信用」を得ている存在です。以前にGoogleがデータ取引所の創設する記事があり、そこから考えたことをエントリーしましたが、情報化がますます進展する社会ではこうしたプレイヤーの存在も当たり前のようになるのかもしれません。
Googleが計画する「ウェブデータ取引所」は、あなたと広告のミスマッチを解消してくれるのか|思考の整理日記
Google Readies Ambitious Plan for Web-Data Exchange|Ad Age DIGITAL

情報の産業化に興味があると書きましたが、自分自身の仕事もこの方向です。そして、自分がやりたい、世の中を変えたいのもこの領域だったりします。冒頭で変化の激しい世の中と書きましたが、だからこそ、自分の仕事とやりたいことの軸がブレることなく、時には俯瞰的に見るという複合的な視点も大切にしたいです。本書「情報社会のいま ―あたらしい智民たちへ」は非常に示唆に富む良書でした。


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2011/12/23

「我が事化」がカギだったソーシャルメディア進化論

昨日はJMRX勉強会に参加してきました(11年12月22日)。講師として招かれたのは「ソーシャルメディア進化論」の著者である武田隆氏(エイベック研究所代表取締役)。この本は今年読んだ中でもベスト5には間違いなく入るもので、最初に読んだ時にブログに書こうとしたものの下書き状態で残ったままでした。JMRX勉強会に参加し著書本人から直接話を聞いたこともあり、あらためて「ソーシャルメディア進化論」から考えたことをエントリーとしてまとめておきます。

■「心あたたまる関係」と「お金もうけ」を両立させる企業コミュニティモデル

本書の主題を一言で表現すると、「ソーシャルメディアでの心あたたまる関係」と「お金もうけ」をどうやって両立させるか。すなわち、ソーシャルメディアのマネタイズ(収益化)です。そして、著者が提示する解は、企業サイトでコミュニティをつくり企業と消費者の絆をつくること。エイベック研究所の知見が凝縮された企業コミュニティを活用したマーケティングモデルで、大きくは2つの柱があります。プロモーションとマーケティングリサーチ。各プロセスを簡単に書いておくと以下の通りです(詳細が気になる方はぜひ本書をご覧ください。一読の価値あると思います)。

引用:書籍「ソーシャルメディア進化論」
  1. 参加者の意識の向上:企業サイト上のコミュニティで参加者の発言が投稿され、参加者同士のコミュニケーションが活性化してくると、参加者の我が事化とコミュニティへの帰属意識が向上
  2. 企業サイトへの掲載:コミュニティの発言内容を企業サイトの他のページにも掲載することで、企業サイト訪問者の態度変容を促す
  3. 広告・PRへの転用:他のPRや店頭施策と組み合わせ、ファンの声を外部にも広く表出
  4. 外部の検索サイトからの閲覧者増加:発言内のワードが検索サイトで引っかかるようになり、閲覧者が増加
  5. ユーザーを把握:コミュニティ参加者を趣味や発言、影響力などで細かく把握する。特徴で参加者をグループ化
  6. オンライブループインタビューへ:特に深く知りたいグループに対してオンライン上でグループインタビューを実施
※実はこのモデルには7があるのですが、それは後述します

プロモーションとマーケリサーチの2つと書きましたが、1~4までがプロモーション、5と6がリサーチに該当します。このモデルは、プロモーションという企業から消費者に伝えることと、リサーチという消費者が企業に伝えるというコミュニケーションのキャッチボールであり、本質的には市場との会話であると武田氏は言います。1~6をPDCAサイクルでまわし、企業と消費者(参加者からファンへ)のコミュニケーション履歴が蓄積することで、お互いがお互いのことを理解するようになる。最終的にはロイヤリティの高いファンを獲得し、結果として自社商品・サービスやブランドの売上や利益が得られる。これが本書で提示された「企業と消費者の心温まる関係」と「お金儲け」の両立なのです。

■なぜFacebookではないのか

ここまでで、なぜ場が企業コミュニティなのか、あるいはフェイスブックではないのか、という疑問が出てくるのではないでしょうか。武田氏は自らの知見も踏まえた上で、フェイスブックを企業が使う場合の位置づけは「メールマガジン」がいいのでは、と昨日のJMRX勉強会でおっしゃっていたのが印象的でした。

フェイスブックは実名での参加が基本です。実名であるが故に、知人を越えたコミュニケーションが発生しづらく、お互いに実名や背後に自分の人間関係を背負っていることで、知人以外とのいきなりのコミュニケーションに不安やリスクを感じるそう。もちろん、コメントを投稿する人やいいねを残す人もいると思いますが、コミュニケーションのハードルが高いことで活性化しにくい。武田氏曰く、フェイスブックでのコメントは1~2行くらいの「言い切り」のコメントで終わるケースが多く、一方の活性化している企業コミュニティではコメントは「質問」や「呼びかけ」で終わっている。つまり、コミュニケーションが活性化しやすいコメントが続くそうです。

ただし、企業にとってフェイスブックが使えないかというとそうではなく、有効な使い方もあり、例えばANAのフェイスブックページでは、キャビンアテンダントや航空整備士など色々な立場の人がウォールに書き込んでいて、そこにユーザーがいいねやコメントを付けています。このように「人が出る」ようなコンテンツは有効だそうです。とはいえ、企業のフェイスブックページではユーザー同士の横のつながりが起こりにくく、どうしても企業と消費者の1to1のコミュニケーションになりがちで、これは企業担当者の負担も大きく、コストがペイできなくなる側面もあるようです。おそらくこれはツイッターも同様なのではないでしょうか。

■企業コミュニティを活性化させる「我が事化」

昨日のJMRX勉強会の武田氏の講演では、ポイントとなるキーワードは「我が事化」でした。ちなみに武田さんは我が事化のことを「レリバンシー」という言葉で表現されていて、これはrelevancy:関連性、つまり自分に関連があること=我が事化という使い方だと理解しました。我が事化は企業コミュニティをいかに活性化させるかに直結し、ここがそもそも非常に難しいというお話でした。あらためて冒頭のモデル図を見ると、①参加者意識の向上がきますが、コミュニティが活性化してこないと、①で止まってしまいとてもマネタイズどころではなくなります。

当然のことながら、始めから我が事化している参加者は多くありません。企業サイドから無理やり関与を求めても引かれるだけでしょう。ここは時間をかけてじっくりと関係性を醸成することが大事だそうで、例えば、共感するコメントに拍手をするような仕組みを設けておくなど、軽い行動から始めるよう促す。拍手をすれば、その後も気になるので返信コメントを付けたり、自ら投稿するようになる。このように関与レベルを段階的に上げていき、参加者の我が事化を育んでいくそうです。

我が事化を持ってもらう施策で大切なのは2つ。参加者にあるテーマを投げかけ投稿してもらいそれに拍手するなどのコミュニティ内での「役割の設定」(ご自由にどうぞ、だと逆に行動しづらくなる)、誰かのコメントに拍手したり投稿することにポイントを上げるなどの「報酬の設定」(インセンティブになるとともに参加する「言い訳」を与える意味もある)。思ったのは、役割や報酬の設定とともに、コミュニティ参加者同士での共感、そこで生まれる信頼関係をいかに構築するかなど、企業コミュニティとはいえ非常にリアルな人間味あふれる空気をいかにつくるか、ここが大事だということでした。

「我が事化」に関してなるほどと思ったのは、コミュニティ参加者が「私がいないと成り立たない」と思ってもらうところまで持って行けるか、つまり、そのコミュニティの中で自分が大事な一員だとみんなが思えている状況、そう自覚できるかということ。参加メンバーがこう思う状況になると、場が最も活性化されるのだそうです。

参加者がコミュニティを我が事化し、帰属意識を高める、それが企業へのロイヤリティを向上させるというのは、言うが易し行うは難しだと思います。ちなみに、エイベック研究所はソーシャルメディア(企業運営型BtoCコミュニティサイト)構築市場における売上トップシェア(10年。矢野経済研究所調べ)だそうですが、ここがきっちりとできるからこそだと思います。このノウハウを持っていることが強みだと感じました。「ソーシャルメディア進化論」という本では、企業コミュニティで同研究所が収益を上げるまでの紆余曲折も書かれており、武田氏は最も苦しい頃の1日の食事がみたらし団子1本だったというベンチャーならでは(?)のエピソードもありましたが、そんな状況からトップになった方の説明には説得力がありました。以前のエントリーで我が事化を取り上げた記事も書きましたが、あらためて我が事化って大事だなと。
相手も自分も動かす「自分ごと化」のススメ|思考の整理日記

■企業コミュニティモデルの可能性

心暖まる関係とお金もうけの両立は企業コミュニティを活用したプロモーションとマーケティングリサーチでした。このモデルの可能性として、企業だけではなく他の組織にも活用できるのではと思いました。武田氏が企業コミュニティで企業と消費者をつなげることを思い付いたのは、企業の自社商品やサービスに対する思いが消費者に全くと言っていいほど届いていないと気付いたからでした。実際に当時のお客さんから自社商品への思いを聞けば聞くほど、それって消費者はほとんど知らない現実。そこで、企業と消費者をインターネットらしく結びつけることが一番初めにできたコンセプト。これを具現化したのが企業コミュニティモデルです。ここで思うのが、組織の思いが消費者/生活者に届いていないのは何も企業だけではなく、NPOやNGOなどの組織、自治体や地方団体、政党、病院など、あらゆる組織と生活者に当てはまるのではということ。企業コミュニティで実現されていること、双方向のコミュニケーションが他でも実現されれば私たちの社会はもっと豊かになっていくのではないでしょうか。

ただ、昨日の武田氏の話では、例えば企業コミュニティのモデルを活用した地域の活性化は現時点ではとても難しいとのことでした。このモデルを導入するためには、組織との二人三脚が不可欠です。企業コミュニティの場合は企業サイト運営と連携し、プロモーションやリサーチなどのマーケティングに関わることになります。実際にある市の行政に提案したこともあるようですが、結局担当者に受け入れてもらえなかったエピソードも語っていただきました。

