#マーケティング #ブランディング #本
自社のブランドは、お客さんにどのようなイメージを持たれているでしょうか?
ロゴや広告だけでは、本当の意味でのブランドは築けません。企業が提供する商品やサービスはもちろん、そこに込められた想いや一貫した顧客体験こそが、お客さんの心に残るブランドです。
ブランドとは、企業からの 「約束」 であり、長期的な信頼の積み重ねによって生まれます。
今回は、書籍 ザ・ブランド・マーケティング - 「なぜみんなあのブランドが好きなのか」 をロジカルする (スコット・ベドベリ, スティーヴン・フェニケル, 土屋京子, 関野吉記) を取り上げます。
ナイキやスターバックスのブランド構築を手掛けた著者が明かす、ブランドマーケティングについて、ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
本書の概要
ザ・ブランド・マーケティング - 「なぜみんなあのブランドが好きなのか」 をロジカルする (スコット・ベドベリ, スティーヴン・フェニケル, 土屋京子, 関野吉記) は、ナイキやスターバックスでブランド構築をリードした著者による、ブランドマーケティングの基本原則をまとめた書籍です。
著者のスコット・ベドベリは 「ブランディングこそマーケティングの基本」 と述べます。ブランドとは何か、いかにしてブランドを築けば企業が成功できるのかを明らかにします。
消費者や顧客の心に刻まれる体験や信頼こそがブランドの本質であり、長期的に積み重ねることの重要性が強調されています。
著者が手掛けたブランディング
本書の第2部では、成功したブランド事例の分析としてナイキやスターバックスのケーススタディが紹介され、ブランド戦略の具体像が語られます。ナイキとスターバックスのいすれも、著者が実際にブランド構築を手掛けた事例で、リアリティのある話を興味深く読めます。
まずはナイキから詳しく見ていきましょう。
ナイキのブランディング事例
ナイキの事例では、1988年に展開した 「Just Do It」 がブランド戦略の成功例として取り上げられています。
Just Do It は 「挑戦し行動する姿勢」 を消費者に力強く訴求し、ナイキのブランドイメージを強固にしました。ナイキは Just Do It によって老若男女問わず多くの人々に自分の可能性を信じて踏み出す勇気を与えることにより、ナイキという存在をスポーツとパフォーマンスの象徴的なブランドとして位置づけようとしたのです。
本書では、ナイキ社内でかつて議論となった 「コアなスポーツ市場に特化すべきか、フィットネス市場にも広く参入すべきか」 という論点への意思決定が紹介されます。
その当時、ナイキの中では一部には 「フィットネス = 軟弱」 という見立てからフィットネス市場への参入に抵抗があったそうです。しかし、最終的に 「ナイキはスポーツをするあらゆる人の居場所になる」 という理念のもと、フィットネス市場への参入を決断しました。
この判断は、ナイキがブランドをより広く位置づけ、フィットネスへの人々の関心の高まりという市場トレンドに適応しつつ、ブランドの間口という対象顧客を広げた戦略的な意思決定だったのです。
結果、ナイキはプロアスリートだけでなく一般の消費者にも支持される世界的なブランドへと成長し、自社の理念である 「If you have a body, you are an athlete (体ひとつあれば、誰もがアスリートだ (→ 全ての人がアスリートになれる) ) 」 を体現するブランドになっていきました。
スターバックスのブランディング事例
では次に、スターバックスの事例です。
スターバックスのブランド戦略は、コーヒーという 「モノ」 だけではなく、お客さんがスターバックスで得られる 「コト (体験) 」 に重きを置きます。
スターバックスは創業当初から一貫して広告に頼らない方針を取り、マーケティング予算を広告に投下せずにブランドを築き上げてきました。
その代わりに、スターバックスは徹底した従業員教育と企業文化の醸成に注力しました。
例えば、新入社員への研修、店舗スタッフであるバリスタへのトレーニングプログラムなどを充実させ、従業員が自社ブランドの価値を理解し体現できるようにしています。これにより、全ての店舗で同じ高い品質の接客とコーヒー体験を提供できるようになります。また、社員に対する手厚い福利厚生や会社への連帯感の醸成にも力を入れています。
こうした社内に矢印を向ける "インターナルマーケティング" によって、スターバックスの従業員は他のサービス業よりも高い水準の態度や行動でお客さんと接するようになります。それが消費者からのスターバックスへの信頼と好感度向上に貢献します。
スターバックスのコンセプトは、店舗がコーヒーを提供する場にとどまらず 「第三の場所 (Third place) 」 という、家庭と職場ではない第三のくつろぎと交流の場になることです。スターバックスが提供するコアバリュー (中核的な顧客価値) は、コーヒーを介したすばらしい出会いと体験にあります。
スターバックスのブランドのアイデンティティは、最高のコーヒー豆を正しく淹れること以上に、「コーヒーを通じて人々に豊かな体験を提供すること」 です。
本書では、こうしたブランド設計をスターバックスがどのようにつくりあげたのかを興味深く読めます。
2つの事例からのブランディングの本質
ナイキとスターバックスの事例から学べる教訓は、強いブランドは一貫したメッセージと体験を通じて、消費者やお客さんの心に訴えかけるという点です。
ナイキは 「Just Do It」 のメッセージで世界中の消費者の背中を押し、スターバックスは 「Third place (第三の場所) 」 という体験価値で日常を豊かにし、それぞれブランドの支持者を生み出しました。
2つの事例は、ブランドマーケティングにおいて、お客さんとの感情的なつながりやブランド体験の設計をどうつくるかへの示唆を与えてくれます。
本書のブランド観
著者のスコット・ベドベリのブランドに対する視点や主張は、本書で一貫しています。
