#マーケティング #脇役戦略 #共存
会社や自社のブランドは、市場で 「主役」 になろうとしているでしょうか?
ビジネスは 「どうすれば競争に勝ち、市場で中心的な存在になれるのか?」 を考えるのが一般的です。しかし、すでに確立された他の主役がいる舞台 (市場) では、真正面から勝負を挑むよりも、主役を引き立てながら共存する道のほうが、うまくいくことがあります。
ご紹介したい香川県の 「ベジテインちくわ」 は、うどんという主役に挑戦するのではなく、サイドメニューという 「脇役」 に徹することにより独自の存在感を発揮しています。
大手と正面から勝負せず、むしろ既存のメイン商品と共存する道を選ぶ――。
今回は、主役に成り代わるのではなく、寄り添うことで選ばれ続ける 「脇役戦略」 の秘訣に迫ります。
ベジテインちくわ
香川県といえば 「うどん県」 として知られ、うどんの消費量が全国トップクラスです。
うどん中心の食生活は炭水化物が多く、野菜の摂取量が不足しがちになり、糖尿病や高血圧といった生活習慣病のリスクが高いという課題が指摘されています。そうした健康課題に対し、新たな問題解決策として開発されたのが 「ベジテインちくわ」 です。
ベジテインちくわは、香川県観音寺 (かんのんじ) 市の山地蒲鉾 (やまぢかまぼこ) と、高松市の食品加工会社 TGK アグリが共同で開発したちくわです。
特徴は、ベジという言葉が商品名に入っているように植物 (しょくぶつ) 由来のたんぱく質が入っていることです。魚のすり身に野菜の粉末を練り込み、生野菜よりも効率的に野菜の栄養を摂取できるようになっています。
ベジテインちくわには、食後の血糖値を穏やかにするとされる 「イヌリン」 が多く含まれます。うどん県である香川県の県民病ともなる糖尿病を少しでも予防しようという狙いが込められています。
ベジテインちくわは、うどんを提供する飲食店でのちくわ天として130円程度で提供されるなど、手軽に試してもらいやすい価格帯を実現しています。
地元香川のうどん文化を損なわずに、ヘルシーな付加価値を加える手段として、新たな選択肢になりつつあることでしょう。
脇役戦略
では、今回の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
ご紹介した 「ベジテインちくわ」 は、野菜入りのちくわというよくある食品に思えます。しかし、その裏には 「うどんという存在を差し置いて自らが "主役" になるのではなく、あくまでサイドメニューである "脇役" として価値をもたらす」 という明確な戦略を見て取ることができます。
商品開発やマーケティング施策では、どうすればメインの座を奪えるか、いかに競合から自社商品へのスイッチ (リプレイス (置き換え・代替) ができるかという視点で考えることが通常です。
しかし、多くの顧客や事業資本のある企業が存在する市場では、正面から大手とぶつかって市場シェアを奪おうとしてもハードルが高いというのが現実です。それよりも、自社は決して大手になれない・ならないのであれば、存在感のある商品・サービスが持つ文脈を前提として活かしつつ、自社商品の価値を付け加えて共存していくというアプローチが有効です。
ベジテインちくわは、このような 「脇役戦略」 の観点で示唆があります。「主役を置き換えず、むしろ主役に寄り添い、新たな付加価値を提供する」 という発想が功を奏しています。
脇役ポジションで選ばれ続けるために
では、脇役戦略をどのように展開していくといいのかについて、いくつかポイントを考えていきましょう。
主役 (メイン商品) の存在を前提とする
脇役戦略の大前提となるのは、市場をすでに確立しているメイン商品という主役の存在を活かすという考え方です。
ベジテインちくわの事例でいうと主役は讃岐うどんです。香川県民はもちろん、県外からの観光客も含め、多くの人が香川ではうどんを食べるという気持ちを持っていることでしょう。それだけ讃岐うどんへのニーズは根強いということです。
ここにあえて新しい主役を用意して 「うどんをやめてこちらを食べてください」 という形で闘いを挑むのは得策ではありません。うどんが好きな人やうどんを食べに来た人に、うどんの代わりのものを食べるてほしいと提案しても、受け入れられないでしょう。
