#リーダーシップ #政治 #本

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小説 「総理にされた男 (中山七里 (しちり) ) 」 の主人公が強制的にさせられたのは、売れない役者から 「総理大臣の替え玉」 になり、総理として日本を率いることでした。

小説の物語には、リーダーシップの本質が詰まっていました。

今回は、リーダーに問われる資質について考えます。

本書の概要

この本は、政治の素人の一般人が総理大臣の替え玉として国政に挑み、政治の本質と国民のあるべき姿を問い直す痛快エンタメ小説です。

あらすじ

売れない舞台役者・加納慎策 (かのう しんさく) は、内閣総理大臣・真垣統一郎 (まがき とういちろう) に瓜二つの容姿を持っていました。

真垣総理の人気にあやかり、ものまね芸で劇団の前座を務める毎日で、その芸を見た観客が SNS に動画を上げ、ネット上で密かに話題を集めていました。

ある日、官房長官・樽見正純から半ば拉致されるように秘密裏に呼び出された慎策は国家の大事を告げられ、総理の 「替え玉」 の密命を受けます。

慎策は得意のものまね芸で周囲を欺きつつ、役者の才能を発揮して演説で人々を魅了していきます。しかし直面する現実は、政治や経済の重要課題とは別次元で繰り広げられる派閥抗争や野党との駆け引き、官僚との軋轢ばかりでした。

政治に無関心だった慎策も、国民の切実な願いを置き去りにした政治の世界での不条理な状況にショックを受けます。義憤に駆られた慎策は、国民の声を代弁すべく演説で政治家たちの心を動かそうと挑み始めます。

政治や経済の知識が皆無の慎策は、大学准教授を務める旧友・風間歴彦を相談役に指名し、付け焼き刃で知識を詰め込みながら閣僚や他党の大物政治家との会談、国会での党首討論を乗り切っていきます。

章の構成

主人公が戦う相手は 「閣僚」 → 「野党」 → 「官僚」 → 「テロ」 → 「国民」 の順に大きくなっていきます。これがそのまま各章タイトルになっています。

  • 第 1 章 vs 閣僚 ― 替え玉として閣僚懇談会や党三役との顔合わせを乗り切る
  • 第 2 章 vs 野党 ― 通常国会での野党追及、記者会見に対応
  • 第 3 章 vs 官僚 ― 復興遅れの原因となる官僚組織との戦い、内閣人事局設置法案
  • 第 4 章 vs テロ ― 在アルジェリア日本大使館テロ事件への対応
  • 第 5 章 vs 国民 ― 憲法違反への疑惑、世論との対峙、そして最後の演説

考えさせられるテーマ

本書はエンタメ小説でありながら、政治や経済について考えさせられるテーマが多く盛り込まれています。

金融政策や財政政策、成長への投資といったマクロ経済の話題から、災害復興への国家予算の使われ方、政治家と官僚の関係性、官邸主導か官僚主導かという内閣人事局の是非など、現実の日本が抱える課題が描かれます。

中でも掘り下げられるのが憲法 9 条の問題です。作中では平和憲法の崇高な理想と、海外にいる命の危険が迫った同胞である日本人を日本は憲法 9 条のせいで自分たちの手で護れないという現実が襲います。

主人公の慎策たちは 「自国民の安全を自国で護れない国が独立国家と言えるのか」 という問いに向き合うことになります。

リーダーシップへの学び

本書から学べるテーマのひとつが 「リーダーシップ」 です。

主人公の加納慎策は、最初は 「総理のものまね」 をする売れない役者に過ぎませんでした。政治に興味も知識もなく、家賃も払えず恋人の家に転がり込み、ヒモ同然のような 35 歳の男です。

しかし、替え玉を引き受けざるを得ず総理大臣という立場に置かれ、国政という大きな責任を背負わされる中で、慎策は次第に変化していきます。この過程は 「立場や責任が人をつくる」 ということを体現しています。

では、この本を読んで考えさせられた、リーダーに必要な資質を順番に小説に当てはめながら見ていきましょう。

構想力

 「構想力」 とは、人には見えないものを見ようとし、創りたい未来へのビジョンを描く力です。

当初、総理の替え玉となり操り人形でしかなかった慎策には構想力はありませんでした。最初の仕事は 「用意された原稿を噛まずに読むこと」 であり、自分のビジョンなど存在しません。総理大臣という役を、普段の前座でやっているのと同じように演じているだけでした。

転機は宮城県石巻市の視察です。東日本大震災の多額の復興予算が使われている様子がなく、現地の人々の苦悩を目の当たりにし、被災者の声を直接聞いた慎策は 「なぜ国民のために選ばれた議員たちが国民のために働けないのだろう?」 という根源的な問いを抱きます。

この瞬間、慎策の中に 「構想力」 が芽生えました。派閥抗争や既得権益の向こう側に本当に困っている国民の姿を見出し、「困っている者を救いたい、悲劇をなくしたい。それこそが政治の役目ではないか」 というあるべき世界が形成されたのです。

