#マーケティング #ビジネスモデル #顧客起点
農協の厳しい規格に合わない野菜、販路のない小規模農家、価格決定権のない生産者。
日本の農業流通には、長年対処されていない課題があります。そんな中、「農家ファースト」 を徹底した産直プラットフォームの 「わくわく広場」 が、静かに、しかし確実に日本の農業を変えつつあります。
今回は、わくわく広場のビジネスモデルを紐解きます。
わくわく広場
出典: わくわく広場
日本橋三越のコレド室町、ららぽーと、イオンモールなど、都心の一等地から郊外の大型商業施設まで、今急拡大している産直市場が 「わくわく広場」 です。
わくわく広場を運営するのはタカヨシホールディングス (社長: 黒田俊也) です。全国約 190 店舗を展開し、流通総額は 260 億円を突破。登録生産者数は 3 万 3000 件を超えます。
わくわく広場では 「今日来てまだ野菜があったのに、明日来たらない」 という毎日変わる品揃えが魅力です。
店内には、葉付きの大根、イタリア野菜のラディッキオ、菊芋、雲仙こぶ高菜など、一般的なスーパーでは見かけない珍しい野菜が並びます。他には、養鶏場が作るこだわりの卵弁当、地元スーパーの揚げ物など、野菜以外の商品も充実しています。
わくわく広場のユニークさは、野菜やお肉、惣菜などの商品をわくわく広場に持ち込む生産者にとっての参入の容易さにあります。
生産者登録は Web で 5 分、初期費用はわずか 660 円です。農家などの生産者は好きな時に商品を持ち込み、価格も自分で決められます。わくわく広場の 「農家ファースト」 の姿勢が、従来の農協中心の流通に風穴を開けているのです。
わくわく広場のビジネスモデル
では、わくわく広場はどのようなビジネスモデルで、生産者と消費者の両方に価値を提供しているのでしょうか。
ビジネスモデルの 5 つの要素から順に見ていきましょう。
- 注力顧客
- 競合
- 顧客価値
- 事業能力
- 収益モデル
まずは、わくわく広場の 「注力顧客」 からです。
注力顧客
わくわく広場は、ツーサイドマーケットと言われる典型的な二面市場のプラットフォームビジネスです。一方に生産者 (農家や食品事業者) 、もう一方に消費者がいます。
■ 生産者
- 農協の厳しい規格に合わない野菜を作る農家
- 販路開拓に苦労する小規模農家や新規就農者
- こだわりの栽培方法で差別化したい生産者
- 自社商品を一等地で販売したい食品事業者
ある農園が 「これまでは農協に 100% 出していたものを、わくわく広場にほぼ全て切り替えた」 と語ったように、既存の販路に課題を抱えている生産者が主要顧客です。
一方の消費者側も見てみると、次のような顧客像が浮かび上がります。
■ 消費者
- スーパーにはない珍しい野菜を求める層
- 新鮮な産直野菜を手軽に買いたい都心住民
- 「毎日変わる品揃え」 を楽しめる顧客
注目したいのは、わくわく広場は消費者よりも、まず生産者側を主たる顧客として設計している点です。ここにわくわく広場の顧客設定の本質が表れています。
競合
わくわく広場の競合は、注力顧客である生産者と消費者に分け、それぞれの競合は何かを考える必要があります。
生産者にとっての競合
最大の競合は農協 (JA) です。
次に道の駅です。わくわく広場の黒田社長は 「道の駅はその地域の商品を限定してメインで扱うが、うちは全国の生産者がどこの店に出してもいい」 と違いを説明しています。道の駅は地域限定、わくわく広場は全国ネットワークという差異化です。
さらにネット販売 (楽天や食べチョク等) も競合ですが、「わくわく広場と出会えて、楽天も前年比何 10 倍の売上になった」 という声もあり、わくわく広場はむしろ相乗効果を生んでいます。
消費者にとっての競合
では消費者にとっての競合 (わくわく広場以外の食料品の選択肢) も整理しておきましょう。
興味深いのは、わくわく広場に来る消費者は、スーパーのことを必ずしも競合と見なしていない点です。「お肉、お魚は全部スーパーで買って、野菜はこっち (わくわく広場) 」 という消費者の声が象徴的です。
わくわく広場は 「大根がない日もある。足りない分はお隣のスーパーで買っていただければ」 という認識で、スーパーとは完全に補完関係として捉えています。実際、スーパーのすぐ隣にわくわく広場が出店するケースも少なくありません。
スーパーとの補完戦略が成立するのは、「葉付き大根」 「珍しいイタリア野菜」 など、スーパーでは扱わない商品も置いているからです。
顧客価値
顧客価値についても、生産者と消費者に分けて見ていきましょう。
生産者への価値
わくわく広場が生産者に提供する独自価値は、参入の容易さと一等地での販売機会の組み合わせです。
参入障壁の低さが際立ちます。
- 初期費用: 通常は無料 (出品時に売場で着用する帽子を購入する必要がある場合は実費として 660 円が初期費用となる)
- 登録: Web で 5 分程度
- 出品ノルマ: なし
- 価格決定権: 生産者が自由に設定
- 出品タイミング: 好きな時に持ち込める
家庭菜園で作ったものも出せるくらいの手軽さです。
この手軽さで得られるのが、わくわく広場が出店している一等地の商業施設での販売機会です。ある養鶏場は 「東京都内の一等地で自分の弁当を販売できるのは、一個人としては難しい」 と語ります。
