投稿日 2022/05/01

金の蔵の SANKO の 「三方良し」 。将来の価値提供を実現する布石の打ち方


今回のテーマは、将来への布石の打ち方です。未来に価値を生むために今から何をすればいいかです。

おもしろいと思った飲食店チェーンの取り組みをご紹介し、戦略の観点から学べることを見ていきます。

✓ この記事でわかること
  • 金の蔵の SANKO の 「三方良し」 の取り組み
  • 漁協との提携やスポンサーになることの本質とは?
  • 腰を据えて将来への布石を打つ方法

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

金の蔵の SANKO の取り組み


居酒屋チェーン 「金の蔵」 などを運営する SANKO MARKETING FOODS のユニークな取り組みが、日経新聞の記事で紹介されていました。

漁業共同組合との提携


以下は記事からの引用です。

新型コロナウイルスの影響を大きく受ける外食業界。居酒屋チェーン 「金の蔵」 などを運営する SANKO MARKETING FOODS は、新たな成長の柱として水産業に目を付けた。静岡・沼津の漁業協同組合と提携して物販と外食事業の商品力強化を進める。

取り巻く事業環境が依然として不透明な中、もとは 「人助け」 のつもりで手を出した第1次産業を、会社を支える事業に育てようとしている。

新型コロナ下の2020年9月、SANKO は、外食企業としては一風変わった相手と業務提携した。沼津漁港で古い歴史を持つ、沼津我入道 (がにゅうどう) 漁業協同組合 (静岡県沼津市) だ。

SANKO は営利企業であるのに対し、非営利団体である漁協との協業は、考え方や価値観の違いから苦労が多かったとのことです。

再び記事からの引用です。

 「営利企業である当社と、非営利団体である漁協はもともとの考え方からして違っていた」 (長沢社長) 。漁協に加入して戸惑うことも多かった。

営利企業であれば経済合理性を基に動くが、漁協は 「利益に関係なく近隣の漁協や農協などとの付き合いに参加する必要があったり、地元ならではの人付き合いもある」 (長沢社長) 。SANKO から派遣した社員は新たな取り組みで苦労したという。だが、「苦労してもらった分、得られた物は大きい」 (長沢社長) 。

その一つが水産物の物販事業だ。沼津で買い付けた鮮魚や加工品の販売を自社の電子商取引 (EC) サイトで始めたほか、21年3月には PR 事業などを行うパンクチュアル (高知県須崎市) と共同で、ふるさと納税用の返礼品生産に着手した。地方創生と自社の売り上げ確保を図っている。

マグロ卸企業のスポンサーに


漁協との提携は、次の取り組みに発展しました。

 「海商のスポンサーになってもらえないか」 

漁協という新たな世界で奮闘していた SANKO に、こんな話が舞い込んだのは21年のゴールデンウイークごろ。経営難に陥り民事再生手続き中のマグロ仲卸 (なかおろし) 企業、海商 (浜松市) の救済を頼まれたのだ。沼津での漁協との取り組みが注目されたことがきっかけだった。

 「自社の資金繰りも苦しい状況で、当初は買おうとは思ってなかった」 。長沢社長が振り返るように SANKO に買収のための資金的余裕はほとんどなかった。だが 「現地の飲食店から海商がなくなることを惜しむ声が大きかった」 (長沢社長) ことが決め手となり、事業譲受を決めた。

地元の飲食店に支持されるマグロの加工技術を持つ海商を手に入れたことは、事業者や消費者向けの物販の強化につながると見込む。長沢社長は 「漁業から店舗までの一連の流れを自社で担い、6次産業化を推進していく」 と意気込む。

今後、店舗で海商の技術を生かしたマグロの解体ショーも検討しているという。コロナ下では、目的を持って来店する顧客を得ることの重要性が高まっている。マグロ解体ショーは来店を訴求するコンテンツにもなるとの算段だ。

では、漁協との提携、そこから発展した魚の卸売企業のスポンサーになることの意味を掘り下げていきましょう。


提携やスポンサーになる意味


SANKO の取り組みには 「三方良し」 があります。自分たちの利益だけではなく、活動や事業継続に苦しんでいる人たちを救うという地域への貢献です。

同時に、他社との差異化につながる独自資産を手に入れています。独自資産とは、漁協との提携やマグロ卸企業のスポンサーになったことによる、食材の仕入れ先、独自商品、魚を扱うノウハウ、地元地域とのネットワークと信頼です。

漁業から店舗までの自社での6次産業化と、これらを活かした商品やサービスを生み出し、飲食店の来店客や EC サイト購入者への 「提供価値の源泉」 を獲得したわけです。


学べること


ここまで見てきた 「価値提供の源泉になる独自資産の構築」 は、一朝一夕にはできないことです。数年先を見据えての取り組みになります。

SANKO の事例から学べるのは、たとえ今は楽ではなく苦しい状況でも、目先の対応はもちろんしつつ、将来への布石を打つ重要性です。

SANKO は自社の資金繰りも苦しい状況で、買収のための資金的余裕はありませんでした。しかし、苦境にあるマグロ卸企業のスポンサーになる決断をしました。この判断は時間軸を長く取り、視野を広く大局的に捉えることでしかできません。

企業だけではなく個人のレベルにも当てはまります。例えば、自分が仕事で生み出している価値は何か、そして価値の源泉として何を持っていて、これから何を獲得していくか。キャリア形成で大切にしたい問いかけです。


まとめ


今回は SANKO MARKETING FOODS のユニークな取り組みをご紹介し、将来への布石として 「独自資産の構築」 というテーマで見てきました。

最後にまとめです。

提供価値の源泉
  • SANKO は漁協との提携、地元のマグロ卸企業のスポンサーになり独自資産を手に入れた
  • 独自資産とはお客さんに提供する他にはない価値の源泉 (差異化を実現できる理由) 

独自資産の構築という布石
  • 価値提供の源泉になる独自資産の構築は一朝一夕にはできない
  • たとえ今は苦しい状況でも、目先の対応をしつつ将来への布石を打つ
  • 時間軸を長く取り、視野を広く大局的に捉えることが大事


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。