#マーケティング #価値創出 #弱みを強みに
カキの養殖場に流れ着くたびに廃棄されていた海藻が、300 g で 1,480 円という高級な塩として人気を集めています。
今回は、島根県・隠岐の島で生まれた 「わかめ昆布塩 KURO」 の事例から、弱みを強みに変えるプロセスを一緒に読み解いていきましょう。
わかめ昆布塩 KURO
出典: 隠岐の島オンライン
取り上げるのは 「わかめ昆布塩 KURO」 です。
実は原料の仕入れコストがほぼゼロで、しかもその原料は、これまで誰にも見向きもされず、捨てられ続けていたもの、というのがおもしろいんです。
原料は捨てられていた 「アラメ」
隠岐 (おき) 諸島ではカキの養殖が盛んで、養殖場にはアラメという海藻がよく漂着します。アラメは昆布の仲間で、ミネラルや食物繊維が豊富な 「スーパーフード」 とも呼ばれる海藻です。
しかしこれまでは、漂流してきたもので、処理にも手間がかかるという理由で、捨てるしかない存在でした。
そんなアラメを活かそうと動いたのが、隠岐の島振興協会です。「アラメは鮮度がよく栄養価も高いので、何かに活用できないか」 という発想から開発がスタートしました。
価値を見出す視点さえ持てば、今までは廃棄物だったものが、実は宝になる。今回の事例はそのことを教えてくれます。
商品化への道のりはシンプルではなかった
アラメはぬめりが多く、下処理に手間がかかります。
漂流してきたアラメは状態も付着物も一定ではなく、そのままでは商品原料として使えません。「いつかできたらいいな」 という気持ちだけでは、ここで活用を諦めてしまうところです。
そこで隠岐の島振興協会は 2023 年に愛知県の自動車部品メーカーと共同で、水中で微細な泡を発生させる装置 「鮮魚用バブルジェネレータ」 を開発しました。バブルジェネレータでアラメのぬめりを除去しながら、同時にだしを引き出すことに成功したのです。
そのだしが溶け込んだ海水から塩を精製したのが、「わかめ昆布塩 KURO」 です。
黒っぽい見た目から KURO と名づけられたこの塩は、後味に旨味が残る独特のおいしさがあります。島根県海士 (あま) 町のお土産店では 「海藻のだしがきいていておいしい」 という声が寄せられ、わかめ昆布塩 KURO は一度に 20 個まとめ買いするお客さんも現れるほどの人気商品になりました。
弱みを強みに変える 3 つのステップ
わかめ昆布塩 KURO の事例の本質は、欠点をなかったことにするのではなく、商品の特性を再解釈して顧客価値に変えたことにあります。
弱みと正面から向き合い、新しい意味を与え直し、強みに転換する。そのプロセスを 3 つのステップで読み解いてみましょう。
[ステップ 1] 弱みを 「事実」 として捉える
最初にすべきことは、商品が持つ弱みを感情的に否定せず、客観的な事実として受け入れることです。「うちにはこんな弱みがある、だからダメだ」 という判断を一度横に置いて、まずは事実を並べることから始めます。
今回のわかめ昆布塩 KURO の事例で整理すると、事実はこうなります。
- アラメは養殖場への漂着物として現れる → 廃棄物として扱われやすい
- ぬめりが多く下処理が大変 → そのままでは商品化しづらい
- 見た目が黒っぽい → 食品としておいしそうと思われにくい
- 商品の値段が高くなる → 簡単に手にとってもらえない
こう並べると弱みだらけに見えます。
しかしここで大切なのは、事実に対して感情的な評価を加えないことです。「だからダメだ」 と判断してしまうのではなく、「この事実をどう解釈できるか」 を次のステップで考えるのです。
事実は事実であり、そこに意味を与えるのは人間の側です。
[ステップ 2] 事実を 「強み」 に変える解釈を見つける
欠点を別の意味に置き換えるというのが、弱みを強みに転換するためのポイントです。
同じ事実でも、どこから光を当てるかによって、まったく違うものに見えてきます。事実を、別の視点から解釈し直してみましょう。
■ 漂着物 → 海が運んだ地域の恵み
自然に漂着した物という見方から、「海の環境が生み、島に運んできた恵み」 という存在に変えます。
