#マーケティング #ブランド #店舗の存在意義
AI エージェントが買いものの代行をする時代が来たとき、ブランドはどう対応すればいいのか、どこで守られるのか。その答えを体現する店舗が、原宿に誕生しています。
今回は、リアル店舗の意義や価値について考えます。
たまごっちの体験型公式ショップ
出典: PR TIMES
たまごっち ふぁくとり~!
東急プラザ原宿 「ハラカド」 にオープンしたのが、たまごっちの体験型公式ショップ 「たまごっち ふぁくとり~!」 です。
店内に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのは巨大な初代たまごっちのオブジェ。その奥には 「工場 (ファクトリー) 」 をテーマにした空間が広がります。
壁面の大型 LED モニターには、たまごっちが製造ラインで次々と生まれていくようなアニメーションが流れ、グッズが並ぶ什器はベルトコンベヤーを模したデザイン。まるで 「たまごっちが作られる工場」 に迷い込んだかのようなお店です。
「たまごっち ふぁくとり~!」 には、20 ~ 30 代の女性を中心としたファンが連日訪れているようで、行列をつくっています。
人気の背景
背景には 「平成女児売れ」 現象があります。
1990 年代後半から 2000 年代前半に小中学生だった女性が大人になり、当時憧れていたアイテムを再び手にする動きです。
2025 年発売の最新機種 「Tamagotchi Paradise」 は前作比 4 倍の予約件数を記録し、2026 年には発売 30 周年を記念した 「大たまごっち展」 が東京・六本木で開催されるなど、たまごっち人気は令和に入って再燃しています。
ただし、「たまごっち ふぁくとり~!」 という体験型公式ショップが支持される理由は、懐かしさだけではありません。
それは、設計思想そのものが 「売ること」 ではなく 「世界観に入ってもらうこと」 に振り切られている点にあります。
店内空間そのものが体験の場となり、来店した瞬間からたまごっちの物語へと引き込まれる。グッズを買いに行くというよりも、たまごっちの世界を体験しに行く場所になっているのです。
店舗がブランドを守る 「聖域」 になる
では、「たまごっち ふぁくとり~!」 は具体的にどのような仕掛けを入れているのでしょうか。
いくつの視点から読み解きます。
「買う」 から 「つくる」 へ。自分ごと化の設計
体験の中心にあるのは、完成品の購入ではなく、制作プロセスにあります。
例えば、人気を集める 「ワッペンワーク」 がそれです。
出典: 日経クロストレンド
ワッペンワークでは、ネームタグや巾着、ポーチなどのベースアイテムを選び、まめっちなどおなじみのたまごっちのパーツや、手書き風のオリジナル 「たまごっちフォント」 を自由に配置してワッペンを作ることができます。
ワッペンワークの価格は税込 150 円から。この値段で楽しめる手軽さに加え、友人の名前を入れてプレゼントするギフト需要も高いといいます。
もうひとつの人気コンテンツが、「みにたま つめほ~だい!」 です。
出典: PR TIMES
スーパーでの生鮮食品の詰め放題のように、たまごっち型の専用ボトルに、小さなたまごっちのミニフィギュアを制限時間 3 分で好きなだけ入れられます。
詰め放題は税込 3,828 円。お気に入りのたまごっちを敷き詰めるもよし、全種類をバランスよく入れるもよし。自分だけのたまごっちのアイテムを手に入れることができます。
今回の冒頭で AI エージェントの話を出しましたが、AI が得意とするのは 「最短距離の最適化」 という効率性です。一方で、人が自分で手を動かす、迷う、選ぶ、完成させるという行為は、最適化とは真逆です。そしてこうしたアナログでの手触り感は、ブランドの存在を 「自分ごと」 に変えていきます。
既製品を購入するだけでなく、自ら作りあげる工程をエンタメとして楽しめるので、作り上げる工程そのものが形に残る 「思い出」 という付加価値になっているのです。
偶発性を設計する
たまごっちの体験型公式ショップ 「たまごっち ふぁくとり~!」 の店内の入り口には、巨大な初代たまごっちのオブジェが設置され、無料のフォトスポットになっています。