それは 「ブランドは企業の魂そのものであり、長年にわたる顧客との関係性の積み重ねによって形づくられるものである」 ということです。
私の解釈や考察も入れながらですが、詳しく見ていきましょう。
ブランディングとは
著者独自の印象的な定義として、ブランディングとは 「製品の価値や意味を高めることである」 という表現があります。
一見すると平凡に見える製品やサービスであっても、ブランディングによって、やり方次第でお客さんにとって特別な意味を持つものに変えられるわけです。
また、「商品は顧客がエクスペリエンス (体験) を得るための単なるモノにすぎない」 とも述べられます。商品というモノ自体よりも、商品を通じて得られる体験価値に重きを置くべきだという考え方です。
このように、著者はブランドを顧客視点で捉え直します。商品の機能的価値に加え、体験価値や情緒的価値までをも提供し、他にはない意味合いをつくり出すというのがブランディングの本質であると主張します。
ブランドは約束であり体験である
本書では 「商品やサービス自体は時代と共に変化しても、顧客の心に残る体験こそが最終的にブランドを定義する」 という考え方が強調されています。
ブランドは顧客に対する 「約束」 であり、約束を守り続けることで信頼が築かれます。そしてお客さんの期待を常に上回るような価値提供を続けることによって、ブランドの価値は一層高まるのです。
例えば、「人の人格は日ごろの行動によって定義されるが、ブランドもまた同じだ」 という説明や、 「強いブランドは常に首尾一貫して前向きな感情を顧客に喚起し、新しい製品やキャンペーンを打ち出すたびにブランドはパワーを増す」 と書かれています。
これら一貫性と継続的な進化の両立こそがブランドを生き生きと成長させる秘訣だとする著者の信念が読み取れます。
ブランドは顧客の記憶の総和である
著者は 「ブランドとは顧客の心の中に形成される記憶や印象の集積であり、それには信頼と愛着が欠かせない」 と述べます。 ブランドは一朝一夕につくられるものではなく、長期的な良質な製品・サービスの提供と誠実な企業行動によって培われるという考えです。
「どんなにお金をつぎ込んでも愛着や信頼は買えない」 というのが著者の言葉です。巨額の広告予算を投下してもブランドへのロイヤルティはお金で買えないことを強調します。
まず良い商品と事業運営があってのブランド
著者のベドベリは、「勝ち残るブランドは、最初からブランドありきで事業を始めたのではない。まず消費者がそれを望み、企業が利益を上げられる優れた商品やサービスを用意し、事業を支える組織作りに全力を注いだ上で、本格的なマーケティングとブランディングに乗り出すものだ」 と述べています。
これはどんな業界でも当てはまり、商品・サービスの質とビジネスモデルという土台無しに、ブランド戦略だけが先行しても成功はしないでしょう。
ブランドは良い顧客体験をもたらす商品があってこそです。そして商品の意味合いが加わったことの結果として、お客さんの頭の中にできるものです。
企業の内なる価値観と一貫性の重要性
著者は、企業が明確な目的 (パーパス) や価値観となるとして 「ブランドの魂」 を持ち、社員一人ひとりにまで浸透させ共有できなければ、どんなマーケティングを試みても顧客と深い共鳴を得ることはできないと説きます。
言い換えれば、ブランドは社内文化と切っても切り離せないということです。従業員がブランドの理念を理解し体現してこそ、顧客にも価値が伝わり強い絆が生まれます。
著者自身、スターバックスでの経験から、従業員教育や福利厚生を充実させ社員のモチベーションとサービス水準を高めることがブランド価値向上につながったことを書いています。
このようなアプローチは 「インナーブランディング (社内に向けたブランディング) 」 となります。
社会的責任とブランド
企業ブランドには社会に対する責任が伴います。
ブランドが単に自社利益のためだけでなく、社会全体にポジティブな影響を与える存在であるべきだという理念です。 SNS 時代においては企業の不正はすぐに暴露される可能性があり、倫理的に振る舞い社会から尊敬されるブランドこそが持続的に支持されるでしょう。
マーケティング戦略としてのブランディングにとどまらず、企業の存在意義と結びついたブランド論で、本書の主張です。
以上のように、本書のブランド観は 「内外に一貫した価値観を持ち、顧客との信頼関係と感情的つながりを長期的に育み、約束を示すもの」 に集約できます。
派手な広告や流行りの手法よりも、地道な企業努力と理念の共有によって築かれるものです。結果として顧客から選ばれ、愛されるブランドが生まれるのです。
まとめ
今回は、書籍 「ザ・ブランド・マーケティング - 「なぜみんなあのブランドが好きなのか」 をロジカルする (スコット・ベドベリ, スティーヴン・フェニケル, 土屋京子, 関野吉記) 」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ブランドとは商品に意味と価値を付加するもの。ブランドは約束であり、企業の魂であり、長年にわたる顧客との関係性の積み重ねから、顧客の心の中に形成される記憶や印象の集合体
- 消費者の期待を上回る体験を提供し続けることで、ブランドの価値が高まる。ブランドは顧客への継続的な価値提供によって信頼が生まれる
- ブランド構築には、優れた商品やサービスがあり、強固な事業基盤を確立することから始まる。ブランド戦略だけを先行させても成功は難しい。良い商品があってのブランド
- 企業の内なる価値観と一貫性がブランドを強くする。社員ひとりひとりがブランドの理念を理解し、体現することで、顧客にもブランドコンセプトが伝わっていく
- ブランドには社会的責任が伴う。企業は自社の利益だけでなく倫理的に振る舞い、社会全体にポジティブな影響を与えることで、長期的なブランド価値を確立できる
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