#マーケティング #ケイパビリティ #アウトソース
自社の強み、活かせているでしょうか?
企業が新たな市場を開拓する際、今あるビジネスケイパビリティをどのように活かせるかが重要です。しかし 「今の業界でしか通用しない」 と思い込んでしまい、未顧客層や異業種でのチャンスを見逃しているかもしれません。
今回は、事例からビジネスケイパビリティを異業種で活かすための方法を掘り下げます。
ポイントは、自社の 「できること」 と顧客の 「困っていること」 をぴったりと結びつけることです。あなたの会社の強みも、思わぬところで大きな価値を生み出すかもしれません。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
冷凍完全調理品でホテル・旅館の課題支援
観光需要の回復やインバウンドの増加で、都市部を中心にホテル・旅館の稼働率が高まっています。
しかし同時に人手不足という問題も浮上しています。例えばホテルや旅館のレストラン部門で必要な調理スタッフが確保できず、安定した料理提供が難しくなっている状況です。
このような環境において、宿泊事業者はいかに少ない人数で質の高い料理を届けるかが課題です。
エア・ウォーターの子会社であるエア・ウォーターアグリ & フーズの MIKATA 事業部は、こうした人手不足が深刻化する宿泊業界で、冷凍の完全調理品をホテルや旅館に提供しています (参考記事) 。
北海道の北広島市にある工場を拠点とするエア・ウォーターアグリ & フーズの MIKATA 事業部は、ホテルや旅館のセントラルキッチンとして機能しています。
同部門には約200名の従業員と複数名の専属料理人が在籍し、全国で800を超える宿泊施設に、和洋中の料理、さらにはスイーツまで含めた多くのメニューを手作りで生産します。完成後は急速冷凍して、必要なタイミングで必要な数だけ現場へ配送しています。
手作りと大量生産を両立している点が特徴です。もし単純に機械化してしまうと、高級ホテルや旅館が求める味付けや見た目のこだわりは満たすことが難しく、一方、すべてを職人が一から作るのでは効率が悪く、コストも合わなくなります。
MIKATA 事業部は分業体制の工場ラインと料理人のノウハウを組み合わせ、手作り感を保ちながらも大量生産によるコストメリットを実現しているわけです。MIKATA 事業部はただの冷凍食品メーカーではなく、各宿泊施設のパートナーとなることを目指しており、柔軟な要望にもカスタマイズでも応えられる体制を敷いています。
ホテル側のメリットは料飲部門の人手不足解消です。
野菜の下処理やソースの仕込み、焼き物や揚げ物などの一部分を MIKATA 事業部に外注することによって、限られたスタッフで回す現場の負担が軽減されます。最終の料理の仕上げは自分たちで行うなど、ホテルオリジナルの演出を大切にすることに注力できます。
学べること
では、エア・ウォーターアグリ & フーズの MIKATA 事業部の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。
ホテルや旅館向けの冷凍完全調理品の提供は、他の業種に応用できる示唆を含んでいます。
自社のケイパビリティと顧客の課題を結びつける
重要なのは 「自社のケイパビリティ (事業能力) 」 と 「顧客企業が抱える困りごと」 を結びつけることです。
前者の事業能力であるケイパビリティとは、例えば、大量生産が得意、独自の技術があること、専門の開発チームがいる、営業やマーケティング力などです。一方の後者の顧客企業の課題には、今回のホテル業界のような人手不足、コスト高騰、新規顧客の集客、ノウハウ継承の難しさなどがあります。
エア・ウォーターアグリ & フーズの MIKATA 事業部がやっているのは、大量かつ高品質な料理を作る力という 「自社ケイパビリティ」 をもとに、ホテルや旅館の調理人員不足という 「顧客の困りごと」 を解消するということです。自社のケイパビリティを顧客の深刻な課題にピタッとはめ込んでいます。
自社のケイパビリティと顧客の課題を結びつけるためには、次のことを整理してみるとよいでしょう。
- 自社ならではの技術・設備・ノウハウは何か?
- 顧客のどんな困りごとや課題とマッチしそうか?
- なぜ競合他社よりも自社は競争優位性をつくり出せるのか?
