私の現在の Aqxis 代表以前のキャリアは、約5年5ヶ月 Google に勤務していました。
マーケティングの部署にいましたが、アメリカやヨーロッパ、アジアやオセアニアの各国のメンバーと一緒に仕事をする機会も多く、Google では働き方への考え方を見つめ直したり、今も影響していることがあります。
この記事では、Google や他にも Amazon から、私たちが学べて参考にできる 「働き方へのヒント」 をご紹介します。
ラーニングアニマル
Google が大切にする人財
How Google Works - 私たちの働き方とマネジメント という本で興味深かったことの1つが、「ラーニングアニマルであれ」 という指摘でした。
以下は本書からの引用です。
とびきり優秀な人でも、変化のジェットコースターを目の当たりにすると、もっと安全なメリーゴーランドを選ぼうとするケースはやまほどある。心臓が飛び出しそうな体験、つまり過酷な現実に直面するのを避けようとするのだ。
ヘンリー・フォードは 「人は学習を辞めたとき老いる。20歳の老人もいれば、80歳の若者もいる。学びつづける者は若さを失わない。人生で何よりすばらしいのは、自分の心の若さを保つことだ」 と言った。
グーグルが採用したいのは、ジェットコースターを選ぶタイプ、つまり学習を続ける人々だ。彼ら ”ラーニング・アニマル” は大きな変化に立ち向かい、それを楽しむ力を持っている。
ラーニングアニマルの特徴
自分のまわりを見てみると、あらためてラーニングアニマルだと思える人がいます。常に新しいことを学ぶ貪欲な姿勢があります。単に学ぶだけでは終わらず、学んだことを 「次」 に活かしているのが特徴です。
例えば、得られた情報や知識を実際の仕事での課題設定に使い、問題解決プロセスにも活用します。ここからまた新しい学びを得て、「学ぶ → 学習内容を活かす → 成果を出す → 学ぶ → … 」 、という小さなサイクルを早く回し続けています。また、時には過去に学んだことを捨てているんですよね。
身近にいるラーニングアニマルの人たちは、何を学ぶべきかの取捨選択の基準が明確になっているように見えます。自分の中で課題意識があり、そのアンテナに引っかかったものを深掘りしていきますが、途中で違うと感じたり、これ以上は掘り下げる必要はないと思えば、その時点で止めます。結果、広げすぎず、その時々で必要なことに絞って、学びを続けているのです。
さて、何かを学ぶということは、少なからず新しいことに挑戦していることでもあります。新しい挑戦には失敗はつきもので、チャレンジの度合いが大きいほど失敗も起こるでしょう。では失敗をどう捉え、どのように向き合えばいいのでしょうか?
失敗の捉え方
Google の 「良い失敗」
いきなりですが、失敗と聞いてどのようなイメージを持ちますか?
