投稿日 2025/08/30

中古スマホ販売が過去最高に。ドライバーを強化しバリアを解消する、「買う理由」 と 「買わない理由」 の攻略法

#マーケティング #ドライバー #バリア

自社の商品やサービスには、消費者や顧客から本当に 「選ばれる理由」 を持っているでしょうか?

企業は自社商品の魅力を伝えることに注力しますが、消費者や顧客企業が 「 (実は欲しいのに結局は) 買わない理由」 を取り除くことも同じくらい重要です。

今回は、活況を呈する中古スマホ市場を例に、なぜ人は買うのか、なぜ買わないのか、その心理メカニズムを解き明かしていきます。

中古スマホ販売が過去最高に


中古スマートフォンの販売台数が、直近5年連続で過去最高を更新しています。

中古スマホと新品スマホの販売数状況

MM 総研の調査によると、中古スマホ販売台数は2023年度には前年度比 16.6% 増の272万8000台を記録しました。この勢いは今後も続くとみられ、2028年度には438万台に達すると予測されています。

中古スマホ販売台数が好調な一方で、新品スマホの人気は陰りを見せています。

出荷台数のピークは2021年度の約3385万台で、2023年度には約2547万台まで落ち込みました。2024年度は若干持ち直したものの、2000年代後半のスマホ登場以来、2023年度に次いで2番目に少ない出荷台数です。

この結果、新品・中古スマホの合算台数に占める中古スマホの比率は、2023年度で過去最高の 9.7% にまで上昇しました。今後もこの割合は増えていきそうです。

中古スマホの人気要因

中古スマホが選ばれる理由のひとつは、新品スマホの価格高騰です。

例えば、中古スマホ市場で人気の高い iPhone の新品価格は、2022年発売の iPhone 14 以降、税込み10万円を超えるようになりました。最新モデルの iPhone 16 は同12万4800円 (標準モデル 128GB) です。

国の施策も新品価格の高騰に影響を与えています。

総務省は2016年に 「実質0円スマホ」 の販売を規制して以来、通信キャリアの割引制度に度々メスを入れ、端末価格の適正化を図ってきました。2024年末にも、総務省はスマホの下取り価格に対する規制を発表し、高額下取りによる実質的な新品スマホの値下げを制限する動きを見せています。

新品離れの理由はスマートフォンの性能面にもあります。

スマホの最新モデルの進化が AI 実装が中心となる一方で、多くの消費者は本当に今 AI がそれほど求められることなのかというのは個人的には疑問です。

スマホ端末の耐久性向上も中古スマホ市場を後押ししています。2020年ごろ以降に発売されたスマホなら、Android の格安モデル以外は、基本的に購入から5年ほどは正常に動作します。これにより 2 ~ 3世代前の中古スマホでも数年は十分に使えるというイメージが消費者の間に広がりつつあります。

* * *

では、中古スマホの事例から学べることを掘り下げていきましょう。

ここからは 「ドライバー」 と 「バリア」 をキーワードに、学べることを見ていきます。

ドライバーとバリア


ドライバーとバリアは、消費者やお客さんの行動に影響を与える要素です。矢印の向きは正反対になりますが、まずはドライバーから見ていきましょう。

ドライバー

何を買うシチュエーションに当てはめると、購入ドライバーは、人が商品やサービスを購入する主な理由や動機です。

たとえば、商品が自分向けだと感じる、こんな価値がありそう (期待価値) 、あの人がおすすめしていた、タイミングよくセールをしていていつもより安いといったことが購入への背中を押し、ドライバーになります。

購入ドライバーはお客さんの商品・サービスへの関心を高め、最終的には購入につながる要因となります。

バリア

次にバリアです。バリアの意味は 「障壁」 というニュアンスです。

購入におけるバリアは、人が商品やサービスを今買わない要因、購入プロセスを遅らせたり意図せず止めてしまう障害となることです。

たとえば、ほしい商品が高価格なので手が出せないという価格の障壁、もう少し商品情報や使っている人の感想・口コミを知りたいがどこにも載っていない情報不足、SNS でネガティブな投稿を見てその商品へのマイナスのイメージを持ってしまったというブランドイメージの悪化、他にもっといい商品が見つかったという代替品の存在や期待もバリアです。

