#マーケティング #顧客定義 #ビジネスモデル
すべての人に選ばれようとするほど、誰からも選ばれなくなる――。
スーパーマーケットの 「ロピア」 の急成長が教えてくれるのは、お客さんを絞り込む勇気の大切さです。
今回は、ロピアからマーケティングの視点を入れたビジネスモデルについて学んでいきます。
食生活♥♥ (ラブラブ) ロピア
出典: まちクル
ご紹介したい 「食生活♥♥ (ラブラブ) ロピア」 は、神奈川県発の食品スーパーマーケットチェーンです。
1971 年に精肉専門店として創業し、現在は国内 22 都道府県に 136 店舗を展開しています (2026 年 1 月時点) 。2025 年、大手イトーヨーカドーの大量閉店が話題となる中、その一部店舗を引き継ぐ形でロピアは全国的な知名度を高めました。
ロピアを中核とする持ち株会社 OIC グループの売上高は、この 10 年間で約 7 倍に成長し、2025 年度には 5213 億円に到達。大型店では 1 店舗だけで年間 100 億円を売り上げるともいわれ、その収益力は食品スーパーとして国内トップクラスと評価されています。
ロピアが支持される理由として、精肉専門店をルーツに持つ質の高い生鮮食品と、手書き POP (Point of Purchase: 購買時点広告) が演出する 「お祭り感」 のある売り場づくりが挙げられます。
しかし、その成長の本質は、もっと深いところにあります。それは、従来の食品スーパーの常識を覆す 「逆張り戦略」 です。
単身世帯が増加する今の日本で大容量商品を中心に据え、ドミナント戦略ではなく一等地への大型店出店を選び、本部主導ではなく売り場主導で商品開発を行う。こうした一見するとスーパーの定石とは真逆に見える選択が、実はロピアの高い競争力の源泉になっているのです。
顧客は誰か?
ロピアの事例が教えてくれるのは、「すべての生活者に選ばれようとするほど、誰からも選ばれなくなる」 ということです。
ロピアは、「誰に圧倒的に選ばれるか」 を先に決め、そうではない消費者には 「選ばれなくてもいい」 と割り切っているのです。
顧客を定める
ビジネスへの第一歩は、お客さんが誰かをはっきりさせることです。これができていないと、どんなにすばらしい商品を持っていても、買ってはもらえないでしょう。
ロピアは、主要な想定顧客を 「30 ~ 40 代の夫婦で、子供が 2 人いる 4 人家族」 と明確に定義しました。そして、この顧客像から逆算して、品揃え、売り場づくり、運営方針、さらには出店戦略までを設計しています。
例えば品揃えでは、多くのスーパーが単身世帯の増加に合わせて少量商品を拡充する中、ロピアは大容量商品を中心に据えました。ナポリタンの上にミートボールがどっさり乗った総菜、カレーライスにハンバーグやエビフライが並ぶ 「大人のお子様ランチ」 。これらは、食べ盛りの子供がいる家族にとっては魅力的ですが、単身者にとっては選びづらい商品です。
しかしロピアは、その不満を解消しようとはしません。すべての消費者に応えようとするとありふれたスーパーになってしまい、ロピアはその道は選択しませんでした。
お客さんが誰なのかを決めることは、ビジネスの一丁目一番地です。目的があり、目的を達成するための戦略を立て、戦略から施策を実行し展開していくにあたって、最初にはっきりさせるべきなのは 「自分たちのお客さんは誰か」 なのです。
顧客解像度を高める
「顧客は誰か」 という問いかけの重要性は、あらゆるビジネスに当てはまります。
ロピアにとって 「30 ~ 40 代の夫婦で子供 2 人の 4 人家族」 という定義は、日々の暮らしの具体的なシーンを想像するための起点になります。
食べ盛りの子供がいれば、夕食の準備には量が必要になります。共働きの夫婦なら、買い物は週末にまとめて行うことが多いでしょう。家計を預かる立場なら、質と価格のバランスを気にします。
注力顧客のこうした生活の実態を深く理解すればするほど、「何を売るべきか」 「どう売るべきか」 が明確になっていきます。
様々なお客さんをひとくくりにせずに、自社のお客さんの解像度を高めるほど、それはすなわち自社のビジネスの特徴を知ることにつながります。お客さんは誰かを決めることが、マーケティングの成功のカギを握ります。
ロピアのビジネスモデル
では、ロピアのビジネスモデルを以下の 5 つの視点から整理してみましょう。
- 注力顧客
- 競合
- 顧客価値
- 顧客価値の源泉となる事業能力 (リソースと仕組み)
- 収益モデル
順番に見ていきます。
注力顧客
先ほども触れたように、顧客は誰かという事業の根幹となる問いです。自分たちは一体、誰のために価値を提供するのか。注力するお客さんを明確に定義することが戦略の出発点となります。
ロピアの注力顧客は 「30 ~ 40 代の共働き夫婦+子供 2 人の 4 人家族」 でした。この層にとって重要なのは、日々の買い物における 「家計の納得感」 と 「食卓の満足感」 の両立です。
ポイント還元率や少量パック、多様な決済手段といった利便性よりも、質の高い食材を安く、たっぷりと買える 「食の満足」 に軸足を置く消費者。これが、ロピアが選んだ注力顧客像です。
競合
次に競合です。
競合とは 「注力顧客が持つ選択肢は何か」 ですが、それは必ずしも同じカテゴリーの商品やサービスとは限りません。
ロピアの注力顧客にとって、競合は近所の一般的な食品スーパーだけではありません。大容量でコストパフォーマンスが高いという文脈では、例えばコストコのようなお店も頭に浮かぶでしょう。