冒頭で紹介した企業コミュニティモデルは6つのプロセスがありましたが、実は7つ目まであり、1~6を繰り返すことで企業と消費者の距離は縮まっていくとしています。

引用:書籍「ソーシャルメディア進化論」

昨日のJMRX勉強会での武田氏の講演では、始めに紹介されたのは「見える人」と「見えない人」の違いでした。見える人とはネットワークを味方にする人で、「スモールワールド」を感じている人という話。武田さん曰く、コミュニティで成功する企業はスモールワールドを肌感覚で理解しているとのこと。

書籍「ソーシャルメディア進化論」で最後のほうに書かれていたのが、スモールワールドへのパスポートは「ありがとう」。昨日の話を聞くと、「心あたたまる関係」と「社会の豊かさ」の両立には期待したいですし、ありがとうという感謝の気持ちがキーワードなのかもしれません。


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2011/12/17

落合監督の采配論に教えられた後悔しない生き方のヒント

野球でごく稀に「完全試合」と呼ばれるゲームがあります。

これは一人の投手が相手チームの誰一人として塁に出さずに勝つ試合です。ヒットを打たれず、四球や味方のエラーもゼロ。野球は3アウトで回が変わりゲームは9回までなので、相手バッターを 3 × 9 = 27人で終わらせて勝つ試合のことです。

■ 幻の完全試合

2007年のプロ野球日本シリーズ第5戦。中日と日本ハムの対戦カードにおいて、中日ドラゴンズにある大記録が生まれようとしていました。

過去一度もない日本シリーズでの完全試合です。結果だけ先に書いておくと試合は 1 - 0 で中日が勝ち、シリーズを制してチームの53年ぶりの日本一を勝ち取ります。しかし、史上初の「日本シリーズでの完全試合」は幻となりました。

この試合は TV 中継でリアルタイムで見ていました。

試合序盤に平田選手の犠牲フライで中日が 1 - 0 と先制、一方の中日先発の山井大介投手は快投を続けていきます。

気づけば8回を終わって走者を一人も出していません。中日がそのまま 1 - 0 で勝っていたので、もし9回も三者凡退にできれば完全試合でした。

しかし、9回表のマウンドに立っていたのは山井ではなく中日の守護神・岩瀬でした。中日の落合監督の「采配」で中日は勝利しますが、完全試合という記録はつきませんでした。

実は、山井投手は素晴らしいピッチングを続ける裏で試合中盤で右手中指のマメが破れ、出血をしながらの投球だったと言います。それでもなんとか序盤までマウンドに上がり続けましたが、とうとう8回を終わった時、本人から直接「もう投げられない」と投手コーチに告げ、それが落合監督に伝えられたそうです。

落合監督も多くのファン同様に完全試合を見たかったと言います。野球人としての欲求と、大記録や個人タイトルを取り選手が成長するケースが多いことから、山井投手がさらに成長してほしいと言うマネジメントの立場としてもでした。(詳細は下記の書籍「采配」を参照)

落合監督の采配は山井から岩瀬へのスイッチでした。そこには投げられないと言っている山井に無理をしてでも続投させて完全試合を狙わせるのではなく、53年ぶりのチームの日本一のためという強い思いからでした。

個人的にもこの山井-岩瀬のバトンタッチは忘れられない光景です。その時にはまだ山井のマメの話も伝えられなかったので、落合監督の決断に驚かされるとともに、中日が日本シリーズを勝ったとはいえ完全試合が見られず、中日の日本一の瞬間はなんとも複雑な気持ちを持ったのを覚えています。

■ 決してブレない落合監督の采配の原則

采配この時の落合監督の采配について、「采配」(落合博満 ダイヤモンド社)という本に詳しく書かれていて、落合監督は次のように言います。

『「こんな判断をしたら、周りから何と言われるだろう」。そうした邪念を振り払い、今、この一瞬に最善を尽くす。監督の采配とは、ひと言で言えば、そういうものだと思う』と。

どんな場面でも采配は後からの結果論で語られることが多く、采配を振るう自分がフォーカスできるのは、この瞬間に最善と思える決断をすることです。そこは決してブレてはいけないと言います。

だから、落合監督は完全試合を目の前にした山井を降板させた采配を、正しかったか間違っていたかの物差しで考えるのではなく、「あの場面で最善と思える決断をしたかどうか」、これだけだと明確に書かれていました。

■ 今という時間を生きるということ

この本で印象的だったのは、采配とは自分の人生にも通じるという指摘でした。

采配というと組織をリードすると思いがちですが、意思決定をし進む方向を決めると捉えれば、人生における自分の選択や生き方でもあり、自分の人生を「采配」できるのは他ならぬ自分だけだとあらためて気づきます。

第三者から助言をもらっても結局決めるの本人です。

本書から受け取ったのは、「常に自分の進むべき道を探し求めること、すなわち自分の人生を采配することにこそ、人生の醍醐味があるのだと思う」「一度きりの人生に悔いのない采配を振るべきではないか」という落合監督からのメッセージでした。

自分の生き方を采配すると考えれば、先ほどの『「こんな判断をしたら、周りから何と言われるだろう」。そうした邪念を振り払い、今、この一瞬に最善を尽くす。監督の采配とは、ひと言で言えば、そういうものだ』という内容も共感できます。

今と言う一瞬に最善を尽くすということは、今を精一杯生きるということであり、その一瞬一瞬の積み重ねが自分という存在を形作り、それが結果として自分の「人生」になるのです。

自分のこれまでを振り返って、あれをすればよかった、こうしておけば違った結果になったのに、と結果論で見てしまいます。もちろん、過去の失敗を客観視して教訓にすることも大事です。

一方で、日々、今という時間をいかに過ごすか、そんなことをあらためて考えさせられた2011年の年末でした。


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2011/12/15

Google Mapのビッグデータ活用事例と2つの課題

Googleマップに新しいサービスが追加されました。「交通状況」という地図上で渋滞状況がわかる新しい機能です。今回のエントリーでは、グーグルマップの新機能と、ビッグデータ活用という観点から2つの課題について書いています。
交通状況がGoogle マップで見られるようになりました|Google Japan Blog

■Google Mapの「交通状況」機能とビッグデータ


このイメージは上記のGoogleブログからの引用した東京の地図ですが、交通状況により混雑している道路が赤や黄色で表示されます。このように現在の交通状況が表示されるだけではなく、曜日や時刻を設定変更すれば、その時間帯の「典型的な交通状況」もわかるとのこと。モバイルにも対応しており、Googleマップナビでは、この交通状況も考慮され、目的地までの到着時間を計算されるようです。

仕組みは、スマートフォンからGoogleに送られる位置情報と速度データを活用することで、通行状況を計算し表示しています(プライバシー観点から、スマートフォンでユーザーがMy Location(現在地)の機能を有効にしている場合にのみグーグルに送られる)。位置情報はもちろん匿名化されますが、スマートフォンからの大量の匿名データを時々刻々と蓄積・処理し、結果をグーグルマップに返すことで実現しているのです。今後、より多くのユーザーからの情報が得られれば、より精度の高い交通状況の情報をフィードバックでき、さらに便利になるという好循環が期待できます。前回のエントリーで「ビッグデータ」について書きましたが、このGoogleマップのケースもまさに位置と速度情報というビッグデータをうまく活用した事例です。
ビッグデータに付加価値を与えた企業が次世代の覇者となる|思考の整理日記

■課題1:「過去の事実」から「未来の解釈」まで

実際にグーグルマップの「交通状況」を見てみると、主要な道路や高速だけですが、見る時間によって混雑状況が変わっていることがわかります。地図左下の変更から、曜日や時間帯を指定すれば、同じ時間帯でも平日と休日で状況が違っていたりと、なかなかおもしろいサービスです。ただ、個人的な印象で言うと、機能としてはもう1段階ブラッシュアップしてほしいという期待があります。

それは、結局のところ、現在の混雑状況からどの道路を選ぶかは、自分で判断する必要がある点です。曜日や時間帯を変更できると言っても表示されるのはあくまで「典型的な交通状況」なので、慢性的な渋滞には対応できても、突発的な渋滞を把握するのには使いにくい印象です。現時点でのグーグルマップでの「交通状況」機能はあくまでリアルタイムの今という瞬間の混雑状況はわかりますが、将来、すなわち自分がその道路を通る時間には渋滞がどうなっているかは正確にはわからないのです。

前回のエントリーで取り上げた書籍「ビッグデータビジネスの時代 堅実にイノベーションを生み出すポスト・クラウドの戦略」(鈴木良介 翔泳社)には、以下のようなマトリクスが提示されていました。横軸は「事実」を把握するのか、事実から「解釈」まで捉えるのか。縦軸は過去(現在も含めてよいはず)なのか、未来のことなのか、というマトリクスです。

引用:「ビッグデータビジネスの時代 堅実にイノベーションを生み出すポスト・クラウドの戦略」(鈴木良介 翔泳社)

このマトリクスで言うと、「交通状況」機能はあくまで現在の事実を提示しているにすぎず(これはこれですごいのですが)、自分が乗車中に使うとすれば便利であろう「未来の事実」:自分がその道路を通る時の渋滞予測、「未来の解釈」:どの道路を選ぶのが最適なのか、まで瞬時に提示してくれる機能です。自分がなぜこのサービスを使うかを考えると、要するに、どれだけ渋滞を避けて快適な運転・移動ができるかなんですよね。これをあらためて図にすると以下のイメージ。

先ほども書いたように、今の状況は「未来の事実」「未来の解釈」を人が予測し、決める必要があります。これを人ではなく機械で実現するためには、各車の走行状況からその地域全体の走行車を最適に配置するという、1台だけ渋滞を避ける部分最適ではなく各車を全体最適化する必要があるわけですが、グーグルにはついついそこまでの期待値を持ってしまいます。ちなみに、グーグルはフォードと共同でこのあたりの研究に取り組んでいるようなので、今後の展開が楽しみなところです。
GoogleとFordが開発する「スマート・カー」(WIRED VISION)|ITpro
Ford Developers Look to Use Google Prediction API to Optimize Energy Efficiency; Research Presented at Google I/O|Ford Motor Company Newsroom