日本橋三越のコレド室町、ららぽーと、イオンモールなど、通常なら出店できない場所で商品を売れることが、生産者にとって他にはないわくわく広場の価値です。
さらに 「ファンとしてうちの野菜を待ってくれている人がいる。ブランディングができている」 という声も重要です。わくわく広場は、自社のファンをつくれる場になっています。
消費者への価値
わくわく広場は消費者にも独自の価値をもたらします。
- 品揃えの多様性: 「初めて見ました」 という珍しい野菜
- 新鮮さ: 産地直送の野菜
- 毎日変わる楽しさ: 予測できない品揃えのワクワク感
- 個性的な弁当: 生産者のこだわりが詰まった商品
「わくわく広場、おもしろいです。こんなのもある」 というお客さんの声が、わくわく広場のエンタメ性を表します。子どもが 「野菜好きになった」 というのも、スーパーにはないわくわく広場の体験価値です。
事業能力
わくわく広場の顧客価値を支える事業能力は、テクノロジーと人の両輪、そしてそれをつなぐ物流システムで構成されています。
リソース (資源)
わくわく広場の価値の源泉となるリソースは次のようなものです。
- 店舗ネットワーク: 全国約 190 店舗
- データシステム: 全店舗のリアルタイム販売状況を監視し、データから最適な商品分配を自動計算し提示
- 物流センター: 生産者が持ち込めば 50 ~ 60 店舗に配送代行が可能
- 営業部隊: 40 ~ 50 名の専門スタッフが農家を訪問
- 登録生産者: 3 万 3000 件という圧倒的な数
仕組み (オペレーション)
こうしたリソースを活用するわくわく広場の仕組みのひとつめが簡単登録システムです。Web 上で 5 分で完結し、生産者の負担を最小化します。
次に物流代行の仕組みもあります。千葉の物流センターに野菜を持ち込むだけで、わくわく広場側が各店舗への分配と配送を担当してくれます。
データ分析による最適配分も重要です。「1 時間当たりの売上合計を見て、この立地ならこの時間にもっと動いていなければいけないのに足りないとなると、生産者が偏っている」 といった分析を日常的に実施し、過去のデータから 「最も売れ残りが少ない商品分配」 を自動計算します。
他には、生産者への営業活動です。「食べて美味しかったから声をかける」 という地道な活動が、質の高い生産者獲得につながります。
さらに生産者へのリアルタイム情報提供も機能しています。スマホに配信される売れ行き情報を見て、生産者たちは売場によって商品を変えています。わくわく広場からのフィードバックが、生産者の工夫を促し、品揃えの多様化を生み出します。
収益モデル
わくわく広場の収益モデルは、シンプルかつリスクの低い設計が特徴的です。
- 売上の 25% を手数料として徴収
- 初期費用は基本無料
- 年会費なし、出店料なし
わくわく広場の収益モデルの特徴は、在庫リスクを一切負わない点です。わくわく広場は商品を仕入れるというよりも、生産者が持ち込んだものを売り、売れた分の 25% を手数料として受け取るだけです。
仕入れ型のスーパーと比較すると、リスクの低さがよくわかります。
- スーパー: 商品を仕入れる → 売れ残りリスクを負う → 廃棄ロス
- わくわく広場: 委託販売 → 売れた分だけ手数料を徴収 → 在庫を生まない
人件費の低さもわくわく広場の特徴です。生産者が自分で商品を持ち込み、陳列するため、わくわく広場側の人件費は最小限に収まります。
そして売れ残りの社会貢献活用も、コストを価値に転換する仕組みがわくわく広場にはあります。陳列期間を過ぎた野菜を 「子ども食堂」 に無償提供することで、廃棄コストを社会的評価に変えているのです。
わくわく広場のおもしろさ
わくわく広場のビジネスモデルの出発点は、徹底的に生産者の課題 (ペイン) 起点で設計されていることです。
農協の厳格な規格、販路開拓の困難さ、価格決定権の欠如。こうした生産者の痛みを一つ一つ解決した結果が、「参入障壁ゼロ」 かつ 「一等地での販売機会」 という独自価値をつくり出しました。
そして消費者には、その結果として 「多様で新鮮な野菜と出会える」 という顧客価値を提供しています。
生産者が増えれば品揃えが豊富になり、顧客満足度が上がります。お客さんが増えれば生産者の売上が上がり、さらに生産者が集まるという好循環が起こります。
「農家が使いやすい、徹底的に農家目線の産直市場にしよう」 という決意が、わくわく広場の全ての起点になりました。一貫した顧客設定が、ビジネスモデル全体に一本の筋を通しています。
まとめ
今回は、「わくわく広場」 を取り上げ、ビジネスモデルを考察しました。
学びのポイントをまとめておきます。
- 二面性のプラットフォームビジネスでは、どちらの顧客をまずは主とするかの設計が成否を分ける。わくわく広場は 「生産者ファースト」 をとった
- 競合は必ずしも同じカテゴリーとは限らない。顧客の行動や心理を正しく見極めれば、競合 (今回の場合はスーパーマーケット) とも共存できる
- 顧客価値は、お客さんの解決したい問題を一つ一つ解決した先に生まれる。課題に真摯に向き合った結果が、独自の顧客価値を生む
- 競合にはない顧客価値を事業能力によって注力顧客に提供し、その対価として得る収益モデルがあることでビジネスモデルは完成する
