#マーケティング #ブランディング #言語化
同じものを指す言葉でも、意味を掘り下げると受けるニュアンスは異なります。
今回は 「建物」 と 「建築」 という言葉の違いをきっかけにして、マーケティングとブランディングへの示唆を考えてみます。
建物と建築
「建物」 と 「建築」 は、どちらも家やビルを指す際に使われます。
ただし 「何を重視しているか」 という視点や、「使われるシーン」 に明確な違いがあるように思います。
モノとコト
簡単にいうと、建物は 「モノ (物体) 」 を指し、建築は 「コト (建てる行為・技術・デザイン・芸術) 」 を指すニュアンスが強いというイメージです。
建築というのは 「築く」 という字が入っているように、設計から完成までのプロセスや、その建物が持つデザイン性、文化的価値までを含む言葉です。
結果と過程
この違いをもう少し掘り下げてみましょう。
建物という言葉を使うとき、私たちは物理的な構造物そのものに注目しています。「あそこに高い建物がある」 「この建物は何階建てか」 といった使い方をするとき、それは客観的に存在する物体としての側面を見ているわけです。
一方、建築という言葉には、誰かの意図や思想が込められています。
建築家が何を考え、どのような空間体験を生み出そうとしたのか。その土地の文化や歴史とどう向き合ったのか。利用する人々の生活をどう豊かにしようとしたのか。こうした問いが建築という言葉の背後には存在します。
つまり、建物が 「結果としての物体」 であるのに対し、建築は 「意志を持って築き上げる過程」 を指すと解釈できます。同じ物理的な構造物を前にしても、それを建物として見るか建築として見るかで、注目するポイントが変わってくるわけです。
マーケティングへの横展開
ここまで見てきた 「建物」 と 「建築」 の関係性は、マーケティングにも通じます。
横展開すると、建物と建築は 「マーケット」 と 「マーケティング」 、「ブランド」 と 「ブランディング」 という対の概念に重なります。
マーケットとマーケティング
建物が物理的なハコであるように、マーケットは 「売買が行われる場 (需給の状態) 」 を指します。
マーケットは、「市場規模はどれくらいか」 「競合は何社か」 「顧客はどういった人たちか」 という、客観的な数値や環境として捉えられます。
建物と同じで、マーケットとはそこに存在する状態や構造を示す言葉です。市場調査レポートに並ぶ数字やグラフは、建物の設計図や写真のようなものと言えるでしょう。
対して 「マーケティング」 は、マーケットという市場の中で、どうすればお客さんに選ばれるか、どうやって市場を形づくるかという設計図を描き、実行するプロセスです。
建築が 「人がどう過ごすか」 を設計するように、マーケティングは 「市場でどう価値を生み出すか」 を能動的に設計し取り組む行為なのです。
ポイントは、マーケットは与えられた環境として存在しますが、マーケティングはその環境に働きかけ、時には新しい市場を創造することさえあるという点です。既存の建物を眺めるだけなのか、新しい建築を生み出す建築家の違いに似ています。
ブランドとブランディング
ではもうひとつ、ブランドとブランディングに当てはめてみましょう。ここは特に 「建築」 の持つ文化的・デザイン的な要素と強くリンクします。
建物に相当するブランドは、お客さんの頭の中にできあがった 「価値イメージの結果」 です。「高級そうだ」 「信頼できる」 「かわいい / かっこいい」 といった、完成した家のようなものです。それは企業が意図したものかもしれませんし、意図せず形成されたものかもしれません。
ある時点でのお客さんの頭の中にあるポジティブな認識やイメージがブランドであり、結果としての状態を指します。
一方の 「ブランディング」 は建築です。価値イメージをつくり上げるために、ロゴをデザインしたり、世界観を描いて示し、哲学や思想を語る、利用シーンを提示するなど、一貫した顧客体験を提供する行為です。
どんなメッセージを発信するか、どんなタッチポイントでお客さんと接するか、どんな価値観を体現するか。これらすべてが、お客さんの頭の中に望ましいブランドイメージという 「建築」 を築くための活動がブランディングです。
良い建物が必ずしも 「優れた建築 (芸術性や思想) 」 であるとは限らないように、ただ単に有名な商品名や企業名が、必ずしも独自の哲学を持つブランドであるとは限りません。
知名度があっても、そこに深い意味や一貫した思想がなければ、それは単なる 「建物」 に過ぎません。そこに 「どんな意味を込めるか」 という、ブランドをつくるための働きかけであるブランディング (建築) の質が問われるのです。
「ing」 に変えるという発想
「築く」 というプロセスが加わることで、物体は 「行為に意味を持つ存在」 に昇華されます。
ここまで見てきた、「建物」 「マーケット」 「ブランド」 は、目に見える形になった 「資産」 です。それに対して 「建築」 「マーケティング」 「ブランディング」 は、その資産に意味や命を吹き込み、価値を最大化させるための 「行動・思想・美学」 です。
抽象化すると、建物から建築、マーケットからマーケティング、ブランドからブランディングとは、名詞に 「ing」 を付けて動詞化しているということです。単純な変化かもしれませんが、意味合いとしては本質的な違いを生み出します。
静的な状態から動的なプロセスへ。受動的な存在から能動的な創造へ。この発想の転換は、マーケターに求められる視点です。
まとめ
建物と建築の違いから、マーケティングやブランディングの本質を考えました。
学びのポイントをまとめておきます。
- 建物は 「結果としての状態」 を表し、動詞 (ing) の意味を持つ建築は 「意志を持って築き上げるプロセス」 を表す。この関係はマーケティングに示唆的
- マーケットは環境や状態で、マーケティングはマーケットという環境に働きかけ価値を創造する能動的な行為
- ブランドはお客さんの頭の中にできた価値イメージや信頼への結果であり、ブランディングはブランドイメージを意図的に築き上げる活動
- 名詞に 「ing」 をつけることで、対象に文脈や意味が付与される。静的な状態から動的なプロセス、受動的から能動的な姿勢への発想の転換が、マーケティングやブランディングでは大事