できれば起こしたくないもの、なるべく失敗はしたくないと考えるかもしれません。
Google は、失敗を 「良い失敗」 と 「悪い失敗」 に分けて捉えています。ワーク・スマート - チームとテクノロジーが 「できる」 を増やす という本に、詳しく書かれています。
引用すると、
自動運転技術やプロジェクトルーン (気球によるインターネット接続環境の提供プロジェクト) を手かげてきた X (旧 Google X) のリーダー、アストロ・テラーは 「よい失敗」 「悪い失敗」 という言葉を使っています。
プロジェクトの早い段階で失敗を見つけ、改善する。もしくは、成功の見込みがないと判断できる材料が集まれば中止する。小さく、早く、かつ次に活かせるのが良い失敗です。
一方、時間とお金を投入したあとで失敗が明らかになれば、組織の痛手が大きくなります。往々にしてプロジェクトを復活させることが難しくなり、次に活かせません。これが悪い失敗でしょう。
Google が考える良い失敗を整理すると、次の2つです。
✓ 良い失敗とは
- できるだけ早い段階で起こる失敗。小さな失敗
- 失敗から学びがある。学びを次に活かせる
Google の失敗の捉え方につながるのは、Amazon の意思決定の方法です。
Amazon の二種類の意思決定
別の本 ベゾス・レター - アマゾンに学ぶ14ヵ条の成長原則 では、Amazon 創業者であるジェフ・ベゾスの考え方を興味深く読めます。
成長原則の14ヶ条のうち、7つ目が 「決定は迅速に行う」 です。
ベゾスの解決策は、意思決定を2種類にはっきり分けることだった。
- 1型は、重大かつ後戻りのできない大きな決定。
- 2型は、変えることも取りやめることもできるもので、うまくいかなくてもこの世の終わりにはならないような決定。
ほとんどの失敗は致命傷になることはないし、取り消せないようなものでもない。だからベゾスは、社員に対して迅速な決断を促している。
Amazon の意思決定をもう少し補足をすると、次のように二種類に分けています。
✓ 1型の意思決定
- 重大かつ元には戻せない。一方通行のドアのようなもの
- ドアを一度通り抜けてしまえば、戻りたくても元の世界に戻ることはできない
- 組織全体で慎重に時間をかけて検討と協議を重ねる
✓ 2型の意思決定
- 変更することも元に戻すこともできる。往復可能なドア
- 2型の決定が最善でなければ、もう一度ドアを開けて元の世界に帰れる
- 決断力のある人や少人数のグループで意思決定をするとよい
- 組織が大きくなるにつれて、2型なのに1型の決定プロセスが適用されていく傾向がある
Amazon に学ぶ意思決定
2型の意思決定の4つ目にあったように、一見すると1型だと思える中には、2型が多く含まれていたりします。
2型であれば望ましいのは少人数で早く決断ができるのに、1型だと捉えてしまうと決定に手間と時間がかかります。次第にリスクを避ける気質が生まれ、行動に移せなくなります。
Amazon の二種類の意思決定から学べるのは、今から通ろうとしているドアは、一方通行なのか、それとも両面通行ドアで入っても戻れるのかを見極める重要性です。この意識を持ち、決める前に1つ判断を入れることによって、意思決定の質とスピードの両方を上げることができるのです。
Google と Amazon から学べること
Google の失敗の捉え方、Amazon の決断方法をご紹介してきました。
✓ Google の 「良い失敗」
- できるだけ早い段階で起こる小さな失敗
- 失敗から学びがあり、次に活かせる
✓ Amazon の二種類の決断
- 一度決めれば元に戻せない 「1型」 。慎重に決断する
- 決めた後もやり直しがきく 「2型」 。少人数で早く決める
Google と Amazon から併せて学べるのは、「1型に思えるものでも、小さく早く始めることでリスクを小さくできること」 です。決断をするのに慎重になりすぎて時間だけが経ってしまうよりは、試しに行動をしてしまうという考え方です。
ポイントは、Amazon の2型のように、試しにやってみて違ったら後戻りができる粒度にすることです。引き返せる範囲で小さな行動をやってみるといいです。大きな粒度で後戻りができない1型でも、小さくすれば両面通行ドアである2型にできます。
Think big, start small
志は大きく、スタートは小さく
Google には 「志は大きく、スタートは小さく (Think big, start small) 」 という考え方があります。理想とする大きな絵を描きつつ、最初の着手は小さな一歩を踏み出していきます。
この考え方が反映された例としては、完成度を高めてから製品をはじめてリリースするよりも、ベータ版で早くリリースし、ユーザーからフィードバックをもらい製品をより良くするアプローチです。
