投稿日 2021/06/27

コロコロコミックの 「うんこちんちん原理主義」 に学ぶ、ターゲット顧客を絞る重要性


今回はマーケティングです。

コロコロコミックのターゲット顧客設定から、顧客を絞る意味と方法をご紹介します。

✓ この記事でわかること
  • コロコロコミックの 「うんこちんちん原理主義」 とは
  • ターゲット顧客を絞る3つの理由
  • コロコロはなぜ読者を中学生に広げないのか?

今回のテーマは 「ターゲット顧客」 です。顧客を誰にするかは、マーケティング戦略や施策での根幹です。

ぜひ最後まで読んでいただき、お仕事での参考になればうれしいです。

ターゲット顧客を絞る理由



マーケティングでよく言われることに、「ターゲットを絞る」 があります。

そもそもなぜ顧客を絞るのでしょうか?理由は3つです。

✓ ターゲット顧客を絞る理由
  • リソースを集中するため
  • ニーズや顧客インサイトに応えるため
  • 競合を増やしすぎないため

ではそれぞれについて順番にご説明しますね。

リソースを集中するため


1つ目の理由は、どの顧客に自分たちは注力をして、それ以外の人や企業は向き合わないかを決めるためです。

持っているリソース、具体的には人・モノ・金・時間は有限です。自分たちが最も貢献できる顧客を選び、有限なリソースを集中投下します

ニーズや顧客インサイトに応えるため


ターゲット顧客を絞る2つ目の理由は、顧客の欲求に応えるためです。

全ての人や企業の要望を満たすことはできません。マーケティングの用語を使えば、顧客インサイト、ジョブ (片付けたい用事) 、顧客の不 (ペインポイント) 、ニーズの中で、どれを満たすかを決めます。

顧客にとって 「帯に短し襷に長し」 にならないような、その人にぴったりの商品・サービスにするためです

競合を増やしすぎないため


3つ目の理由は、競合の視点です。

ターゲット顧客を広げるとは、参入する市場が大きくなることを意味します。マーケットが大きくなればそれだけ競合他社も増えます。

ターゲット顧客を絞る1つ目と2つ目の意味につながり、競合が増えればリソースは足りなくなり、競合との顧客インサイトやニーズを応える戦いに勝ちきれなくなります

* * *

ではここからは、ターゲット顧客を絞る重要性を具体的な事例に当てはめます。コロコロコミックです。


 「うんこ・ちんちん原理主義」


IT media にコロコロコミックの編集長へのインタビュー記事がありました (2017年6月28日) 。

出版不況なのに、『コロコロコミック』が80万部も売れているヒミツ - ITmedia ビジネスオンライン

出典: ITmedia

インタビュー記事の冒頭で、「読者の小学生には “うんこ・ちんちん原理主義” で喜んでもらっている」 という話が出てきます。コロコロコミックの主な読者である小学生の男の子は 「うんこ」 と 「ちんちん」 を楽しんでいるという説明です。

以下はインタビュー記事からの引用で、ITmedia ビジネスオンラインの土肥記者と和田編集長とのやりとりです。

土肥:『コロコロ』の読者ターゲットは、小学4 ~ 6年生の男子なんですよね。この層は150万人ほどいるのに対し、雑誌の発行部数は80万部。つまり、2人に1人は読んでいる計算になるのですが、どういったところにチカラを入れているのでしょうか?

和田: 小学4 ~ 6年生の男の子は、女の子と比べて成長が遅いですよね。女の子は恋愛やオシャレなどに興味があるのに、男の子は漫画に 「うんこ」 や 「ちんちん」 が登場すると、ものすごく喜ぶ。時代が変わってもこうした傾向は同じで、編集部ではこのことを 「うんこ・ちんちん原理主義」 と呼んでいます。

 (中略)

土肥: なぜ小学生の男の子はこの2つが好きなのでしょうか?