こうした問いかけを投げかけることによって、まだアプローチしていない異業種や未顧客企業にも、自社のケイパビリティを活かした価値をもたらすチャンスが生まれます。
「外注する理由」 をつくり示す
企業がわざわざ自社内で対応せず外部に委託するアウトソースには、それ相応のメリットが必要になります。
MIKATA 事業部は以下のようなメリットを想定顧客に示すことによって、外注の理由を明確にしています。
- 省力化: 野菜の下処理やソースの調合を外注することで、ホテル側の負担が激減
- コストメリット: 大量生産により、ホテルや旅館が仕込みの一部を自前で行うより安くなる
- 品質管理: プロの料理人が監修し、一定レベル以上のクオリティを担保
- 柔軟対応: 自社ブランドの味付けやサイズに合わせたオーダーメイド化が可能
新しい業種や未顧客の企業を開拓する際も、なぜ外注すると得になるのか、どんな価値があるのかを具体的に示すことが重要です。
コスト削減や人手不足解消だけにとどまらず、顧客にとっての付加価値につながるメリットを示せれば、「外注先として選ばれる理由」 がより確実なものになるでしょう。
「業種独自のこだわり」 や 「細かい要望」 に対応する
MIKATA 事業部が冷凍の完全調理品をホテル・旅館に提供している事業でのポイントは、ホテルや旅館によって客層やメニューの方向性が違いや、調理法に応えていることです。例えば 「ソースは自家製風にしたい」 、「最後の火入れは現場でやりたい」 など、ホテルや旅館ごとのこだわりに対応します。
MIKATA 事業部は、ここだけは譲れないポイントをそれぞれのホテルや旅館とすり合わせ、その他の部分は効率よく工場で作るというアプローチを取ります。手間は効率化でき、それでいて品質は維持するというバランスが保てるわけです。
他業種や未顧客にアプローチする際には、どの工程や部分が顧客にとって最重要なのかを掘り下げるのが有効です。
自社が顧客企業の 「価値創出の源泉」 となる関係を築く
ホテルや旅館にとって顧客満足の源泉のひとつは食事です。
食事の要である調理工程を支えようとするのがエア・ウォーターアグリ & フーズの MIKATA 事業部です。これが意味するのは、もし MIKATA 事業部がいなければ現場が回らないほどの重要な存在になっているということです。
このように、自社がいないと相手 (顧客企業) のビジネスが成り立たない状態を築ければ、競合との単純な価格競争になりにくく、長期的なパートナーシップになります。付け焼き刃ではない本質的な顧客満足につながっていきます。
未顧客や異業種へアプローチする方法
では、自社が持つビジネスケイパビリティを、まだ開拓していない業種に展開するためのポイントを整理してみましょう。
- ターゲットとなる業界を理解する: 業界規模や市場動向、その業界での顧客の買い方や使い方、人手不足状況やコスト構造、技術的課題などを調査し、業界に共通する困りごとやニーズを理解する
- 自社のケイパビリティを棚卸しする: 技術力、設備、開発スピード、人的リソースなど自社ならではの優位性を洗い出す。そのうえで 「なぜ競合より優れた価値を出せるのか?」 という問いから価値実現の源泉となるケイパビリティを可視化・言語化する
- 実証実験 (PoC) や試験導入から入るのも手: 小規模プロジェクトや一部工程のアウトソースから始め、効果や成果を実証する。省力化やコスト削減など、売上や利益の反映などを数値でわかりやすく示すと説得力が増す
- 「外注する理由」 をしっかりと示す: なぜ外注した方がラクで早く、コストが抑えられ、質も上がるのかを具体的に示す。ただの下請けや単純作業ではない、パートナーとしての立ち位置を強調する
- 顧客企業のブランドやこだわりを尊重する: 業種独自のこだわりや最終仕上げの工程は顧客側に残すなど、柔軟な対応をする。外注したら自社らしさが失われるのではないかという懸念を払拭する
- 顧客の事業成長をサポートする姿勢で関係を深める: 定期的なフィードバックや改善提案を行いながら、自社の存在を欠かせないパートナーになることを目指す。新商品や新サービスの共同開発など、さらに深い連携へと進めていく
こうしたステップを踏みながら、自社が持つケイパビリティを異業種の課題に当てはめていけば、これまで接点のなかった市場を開拓し、新しい収益源を生み出すことが期待できます。
まとめ
今回は、冷凍完全調理品でホテル・旅館の課題支援をするエア・ウォーターアグリ & フーズの MIKATA 事業部を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 自社のケイパビリティと顧客の課題を結びつける。自社の強み (技術, ノウハウ, 設備など) を明確に、顧客の 「困りごと」 とマッチさせることで、価値提供の機会を生み出せる
- 「外注する理由」 を明確に示す。省力化、コスト削減、品質向上、柔軟対応など、お客さんにとってなぜ自社に外注することがメリットになるのかを具体的に説明し、選ばれる理由をつくる
- 業種独自のこだわりや細かい要望に対応する。顧客のブランドやこだわり尊重しつつ、効率化できる部分を見極めることで、品質維持とコスト削減のバランスを取る
- 自社が顧客企業の 「価値創出の源泉」 となる。ただの外注先ではなく、顧客の事業成長を支えるパートナーとなることにより、価格競争に陥りにくい長期的な協力関係を築ける
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