■課題2:そもそものデータの偏り・データ量不十分

別の課題をもう1つ。そもそも渋滞情報に使っているデータは正しいのか、という視点です。グーグルマップの交通情報に使われているデータは、スマートフォンの位置情報と速度情報です。逆に言うと、スマートフォンではないモバイルのデータは使われていない。だから、グーグルマップの交通状況はスマホ保有者のみの状況で、もっと言うと、My Location機能を有効の人のみの渋滞情報なのです。仮にフィーチャーフォン所有者が乗る車で渋滞していると、マップ上には表示されません。このようなデータの偏り(今回で言うとスマホで現在情報を有効にしている人だけという偏り)を前提に考慮しておく必要があると思います。専門的な表現をすると、データバイアスの問題です。

スマホを持っている人が運転する車とフィーチャーフォンの車とで走る道路が大きく異なる、ということはあまり考えにくいですが、現時点でのグーグルの交通状況機能は、データ量としてはまだまだ十分ではない印象です。高速や主要道路以外は、データが少なすぎて渋滞情報が表示されていません。スウェーデンのストックホルムで導入された事例のように、理想を言うと車そのものから直接走行データを集めたほうが、より精緻な渋滞情報になります。
ストックホルムで起きた“ビッグデータ革命”|日経ビジネスオンライン

■情報提供者にフィードバックをすることでWin-Winに

色々と書いてきましたが、Googleマップの「交通状況」は興味深い事例です。これまではカーナビや有料サービスでしか提供されなかった情報が無料で私たちにもたらされる。そのベースにはスマホからのデータの活用がある。グーグルがすでに持つグーグルマップという資産をうまく活用していて、この点はグーグルだからこそ実現できるサービスと言えます。また、位置情報と速度情報から渋滞情報を出しているとさらっと書いてありますが、例えば車と車道を走っている自転車とをどうやって判別しているのかなどの詳細ロジックも気になるところ(これは企業秘密だと思いますが)。何より個人的におもしろいと思うのは、ユーザーにとって位置情報を取られる対価として渋滞情報という価値をフィードバックしている点で、グーグルとユーザーのWin-Winが成り立っているのではないでしょうか。

もっとも、ユーザーにとってのWinはまだ大きくなることを期待したいです。すなわち、より精度の高い渋滞情報がフィードバックされ、さらには現在の渋滞情報だけではなく、自分はどの道を通るのが渋滞に会わずに目的地へ快適に行けるのかまで手元で簡単にわかること。今回はGoogleマップを例にビッグデータの活用事例を取り上げたわけですが、今回のような今まではうまく活用されていなかったデータをこんな使い方をするともっと便利になる、という事例はこれからも増えていきそうです。


※参考情報

交通状況がGoogle マップで見られるようになりました|Google Japan Blog
Googleマップでどの道がどれぐらい混んでいるか交通状況の確認が可能に|GIGAZINE
ビッグデータに付加価値を与えた企業が次世代の覇者となる|思考の整理日記
GoogleとFordが開発する「スマート・カー」(WIRED VISION)|ITpro
Ford Developers Look to Use Google Prediction API to Optimize Energy Efficiency; Research Presented at Google I/O|Ford Motor Company Newsroom
May 10, 2011: FORD USING GOOGLE API TO OPTIMIZE VEHICLE PERFORMANCE (PDF)
ストックホルムで起きた“ビッグデータ革命”|日経ビジネスオンライン




2011/12/10

ビッグデータに付加価値を与えた企業が次世代の覇者となる

ビッグデータビジネスの時代 堅実にイノベーションを生み出すポスト・クラウドの戦略「ビッグデータ」という言葉は、少し前であれば、ネット記事やブログなのでよく見かけましたが、ここ最近ではクライアントとのミーティングの場でもよく出てくるようになってきました。特に部長職や役員クラスの方の口から出るようになるとかなり浸透してきているなと感じます。そんなビッグデータについてまとめられており、体系的に理解するのに役立ったのが、「ビッグデータビジネスの時代 堅実にイノベーションを生み出すポスト・クラウドの戦略」(鈴木良介 翔泳社)という本でした。

■ビッグデータ事例:Amazonのレコメンド機能

本書ではビッグデータの定義を「事業に役立つ知見を導出するための、『高解像』『高頻度生成』『多様』なデータ」としています。これだけだと、何やら難解な印象を持ってしまいそうですが、身近な例でイメージを理解したほうがいいかもしれません。

例えばアマゾンのレコメンド機能。これは、アマゾンではユーザーそれぞれの過去の購買情報や商品閲覧情報、あるいは、自分と同じ商品を買った他のユーザーの情報など、うまく活用することで、私たちに「おすすめ」を提示してくれる機能です。必ずしも、おすすめと自分の好きそうな(買いたくなるような)商品とは一致するわけではありませんが、これはアマゾンが集めている膨大なデータの活用事例です。

■ビッグデータ活用の3つの壁

本書でうまく整理されていたことの1つが、ビッグデータ活用の時代の流れの説明でした。著者である鈴木氏は、ビッグデータ活用に至るにはいくつかのステップを経る必要があると言います。そのために越えなければいけないのが3つの壁。第一の壁は「データの電子化・自動化ができているか」。これは多くの事業者ですでに越えていると思いますが、IT活用がされる前の時代は、例えば顧客情報は紙ベースで保管されていたりなど、蓄積はするものの活用がしにくかったはずです。しかし、ネットやモバイルなどのインフラ・デバイスが進化・普及することで、データの生成・取得が格段にしやすくなりました。これが第一の壁を越えた状態です。

一方で、データを取得したものの、じゃそれをどう活用すればいいのか、データを電子化したけども、結局はサーバーに保存されているだけ、というのが「第二の壁」を越えられていない状態です。つまりビッグデータが事業に活用・寄与していない。第二の壁とは、一言で言えばビッグデータを活用できているかどうか。活用レベルも分解すれば、データ整備、データハンドリング(スキル・システム)、データに価値を見い出す(活用イメージ)、価値を享受できる仕組み・システム、そして事業に寄与し、かつ継続的な収益化まで、などとステップが分けられると思います。本書では、多くの事業者が第一の壁を越えているが、第二の壁を越えていないと書かれていました。先のアマゾンのレコメンド機能は、アマゾンが第二の壁も越えている事例ですね。

第三の壁がデータの価値認識変化です(本書での著者の表現は「データ流通の壁」でした)。より広いデータの活用がされる状態で、例えばSaaS(ソフトウェアのサービス利用)は一般的になっていますが、同じような概念としてのDaaS(Data as a Service)、具体的には、データがサービスとして有償で提供される可能性です。必要データや情報があり、自分たちで一から集めなくても、どこかから買ってきたらいいんじゃないかという認識です。こうなると、データを集めている側も、今までは活用されず塩漬けのようになっていた膨大なデータ売ることができ、新たなビジネスになる可能性を秘めています。

■第三の壁を越えた世界への期待

データを買いたい者と売りたい者がいるとうことは、そこには取引の市場ができることも考えられます。データ取引市場なるもので、であれば買い手と売り手をつなげて取りまとめる中間業者のような存在も生まれるかもしれません。そうなれば、やや突拍子もないことかもしれませんが、ゆくゆくはデータ自体があたかも貨幣のように流通する世界になるかもしれない。データをお金を通して売買するのではなく、データそのものの貨幣化、すなわち価値として広く「信用」を得ている存在です。ここで思い出しましたが、そういえば以前にGoogleがデータ取引所の創設する記事があり、そこから考えたことをエントリーしていました。
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これまでは利用されていなかった膨大なデータが広く社会に流通し、世の中をよくするように活用される。あるビッグデータはイノベーションと呼べる画期的なことに、また別のデータは目立たないけど社会を後ろで支えるような領域で活かされる。そんな世界を期待したくなります。

■ビッグデータの3つの阻害要因

もちろんビッグデータのビジネスにはバラ色の世界が待っているとは言えず、課題もあります。ビッグデータがあっても中身に価値がなければどれだけ膨大に集まってきても、それは何の価値もないゴミをせっせと集めているようなものです。あるいは活用の見込みが立ってもその通りにデータを扱える人がいなければ宝の持ち腐れです。

著者である鈴木氏が指摘する阻害要因は3つ。(1)ビッグデータの取得・活用ができる統計学や情報技術のプロフェッショナルの人材不足、(2)プライバシー問題、(3)データの誤りと誤用に起因するものです。

■ビッグデータとプライバシー

個人的に今後の最大の阻害要因になると思うのはプライバシー問題。消費者やユーザー関連のビッグデータを集める際には必ずと言っていいほど、この問題がついてまわります。意図的であろうがなかろうが、データにはその人からすると他人には知られたくないような情報も入ってきてしまいます。人材不足や誤用はデータを取得し活用する側のこちら側の問題です。だから取り組みや技術次第ではまだなんとかなるのではないかなと。それに対してプライバシーというのは「データ収集される側」の、感情や生理的な反応・問題です。さらに、個人情報保護法など、法律面でも制約がでてくると思います。

ビッグデータとプライバシーに関連して最近気になった話題は、AndroidやiPhoneなどのスマートフォンに組み込まれていたCarrier IQのソフト問題(参考:AndroidとiOS、プライバシーを丸裸にするソフトが仕込まれていたことが発覚|INTERNET Watch)。キャリアIDのこのソフトは端末で発生するほぼすべての動作を記録し、携帯キャリアや端末メーカーに送信していて、記録される情報は多岐にわたり、押されたキーとその種類、ブラウザで閲覧したURL、使用アプリ、電話やメールの送受信、GPSなどの位置情報、カメラや音楽プレーヤーの動作状況などが含まれると言われています。今回のキャリアIQの問題点は、ソフトがユーザーの知らない(了承なし)見えないところで動いていた、ユーザーがソフトを無効にすることが非常に難しい点にあります。ユーザーからすれば自分の知らないところで、モバイルの使用状況がまるわかりになっていたとすれば、不信感とともに強い不安を抱くのではないでしょうか。

ただ、キャリアIQの仕組みはビッグデータを集めるという視点で見ると優れていると言えると思います。データを集める場合には、なるべく偏りがないほうがデータの質は高くなります。キャリアIQの件はユーザーの知り得ないところで起こっていたことで問題が大きくなっていますが、一方でユーザーが知らない(意識していない)ということは、より自然な端末使用データが得られることになります。もし「今から端末の使用状況を記録するので」と言われて使ってもどうしてもそれを意識してしまい、普段の使用とは異なるデータになります。これが偏りとなり、結局そのデータを見ても本当の使用状況はわからないのです。