和田: 学校に行くと、勉強が大変ですよね。塾に行くと、たくさんの宿題が出ますよね。このほかにも、子どもたちは友人関係や親子関係などで窮屈だなあと感じているのかもしれません。

そうした気持ちをどのようにしたらやわらげることができるのか。どのようにしたら開放的な気分にさせることができるのか。そのひとつに 「うんことちんちん」 があるのではないでしょうか。もちろん、漫画には感動的なシーンがあったり、戦うシーンなどがあったりしますが、うんこ・ちんちんを描くことで子どもたちは前向きになれると思うんですよね。

あえて上の年代に読者層を広げない



コロコロコミックの考え方で興味深いと思ったのは、読者層を絞り込んでいることです。あえて読者の平均年齢を上げないようにしています。

ターゲットとなる主な読者層を男子小学生に設定し、無理にその上の年代 (中学生や高校生) を狙わないという考え方です。

再びインタビュー記事からの引用です。

和田: 先ほどもご紹介したとおり、男の子はうんこやちんちんを楽しんでいる。なぜ楽しめるかというと、思春期に突入していないから。つまり、自我に目覚める前の段階で雑誌を読んでいる。

ただ、大人びた男の子は、恋愛やオシャレ、音楽などに興味を示し始めます。例えば、女の子に興味をもつと、『コロコロ』に掲載されている漫画を幼稚に感じるんですよね。

前月まで何度も繰り返して読んでいたはずなのに、今月は手にも取らない。昨日まで雑誌の中で夢を見ていたのに、急に目覚めてしまうような感覚ではないでしょうか。

 (中略)

ほとんどの男の子が離れます。そして中学生や高校生になると、『コロコロ』は最も遠い存在になるのではないでしょうか。

コロコロコミックのターゲット顧客設定の狙い



では、ここまで見てきたコロコロコミックの話を、この記事の冒頭にご紹介した 「ターゲット顧客を絞る3つの理由」 に当てはめてみましょう。

✓ ターゲット顧客を絞る理由 (再掲)
  • リソースを集中するため
  • ニーズや顧客インサイトに応えるため
  • 競合を増やしすぎないため

リソースを集中する


コロコロコミックのターゲット顧客 (読者) は小学4年 ~ 6年生です。

もし読者をさらに上の年代である中学生や高校生にまで広げてしまうと、リソースを集中投入できなくなります。中学生以上も楽しめる連載漫画が必要になります。

そのためには、新しい漫画を見つけ出し、全体の編集にも影響が出ます。やることが増えて、結果として1つ1つの連載漫画のクオリティが下がってしまうでしょう。

ニーズや顧客インサイトに応える


小学生と、中学生や高校生が漫画に求めることは違います。

コロコロコミックが原理主義とまで言っている 「うんこ」 や 「ちんちん」 に反応し、おもしろいと思い、そこからの解放感や前向きな気持ちになれるのは、思春期に入る前の男の子です。一方の中学生以上にとっては幼稚に見えてしまいます。

もし両方のニーズやインサイト、つまり小学生にも中学生にもおもしろい要素を無理やり入れるとどうなるでしょうか?

小学生と中学生のどちらにもおもしろさが欠ける中途半端な存在になってしまいます。

だからコロコロコミックは意図的に上の年代に読者層を広げず、小学生だけにターゲット読者を絞っているのです。

競合を増やしすぎない


中学生以降になると興味関心の領域が、それまでの小学生の時と比べて広がります。

勉強も受験のことが気になり始め、友人関係も広がります。恋愛も興味や悩みの種になります。他には本格的に部活動に打ち込む生徒もいます。

スマホでもネットの世界に日常的に関わるようになります。

この状況をマーケティングの文脈で捉えると、限られた処分時間の中で争う相手 (競合) が増えます。

こうした環境下でコロコロコミックにしかない魅力を中学生にも提供をし続けることは、小学生相手とは違った競合プレイヤーと争うことになってしまいます。


まとめ


今回はマーケティングでのターゲット顧客についてでした。

最後にまとめです。

ターゲット顧客を絞る理由
  • リソースを集中するため
  • ニーズや顧客インサイトに応えるため
  • 競合を増やしすぎないため

コロコロコミックのターゲット顧客と提供価値
  • 小学4 ~ 6年生の男の子。漫画に 「うんこ」 や 「ちんちん」 が登場するとものすごく喜ぶ
  • 友人関係や親子関係から解放され、前向きな気持ちになれる (読者への提供価値)

あえて上の年代に読者層を広げない理由
  • 中学生や高校生にまで広げるとリソースを集中投入できなくなり、1つ1つの連載漫画のクオリティが下がる
  • 小学生にも中学生にもおもしろい要素を入れると、全員がおもしろいと思えず中途半端な存在になってしまう
  • 中学生以降になると興味関心の領域が広がる。小学生に絞るのは競合プレイヤーを増やさないため

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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。