#マーケティング #プロセスの可視化 #価値向上
お店に並ぶたくさんの商品の中で、お客さんの目を引き、思わず手に取ってもらうためには何が必要なのでしょうか?
商品そのものの魅力はもちろん大切ですが、実は 「見せ方」 ひとつで、お客さんが感じる価値は大きく変わります。
今回は、食品スーパーの東急ストアが三軒茶屋店で取り組んでいる総菜売り場の事例を取り上げます。商品を変えずに価値を高める 「見せ方の工夫」 と、マーケティングの本質について考えていきます。
調理プロセスを魅せる東急ストア
東急ストアが、総菜売り場を店舗の目玉とすべく、三軒茶屋店 (東京・世田谷) でユニークな取り組みを始めています。
総菜売り場に大きなガラス張りの厨房を新設し、鉄板やピザ専用窯を導入。調理風景を来店客から見えるようにしました。総菜の商品数も改装前と比較して約30品目増やし、店舗の魅力向上と売上増を目指しています。
背景には、競争が激しくなるスーパー業界において、商品を並べるだけでは来店客の支持を得続けるのが難しくなってきたという問題意識があったことでしょう。
ただ安売りをしてのお得感を打ち出すのではなく、消費者の買い物体験を高めるため、東急ストアは 「ライブ感」 や 「できたて感」 といった付加価値でお客さんに来店してもらうことを狙っています。
では、東急ストアの事例から学べることを掘り下げていきましょう。
商品そのものは変えられなくても、見せ方によってお客さんが受け取る、感じられる価値を高めるという観点で学びが得られます。
見せ方で価値を高める
東急ストアの事例が教えてくれるのは、商品そのものの中身だけでなく、商品をどのようにお客さんに提示するか、つまり 「見せ方」 も重要になるということです。
見せ方を変えることで、お客さんが感じる価値は大きく変わります。
主張を裏付ける 「根拠の可視化」
お客さんに 「うちの総菜はおいしいですよ」 とただ伝えるだけでは、そう簡単には相手の心には響きません。なぜおいしいのかの根拠を示すことが信頼につながります。
東急ストアは、実際の調理風景によって根拠を可視化していると捉えることができます。
大きなガラス張りの厨房で、目の前で調理が行われている様子は、来店客に 「手作りであること」 や 「できたてであること」 をダイレクトに伝えます。どんな食材が使われ、どのように衛生的に調理されているのかがわかるライブ感と透明性は、消費者の 「安心感」 と 「信頼感」 につながります。
五感を刺激する 「できたて感」 と 「おいしさ」 への期待も上がることでしょう。
すぐ目の前の鉄板で、海鮮塩焼きそば、だし巻きたまごなどがジュージューと音を立てて焼き上げられる光景、ピザ窯から漂う香ばしい香りなどのライブ感あふれる見せ方は、お客さんの視覚、聴覚、嗅覚を刺激し、できたてのおいしさへの期待感を高めます。
プロセスがお客さんへのエンタメ体験に
調理風景を公開することは、情報を視覚的に伝えるとともに、買い物体験そのものを豊かにするエンタメにもなり得ます。
調理スタッフの手際よく調理が進む様子や、職人技ともいえる魚のさばき方などを見るのは、来店客にとって楽しい体験です。東急ストアは、実際に人が作っているところをエンタメとして見せることにより 、スーパーにわざわざ来店する楽しさがある場所へと店舗の価値を高めようとしているのです。
「人」 を魅せる
お店での調理風景を見せることは、間接的に調理スタッフという人を魅せることにもつながります。
サービス業では 「誰にやってもらうか」 が重要になりますが、スーパーの食品や惣菜商品においても、作り手の顔や真剣な眼差しが見えることは、商品への信頼や愛着を深めます。
「見せ方」 が生み出す二階建ての価値
東急ストア三軒茶屋店の総菜売り場における見せ方の工夫は、お客さんが感じる価値を 「二階建て構造」 として捉えると示唆があります。
二階建ての価値構造
商品の顧客価値を俯瞰して構造化すると、次のような 「二階建ての価値構造」 になります。
- 一階: 土台となる基本的な価値
- 二階: 付加価値
東急ストアの事例を当てはめてみましょう。
[一階の価値] 総菜のおいしさ
一階部分にあたるのは、調理済食品や総菜のおいしさです。
お客さんが総菜を選ぶ上で基本的かつ重要な価値です。たとえどんなに見せ方が魅力的でも、おいしさという肝心の味が伴わなければ、お客さんからの満足は得られず、リピート購入にもつながりません。
東急ストアも、この土台となるおいしさを追求しているはずで、店内調理による出来立て感や、豊富な品揃えによって、まず総菜としての基本的な期待に応えようとしています。