今回起こったキャリアIQ騒動は、ビッグデータ収集技術・方法論としては正しいが、倫理的・個人情報やプライバシーでは大きな問題になる。日本ではあまり大きく報道されていないような気がしますが、この事例はビッグデータに対する大きな一石を投じたように感じます。

■最後に

本書の著者である鈴木氏は、ビッグデータの可能性を「顧客のニーズを見極めることにつながる」と言います。というのも、消費者本人に聞くよりも、集まって蓄積された消費者に関する膨大なデータをのほうが、実は本人自身よりも、その人のことを雄弁に語る可能性があるからです。

もう少し期待を書いておくと、例えばジョブズのようなカリスマ経営者の判断・意思決定で数多くのイノベーションが実現されましたが、どの会社にもカリスマ経営者がいるわけではなく、そのような状況でもイノベーションの武器となり得るのがビッグデータであると鈴木氏は指摘します。上記のアマゾンの例では、ユーザーに「あなたの好きな本のジャンル、好きな音楽は何ですが?」と調査するのではなく、ユーザーがアマゾンを利用する過程で集まってくるデータを活用するこで、顧客のニーズにうまく対応しているのです。

これまでは記録できなかった色々な行動がデータとして蓄積され、ビッグデータとして活用されル流れは今後も変わらないと思います。課題はビッグデータの活用、特にマネタイズでしょう。それも継続的に収益を生み出す源にできるかどうか。一方で、上記のプライバシー問題等をどう解決するか。データを集める側と提供する側でいかにWin-Winを築くか。そんなことをあらためて考えさせられる本でした。なお、本エントリータイトルは、本書の帯にあった佐々木俊尚氏の言葉です。


※参考情報

Googleが計画する「ウェブデータ取引所」は、あなたと広告のミスマッチを解消してくれるのか|思考の整理日記
Google Readies Ambitious Plan for Web-Data Exchange|Ad Age DIGITAL
AndroidとiOS、プライバシーを丸裸にするソフトが仕込まれていたことが発覚|INTERNET Watch
キャリアIQのプライバシー侵害騒動と「ビッグ・データ」の脅威|@シリコンバレーJournal ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト




2011/12/03

iPhone4Sを歴史的な製品にするiCloudとSiri

アメリカの調査会社ChangeWave Researchの調査によると、iPhone4Sの顧客満足度が96%と、iPhone4の93%よりもさらに高かったという結果がでています。(96%の内訳は「非常に満足」:77%と「やや満足」:19%)
「iPhone 4S」の顧客満足度、iPhone史上最高の96%に――ChangeWave調べ|ITmedia ニュース

iPhone4Sと、そして同じタイミングでリリースされたiOS5で追加された機能は多くありますが、そのうちiCloudとSiriは画期的なものです。大げさかもしれませんが、iPhoneだけではなく、アップルを次のステージに上げるくらいのインパクトがあると思っています。以下、そう思う理由を書いています。

■iCloudはアップルの次のデジタルハブ戦略の主役

iCloudはアップルのデジタルハブ戦略の主役を担います。iCloud登場前は、PC内のiTunesがハブの中心にいました。iPhoneやiPadなどはPCにつなげ、iTunesと同期させるという形をとっていました。これは2001年のiPod登場から続く関係性で、例えば曲のプレイリスト作成などの機能はiTunesのみで可能とし、それをiPodには同期させる。iPodでできることをあえて制限し、あくまで衛星的な存在でした。iPhoneやiPadでも基本的には同じです。

それがiCloudの登場で、PCを中心としたエコシステムに変化が生じました。デジタルハブと置いたPCを他のデバイス同様のレベルに降格させ、替わりにデジタルハブとして位置付けたのがiCloudです。iPod登場は2001年なので、2000年代はPCであり、次の2010年代はクラウドがハブとなるのではないでしょうか。アップルのあるものを中心に置くというデジタルハブ戦略はぶれることはありませんが、技術や時代に合わせてPCからiCloudへ移行しているのです。iCloudを使っていてすごいと思うのは、一度設定しさえすれば「勝手に同期される」ことです。これまでのようにPCとデバイスとつなげるという手動での同期をする必要がなく、ほんと便利です。

とは言うものの、ハブをPCからiCouldにするという変化はまだまだ移行期にあると感じます。iOS5へのアップデート後に実際にiCloudを使っていますが、アプリの取り込みやバックアップの実行は依然としてPC経由でやることもあります。つまり、今のところハブはPCとクラウドの2つが併存している。ハブがiCloudに切り替わるのはまだ少し時間がかかりそうです。

■アンサーエンジンとなるSiri

iPhone4Sから追加された目玉機能のSiri。Siriは音声アシスト機能で、iPhoneに向かって話しかけることで、いろんなことを実行してくれます。行きたい場所へのナビゲートだったり、かけたい人に電話をつなげてくれたり、天気も教えてくれます。このように、単に人の音声を認識するだけではなく、実際にデバイスが動き、ユーザーが求めている答えを返してくれるのです。

Siriの登場で音声アシストの世界が活性化してくるように思います。例えば、「iris. (alpha)」というAndroidアプリ。これもSiriと似たようなアプリです(実際に使ったことはないのですが)。ちなみに、名前がSiriを逆さに読んだものになっており、Siriを意識したアプリだと感じます。
『iris. (alpha)』~iPhone 4Sの「Siri」機能がAndroidに登場!?音声アシスタント機能を体験~|andronavi

(特殊な機能や技術を除いて)普通の人がPCや携帯電話を操作するにはキーボードや画面に触れることで実行していました。TVやラジオなどほとんど全ての家電も含め、リモコンやボタンを押すのは指です。それがSiriでは声により動かすことになる。音声でユーザーの意図を伝え、コンピュータがそれを認識し意図を解釈する。そして、ユーザーが求めている答えを返す。Siriは検索エンジンならぬ、アンサーエンジンとなっていく可能性を持っており、ここに未来を感じます。

また、SiriにはiPhone以外にも色々と活用できる可能性があります。例えば、現在開発中と言われるアップルのテレビであるiTV。ここでは、Siriをリモコンの代わりに操作するために使われるのではという噂もあります。

■最後に

以上を整理すると、iCloudはアップルの次のデジタルハブ戦略の主役を担う存在であり、Siriはデバイスに話しかけ必要な情報を得るというアンサーエンジンです。iCloudとSiriという新しい機能が2つ追加されたiPhone4Sは、後から振り返った時にアップルの転換点だったと言われる製品になるように思っています。


※参考情報

「iPhone 4S」の顧客満足度、iPhone史上最高の96%に――ChangeWave調べ|ITmedia ニュース
Survey Finds 96% of Customers Satisfied with iPhone 4S|MacRumors
New Owners Survey Shows iPhone 4S More Popular than its Apple Predecessor|ChangeWave Research
iCloudで携帯電話以来の大変化が起こる...それは未来のコンピューティング|ギズモード・ジャパン
『iris. (alpha)』~iPhone 4Sの「Siri」機能がAndroidに登場!?音声アシスタント機能を体験~|andronavi

2011/11/27

公式伝記「スティーブ・ジョブズ」から読み解くアップルのマーケティング哲学

Steve Jobs先週は1週間の休みを取り、ペルー旅行(メインはマチュピチュやナスカの地上絵)に行ってきました。ペルーは日本から見て地球の裏側に位置し、移動はさすがに長時間になりました。ペルーへ行くだけでも成田-LA-リマ(ペルー)と、乗り継ぎ時間も合わせると24時間を超えます。そんな長いフライト時間だったのであらためてゆっくり読めたのはスティーブジョブズの伝記でした。(スティーブ・ジョブズ Ⅰスティーブ・ジョブズ Ⅱ

■What creative people could do with the computers

ジョブズの生き方、人生観はすでに過去にエントリーしています。
あらためて考えさせられるスティーブ・ジョブズの死生観|思考の整理日記
スティーブ・ジョブズの死生観とシンプルへの追及|思考の整理日記

伝記を読みそれ以外で印象的だったのは、アップルがMac、iPod、iPhone、iPadなど世界を変えることになる製品を次々に世の中に送り込んだストーリーでした。私自身が新規事業開発のプロジェクトに参画していることもあり、開発経緯の話がおもしろかったです。本書で、特に印象的だったフレーズがあります。

It was designed to celebrate not what the computers could do, but what creative people could do with the computers.
焦点をあてるべきは、コンピュータになにができるかではなく、コンピュータを使ってクリエイティブな人々はなにができるか、だ。

(英文は原作より。訳は日本語版(Ⅱ)p.74より)
※ちなみに、原作は手元にないのですが、ペルーへの乗り継ぎ地点のLA空港の売店に原作本が売っており、せっかくなので上記の文章をお土産に帰ってきました

この表現はアップルの考え方をとてもよく表していると思います。普通であれば「コンピュータになにができるか」、つまり自分たちがつくったものの機能や特徴をユーザーに最大限アピールすることに注力します。しかし、アップルのやっていることはもう1歩踏み込んだところまで考え、実行しています。それが「コンピュータを使ってクリエイティブな人々はなにができるか」。すなわち、単に機能だけを伝えるだけではなく、どんな人たちが使うかを想定し、そのユーザーがどうやって手に取り、さらには利用シーンや使用目的までも考えるのです。だから、「コンピュータになにができるか」にとどまらず、「人々になにができるか」まで力を注ぐ。言い換えれば、アップルはユーザー体験にまで焦点を当てている。スティーブジョブズの伝記では、ジョブズが「ユーザーのことを考えるから、体験全体に責任を持ちたい」という言葉が紹介されています。おそらく、アップルではプロダクトの設計や開発段階からユーザー体験まで深く議論をしているのではないかと思います。

