#マーケティング #選ばれる理由 #価値創出

2016 年にリリースされた位置情報ゲーム 「ポケモン GO」 。

ポケモン GO は、現実の街中でポケモンを捕まえられるという新しい体験をもたらしました。

累計ダウンロード数は 10 億を超え、約 10 年たった今も新規ユーザーや復帰ユーザーが出入りしながらサービスが続いています。

出典: ポケモン GO

なぜポケモン GO は長く親しまれ続けているのか。マーケティングの 5 つのステップに当てはめながら、その理由を見ていきます。

マーケティングとは 「選ばれる理由をつくること」 

マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 です。マーケターの役割は、お客さんのことを深く知り、自社の強みを理解し、その 2 つを結びつけることにあります。

この活動を 5 つのステップに分解すると、「知ってもらう → 思い出してもらう → 使ってもらう → 使い続けてもらう → 広めてもらう」 となります。

ポケモン GO はこの 5 つをどう実践しているのか、一つひとつ見ていきましょう。

[ステップ 1] 知ってもらう

マーケティングの最初の一歩は、商品やサービスの存在をお客さんに知ってもらうことです。

ポケモン GO の場合、「現実世界でポケモンを捕まえられる」 という一言が独自の価値を言語化していました。公園に大勢の人が集まる光景そのものが話題となり、ニュースや SNS を通じて一気に広まりました。AR (拡張現実) ゲームという新しい体験自体が、ポケモン GO のことを知ってもらう仕組みとして機能していたわけです。

ただ見落としたくないのは、「知ってもらう」 を一度きりのローンチで終わらせなかった点です。

大規模リアルイベント 「Pokémon GO Fest」 を世界各地で開催して話題をつくり直し、2026 年の東京開催では都市や自治体まで巻き込んで発見される機会を増やしています。

ここで注目したいのが、自社の強みの翻訳です。

ポケモン GO の強みは 「現実の街が舞台になる」 という独自性にあります。この独自性を、観光体験、親子のお出かけ先、地域活性化の手段など、文脈ごとに翻訳し直しています。同じ強みを届ける相手に合わせて言い換え続けるからこそ、生活者の目に触れ続ける場所に存在し続けられているのです。

[ステップ 2] 思い出してもらう

知ってもらった後に大事なのは、ニーズが生まれた瞬間にその商品が頭に浮かぶかどうかです。

ポケモン GO がうまいのは、思い出してもらうという想起の入口を 「ゲームの外側」 にたくさん持っていることです。「散歩しよう」 「運動不足を解消したい」 「休日どこか出かけたい」 「子どもと楽しめる体験がほしい」 など、どれもゲームの文脈ではなく、日常の中で生まれるシチュエーションです。ポケモン GO はこうした多様な文脈のどれにも入り込める設計になっています。

こうした想起は既存ユーザーの中だけで起きていません。

ポケモン GO の開発・運営を手がけるナイアンティックは 「新規・離脱・復帰が緩やかに出入りしている」 と語ります (参考情報) 。ライフステージや気分の変化に合わせて、想起が再び点火されているということです。子どもが大きくなったから一緒にやってみよう、新しい街を歩きたいから再開しよう、といった具合です。

さらに定期的な GO Fest がニュースになることで、「ポケモン GO はまだあるんだ」 と再認識する人も出てきます。想起のしやすさを、イベントの力で押し上げています。

[ステップ 3] 使ってもらう

ポケモン GO は使ってもらうための行動において、特別な決断にしない工夫に長けています。

無料でダウンロードでき、スマートフォンさえあれば始められます。通勤や散歩のついでに起動でき、ポケモンが現れたら指でボールを投げるだけ。このシンプルさが 「やってみよう」 という気持ちを後押します。

ポケモン GO のイベントでも、限定ポケモンや孵化ミッションなどの今しかできない体験で行動の理由をつくっています。

2026 年の東京開催では、4 拠点に加え東京都内全域を対象に会場を広げました。人の集まりや流れを分散させつつ街を歩く選択肢を増やし、行動の総量そのものを広げる設計です。運営側も、混雑エリアのゲーム内調整や現地スタッフ配置によって、ポケモン GO を楽しめるよう配慮しました。

