投稿日 2022/05/10

ヤクルトのお店での商品棚ジャックに学ぶ、提案を通す方法


今回は提案を通す方法です。ある成功事例を取り上げて解説していきます。

おもしろいと思ったヤクルトの事例を取り上げ、販売やマーケティングに学べることを見ていきます。

✓ この記事でわかること
  • お店での商品棚の陳列を見直し、売上が増加したヤクルトの事例
  • 小売への提案が通った理由とは?
  • メーカーと小売の思惑のズレ
  • カスタマーサクセスで提案を通す方法

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

お店での商品棚の見直しで売上が増加


今回はおもしろいと思ったヤクルトの取り組みをご紹介します。

お店での棚割りをヤクルト商品で占有して売上を伸ばした事例です。

具体的には棚のそれぞれの段に分散していた商品の位置を変え、1 ~ 4段の全てでヤクルト商品で固めてジャックしました。

ヤクルトの商品を棚の左側にまとめて陳列 (ヤクルト以外の商品 (右側) はモザイクがかかっています) (出典: 日経

これくらい目立たせる棚作りはめずらしいです。

ではここから掘り下げていきたいのは、ヤクルトの商品で棚を占有するという提案がなぜ小売に通ったかです。


なぜヤクルトの提案が通ったのか?


結論から先に言うと、相手 (小売) のメリットを数字で明確に示して提案したからです。

ヤクルトはある実証実験を行っていました。

店舗での棚割りの実験で、コニカミノルタと共同で小売店舗の売場の天井にカメラを設置し、カメラで撮影した画像を AI で解析しました。データ化した購買者の属性、商品への接触、滞在時間などの棚前の行動を分析することによって、どこの棚のどの位置にどんな商品を置くと、どれだけ売上が変わるかを検証しました。

以下は、日経新聞の記事からの引用です。

棚の1カ所に固めて視認性を上げた結果、ヤクルト商品全体の売り上げが平均で 14% 伸長した。特に棚の最下段に置いた商品の購入回数が 20% と大きく伸長した。知名度不足で伸び悩んでいた乳酸菌飲料 「ヤクルトファイブ」 の売り上げも伸びた。

さらに、この実験で目を引くのがカテゴリー全体の売り上げが 16% 上がったことだ。ヤクルトの商品に使われる赤色が映えて、乳酸菌飲料カテゴリーに人が集まり、小売店にとってもウィンウィンの結果を打ち出せた。

この実験の結果から、ヤクルトは小売への提案で 「ヤクルトの商品を集めてコーナー化すると、乳酸菌飲料全体の売上が 16% 上がりました。御社でも取扱商品を増やしてみませんか」 とスーパーなどの小売に持ちかけたのです。

棚での視認性を上げれば売上が増えることは、経験則としてわかってはいたことです。これを数字で見せて説得力を上げたわけです。

ここで大事なのは、単に数字で示しただけではなく、相手 (小売) のウィンにつながる提案をしていることです。


メーカーと小売の思惑のズレ


一般的にメーカーと小売での商談の場では、両担当者には思惑のズレが生じやすいです。

メーカーの営業担当者は、自社商品を小売で取り扱ってもらい、できれば商品棚のなるべく良い位置に1つでも多く目立つように売って欲しいと考えます。

一方の小売のバイヤー (商品仕入れ担当者) は、自分が仕入れた商品によってお店の売上が増えることを望みます。自分が担当するカテゴリーの売上が上がることが大事で、商品レベルではなくカテゴリー全体を見ています。

もし、ある特定の商品がよく売れて、その商品はカテゴリー内では値段が安く高い値段の商品からお客さんが流れたとすると、メーカーにとっては自社商品が売れて望み通りでも、小売にとってはカテゴリー全体の売上が減るので、不都合な状況なわけです。

以上の文脈を踏まえると、今回のヤクルトの事例からは、ビジネスでの提案方法に学びがあります。


相手の成功を優先する提案


一言で表現をすれば、学びは 「相手の成功を先に優先する提案をしよう」 です。

ヤクルトの例に当てはめると、相手の成功とは、小売にとって乳酸菌飲料というカテゴリー全体の売上増加です。小売のバイヤーにとっては、自分が仕入れの責任を持っている担当カテゴリーにおいて、お店全体の売上アップにつながることです。

もちろんビジネスなので、ヤクルトにとっての成功 (ヤクルト商品の売上増) も必要です。大事なのは順番で、先に相手の成功があり、それが巡り巡って自分の成功に返ってくるという流れです。

これはカスタマーサクセスに通じる考え方で、ヤクルトの取り組みから学べる提案を通す方法です。


まとめ


今回はヤクルトの事例を取り上げ、販売やマーケティングの観点も入れて提案方法に学べることを見てきました。

最後にまとめです。

ヤクルトの提案 (カテゴリーマネジメント) 
  • 実証実験で、棚の1ヵ所にヤクルト商品を固めて視認性を上げた結果、ヤクルト商品だけではなくカテゴリー全体の売上が増加した
  • 実験結果から 「ヤクルトの商品を集めてコーナー化すると、乳酸菌飲料全体の売上が 16% 上がりました。御社でも取扱商品を増やしてみませんか」 と提案した

提案を通す方法
  • ヤクルトは単に数字で示しただけではなく、相手 (小売のバイヤー) の成功につながる提案をした
  • 順番が大事で、先に相手の成功があり、それが巡り巡って自分の成功として返ってくる
  • カスタマーサクセス的な相手の成功を先に優先する提案をしよう


ニュースレターのご紹介


マーケティングのニュースレターを配信しています。


気になる商品や新サービスのヒット理由がわかり、マーケティングや戦略を学べるレターです。

マーケティングのことがおもしろいと思えて、今日から活かせる学びを毎週お届けします。

レターの文字数はこのブログの 2 ~ 3 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。ブログの内容をいいなと思っていただいた方には、レターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。

こちらから無料の購読登録をしていただくと、マーケティングレターが週1回で届きます。もし違うなと感じたらすぐ解約いただいて OK です。ぜひレターも登録して読んでみてください!

最新記事

Podcast

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。