アップルがユーザー体験を重視する考え方は、例えばiPadのCMでもまさにその通りのメッセージを私たちに訴えています。iPadというデバイスが主役ではなく、あくまでユーザーがiPadを使って何ができるかを伝えようとしているように思います。

iPad2 CM 日本版 2 Apple|YouTube

■アップルのエコシステムとユーザー体験

音楽プレイヤーのiPodの開発でもユーザー体験を重視する姿勢が描かれていました。iPodをリリースする前、ジョブズたちは既存の音楽プレイヤーが複雑でとても使いにくと思っていました。もっとシンプルに、もっと使いやすく。そして結論はPCの中にあるiTunesをハブとし、iPodを同期させることでした。iPodはあくまで衛星的な存在であり、曲のプレイリスト作成などの機能をiTunesのみで可能とし、iPodには同期させるだけ。iPodでできることをあえて制限したのです。ジョブズはこの形を「複雑な部分をあるべき場所に移ってゆけた」と表現します。

PCを「デジタルハブ」とするビジョンをジョブズが描いたのは2001年でした。音楽プレイヤーだけではなく、その後のiPhoneやiPadもPCと同期させるという関係性をつくります。PCを中心としたエコシステムであり、とてもうまくコントロールされているのです。

ところがジョブズ自らがこのエコシステムを壊していくことになります。デジタルハブと置いたPCを他のデバイス同様のレベルに降格させ、替わりにデジタルハブとして位置付けたのがクラウドでした。伝記にはクラウドをハブとする構想は2008年ごろに抱いていたことが書かれ、そして2011年6月のWWDC(世界開発者会議)の講演で新しいサービスであるiCloudとして発表されます。2000年代がPCであり、次の2010年代はクラウドがハブとなるのでしょう。アップルのデジタルハブという戦略はぶれることはありませんが、技術や時代に合わせてPCからクラウドに自らで移行しているのです。それもこれも、より使い勝手のよいサービスにしたいという思いから。ハブをクラウドにするという変化の底にはユーザー体験があるのです。

■「全てが一体となって機能する」というアップルのコンセプト

とはいえ、ハブをPCからiCouldにするという変化はまだまだ移行期にあると感じます。iOS5へのアップデート後に実際にiCloudを使っていますが、アプリの取り込みやバックアップの実行は依然としてPC経由でもやっています。今のところハブはPCとクラウドの2つが併存している。この状況はジョブズの言う「抜群の使い勝手」にはもう一歩という感じです。

iPhone、iPadなどのアップルの製品を使っていて感じるのは、「全てが一体となって機能する」使いやすさです。PCに入っているiTunesを中心にしていた世界では、同期させるのは手動でつなげる必要がありました。これがデジタルハブという中心が完全にiCloudになる時、気づけば全てが一体となっているはずです。勝手に同期してくれる分、人々は「なにができるか」に集中できます。「コンピュータになにができるか」ではなく、「人々になにができるか」。これからのアップルにもこの姿勢を期待したいです。


※参考情報

あらためて考えさせられるスティーブ・ジョブズの死生観|思考の整理日記
スティーブ・ジョブズの死生観とシンプルへの追及|思考の整理日記
iPad2 CM 日本版 2 Apple|YouTube
iCloudで携帯電話以来の大変化が起こる...それは未来のコンピューティング|ギズモード・ジャパン

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2011/11/19

Google+でプロダクト全体最適を進めるグーグル

Googleと言えばネットで何かを検索する時には当たり前のように使いますが、それ以外のサービスも色々と利用していることに気づきます。仕事とプライベートのスケジュール管理にはGoogleカレンダーは外せないですし、他にもGmail、Google Reader、Googleドキュメント、などと挙げていくと1つのアカウントで様々なグーグルサービスを活用しています。

■ここ最近のGoogleの動き

ちょっと前になりますが、これら多くのグーグルサービスがデザイン変更をしました。デザインだけの変更であれば新しいデザインも使っていればそのうちに慣れるものの、機能が変わってしまいそれが自分にとって使いづらくなってしまうと前のデザイン(機能)のほうがよかったのに、なんて思ってしまいます。ここは無料で使っているので文句はあまり言えず、一定のデザイン変更期間(新旧両方が使える)が終われば、強制的に新デザインに移行されます。

もう1つ、最近のグーグル関連の大きなニュースとしては、Google Musicのリリースがあります。

Google Music is open for business|Official Google Blog

これまではβ版だった音楽サービスの正式リリースで、主な特徴は、所有している曲は2万曲まではクラウド上に無料保存可能、Android MarketというiTunes Storeのようなマーケットから購入でき、1曲は0.99~1.29ドルで100円以内で買えるイメージです。購入対象曲は現在は800万曲、近々1300万曲まで増えるとのこと。曲のファイルはMP3の320kbps。

印象的だったのは、大手レーベル3社とインディーズレーベル1000社がパートナーになっている、Google+との連携で共有しやすい仕組み、それとオフライン状況でもデバイス保存分は聞くことができること。あとはアーティストとの連携強化も。日本への展開時期は未定のようです。Google Musicにより、グーグルは音楽サービスでもiTunesやAmazon Cloud Playerとぶつかることになります。

他に話題になっていたのは、Google+で企業ページの「Google+ Page」のリリースもありました。

Google+ Pages: connect with all the things you care about|Official Google Blog

リリース段階の時点で、トヨタやユニクロ、ペプシなど、20以上の企業ページが開設されたようです。これはFacebookページと似ていますが、Google+ Pageの特徴はグーグルの強みである検索と強力な連動させている点にあります。Direct Connectという機能の追加がそれで、グーグルで検索でをする際に、企業名やブランド名の前に「+」を付けて検索すると、その企業のGoogle+ Pageをサークルに入れることを推奨するページが表示できるようになりました。

■Google+統合という全体最適化

ここまで、最近のグーグルの動きとして、各種サービスのデザイン変更、Google Music、Google+ Pageを見てきましたが、これら共通していることがあります。それは、全てでGoogle+との連携がされていること。

デザイン変更ではGoogle+のそれと同じイメージになり、Google MusicではGoogle+への共有機能も追加されています。これらの意味することは様々なグーグル提供サービスがGoogle+が軸となる統合で、この動きがGoogle+がリリースされてから一気に動き出していると感じます。

Google+に関して、グーグル幹部のNikesh Arora氏(chief business officer)がある公聴会で印象的な発言をしていました。

Google+, for us, is not a social network, It is a platform which allows us to bring social elements into all the services and products that we offer. So you have seen YouTube come into Google+; you’ve seen Google+ with ‘direct connect’ go into our search business. We are trying to make sure we use social signals across all of our products... It’s not just about getting people together on one site and calling it a social network.”

我々はGoogle+は「ソーシャルネットワーク」とは位置づけていない。Googleが提供する全サービスにソーシャルの要素をもたらすプラットフォームである(YouTubeとGoogle+の連携や、グーグル検索におけるGoogle+のDirect Connectなど)。我々は、人々を一つの場所に集めそれをソーシャルネットワークと呼ぶのではなく、ソーシャルの信号をGoogleの全製品にわたって使えるようにしようとしている。

Google+ 'is not a social network'|Telegraph

すなわち、Google+を使ったあらゆるサービスの連携・統合であり、要するにグーグルは何をしているかというと、Google+をベースにしたグーグルのあらゆるサービスの全体最適化だと思いました。実はこれまでのグーグルの各サービスは、それぞれがバラバラにつくられ提供されていたと思います。これまでのグーグルの特徴をよく表していて、ほんと自由にやっている印象でした。そういう意味では各サービスごとの部分最適がされていて、Googleラボを覗けば新しいサービスが次々にベータリリースされていました。実はこのGoogleラボもGoogle+のリリース後にクローズされています。

More wood behind fewer arrows|Official Google Blog
やっぱり気になる「Google Labs」の閉鎖|ZDNet Japan

Google+への統合と合わせてと考えると、これまでのグーグルが発散型でサービス開発・リリースをしてきたのに対し、Google+のリリースを境に「選択と集中」に舵を切っているのです。

■Googleの方針転換でどう変わるのか

グーグルのこうした動きはとても興味深いものです。Googleが生まれ変わろうとしていると言っても過言ではないように感じます。とはいえ、現時点ではこの方針転換は始まったばかりで、Google+への統合と言ってもユーザーにとっての目に見える変化はGoogle+に簡単に共有できるような仕組みがあることや、デザインがGoogle+のように次々に変わっていることくらいです。

ただ、ユーザーの見えないところではおそらく確実に動き出しているのでしょう。例えばデザインの変更を見ても、ただ単に見た目だけをGoogle+にしただけでは当然ないでしょうし、その裏にある設計思想というか、どうすればGoogle+と連携し統合できるか、それはグーグルにとって、またユーザーにとってどういうメリットがあるのか、等々がGoogle+を軸にした横断的な検討・開発がされているのではないでしょうか。

グーグルというのは、図のような無料でサービスを提供する代わりに、膨大なユーザーデータを取得し、それをさらなるサービスの利便性向上や、ユーザーデータをグーグルの主要ビジネスモデルであるネット広告事業に活かしている。この集まってくる膨大なデータ活用がグーグルの本質的な部分であり、であればここ最近のGoogle+への統合もより一層のユーザーデータ取得のためだと思います。それがひいては広告事業での売上および利益増加につなげたいということ。



あるいは、もしかしたらネット広告事業への収益依存を変えていくのかもしれません。これはちょっと考えてみたのですが、まだ自分の中でどういう具体的な戦略が考えられるかが見えていなくて、広告収入ではなくユーザーから直接課金するのか、ユーザーは個人なのか企業なのか。課金モデルは具体的には何かなど、もう少しグーグルの動きを見ていけばわかってくるかもしれません。

いずれにせよ、方向転換をしつつあるグーグルは気になりますし、その中心に位置しているGoogle+がどうなっていくのかにも興味があります。


※参考情報

Google Music is open for business|Official Google Blog
More wood behind fewer arrows|Official Google Blog
Google+ 'is not a social network'|Telegraph
Google+ Pages: connect with all the things you care about|Official Google Blog
やっぱり気になる「Google Labs」の閉鎖|ZDNet Japan
Google Labsの閉鎖は、Googleによるイノベーションの歩みを止めるのか?|TechCrunch Japan


2011/11/06

失敗を評価する四つの視点

回復力~失敗からの復活 (講談社現代新書) 「回復力 失敗からの復活」(講談社現代新書)という本は、失敗学を提唱する畑村洋太郎氏の著書です。この本では、人は誰でも失敗をしてしまうこと、だからこそ大切なのはそこからどう失敗を捉え、考え、行動するかを中心に書かれています。

