#マーケティング #マーケティングリサーチ #定量調査と定性調査
新しい商品やサービスを企画するとき、マーケティングリサーチはどのように実施していますか?
なんとなくアンケートをとって終わり…、そんなことはないでしょうか?
調査のやり方ひとつで消費者理解の深さも、打ち手の精度も変わってきます。
今回ご紹介するのは、ファンケルが新商品の 「プレミアムカロリミット」 をヒットさせた裏側にある、定量調査と定性調査の巧みな使い分けです。
どちらかひとつの調査だけでは見えてこない消費者の本当のニーズ。定量調査と定性調査の双方の手法を最適に活用した事例から、ビジネスで使える実践的なポイントを解説します。
ファンケル 「プレミアムカロリミット」
ファンケルが展開するダイエットサポートサプリの 「カロリミット」 シリーズ。2024年10月に発売された 「プレミアムカロリミット」 は、このシリーズにおいて約10年ぶりの錠剤型サプリメントです。
もともとカロリミットは、食べることを我慢したくないけれど、健康も維持したいという消費者ニーズを捉えたロングセラー商品です。
新商品のプレミアムカロリミットは、それまでのカロリミットの糖質や脂肪の吸収を抑えるという機能に加えて、新たに 「高めの BMI 改善」 や 「お通じの改善」 にも効果が期待できる点が特徴的です。
機能面を強化したぶん、5,490円 (税込み) とサプリメントとしては高価格帯に位置づけられていますが、発売後5ヵ月で売上計画比約 130% を達成。カロリミットシリーズ全体を前年同期比約 135% に押し上げたとのことです (参考情報) 。
プレミアムカロリミットのヒットの背景には、事前に行った定量調査と定性調査を組み合わせたマーケティングリサーチがありました。
この事例は、定量調査と定性調査をうまく使い分ける方法を具体的に教えてくれます。
定量調査の役割と活用
定量調査とは、大規模な調査対象者 (サンプルサイズ) から得られる数値データを分析する方法です。
マーケティングリサーチではアンケート調査、データ分析ではユーザーログなどを使って、消費者やユーザーの行動や嗜好を客観的に把握できます。定量調査の客観性は、商品やサービスについての仮説を裏付ける検証のためにも重要です。
では、ファンケルのプレミアムカロリミットの事例から、定量調査の活用ポイントを見ていきましょう。
売上や認知度などの客観的な把握
ファンケルは、既存の 「カロリミット」 と 「大人のカロリミット」 で対処すべき課題や改善の余地を探るため、延べ14,000人以上を対象にした大規模な定量調査を実施しました。
その結果、たとえばパッケージで訴求している機能が消費者に十分伝わっていないことなどが数値でわかりました。ブランド全体のリニューアルや新商品の必要性が明確になりました。
定量調査のメリットは、仮説について 「どれだけの人が、どの程度そう思っているのか」 を数字で示せる点にあります。データから見えてくる 「消費者の困りごとの深刻度合い」 や 「仮説ニーズの普遍性 (どのくらいの多くの人に共通して当てはまるか) 」 を、社内外の関係者と共有しやすいのも利点です。
コンセプトや価格設定の検証
プレミアムカロリミットは、高機能を打ち出し価格も高めで設定されました。
そこでファンケルは、顧客価値となるコンセプトと価格のバランスを発売前に検証するために定量調査を活用し、この価格帯に見合うだけの満足感を消費者が得られるかを調査しました。
高機能と価格のバランスを数字で評価することにより、消費者がいくらぐらいまでならお金を払ってくれるかを事前に把握しました。
店頭購買をシミュレーションするセントラルロケーションテスト
ファンケルは、プレミアムカロリミットのパッケージデザインを決める際にも定量調査を行いました。
20種類以上のデザインを候補に、お店で実際に商品が並んでいるような状況を調査上で再現し、消費者がどのパッケージに惹かれるかを調べるセントラルロケーションテストを実施しました。
テストから、どのようなデザインがより多くの消費者の目を引き、最終的に購買へとつながりやすいのかが定量的に示されました。デザインの好みは人それぞれですが、数値ベースで訴求力の強いデザインを特定できたわけです。
定性調査の役割と活用
では次に、定性調査について見ていきましょう。
定性調査は少ないサンプルサイズで、調査対象者のリアルな声や行動背景を深く掘り下げるアプローチです。
具体的には、グループインタビューや1対1のインタビュー、観察調査から、数値には表れにくい人の心理である 「どう感じるのか」 「なぜ」 、「 (目の前で見せてもらっての) 実際の商品の使い方」 を探ることができます。
定性調査をファンケルのプレミアムカロリミットに当てはめていきましょう。
ブランドがもつ世界観や顧客価値の深堀り
プレミアムカロリミットの事例では、定性調査を使いカロリミットに期待するイメージを明らかにしていきました。
もともとカロリミットは、明るく、楽しく、食事を続けながら健康を保てるという顧客価値を大切にしてきました。ファンケルは消費者へのインタビューであらためてその価値がどう受け取られるかを確認しました。