そこでベジテインちくわは、うどんを食べること自体を変えるのではなく、うどんのお店に足を運ぶ人が、ついでにちくわ天を取るときに野菜も食べてもらい、その状況でベジテインちくわが選ばれることを目指しているわけです。
リプレイスではなく共存を狙う
脇役戦略の考え方で重要なのは、主役のリプレイスを目指さず共存を狙うという点です。
ベジテインちくわは、うどん自体を健康的に変えてしまうという方法ではなく、あえてサイドメニューとしてのちくわになることにフォーカスしました。うどんとちくわという従来の関係性を壊さずに、自然に溶け込むことができます。
もし 「野菜うどん」 のような新しい食べ物を独自で作ろうとすると、よほどの完成度にならない限り、普通のうどんのほうがおいしいと思われ、野菜うどんをあえて選ぶ状況をつくるのは難しいでしょう。調理をするお店側も、ゆで汁の管理や仕入れコストなどで尻込みする可能性もあります。
一方で、脇役としての立ち位置なら、うどんという主役に与える影響は小さく、店舗も導入しやすい状況になります。
消費者の行動も大きく変わりません。普段通りにうどんを食べるという行動のまま、ちくわ天をベジテインちくわに変えるだけです。リプレイスという置き換えではなく共存だからこそ、消費者に受け入れられやすくなるわけです。
主役の価値を高める存在になる
脇役戦略で意識したいのは、脇役がいることで主役の魅力がさらに引き立つ状態をつくることです。
うどんをメインで提供する飲食店にとって、ちくわ天はサイドメニューのひとつとしてうどんのおいしさを際立たせる役割を担います。
ここに健康に良いという付加価値が加わえられれば、うどんを食べたいけど糖質ばかりで野菜不足が気になるという不安に少しでも応えることができます。うどんの食事体験をよりポジティブなものに変えられるわけです。
このように、脇役が主役を引き立て、主役を楽しむ人にとってうれしい存在になれれば、自然と主役と脇役がセットで選ばれる可能性が高まります。主役の魅力を高める脇役として機能することが、長く選ばれ続けるカギとなります。
共生から脇役として生きる道
脇役戦略は、なにも香川県のうどんに限られた話ではありません。巨大なメイン市場や人気コンテンツがあるところには、多かれ少なかれ脇役が入り込む余地が存在するはずです。
重要なのは主役と対立するのではなく、主役の存在を前提としたうえで自らの価値を打ち出し、共生をはかることです。
ベジテインちくわの事例は、うどんという揺るぎない主役に挑むことはやらず、共に生きていく道を選んだ好例です。主役の横に控えながらも、消費者の野菜不足や糖尿病リスクといった社会的課題にアプローチし、新しい選択肢として消費者から選ばれることを目指しています。
脇役として、主役とともに消費者の心をつかむことを目指す。メインとなる既存商品をリプレイスするだけがマーケティングではないのです。
まとめ
今回は、ベジテインちくわを取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 脇役戦略とは、主役をリプレイス (置き換えること) ではなく、主役の存在を前提として共存することを目指す戦略
- 主役の魅力を高める立ち位置をとり、補完的・付加的な価値を提供することで、競争ではなく、主役とセットで選ばれる状況をつくる
- 既存の消費習慣や行動パターンを大きく変えることなく、自然に受け入れられる形で新しい価値を提供する。新しい習慣を強要することなく、すでにある行動の中で自然に選ばれることを目指す
- 主役との関係性を可視化することで、どのように主役の商品やサービスと相性が良いのかをアピールし、共生のメリットを伝える。消費者や販売者にとって 「これがあるとより良い」 と思えるストーリーを打ち出す
- たとえ脇役であっても、社会的な課題や消費者の潜在的な悩みを解決する要素を加えるといい。健康や環境など、消費者が求める便益を入れることで選ばれ続ける存在になる
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