また、「家族みんなが満足する食事を、手間をかけずに用意したい」 という場面では、外食やテイクアウト、デリバリーも選択肢に入ります。
顧客価値
注力顧客と競合のあとに顧客価値が来ます。顧客価値とは、注力顧客に対して、他にはないどのような独自の価値を提供できるのか。お客さんがあなたの会社や商品を選ぶ理由そのものです。
ロピアが提供している顧客価値は、家族の食卓が、安く・豪華に・楽しくなる体験です。
精肉専門店をルーツに持つロピアは、国産牛を 1 頭買いして自社で処理するノウハウを持っています。これにより、質の高い肉を、スーパーとしては驚くほど安い価格で提供できます。
さらに、店内にずらりと並ぶ手書き POP が、買い物にお祭り感を添えます。「年内最後のお肉祭じゃ~」 といった独特の文言や、「急に朝寒くなってビックリしてます」 といった遊び心あふれる POP が、ロピアでの買い物を楽しい体験に変えているのです。
結果として、生活者は 「今日はロピアに行くと得をする・楽しい」 という感覚を持つようになり、これがロピアを選ぶ理由になるのです。
事業能力 (リソースと仕組み)
事業能力は、独自の顧客価値をどうやって安定的に提供し続けるのかです。実現のために必要な、自社が持つべき資源 (リソース) と、それを実行する仕組み (オペレーション) の両方が含まれます。
ロピアの顧客価値は、販促の表現や接客だけで生まれているわけではありません。その裏には、独自の事業能力が存在します。
リソース面では、国産牛の一頭買いと自社処理のノウハウが代表例です。一頭買いすることで仕入れコストを下げ、自社で処理することで部位ごとの最適な販売方法を選べます。切れ端は総菜に活用し、無駄を最小限に抑えることで質の割に安いという商品提供を構造的に可能にします。
また、仕組みの面では売り場主導の運営スタイルが特徴的です。一般的な小売企業には本部の MD (マーチャンダイザー) や開発部門がありますが、ロピアには存在しません。商品開発、仕入れ数、売り場構成、値付けなどの決定権は、エリアマネジャー、店長、各売り場の責任者である 「チーフ」 に委ねられています。
この仕組みのメリットは、現場起点の自由な発想をすぐに実現できる点です。仙台店で生まれた 1000g 程度の大判ステーキ、大阪の一店舗で始まったピザを焼く工程を見せる演出。こうした成功事例が他のロピアの店舗にも横展開され、各店が取り入れていきます。
さらに、結果を残した人材は店長に、店長はエリアマネジャーにと、成果に応じて抜擢し、給与も引き上げるという人事の仕組みが、現場の推進力を高めています。
店舗の運営面では、お茶や水を常温で販売して電気代を削減したり、決済手段を現金または自社の電子マネー 「ロピア 公式アプリ支払い」 に限定してレジ通過時間を短縮したりと、コストカットを徹底しています。
ロピアのこれらの積み重ねが、安さを続けるための原動力として機能しているのです。
収益モデル
そしてビジネスモデルの最後の要素が 「収益モデル」 です。提供した価値を、どのようにして事業の利益に変えるのか。事業を継続させ、成長させていくための財務的な設計図になります。
ロピアの収益モデルで特徴的なのは、スーパーマーケットチェーンの定石であるドミナント戦略を採用していない点です。
一般的には、特定のエリアに集中出店することにより物流効率を向上させ、コストを削減します。しかしロピアは、物流効率よりも 「一店舗あたりの売上・利益の最大化」 を優先しました。
ロピアが狙うのは、商圏が大きく周辺人口が多いその地域の一等地です。ターミナル駅からアクセスが良く、大型商業施設の中にテナントとして出店し、売り場面積は 500 ~ 600 坪程度の大型店が中心です。
テナント料はかかりますが、すでにある施設に出店するので不動産の取得や建物の新設にかかる初期投資は不要です。集客力の高いロピアの出店は、商業施設全体の活性化にもつながるため、施設側から声がかかるケースも増えているとのことです。
ロピアは、注力顧客に刺さる価値を濃くし、来店頻度・まとめ買い・購買単価を押し上げ、コスト設計で利益を残す──。このサイクルを、一店舗ごとに最大化する収益モデルを構築しています。
ロピアの事例から学べるのは、幅広くすべての消費者に応えるよりも、戦略的に注力顧客を明確にし、選ばれる理由を濃くつくっていることです。
すべての人にとって便利な店である必要はありません。特定のお客さんにとって 「ここ以外にない」 と感じてもらえる要素があれば、集客と高い収益力につながります。
まとめ
ロピアの事例から 「顧客を定めること」 「ビジネスモデルのつくり方」 を掘り下げました。
学びのポイントをまとめておきます。
- すべての顧客に応えようとすると、誰からも選ばれない 「ありふれた存在」 になる。自分たちのお客さんは誰かを明確にすることがビジネスの出発点となる
- 顧客を定義する際は、生活やビジネスの具体的なシーンまで解像度を高める。それが 「何を売るべきか」 「どう売るべきか」 を明確にする
- 注力顧客を決めると、競合の定義も変わる。同じカテゴリーではなく、その状況において顧客の頭の中に浮かぶ選択肢すべてが競合になり得る
- 顧客価値とは、注力顧客に自分たちが選ばれる理由そのもの。顧客価値を安定的に提供し続ける事業能力 (リソースと仕組み) によって顧客価値をつくる
- 収益モデルは、生み出した顧客価値をどのように利益として獲得するか。持続可能性を確保する財務的な論理