ポケモン GO が優れているのは、遊び始めてユーザー価値を実感できる瞬間がすぐに来るという点です。

アプリを開いた瞬間に近所の道が探索ルートになり、ポケモンのいる場所へ向かって歩くこと自体が目的になり、発見と収集がその場で起きます。難しい準備なしに、使い始めた瞬間から街が舞台になるという体験が生まれます。

リアルイベントでは運営側が体験の質を守り続けています。

イベント 1 週間以上前から米国のエンジニアチームが現地入りしてテストプレーを重ね、期間中もリアルタイムでモニタリング。混雑エリアではバトルの出現頻度を調整するなど、ゲームデザインとリアル運営を柔軟に組み合わせています。ユーザーには見えないこうした運用が、楽しかったという体験の質を支えています。

[ステップ 4] 使い続けてもらう

ポケモン GO の継続設計の特徴は、日常と非日常の往復構造にあります。

散歩や通勤のついでに起動できる日常の手軽さと、イベントの GO Fest で味わえる非日常の特別な体験は、非日常で上がった熱量が日常にも余韻を残すので、日常生活の中でアプリが起動されることが期待できます。この往復があるから捕まえるだけの単調さに陥りにくいわけです。

世代を超えた循環も生まれています。例えば、リリース当時に大学生だったユーザーが親になり、子どもを連れてイベントに参加するケースです。親子で遊ぶ体験が新たなポケモン GO への愛着を育みます。

マーケティングの観点で注目したいのは、固定ユーザーの囲い込みだけで終わっていないことです。年齢層がそのまま 10 歳上がっているのではなく、新しいユーザーが入ってきています。

[ステップ 5] 広めてもらう

最後のステップは、満足したお客さんに自ら発信してもらうことです。

口コミや SNS で広まるには、良かっただけでは十分とは言えません。誰かに語りたくなるネタが必要です。GO Fest は複数の切り口で語るきっかけを用意しています。

  • 限定ポケモンという 「希少性」 
  • フォトスポットや AR 撮影という 「共有しやすさ」 
  • 親子参加という 「物語性」 
  • プレーヤー同士の交換という 「関係性の強化」 

イベントでは都市規模の回遊型なので、参加者一人ひとりの体験が固有のものになり、投稿される写真や体験談が多様になります。ユーザー自身がつくるコンテンツが自然と増え、次の 「知ってもらう」 が強化されていき、6 つのステップが循環するという理想的な形です。

注目したいのは、ここまで見てきた 5 つのステップが一方通行ではなく循環していることです。

イベントに参加したユーザーが SNS で発信し、それを見た人が 「まだやってるんだ」 と思い出し、再びアプリを開く。こうした循環を約 10 年間回し続けてきたことが、ポケモン GO が今なお人気である要因です。

マーケティングとは、お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般です。

ポケモン GO の事例が教えてくれるのは、「選ばれる理由」 は一度つくって終わりではなく、お客さんとの接点ごとに育て続けるものだということです。

まとめ

ポケモン GO のマーケティングを 5 つのステップで読み解くと、次のような特徴が浮かび上がります。

  •  「知ってもらうこと」 を一度きりで終わらせず、イベントや自治体との連携で定期的に再生成する
  •  「思い出してもらう」 という想起の機会を日常の多様な文脈に持ち、ライフステージの変化に合わせて再点火される
  • 無料・簡単・スマホだけという 「使ってもらう」 状況をつくる。価値を体験できる瞬間がすぐにある
  • 日常と非日常の往復構造で飽きさせず 「使い続けてもらう」 。離脱しても戻ってこられる復帰前提の設計
  • 希少性・共有しやすさ・物語性・関係性という語りたくなるネタがユーザー発信を生み、自然と話題として製品やサービスを 「広げてもらう」