決断力

リーダーに求められる 「決断力」 が試されるのは、論理的な正解が見えず、どちらを選んでも大きなリスクを伴う局面です。

小説の物語で慎策は 「正解のない問い」 に直面します。真垣が総理を続けられないという事実を公表して退陣すれば、政権は崩壊し外交や経済に大きな混乱を招く。一方で選挙で選ばれていないただの一般人の慎策が総理の替え玉を続ければ、国民を騙す隠蔽となる。

一国を揺るがすこの二択において、慎策は自分自身の人生を完全に消し去り、そのまま総理を演じ続けるという重い覚悟を持って決断を下しました。

慎策が総理の替え玉であることは内閣官房長官と旧友の 2 人しか知らない事実で、誰にも称賛されず、茨の道。それでも国民の期待に応え、日本の国益のために 「リーダーである自分がすべての責任を背負う」 と腹を括ったのです。この孤独な決断が、「演じる者」 を 「真のリーダー」 へと昇華させた瞬間でした。

意志力

リーダーに必要な 「意志力」 とは、ビジョンを実現するために、たとえ最初は 1 人でも強い意志を持って歩んでいく力です。

当初、慎策は自分の意志ではなく言われたままに 「総理のフリ」 をするだけの受動的な態度でした。しかし、国会の答弁で官僚が用意した無味乾燥な答弁書を見た時、慎策は 「これでは国民に届かない」 と直感します。

慎策は役者としての経験を総動員し、自分の言葉と感情で語りかけることを決断します。誰かの指示ではなく 「自分の内面から湧き上がるもの」 に従って踏み出すリーダーの姿でした。

実現力

描いた構想を現実にするのが 「実現力」 です。試練に挫折しそうになっても逃げず、信念を持ちブレずにやり切ります。

ビジョンを実現するための慎策の最大の武器は 「ものまね」 と 「伝える力」 でした。役者としての言葉の力が、政治家としての実現力に転化したのです。

政治的な駆け引きや論理に終始せず、人々の心に直接訴えかける演説で周囲を圧倒し魅了しました。敵対する野党の元代表・大隈泰治でさえ、慎策に不思議な魅力を感じ、当初はそれをするのに反対の立場だった内閣人事局設置法案の可決に協力するに至ります。

慎策は正論を振りかざすのではなく 「正論の伝え方」 を磨いていきました。作中で語られるように 「政治とは正しさの追求ではない。意見が対立する者と擦り合わせ、妥協し、着地点を決めること」 。役者としてのコミュニケーション能力を活かし、言葉で人の心を動かしたのです。

人間力

リーダーには、人々が付いていきたいと思える 「人間力」 が求められます。

慎策は政治や経済の素人だったので、既存の利害関係に縛られず、純粋に 「おかしいことはおかしい」 と言えました。政治の世界では弱点とされるこれらが、逆に人々を惹きつける魅力となったわけです。

樽見官房長官は当初、総理の替え玉計画の首謀者に過ぎませんでしたが、慎策の度胸と対応力に驚き 「自分が次の総理になるより、このまま慎策を鍛え育てる方がいいのではないか」 と思い始めます。敵対する野党第一党の元代表の大隈泰治も、慎策に不思議な魅力を感じ協力をしました。

 「自分が理解される前に相手を理解すること、相手がやっていることに共感し感謝をすること」 。慎策は政治の世界に入っても、この人としての当たり前を一時も怠りませんでした。

人々の声に耳を傾け、国民一人ひとりの切実な願いに共感し続ける姿勢が、リーダーへのフォロワーを生み出す人間力の源泉でした。

立場が人をつくり、責任がリーダーを育てる

小説 「総理にされた男」 がリーダーシップの観点で示す重要な教訓は、リーダーは最初から完成された存在ではないということです。

売れない役者だった主人公の加納慎策は、総理大臣という 「立場」 に置かれたことにより初めて政治を学び、国政という 「責任」 を負わされたことで初めてビジョンを描きました。

慎策の変容は 「リーダーの器がある人がリーダーになる」 というよりも、「リーダーという立場と責任がリーダーの器をつくる」 ことを示しています。

もちろん、慎策には役者としての演技や言葉の力、素朴な人間的な魅力というリーダーとなる原石はあったかもしれません。しかしそれだけではリーダーにはなれません。

立場が視野を広げ、視座を高め、責任が決断を迫り、試練が信念を鍛える。その過程を経て初めて、リーダーシップの資質が統合された真のリーダーが生まれるのです。

まとめ

小説 「総理にされた男 (中山七里) 」 からリーダーシップについて考えました。

学びのポイントをまとめておきます。

  • リーダーは最初から完成された存在ではない。立場と責任がリーダーの器をつくる
  • リーダーに必要な資質は、構想力、決断力、意志力、実現力、そして人間力がある
  • 構想力とは見えないものを見ようとし、創りたい未来のビジョンやありたい姿を描く力
  • 決断力は正解のない中で覚悟を持って選び取り、すべての責任を背負う力
  • 意志力はビジョンをなんとしても実現するために、たとえ最初はひとりでも歩んでいく力
  • 実現力は、試練に挫折しそうになっても逃げず、信念を持ちブレずにやり切り、描いた構想を現実にする力
  • 人間力は他者への共感と感謝を怠らず、この人なら付いていきたいと思わせる人としての魅力