■失敗を評価する四つの視点

本書で印象的だったのは、著者が紹介する失敗を正しく評価するための4つの視点でした。1.物理的視点、2.経済的視点、3.社会的視点、4.倫理的視点。まずは以下で、それぞれの説明を引用します(「回復力 失敗からの復活」p.80-82)。なお、エントリータイトルは本書の目次からそのまま使っています。

1.物理的視点
失敗をまず物理的現象としてとらえる視点です。これは要するに、目の前でどのようなことが起こっているのかをありのままに見ることです。ものの見方は、その人の立場や関わり方などによって大きく左右されますが、そうした影響を上手に排除していかないと、目の前で起こっていることを正しく認識することはできません。

2.経済的視点
いわば損得勘定で失敗を見る視点です。社会のことはほぼすべて、経済的なメカニズムの中で動いています。(中略)失敗でも同じで必ず経済的な影響がついてまわります。そのことを考慮し、経済的な指標によって評価するのが経済的視点による失敗の評価です。

3.社会的視点
経済的視点よりさらに広範な見方です。一番目の物理的視点とは逆の視点とも言えますが、失敗の影響は経済的なもの以外にも広く及ぶので、これらをすべて見る視点が必要になります。これはいわば、その失敗と社会の関係を評価するためのものですが、具体的には「社会の中でその失敗がどう見られているか」とか「社会がその失敗にそう反応して動いているか」などを見ることををいいます。

4.倫理的視点
生身の人間の立場から失敗をみる視点です。これは人としてやらなければならないことがきちんとできているかどうかを判断するためのものです。(中略)この視点がないと、「こうあるべき」とか「こうなるはず」という形式的な評価に振り回されて、失敗の取り扱いを間違える危惧があります。

■四つの失敗評価視点を自分事化してみる

この4つの失敗評価視点はなるほどという感じです。ただ、表現や説明が一般的なものになっており、自分ごととして捉えるためにはもう少し落とし込んで理解したほうがいいように思いました。

実は以前にあるプロジェクトに参加していた時に、1つの失敗がプロジェクト全体に大きく影響を与えたことがありました。プロジェクト工程のクリティカルパスだったため、スケジュール全体の遅れ、リカバリーのための対応工数増加、販売への機会損失、顧客からの信頼・ブランドイメージ低下など、合計の損失額はプロジェクトへの投資と比較しても発生したダメージは小さくありませんでした。その時に学んだことや考えさせられたことも踏まえて、以下、4つの評価について私自身の解釈を書いておきます。(書いてみて思いましたが、どちらかと言うと仕事における失敗評価の内容になっています)

1.物理的視点
起こった失敗に対して、「事実」を正しくつかむことが失敗評価の第一歩ではないでしょうか。畑村氏が「目の前でどのようなことが起こっているのかをありのままに見ること」と言っているように、いかに客観的に何が起こったかを理解できるかが重要だと思います。この時に原因究明も行なうことになりますが、重要なのは原因究明と責任追及を分けることだと考えます。すなわち、ここで言う物理的視点では失敗という発生事象とその原因究明に注力し、責任の所在や追求は失敗評価が終わってからが望ましいと思います。原因究明と責任追及を同時にやってしまうと、責任を逃れたいというインセンティブから、正しく原因がわからないという事態になりかねないからです。

2.経済的視点
「損得勘定で失敗を見る視点」とありましたが、失敗による金銭面での影響や、あるいは時間のロスなど、失敗を数字で見る視点です。失敗をしてしまうと、やり直しのために余分な時間が必要になりますし、仕事であればそのための追加コストと時間が発生します。また、仕事と関係のないプライベートな失敗でも(例えば予定していた時間の電車に乗り遅れたなど)、直接お金への影響がない場合でも、少なくとも時間に影響してきます。起きてしまった失敗を評価する上で、影響や被害を数字で見る視点があれば、他者とも共有しやすいでしょう。「物理的視点」と同様に数字で評価することで、失敗を客観的に捉えることができます。

3.社会的視点
社会的視点とは、失敗を1つか2つ上の立場から評価することだと思いました。失敗をした・起こした時には、とかく視野が狭くなりがちです。失敗に注力し失敗のことを考える必要はあるのですが、視野が狭くなってしまうと二次災害の可能性もでてきます。よって、今の自分よりも1つ上の視点、例えば仕事であれば上司の立場では失敗はどう位置づけられるのか、あるいは○○課に所属していれば、その上の△△部には失敗がどう影響するのか、そこから少しずつ視野を広げていって、自分の会社やクライアント、その先にようやく社会に対してどう影響するかを考えるといいのではないでしょうか。失敗の当事者としてだけで捉えていると、必要以上に一大事だと感じることもありますが、1つ1つ視野を広げることで、失敗がそれぞれどう位置づけられるかが評価できます。

4.倫理的視点
1~3はいかに客観的に失敗を評価するかという視点でしたが、倫理的視点では、その失敗に対して「自分はどう考えるか」というものだと思います。失敗をした時に真っ先に頭に浮かんでくるのは、失敗に対しての後悔や惨めさ・恥ずかしさなどの感情だと思います。これは自分の経験からもそうです。ただ、失敗を評価する時に大切なのは、事象の確認、原因究明、そして何よりも、失敗を次への糧にすること。であれば、倫理的視点においては、自分の行動や意思決定に何か落ち度はなかったか、準備不足だった可能性、などなどを一度評価しておいたほうがいいと思います。よく失敗談が語られることがありますが、失敗について自分で考え、自らの言葉で評価できるかどうかが、失敗を次に活かすかそうではないかに大きく影響するように思います。

失敗というのはやっかいなものです。誰も失敗しようとは望んでいないのに、それでも私たちは失敗します。私自身もこれまで数多くの失敗があり学びもしましたが、だからと言って失敗はこれからもゼロにできるかというと、これからも失敗するのでしょう。人は誰でも失敗をします。その失敗を生かすも殺すも、失敗をどう評価し、次へのチャレンジにつなげられるかどうかだと思います。畑村氏が提案する失敗を評価する4つの視点は失敗が起こってからではなく、日頃から意識をしておきたいものです。



2011/11/03

TVチェックインサービスIntoNowがもたらす新しいTV視聴体験

ツイッターのタイムラインでは、TVの話題が流れていることがあります。その中にはまさに「今見ている番組」のツイートも見かけます。そんな今見ている番組をツイッターやフェイスブックに共有するためのサービスにIntoNowがあります。このIntoNowに今回新しい機能が追加されたのですが、その内容がちょっと興味深かったので、そのあたりを中心に書いています。

■IntoNowとは

IntoNowというのはiPhone/iPad・Android用アプリです。使い方は簡単で、テレビを見ている時にアプリ上のボタンを押すとアプリがその番組を自動認識します。あとはツイッターやフェイスブックで見ている番組を共有するだけです。(ちなみにIntoNowは今年4月にYahoo!に買収されています)

あいにくIntoNowは日本では使えないので(米国向けサービス)、YouTubeなどで動画を見るくらいしかできないのですが、動画を見る限り本当にボタンを押してから数秒で自動認識し、番組名が表示されています。これは百聞は一見にしかずなので、以下の動画を見るとイメージがつかみやすいです。

IntoNow from Yahoo! for iPad|YouTube

IntoNowがとてもユニークで、かつ個人的に興味深いと思っているのは、TV番組の音声だけで見ている番組を自動認識をする仕組みです。具体的には、アプリが見ている番組の音声を記録し、その音声情報と独自に構築している番組音声情報のデータベースと照合させます。そして、認識させた結果(見ている番組名)をアプリに表示させるのです。

IntoNowがすごいのは、このプロセスをわずか数秒でやることです。つまり、数秒以内にまさに今放送されている番組の音声情報をインデックス化したデータベース構築と、ユーザーのアプリから送られる音声情報をマッチングをしその結果を返すことの2つをしているのです。

■IntoNowに新しく追加されたわくわくする機能

IntoNowのアプリはこれまではスマートフォンだけだったのですが、今回新たにiPad用アプリがリリースされました。これだけ聞くと、スマートフォンでできたことがタブレットでもできるようになったと映りますが、実は今回のリリースではなかなかおもしろい機能が追加されているのです。

実は上の動画の後半でその紹介があるのですが、これまでは主に自動認識をさせるのが何の番組かだけだったのが、その番組に関連する情報までもわかるようになっています。例えば、プロ野球の試合を見ていてIntoNowで認識させると、試合のスコアや経緯の詳細、各選手の成績などの情報や、試合に関するツイート情報がアプリ上に表示されます。もちろん、これまでのスマホ用アプリでできた、ツイッターやフェイスブックへの共有も同じ画面からできます。あるいはここからは想像と期待も込めてですが、ドラマであれば登場している俳優のプロフィールであったり、もしかしたら着ている服やアクセサリーなども簡単に確認ができ、さらには気に入ればその場で買えるなんてこともできるようになるかもしれません。バラエティ番組で考えると、番組内で紹介されたお店、スイーツなどの商品、訪れたことのない名所など、関連する動画や説明などの情報が向こうからやってきてアプリ上に表示されるイメージです。

見ている番組が自動認識され、そして関連する情報までも提供される。この間にユーザーがすることはアプリ上のボタンをたった1回押すだけで、数秒後にはアプリ上に表示されるのです。グーグルでの検索や他の複数のアプリを使う必要などもなく。

IntoNowはTV番組に「チェックイン」するためのアプリです。これまでのチェックインをする目的は、はソーシャルメディアへの共有にあったのではと思いますが、今回のiPad用アプリのリリースで関連する情報を手に入れるためという新たな目的が加わったことになります。TVを見ながら、手元のiPadでボタンを押すだけで関連する情報が手に入り、それが数秒で自動的にできるというのは、今までにないTV視聴体験だと感じます。

■考えられる課題

そんなユーザー体験がIntoNowアプリでできるのはおもしろそうですが、課題もあると思います。大きくは2つで、1つ目がTV音声認識です。スマホやタブレットでTVの音を記録するということは、同時にTV以外の音も拾ってしまいます。家族の会話やペットの鳴き声、家のまわりの音も混じってくるケースも考えられます。その中で番組認識に必要な音だけをどれだけ正確に認識できるか。