運営担当者によれば、ポーズをあれこれ工夫しながら、15 分ほどかけて撮影している女性のお客様もいるそうです。
ここでは、広告ではなく生活者自身の語りによる拡散が起こります。来店者が自発的に 「撮りたい」 と感じ、SNS に投稿する。その投稿を見た誰かが 「行ってみたい」 と思う。来店者が自発的に 「撮りたい」 と感じる仕掛けを用意することで、SNS での拡散が生まれ、結果的に認知拡大へとつながっています。
商品をいざ欲しいというタイミングが来る前に、人の頭の片隅に残っている状態をつくれるかどうか。偶発的な出合いを設計できる店舗には、ここにおいて優位性があります。
コミュニティ化は 「売上」 より 「関係」 を優先する
「たまごっち ふぁくとり~!」 の入場無料という設計も重要です。「買う / 買わない」 から自由になることで、店舗の役割が変わります。
店内では、たまごっちの通信機能を使った交流や、持参したぬいぐるみを撮影する 「ぬい活」 を楽しむ来店者の姿も見られます。お店の内装やシンボルと一緒に、自分のたまごっちがまるでそこにいるかのような構図で写真を撮っているとのことです。お店が 「好き」 を媒介に人と人とがつながるコミュニティ空間としても機能しています。
ブランドが守られるとは、売上が守られることだけを意味しません。好きな対象が語られ続ける関係を守られることでもあります。
店舗の場所が 「聖地」 の物語を補強する
1996 年、初代たまごっちが発売された際、原宿の玩具店には長蛇の列ができ、女子高生から始まったブームが社会現象へと発展しました。たまごっちの体験型公式ショップ 「たまごっち ふぁくとり~!」 は、こうした原点を踏まえ、バンダイはたまごっちの聖地は原宿であると位置付けています。
たまごっちの体験型公式ショップ 「たまごっち ふぁくとり~!」 の店舗誕生の直接のきっかけとなったのは、2024 年に現在の店舗と同じ場所で開催された 「祝 28 しゅーねん!たまごっちばーすでー!」 でした。
イベントが想定以上の反響を得たことを受け、バンダイと運営を担当する BookLive の両社で協議を重ね、常設店舗としての展開が決まりました。
EC サイトの購入では得られにくい 「ここで出合った」 という体験。聖地というストーリーを持つ場所がたまごっちの物語を補強し、来店者の経験として記憶に強く残ることでしょう。これもまた、店舗が持つ力です。
店舗は 「効率の場」 から 「体験と共創の拠点」 へ
AI によって検索行為や EC 購入の最適化が進むほど、ブランドは比較の中で薄まりやすくなります。だからこそ、リアル店舗には別の役割が求められます。
五感での体験、偶発的な出合い、共同体験としてのコミュニティ、希少性がもたらす熱量、そして聖地という物語。これらを集約し、ブランドの軸となる場所。それが、店舗の新たな役割のひとつになります。
たまごっち体験型公式ショップの 「たまごっち ふぁくとり~!」 は、店舗の存在意義を 「売るための場所」 から 「ブランドを守り、育てる聖域」 へと再構築し、行列という形でその熱狂を証明してみせました。
まとめ
たまごっちの体験型公式ショップ 「たまごっち ふぁくとり~!」 を取り上げ、リアル店舗の存在意義を考察しました。
学びのポイントをまとめておきます。
- AI エージェントが購買判断を代行する時代、検索や EC は 「最適解を早く出す場所」 へと収斂し、ブランドの存在感は薄まりやすくなる
- AI が代替しづらい価値は 「五感に訴える体験」 「偶発的な出合い」 「人と人の交流」 など。これらを提供できるリアル店舗がブランドを守る防御壁となる
- 店舗の役割は 「売る場所」 から 「世界観に入ってもらう場所」 へと変わり、来店者が自ら作り上げる体験がブランドへの自分ごと化、愛着、信頼を生む
- 例えばコミュニティ機能など 「売上」 より 「関係」 を優先する設計とし、その場所にしかない物語といった 「ここでしか得られない体験」 として集約することで、店舗は 「ブランドを守り、育てる聖域」 へと再定義される