こうした購入バリアがあることで人は買うという気持ちには至らず、売り手にとっては販売機会を失う要因になります。

ドライバーとバリアのふたつは、たとえバリアを取り除いたとしても、もう一押しとなるドライバーがないと、結局は買われないということもあります。

中古スマホ購入へのドライバーとバリアの解消


ここで中古スマホの話につなげます。中古スマホの活況は、ドライバーが強まり、バリアが低減された結果と言えるでしょう。

ドライバーの強化

中古スマホの購入を後押しする主なドライバーには、次のようなものがあります。

1つ目は 「スマホの性能向上による耐久性アップ」 です。

スマホの基本性能が向上し、2 ~ 3世代前のモデルでも十分に実用できる期間が長くなりました。結果、少し前の型落ちでも支障なく使えるという認識が広がり、中古スマホを現実的な選択肢に入れることもめずらしくなくなりました。

2つ目のドライバー要素は 「価格面の魅力」 です。

最新モデルの高価格化や、政府の割引規制強化によって新品が手に入りにくくなる一方、実用十分な中古を安価に買えることが、購入の後押しとなります。新品スマホの価格高騰に対する代替として中古スマホの存在感が高まっているわけです。

3つ目の要素は 「2台目・サブ用途の需要増」 です。例えば、

  • 在宅勤務における社用端末としての利用
  • 推し活でのチケット争奪戦用に複数台を用意したいユーザー
  • Uber 配達員など、環境的に端末が壊れやすい仕事・用途に使う


これらの 「どうせそんなに高機能・高価格のスマホを必要としない」 という状況やシーンでは、中古スマホへのニーズが高まります。

バリア (購入障壁) の解消

では次に、かつて中古スマホの購入をためらわせていた主なバリアと、その解消要因を整理してみましょう。

1つ目のバリアは 「中古スマホへの品質の不安」 です。

中古はちゃんと動作するのか、不具合があるのではないかといった中古品の品質に対する不安がバリアでした。

このバリアの解消には、ゲオやソフマップなどの中古スマホ専門店が品質管理を強化しています。たとえば、店頭での電源投入による状態確認や、専門知識を持つ相談員の配置などが進んでいます。

2つ目のバリアの要素は 「個人情報漏洩への懸念」 です。

スマホの売却時のデータ消去が不十分で個人情報が漏洩するのではないかという不安も、中古スマホ取引のバリアとなっていました。

それに対して、ソフマップでは専用機器とソフトウェアによる確実なデータ消去をアピールしています。他には伊藤忠商事の子会社 Belong が運営する 「にこスマ」 では、国内外の通信キャリアも利用するデータ消去・機能検査のソフトウェアを活用します。

3つ目のバリアとして 「購入後の保証の不透明さ」 もあります。

中古スマホは新品に比べて保証が手薄いというイメージがあり、故障時の対応などがバリアとなっていました。

ソフマップの EC サイト 「リコレ!」 では理由を問わず10日間の返品保証期間を設けています。また 「にこスマ」 では購入後1年間の無料返品交換保証サービスを提供します。

バリアを解消し、ドライバーを促進する


ここまで見てきた中古スマホ市場の事例は、マーケティングへの示唆を与えてくれます。

まず、注力顧客を定めることの重要性です。今回の中古スマホ市場では、価格に敏感な層だけでなく、推し活ユーザーや特定の業務利用を目的とする消費者層など、多様な顧客セグメントが見られました。

次に、お客さんの置かれた状況、大切にする価値観、求めるニーズ、満たされていない未充足ニーズなど、顧客文脈を理解することが大事です。どういった文脈において、消費者はなぜ中古スマホを選ぶのか、どんな点に不安を感じているのかを理解することによって、的確なアプローチが見えてきます。

そして、顧客理解を通してドライバーとバリアを把握し、バリアを最小化し、ドライバーを促進するマーケティングを展開することが求められます。

中古スマホ事業者は、品質保証やデータ消去といったバリア解消策を講じると同時に、価格の手頃さや特定用途への適合性といったドライバーを訴求することで、中古スマホ市場を拡大してきました。

このように、消費者の購買心理を的確に捉え、不安を取り除き、購入を後押しする要因を強化することが、ビジネスにおいて大切です。

まとめ


今回は、中古スマホの事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 顧客理解が全ての起点。まず誰を顧客とするかを定め、お客さんの状況や価値観、ニーズといった 「顧客文脈」 を深く理解する。ドライバー (購入動機) とバリア (購入障壁) を把握するための第一歩

  • 顧客の置かれた状況や用途などの顧客文脈によって、必要なドライバーと解消すべきバリアは変わる

  • ドライバーは購入の背中を押す要因。商品への期待価値、価格メリット、タイミングの良さ、推薦などが消費者の購入意欲を高める動機となる

  • バリアは購入を阻害する障壁。高価格、情報不足、品質への不安、ブランドイメージの悪化、代替品の存在・期待などが購入をためらわせる要因となる

  • ドライバーとバリアはセットで捉える。購入障壁を取り除いただけでは不十分で、購入を後押しする積極的な理由も同時に提供することが重要


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。