とくに、ダイエットをうまく続けられない人や、食事制限をしたくない人にも、カロリミットが打ち出す食べる楽しみを維持できるというブランドイメージが持たれていることについて、定性的に把握できたとのことです。
パッケージデザインの細やかなニュアンスを把握
先に定量調査で比較検討したパッケージデザインでしたが、実はその前に定性調査で20種類以上の案から絞り込んでいました。
インタビューによって、消費者が 「この色合いだと高級感はあるけれど、ちょっと敷居が高く感じる」 、「こっちはかわいらしいけど、効果が弱そうな印象を受ける」 といった声を直接聞くことによって、デザイン案ごとの特徴を見極められました。
アンケートなどの定量調査からの数字では捉えにくい微妙な感覚や印象を直に共有してもらえるのが、定性調査の良さです。
顧客セグメントへの深い理解
定量調査のデータから顧客セグメントをつくったあとに、重視するセグメントの人の実際の消費行動や心理、価値観などを深く知るために定性調査が活躍します。
さまざまな層の消費者がいますが、ダイエットに積極的な人、普段あまり健康を意識していない人、好きなものを食べることを優先しつつもサプリで健康管理をしたい人など、複数の消費者セグメントが存在します。
その中から特に自社商品が重視するセグメントを選び、インタビューなどの定性調査から少人数にひとりずつじっくりと話を聞くことによって、消費者が大事にしている価値観や抱えている悩み、普段は表面化しにくい困りごとなどを通して消費者を深く理解できます。
定量と定性の連携と効果的な使い分けのポイント
ここまで見てきた定量調査と定性調査は、それぞれの特徴を捉えて組み合わせることで真価を発揮します。
ファンケルのプレミアムカロリミットの事例でも、「定性 → 定量 → 定性 → 定量 ……」 という流れを行き来しながら、商品開発やマーケティングの精度を高めていきました。
では最後のパートでは、定量調査と定性調査を効果的に連携させるためのポイントを整理します。
「仮説の構築」 に定性調査、 「仮説の検証」 に定量調査
定性調査と定量調査の2つは役割が異なります。
インタビューや観察などの定性調査で、「こういう困りごとがありそう」 「こんな便益を求められているかも」 といった仮説を見つけます。次に、その仮説がどれほど多くの消費者や顧客に当てはまるのかを定量調査で検証します。
定量の数字を見たときに、定性調査では熱い意見が多かったものの、実際にはまだ一部の特定の人だけに当てはまる気持ちだったと気づくこともあり、逆に実はこの切り口が意外と大きなニーズとして存在するという場合もあるでしょう。
こうした定性から定量をつなげることで、課題の抽出や消費者理解が質と量で深まります。
定量調査で問題が浮かんだときこそ、定性調査で深掘り
順番が逆のパターンもあります。
数値的に 「あまり満足度が高くない」 という結果が定量調査から出たとき、それがなぜなのかの要因を探るには、定性調査が有効です。たとえばパッケージの評価が低いことがわかったとして、どういう印象から低評価になったのかは、直接意見を消費者に聞かないとわからないでしょう。
ファンケルは、パッケージ変更による認知度の変化や、価格に対する納得感を分析しましたが、その裏側にある消費者の声の把握に努めました。
関係者との共有と合意形成
定量調査から得られる数字は、社内での説明や判断を下す際に客観的な説得力を持ちます。一方で、定性調査で得られる具体的なエピソードやリアルな肌感覚のある消費者や顧客の声は、関係者からの共感や理解を深めるのに役立ちます。
たとえば 「認知率 80% 、実際に手に取る割合がそのうちの 30% 」 という数字だけでは動かなかった意思決定者も、「手に取る人はこういう理由や期待をしていた」 、「なぜならそれは…」 という定性調査からの消費者心理や洞察を伴えば、手に取る人という 30% の意味合い、今後どうすればもっと数字を上げられるかへの議論や合意形成しやすくなります。
このように、数字に裏打ちされた具体的なストーリーを描けるのが、定量と定性を連携させるメリットです。
まとめ
今回は、ファンケルのダイエットサポートサプリである 「プレミアムカロリミット」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 定量調査は大規模サンプルから数値データを収集・分析する。どれだけの人が、どの程度そう思っているかを把握するのに適している
- 定性調査は少人数から洞察を得る。なぜそう思うのか、どう感じているのかという背景を理解する
- 定性調査で発見した仮説を定量調査で検証し、定量調査で見つかった問題・課題を定性調査で深掘りするという相互補完から循環的な活用が効果的
- 定量データの客観性と、定性データの具体性を組み合わせると納得感のある判断がしやすくなる。関係者の合意形成や意思決定を促進できる
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