[二階の価値] 見せることで生まれる安心感・親近感・エンタメ性
今回の東急ストアの取り組みがおもしろいと思うのは、一階のおいしさという基本価値の上に、調理プロセスを見せることによって、複数の魅力的な 「付加価値」 を二階部分に築き上げている点です。
1つ目は、作っている人がわかる 「安心感」 です。
ガラス張りの厨房で調理風景を公開することは、誰がどのように作っているのかを来店客自身の目で確認でき、安心感につながります。食材の扱い方や衛生管理の様子も垣間見えることで、食の安全に対する信頼感が増すことでしょう。
2つ目は作り手への 「親近感」 の醸成です。
調理スタッフの顔が見え、一所懸命に総菜を作っている姿に触れると、お客さんは商品に対して温かみや親近感を抱きます。工場で作られた商品ではなく 「あの人が作ってくれたもの」 という感覚は、商品への愛着を育みます。
3つ目の付加価値はライブ感あふれる 「エンタメ性」 です。
鉄板で食欲をそそる音と香りがする焼きそばが作られたり、ピザ窯で本格的なピザが焼き上げられたりする光景は、ライブキッチンそのものです。買い物という行為にエンタメ性を加え、来店客にとって楽しい体験をもたらします。調理の音や香り、活気ある雰囲気は、買い物のワクワク感を高めます。
このように、東急ストアは総菜のおいしさという基本的な価値を押さえた上で、調理プロセスを見せるというアプローチによって、安心感、親近感、エンタメ性といった付加価値を積み上げているわけです。
マーケティングで価値を高める
東急ストアの事例は、マーケティングの本質を体現していると言えます。
あらためてマーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 です。活動全般と言っているように、マーケティングを広く捉えています。
お客さんに選ばれるとは、商品を買ってもらえる、使ってもらえる、来店してくれる、指名されることです。
お客さんからの 「選ばれる理由」 をつくり、商品やサービスがお客さんから選ばれ続けることによって、商品は生き残っていけます。ひいては自分たちのビジネスも存続できます。
東急ストアのガラス張りの厨房やライブ感のある調理は、お客さんの足を止め、総菜を選んでもらうための理由となります。総菜という商品に対して、調理プロセスを見せるという工夫によって、お客さんに安心感やできたてのおいしさへの期待、楽しさといった付加価値を感じてもらうことを狙います。
お客さんから自分たちが選ばれるのを偶然に頼るのではなく、自社商品やサービスが意図的に選ばれる確率を高めるのがマーケティングの役割です。
東急ストアの事例は、商品力に加えて 「見せ方」 を工夫することの重要性、いかにお客さんの心をつかみ、「選ばれる理由」 となるのかを教えてくれます。
まとめ
今回は、東急ストアの事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 商品そのものを大きく変えなくても見せ方を工夫することにより、お客さんが感じる安心感や期待感、楽しさといった体験価値を高められる
- 製造プロセスやサービスの提供過程をお客さんに見せることは、信頼性の向上やエンタメ性の付与といった付加価値を生み出す手段になる
- お客さんに提供する価値は、商品やサービスが持つ基本的な 「一階の価値」 (例: おいしさ, 機能性) と、派生する体験や感情的な満足などの 「二階の価値」 (例: 安心感, 楽しさ) の二段階で考えると、より豊かな価値設計になる
- マーケティングの本質は、お客さんに自社の商品やサービスが 「選ばれる理由」 を意図的につくり出すこと。選択の確率を高めるための一連の活動がマーケティング
- 見せ方の工夫によって基本価値に付加価値を上乗せすることは、お客さんからの 「選ばれる理由」 を強化する
マーケティングレターのご紹介
マーケティングのニュースレターを配信しています。
気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。
マーケティングのことがおもしろいと思えて、すぐに活かせる学びを毎週お届けします。レターの文字数はこのブログの 3 ~ 4 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。
ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。
こちらから登録して、ぜひレターも読んでみてください!