2つ目の課題は、音声で番組を認識できたとして、その番組に関連する情報がどれだけ提供できるかだと思います。一口に関連する情報と言っても、ユーザーに必要な情報でなければ逆効果になってしまいます。さらに言えば、同じ関連情報でもユーザーによっては欲しかった内容であり、他のユーザーにとっては不要となることもあり得ます。アプリのボタンを押して関連情報も含めた結果を返すのは長くても10秒ちょっととのことで、これだけ短時間で実現するためには自動化されているはずで、いかにユーザーにとって目利きされた情報が提供できるか。これが2点目の課題になるのではないでしょうか。

■タブレットでIntoNowを使う価値

このように課題はありそうですが、それでも先のイメージ動画を見ると今の自分の環境ではできないテレビの見方ができ、日本でリリースされていないのが残念です。今回のiPadアプリのリリースにより関連情報の提供を開始するわけですが、これはタブレットの画面の大きさをうまく活用した事例とも言えそうです。同じことをiPhoneなどのスマートフォンでやる場合、画面の大きさが十分ではないので、画面をトントンして拡大させたり、スライドさせたりなど、拡大/縮小・移動を繰り返していると、テレビのほうに集中できないような気もします。だからiPadというタブレット用のアプリで実装されていることに価値があるんだと思います。

IntoNowの特徴はTVの音声だけで番組認識と関連情報の提供をする点にあると思いますが、これが実現できるのは高い音声認識技術と、放送されている番組をリアルタイムで独自に収集しデータベース化しているからです。特に番組音声のデータベース化は相当の投資が必要ではと思います。ましてやアメリカ以外の国でサービスを開始するためには、その国のTV番組をゼロから集めないといけません。そんなことを考えると、IntoNowが日本でもリリースされるのはなかなか難しいのかなと、ちょっと残念に思います。


※参考情報

IntoNow - Connect with your friends around the shows you love
IntoNow App Turns iPad into ‘Intelligent’ TV Companion | Gadget Lab | Wired.com
Yahoo Brings Intelligent Social TV App IntoNow To The iPad; Adds Content Feeds And More | TechCrunch
Share your TV habits with Yahoo's IntoNow app, now on the iPad | Digital Media - CNET News
リアルタイムウェブとチェックインの可能性を考える|思考の整理日記
IntoNow from Yahoo! for iPad|YouTube
IntoNow iPhone App Review - AppVee.com|YouTube


2011/10/29

高機能一辺倒へのテレビにはあまりワクワクしなくなったので、そろそろ次のテレビに期待したい

先日の24日にスティーブ・ジョブズ公認の伝記が発売されましたが、書かれていた内容で話題を呼んでいたのは、ジョブズがTVへの取り組みに強い意欲を持っていたことです。
Jobs's final plan: an ‘integrated’ Apple TV|The Washington Post

■ジョブズのTVへの熱意

書かれていたことは確かに興味深いものでした。ワシントンポストから引用したものがこちら。
“He very much wanted to do for television sets what he had done for computers, music players, and phones: make them simple and elegant,” Isaacson wrote. (引用者注:Isaacson氏はジョブズ公認伝記の著者)
Isaacson continued: “‘I’d like to create an integrated television set that is completely easy to use,’ he told me. ‘It would be seamlessly synced with all of your devices and with iCloud.’ No longer would users have to fiddle with complex remotes for DVD players and cable channels. ‘It will have the simplest user interface you could imagine. I finally cracked it.’”
これを読むと、ジョブズはコンピューター(Mac)・音楽プレイヤー(iPod)・携帯電話(iPhone)で成し遂げた、シンプルでエレガントなユーザー体験をテレビでも実現したいという熱意を持っていたことがうかがえます。ユーザーが持っているiPhoneやiCloudとも連携させることも構想していたようです。とにかくシンプルで、誰でも使えるようなテレビです。

そして最後にこう言っています。「I finally cracked it(その方法がついにわかった)」。crackというのは、この文脈では「暗号を解読した」みたいなイメージですが、ジョブズがこのように言ったとすればかなり具体的なイメージを描いていたのではないかと思います。ただ、「その方法」がどんな内容なのかは残念ながら、今回のジョブズの伝記には書かれていなかったようです。

■What is "I cracked it" for the next TV?

では、ジョブズはどのようなテレビを思い描いていたのか。上記のジョブズの言葉の中にはTVのリモコンについて不満を抱いていたことがわかります(No longer would users have to fiddle with complex remotes for DVD players and cable channels)。となると少なくともリモコンはもっとシンプルで使いやすいものになるはず。余分なものを徹底的にそぎ落とし、本当に必要なものだけしか残さないジョブズの哲学にも近い考え方です。

とすると、iPodのような本当に必要なボタンだけしかないリモコンになるのでしょうか。確かにそれは十分にあり得ることだと思います。自分の家にあるTVのリモコンを思い浮かべると、本当にたくさんのボタンがあるのに実際に使うボタンは最低限に限られます。中には一度ども押したことのないボタンもある。そういうのを割り切って削っていけば、かなりシンプルなリモコンにできそうなものです。

テレビを操作するのに別にリモコンではなくてもいいのでは、という発想で考えると違ったテレビのコントロールの仕方もでてきます。それがiPhone4Sで搭載された音声認識のSiri。つまり、直接テレビに話すことでコントロールするという考え方です。このSiriについては、実際に海外のブログとかを読んでいると、TVへの統合への期待がかなり高い印象を持ちました。Siriについてはまだ実際に使ったことがなく、YouTubeや使った人の書いたブログとかを読んだ印象ですが、「明日の天気は」「○○に行くにはどう行ったらいい」という質問にも的確に回答するなど、なかなかおもしろそうな機能です。Siriは単に人間の話した言葉を正確に聞き取ることだけではなく、質問やリクエストを理解しその答えを提案するというのは、既存のボイスメモやボイス検索とは大きく異なると思います。テレビにSiriがあれば、「野球が見たい」と言えば野球中継を映してくれ、もしかすると、「ちょっと退屈なので何か笑える番組を見たい」とテレビに話しかければ、ユーザーの好みや過去の視聴履歴などから、その人に合った番組を提案してくれるかもしれません。人によっては漫才などのお笑いかもしれないし、別の人には落語なんてことも。そこには、TV番組欄を見て今の時間に何がやっているかとか、適当にチャンネルを変え見たい番組を探すザッピングなどはもはや不要です。

音声認識のSiri以外だと、アップルは離れたデバイスを動かすのにジェスチャーを使うことを研究しているという話もありました。これも既存のリモコンだけに比べて、テレビの使い勝手を大きく変えてくれるかもしれません。ただ、SiriはすでにiPhone4Sに実装されていることに比べ、こちらはまだ少し先の話になりそうですが。
Apple exploring 3D gestures to control devices from a distance|AppleInsider

■そろそろフレームを変える時

あらためて考えてみると、今私たちの身の回りにあるテレビへの操作は、ほぼ100%リモコンを使っています(リモコン以外だと主電源のON/OFFくらい)。その状況でいろんな機能が次々に追加される一方でリモコン操作という形式が変わらなかった結果、とても使いにくいリモコンになってしまいました。とにかくボタンが多い割に実際に使うボタンは多くなく、わかりにくく使いづらいのです。

ところが多くのテレビメーカーはそこにはあまり注力していなく、より大きく、高画質な美しい画面、あるいはそれ専用の眼鏡を用意し3Dという立体的に見ることができる画面を実現し、ユーザーに提案してきています。これはよりいい機能を追加するという足し算の発想ですが、本当にそこにユーザーのニーズがあるのかは個人的には疑問です。さらなる高性能よりも利便性なのではないでしょうか。

番組配信の仕方もアップルは変えるのかもしれません。iCloudとも連携するということは、単に放送される番組を見るだけではなく、過去の番組も含めて見たい番組を見たい時に、その状況に適切なデバイスで見られるようになるのでしょう。家で見る時はリビングのアップルTVで、自分の部屋のベッドではiPadで、電車で続きを見る時はiPhoneで、といった感じで、アップルが得意とするユーザーに必要以上の設定をさせることなく、全ての端末が一連となって機能する仕組みです。

直感的な操作性に優れたテレビ、自分の好きな番組を好きなように見られるという、ユーザーにとって何が本当に価値があって、それに対して自分たちが提供できることは何か、これを徹底的に考え抜いた結果、ジョブズの頭にはすでにそのテレビは完成していたのではないでしょうか。

■次のテレビへの期待

こんな情報がありました。次のアップルTVは2012年あるいは13年頃にリリースされるというものです。
Apple Could Release TV Set in 2012 [REPORT]|Mashable
Apple Looking to Launch Siri-Enabled Television Set by 2013|MacRumors

アップル以外にも、グーグルとTVの話題も見かけました。方向性はアップルTVと似ており、シンプルにし利便性を高めるというものです。
An Update on Google TV|Google TV
Google TV gaining Android Market, simpler interface with new update|AppleInsider

昨今はTV離れが言われ、実際にそうしたことを示すデータを見かけることもありますが、少なくとも自分の身の回り、家族だったり、ツイッターやフェイスブックを見ていると、テレビの話題で盛り上がっていることが少なくありません。なんだかんだでテレビって、みんな好きなんだなと感じます。そんなテレビでイノベーションが起こるのか、そしてそれが私たちとテレビの関わりを変えてくれるのか。近い未来にその答えがわかる日がやってくるのかもしれません。


※参考情報

Jobs's final plan: an ‘integrated’ Apple TV|The Washington Post
Apple exploring 3D gestures to control devices from a distance|AppleInsider
Apple Could Release TV Set in 2012 [REPORT]|Mashable
Apple Looking to Launch Siri-Enabled Television Set by 2013|MacRumors
An Update on Google TV|Google TV
Google TV gaining Android Market, simpler interface with new update|AppleInsider