これまで捨てていた未活用の資源を活かすという考え方は、再利用や循環を重視する価値観と噛み合います。廃棄物がそのまま地域資源へと意味を変え、商品の背景にあるストーリーとして語れる強みになるのです。
■ ぬめり → 旨味の源泉
ぬめりは扱いづらいというイメージを持たれますが、視点を変えれば成分が濃いことの表れでもあります。
今回の事例では、ぬめり除去という課題に対して専用装置を開発したことにより、結果としてだしが取れる海水を生み出しています。
弱みに正面から向き合い、技術で乗り越えたことが、他社には簡単に真似できない強みになりました。課題を回避するのではなく、向き合うことで生まれる強みがあります。
■ 黒い見た目 → 記憶に残る個性
KURO というネーミングも含め、黒っぽい見た目はむしろ 「他にない見た目」 として独自性を生みます。
隠岐の島の土産としての物語性、ギフトにもなる利便性と話題性、手に取った瞬間に 「これは何?」 と思わせ、ありきたりな海塩にはない、強いメッセージとオリジナリティにつながります。
弱みだと思っていた見た目が、むしろ選ばれる理由になっているわけです。
■ 高価格 → プレミアムの正当性
わかめ昆布塩 KURO は 300g で 1,480 円なので塩として見ると高いですが、旨味を足す調味素材として位置づけると話が変わります。
だしの味がある、旨味がある、使うといつもの料理が変わると捉え直すと、弱みだったことは選ばれる理由に転換します。比べる軸を変えることによって、同じ価格がまったく異なる意味を持つのです。
[ステップ 3] 解釈を価値だと感じる人に届ける
強みを見出せたら、最後は 「その強みを誰が価値として受け取るか」 を定めて、提案を届けます。
強みはすべての人に刺さる必要はなく、本当に刺さる相手に届けば十分です。逆に言えば、刺さる相手を定めないまま発信しても、強みは強みとして伝わりません。
この商品の強みを価値として受け取りやすいのは、たとえばこのような人たちです。
- 旅先でちょっといい土産を探している人
- 料理好き・食通で、塩を味を決めるものと捉えている人
- 地域の背景ストーリーも含めて購入を決める人
- 循環型の価値観に共感し、納得して高価格を受け入れられる人
- めずらしい贈り物を探しているギフト用途の人
そしてこの事例では、「いい塩です」 という特徴の紹介にとどまらず、だしの旨味、ゆで卵やおにぎりへの具体的な使い方、島の物語といった形で、わかめ昆布塩 KURO の価値のイメージを生活者の体験と結びつけて伝えています。
強みの提案は特徴の紹介で終わらせず、その強みが自分の生活をどう変えるかまで落とし込んで、初めてお客さんの心に届く提案になるのです。
弱みを隠そうとせず、再解釈する
捨てられていた漂着物が海の恵み、扱いづらいぬめりが旨味の源泉、黒い見た目が記憶に残る個性。
事実はひとつかもしれません。しかし解釈は複数あります。
弱みと向き合い、新しい意味を与え直すことで、強みは生まれます。弱みを隠したり、なかったことにしようとしたりするのではなく、この事実を別の角度から見るとどうなるかを問い続けることが、独自の強みをつくる出発点になります。
自社の商品やサービスに弱みだと思っていることがあれば、もう一度この 3 つのステップで見直してみてください。あなたが弱みと思っていたことが、誰かにとっての強い選ぶ理由になります。
まとめ
島根県隠岐の島で生まれた 「わかめ昆布塩 KURO」 の事例を取り上げました。
学びとして弱みを強みに変えるポイントをまとめておきます。
- 弱みを感情的に否定せず、まずは客観的な事実として受け止める
- 同じ事実でも解釈を変えることにより、弱みは独自の強みに変わる可能性を持つ
- 弱みに正面から向き合い、技術や工夫で乗り越えることが、他社には真似できない差異化につながる
- 強みは万人に届ける必要はなく、その価値を本当に感じてくれる相手を見つけ届けることが重要
- 商品の特徴を紹介するだけでなく、顧客の生活体験をどう変えるかまでを提案する