「志は大きく、スタートは小さく」 の小さく始める意図は、失敗を早めにすることにあります。先ほど見た 「良い失敗」 をするためです。
✓ 良い失敗とは
- できるだけ早い段階で起こる失敗。小さな失敗
- 失敗から学びがある。学びを次に活かせる
ただし、だからといって闇雲に失敗していいわけではありません。これが小さく始めることのもう1つの意図につながります。
アクセルを踏む判断
小さく始めると言っても、小さければなんでもいいわけではありません。「志を大きく」 につなげることが大事で、小さく始めるのは、描いた大きな絵 (志) を実現するための 「勝ち筋」 を見極めるためです。
失敗をしたとしても、それが 「志を大きく」 に活かされるのであれば良い失敗になります。失敗から学び、小さくやってみたことがうまくいけば、その後に全力でアクセルを踏みにいきます。
どのタイミングでどこにアクセルを踏むのかを見極めるのが、「小さく始める」 の位置付けです。いわば 「0 → 1」 で小さく始め、勝ち筋を見い出せたならば 「1 → 10 → 100」 とリソースを投入し、大きな志に向って一気にアクセルを踏み出していくのです。
プロジェクトマネジメント
Google のプロジェクトマネジメント
では最後のパートでご紹介したいのは、Google のプロジェクトマネジメントです。Google には経験則から導かれたプロジェクトへのリソース配分があり、次のように3つに分けます。
- コアビジネス: 70%
- 成長プロダクト: 20%
- 新規プロジェクト: 10%
先ほども取り上げた How Google Works - 私たちの働き方とマネジメント という本から見てみましょう。
2002年の時点で、グーグルはまだプロジェクトを重要な順に並べた 「トップ100リスト」 をもとに、リソースの配分やプロジェクトのポートフォリオを決めていた。
だが成長にともなって、このシンプルな仕組みではスケールすることが難しいという懸念が強まった。忌まわしき 「ノー」 の文化 (引用者注: 新しい挑戦に保守的になり No を言う社風) がじわじわと広がるのではないかという不安もあった。
そこである日の午後、セルゲイ (引用者注: Google の共同創業者) はトップ100リストを見直し、プロジェクトを三つのグループに振り分けた。
プロジェクトのほぼ 70% はコアビジネスである検索と検索連動型広告に関するもので、約 20% が成功の兆しが見えはじめた成長プロジェクト、残りの約 10% が失敗のリスクは高いが、成功すれば大きなリターンが見込めるまったく新しい取り組みだった。
それを叩き台に長い議論を重ねた結果、「70対20対10」 をリソース配分のルールにするという結論に達した。リソースの 70% をコアビジネスに、20% を成長プロダクトに、10% を新規プロジェクトに充てるのである。
やることの時間配分
Google のプロジェクトマネジメントから、やるとこの配分のヒントが得られます。
- 70% は今までやってきたメインの活動 [コアビジネス]
- 20% は少しずらした新しいこと (既存活動に関連するもの) [成長プロダクト]
- 10% は全く新しいこと [新規プロジェクト]
新しく何かをやることに、自分のリソースの 30% を使ってみます。例えば、自由に使える時間が1時間あるとしたら、20分弱が新しい行動です。さらに20分の中も2つに分け、全く新しい挑戦は3分の1くらいを当てます。
新しいことは、3割にとどめるという考え方は、リスクを少しずつとることでもあります。一気に大きなリスクはとらず、最大でも 30% 、最低でも 10% は新しいチャレンジに使うという方法です。
まとめ
今回は、Google に学ぶ、変化の激しい時代に生き残る働き方をご紹介しました。
最後にまとめです。
Google に学ぶ働き方
- Google が大切にする人財は 「ラーニングアニマル」 。変化をいとわず貪欲に学び続ける人
- Google が考える 「良い失敗」 は、早めの失敗で、次に活かせる学びがあること
- Amazon は意思決定を 「決めると後戻りができない1型」 と 「やり直しがきく2型」 で、決め方を分けている
- Think big, start small (志は大きく、スタートは小さく) 。小さく始めて勝ち筋を見出し、大きな志に向ってアクセルを踏む
- プロジェクトマネジメントは 70:20:10 に分ける。新しいことにはリソースの 10% ~ 30% はかけよう
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