2011/10/22

Amazonに期待したい「書籍+iTunes Match」という読書体験

ようやくという感じですが、ちょっとわくわくするニュースです。日経新聞の報道によると、アマゾンが年内にも日本での電子書籍事業に参入するとのことです。
アマゾン、年内にも日本で電子書籍 出版社と価格詰め|日本経済新聞

日経が単独でスクープをするようなニュースはやや不安になることもあるのですが、記事を見るとPHP研究所とは契約に合意し、小学館、集英社、講談社、新潮社などととも現在交渉中とわりと具体的に書かれており、アマゾンの電子書籍での日本進出が今度こそはと期待できる内容です。

■3層で強みを持つAmazon

すでに日本国内では電子書籍の市場は存在し、少なくない企業が参入を果たしている状況で、具体的には右表のような状況です(引用:上記日経記事)。とは言っても市場規模は650億円程度(10年度)で、書籍・雑誌全体での約2兆円規模に比べるとまだまだ小さい印象です(数字は同じく日経記事から)。

ニーズがあると思われるににもかかわらず普及が進まないのは、1.そもそも電子書籍というコンテンツが少なく、2.電子書籍端末の互換性も十分ではなく、3.購入するマーケットも乱立しているという、コンテンツ・端末・マーケットプラットフォームという3層それぞれでユーザーにとって魅力を感じないからではないでしょうか。結局、紙の本を買う方が総合的には良く、それに比べて電子書籍で読むということにメリットが感じられないのです。

ところが、これがアマゾンであれば違います。もちろん、前述のような幅広い出版社との契約合意が前提ですが、電子書籍は自社サイトを通じて提供されます。それもPCだけではなく、タプレットやモバイルからブラウザかアプリのどちらからでも買えます。端末についても、専用のキンドルがあり、キンドルを持っていなくてもiPhone/iPad、Android用のアプリも提供しているので、幅広い端末から読むことができます。アマゾンのジェフ・ベゾスCEOは端末やサービスを普及させることを重視し、利益の回収は普及後でいいという経営戦略の持ち主と言われます。アマゾンから販売されるタブレットPCであるKindle Fireの定価は199ドルで、実は製造コストはそれ以上の209ドルではないかという情報もあります。これは1台売るごとに10ドルの赤字が発生します。Amazon’s $199 Kindle Fire Costs $209.63 to Make [STUDY]|Mashable
これは1例ですが、日本においても参入すると決めた以上は、コンテンツ・端末・マーケットというアマゾンの電子書籍サービスをまずは普及させるような展開をしてくるはずです。だからアマゾンの国内参入は、ようやく本命がきたかと期待したくなります。

■Appleが提供するiTunes Matchの意味

ところで、これは現在はアメリカのみ利用可能なのですが、「iTunes Match」というアップルのサービスがあります。iTunes Matchは、自分が持っているCDからiTunesに取り込んだ音楽を、iTunesミュージックストアで提供している楽曲と照合させ、マッチすればその曲はiPhone・iPad・iPodなどの全端末でダウンロードできるようになるというものです。つまり、iTunesに入っている自分でCDから取り込んだ曲でも、全てミュージックストアから買ったものとして扱われることになります。

一見するとこのサービスはあまりメリットがないようにも映ります。ダウンロードした曲もCDから取り込んだ曲も、自分が聞く時にはどちらも好きな音楽には違いないのですから。ただ、iTunes Matchが興味深いのはその考え方にあると思っています。というのは、iTunesマッチがなければ、すでにCDで取り込んだ曲でも同じ曲をiTunesミュージックストアから買ってダウンロードする場合、1曲150円とかのコンテンツ料金が発生します。CDもダウンロードも同じ曲にもかかわらずです。ところがiTunesマッチでは、「すでにCDで買っているんだから、同じ曲をミュージックストアからも別途金額は発生せずにダウンロードできますよ」という考え方。同じ曲にCDとダウンロードとに二重でお金を払うのではなく、「その曲を聴く権利を買う」というようなイメージです。

■「書籍+iTunes Match」という読書体験

話がアマゾンの電子書籍からiTunesマッチに逸れていたので、電子書籍に戻します。もしiTunesマッチのような考え方が電子書籍に適用できればどうなるでしょうか。考え方は「その本を読む権利を買う」こと。具体的には、今手元にあり参考にしている「iCloudとクラウドメディアの夜明け」(本田雅一 ソフトバンク新書)という書籍を紙の本で買えば、電子書籍版でも同じ本が手に入るというイメージです。この本を読む権利を買ったということなので、一度紙で買えば電子版を別途料金で払う必要がなくなる。逆のパターンもあり得るので、電子版を先に買って紙の本を後から無料で入手するという感じです。仕組みとしては、アマゾンの個人IDで紐付し、どの本を買っているかの管理することになります。

電子書籍を読んでいての印象ですが、紙の本と比べメリット/デメリットがあり、どちらの形式が絶対的に良いという感じではありません。紙は持ち運びや本の中から必要な情報を取り出すのに難がありますが、速読性や全体像の把握は紙が勝ります。電子書籍コンテンツや媒体はまだまだこれから仕組みも技術も進化するのでしょうが、それでも紙の本は一定程度は存続するのではないかと思います。将来的には主流は電子書籍になるのかもしれませんが。であれば、上記のような書籍でもiTunesマッチのような仕組みがあれば、一読書好きとしてはかなり魅力があります。大事なのは、読書をするシーンや目的に合った読書の仕方が用意され、各個人それぞれがストレスなく享受できることです。読みたい本を、読みたい時に。アマゾンにはそんな読書体験の実現を期待したいのです。


※参考情報

アマゾン、年内にも日本で電子書籍 出版社と価格詰め|日本経済新聞
Amazon’s $199 Kindle Fire Costs $209.63 to Make [STUDY]|Mashable
Appleの「iCloud」と「iTunes Match」でできること|ITmedia エンタープライズ
「黒船」アマゾン来襲を前にして日本の電子書籍は壊滅状態|エコノMIX異論正論


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2011/10/16

TVのながら見とマルチタスク

アメリカ調査会社のニールセンがある調査結果を発表していました。
40% of Tablet and Smartphone Owners Use Them While Watching TV|Nielsen

■TV視聴中のスマホやタブレット使用状況

それによると、タブレットPCを持っている人のうちおよそ4割の人がTVを見ながらタブレットを同時に使用しているそうです。スマートフォン所有者も同様で、一方で、TV視聴中に使ったことがないのは12-13%程度という結果になっています。

引用:40% of Tablet and Smartphone Owners Use Them While Watching TV|Nielsen

なお、数字だけ見るとなかなか興味深い結果が出ているのですが、この調査がどういう人たちから得られたデータなのか(たぶんアメリカ人だとは思いますが)、母数が何人なのか、年齢や男女構成比など、詳細情報が載っていなかったのが残念です。これらの基本情報以外にも、そもそも毎日TVを見る人がどれくらい存在するのか、タブレットやスマホの所有率など、上記の数字を見るにあたっての前提もあるとよかったなと思います。詳細情報は個別での問合せフォームが用意してあるので、そこから入手できるのかもしれませんが。

というわけで、調査結果の数字を見るうえで前提情報が不足していてやや気持ち悪い感は残るのですが、上記グラフの下段の横棒グラフでは、タブレット&スマホ所有者がTVを見ながら実際に何をしているかの結果が出ています。最も多いアクションとして、TV番組やCM中にメールをチェックすることが挙がっており、次いで番組やCMと関係ないサイト等を見ていたり、SNSを使っていたりするようです。

これらに比べて比率としては小さいのですが、番組に関する情報検索が29%、流れたCMの商品についての情報検索が19%となっているのには少し驚きました。特に、後者の見たCMに興味を持ち、詳しい情報を探すのが2割弱もいる。この人たちがその後にどういった行動を取るのか、例えば詳細情報を見ただけで終わるのか、見つかった情報をSNS等でシェアするのか、あるいは記憶に残り実際に買うことになるのかは気になるところです。

■TVのながら見とマルチタスク

ニールセンの調査は、TVを見ながらタブレットやスマホを使うという「マルチタスク」がどれくらいされているかの調査です。自分自身のことを振り返ってみると、ノートブックPCだけだったころは、そういえばTVとPCという状況はそんなにありませんでしたが、TVを見ながらiPhoneやiPadを使うという行動はかなり普通にするようになりました。ただ、正確に言うと手元でiPadを使っている時はTVからの音はあまり頭に入っておらず、実際のところは本当に「マルチタスク」かと言うと、ちょっと疑問だったりもします。感覚的には、TVの内容と関連のあることならまだしも、番組やCMとは無関係な情報をiPhoneやiPadで見ている場合はほぼシングルタスクと言っていい状況に思います。

このマルチタスクについて、Dener大学のJim Taylor博士によると以下の2つが満たされる場合は有効であるとしています。
・どちらか一方のタスクは集中する必要がない
・各タスクを行なうために使う脳の部分が異なること
Technology: Myth of Multitasking|Psychology Today

どういうことかと言うと、例えば、クラシック音楽を聞きながらの読書は効果があるものの、歌詞のある音楽を聞きながらの読書では、どちらも脳の言語処理が必要になるためにマルチタスクにはならないそうです。もっとも、個人的な感覚としては歌詞付きの曲でも歌詞の部分も単なる音として(歌詞の意味をほとんど気にしない状況)聞いている状態では、読書の邪魔にはならないようにも思いますが。

ニールセンの調査結果に話を戻しますが、このマルチタスクへの指摘を踏まえると、番組やCMの最中にTVはついていても実際はメールチェックや無関係なサイト閲覧をされるというのは、一見マルチタスクな状態かもしれませんが、実質的にTVを視聴されていないのと同じ状況です。TV番組制作側やTVCM広告主にとっては望ましい視聴状態ではないことは言うまでもありません。コンテンツ配信側としては、いかに視聴者の興味を引き付けられるか、あるいは、放送内容と関連するフェイスブックやツイッター等のSNSとの連携をいかに設計でき、TVだけで終わらない水平展開が今まで以上に必要になってきそうです。


※参考情報

40% of Tablet and Smartphone Owners Use Them While Watching TV|Nielsen
How People Use Smartphones and Tablets While Watching TV [STUDY]|Mashable
Technology: Myth of Multitasking|Psychology Today
Why Multitasking May Make You Less Productive|Mashable


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