#マーケティング #引き算の戦略 #コアバリュー
ポテトチップスといえば 「うす塩味」 が定番で当たり前、そう感じている方は多いのではないでしょうか。
カルビーが "味付けなし・食塩不使用" のポテトチップスを発売しました。
今回は、背景と新商品がもたらす学びを掘り下げつつ、「引き算の戦略」 について解説します。
カルビーの 「味付けなし・食塩不使用」 ポテトチップス
カルビーが 「休塩おやつ」 シリーズとして食塩不使用のスナック3種を発売しました (リリースはこちら) 。
3つは、「素材がおいしいポテトチップス プレーン」 、「Jagabee プレーン」 、「miino 素材がおいしいそら豆プレーン」 です。
名前の通り、食塩を使わずに素材本来の味わいを追求しています。
誕生のきっかけ
誕生した背景は、カルビーのお客様相談室に寄せられた 「素材の味を楽しめる商品がほしい」 「子どもに与えやすい」 という要望を受けてのものです。
また、塩分摂取を控えたいという健康志向の流れも後押しになりました。こうした消費者の要望を受け、 「塩味=ポテトチップスの定番」 という前提を覆して生まれたのが本商品の特徴です。
商品の特徴
ポテトチップに塩を使わないことで、じゃがいもの自然な甘みや香りをよりダイレクトに味わえるお菓子です。
食塩不使用という大胆な決断は、長く愛されてきた既存の商品イメージをあえて覆すカルビーの挑戦といえます。
また、「素材がおいしいポテトチップス プレーン」 は厚切りフラットカットとし、食感にこだわりました。パリッと噛んだときの素材感が特徴的です。
カルビーは食のサステナビリティに関して 「2030年までに食塩無添加・低塩・減塩商品の拡大を目指す」 というビジョンを掲げています。今回のプレーンポテトチップスの発売は、具体化した一例です。
スナック菓子の塩味という "当たり前" を取り除いたことで、新しいニーズに応えるユニークな価値を提案しています。
学べること
では、ここからは今回のカルビーの事例をもとに、マーケティングへの汎用的な学びを紐解いていきましょう。
既存の 「当たり前」 を疑う
ロングセラー商品や定番商品には 「必ず ○○ が入っている」 や 「これからもずっとこういう味付けである」 といった常識が存在します。企業側も消費者側も、疑いようのない前提として長年にわたって定着している認識です。
しかし、本当にそれは絶対に必要なものでしょうか?
今回の事例でカルビーが注目したのは、「ポテトチップス = 塩味」 という常識でした。当たり前だと思い誰もが疑問を抱いていなかった 「ポテトチップの塩味」 を取り去ることによって、本当に必要なのは何かを消費者に投げかけたわけです。
これはマーケティングにおいても同様です。
日々のマーケティング活動の中でいつものプロセスや施策が定着していないでしょうか。実は、そこには新たな変化や価値を生むきっかけが眠っています。当たり前を一度白紙に戻すことによって、新しいアイデアを見つけられます。
コアバリューを見極める
当たり前を疑った後の次のステップで重要なのは、「そもそもどんな価値を顧客に提供するための商品・サービスなのか」 というコアバリュー (中核となる価値) の再定義です。
今回のカルビーの例で言えば、消費者へのコアバリューは 「じゃがいもの味や食感を楽しむこと」 にあります。今までは塩味は欠かせない要素でしたが、カルビーは 「塩がなくてもコアバリューは成り立つのではないか」 という大胆な発想になったわけです。
商品・サービスは、付随している要素が多くなるほど本質が見えにくくなります。たとえば複数のフレーバー、パッケージの装飾、特典などが増え続けると、コアバリューが埋もれてしまいます。
そこであえて減らしてみることで、実はこれが一番大事であるという本質を明確にすることができます。
より本質的な価値につなげる
当たり前の要素を取り除き、コアバリューを見極めた先には、残ったものを光らせるというプロセスが大事になります。
カルビーの事例では、ポテトチップなどから塩味を抜いたことが 「じゃがいもの風味」 や 「そら豆の素材感」 を存分に楽しめるスナック菓子になりました。素材そのものをおいしく食べたいという消費者ニーズや、塩辛い食べ物は控えたいというニーズ持つ消費者に、よりダイレクトに魅力を訴求できます。
今回のような 「引き算の戦略」 は、ただ単に要素を取り除いてシンプルにするだけでは十分ではありません。コアバリューに集中するために必ずしも必要ではない要素を省くことが狙いです。
余計なものがなくなると、残ったものがより際立ちます。大事なのは引き算をした答えに本質的な顧客価値があることです。
引き算の戦略
それでは 「引き算の戦略」 について、ビジネスやマーケティングで活かすための大事なポイントを3つに絞って整理してみましょう。
コアバリューを明確にする
まず何を削るかを考える前に、そもそも消費者やお客さんが求めているのは何かを明確にすることが重要です。
カルビーの事例であれば、「じゃがいものおいしさ」 「素材の味を深く楽しめる」 というのがコアバリューでした。商品の軸となる本質的な顧客価値をはっきりしない中での引き算は、本当に大事なものも取り除いてしまいかねません。
あえて捨てる覚悟を持つ
定番やロングセラーであればあるほど、「この要素は絶対に外せない」 「一度加えた機能を外すのは怖い」 と考えてしまうでしょう。
しかし、必要のない何かを捨てる決断をしない限り、いつまでもコアバリューは埋もれてしまったままです。カルビーがポテトチップでの塩味という常識を捨てたように、利用者の声や消費者の嗜好・ニーズの変化を捉えて、思い切った決断と実行をする強い意思が必要です。
引いたものに顧客価値があること
引き算とは、言ってしまえば 「手段」 にすぎません。引くことによって顧客価値を生み出すことが大事です。
ただなくす、ただ機能を減らすでは意味がないわけです。今回のカルビーの場合、塩分を摂らなくて済む、子どもに安心して食べさせられる、素材の味が楽しめるという顧客価値がもたらされます。引いた結果として得られる顧客価値を実現することが引き算の戦略になるのです。
引き算の戦略をとることで、長年の慣習やもしかすると惰性で続けてきた中に存在する要素にチャンスが潜むことを教えてくれます。思い切った減らす手段は検討する値するアプローチです。
まとめ
今回は、カルビーの 「味付けなし・食塩不使用」 のポテトチップスを取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 既存の 「当たり前」 を疑い、コアバリューを再定義する。長年の定番商品ほど不要な要素が固定化しやすい。何が本当に必要なのかを見極め、顧客にとっての価値を再考する
- 引き算によって 「残った価値」 を際立たせる。ただ要素を削るのではなく、コアバリューを邪魔する要素を取り除くことで、本質的な価値を引き立たせることができる
- 削ることで新たな顧客ニーズを取り込めるチャンスが生まれないかを考えてみるといい。既存顧客だけでなく、新たな顧客層へアプローチできる可能性が生まれる
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