投稿日 2025/08/28

ファンケル 「スキンコンディショニング洗顔」 に学ぶ、良い顧客インサイトの5つの条件

#マーケティング #顧客理解 #顧客インサイト

うちの商品は悪くないはずなのに、なぜかお客さんに響かない…。そんな悩みを感じたことはないでしょうか?

もしかすると、お客さんの "本当の気持ち" を捉えきれていないからかもしれません。

表面的な消費者ニーズや顧客ニーズだけでなく、本人も気づいていない深層心理である 「顧客インサイト」 に触れることができれば、商品開発やマーケティングは格段に変わります。

今回は化粧品のファンケルの事例をもとに、顧客インサイトの基本から、良いインサイトに必要な5つの条件まで、詳しく見ていきます。

ファンケルの "保水洗顔" 



ファンケルは従来からさまざまな洗顔料を提供してきましたが、新しく発売された 「スキンコンディショニング洗顔」 は、肌のコンディションを守る保水を特徴として打ち出す洗顔料です。

不要な汚れを落としながら、洗い流す時にアミノ酸系の洗浄成分が水と合わさって保水膜を作ります。肌の潤いを守ってくれるクリームタイプの保水洗顔料です。

洗顔後にすぐスキンケアをしなくてもいいというのがうれしいポイントです。

顧客インサイト


では、ファンケルの 「スキンコンディショニング洗顔」 の事例から学べることを掘り下げていきましょう。

マーケティングの重要な概念である顧客インサイトに学びがあります。

お客さんを動かす隠れた本音

顧客インサイトとは 「お客さんを動かす隠れた本音」 です。表面的な言動や、本人が自覚している顕在化ニーズではなく、心の奥に眠っている気持ちを指します。

顧客インサイトが隠れているのは、お客さん自身がまだ言葉にして説明できないモヤモヤ状態だったり、本音を他人には言うのは恥ずかしいので言いたくない、あるいはそもそも本人も気づいていない深層心理だからです。

たとえば、ある消費者が 「今はそこまで困っていない」 と言っていたとしても、実は 「もっとラクをしたい」 とか 「人前でキレイに見られ一目置かれたい」 といった、本人も言語化しきれていない思いや願望があったりします。

良い顧客インサイトの5つの条件

ビジネスとして活用できる顧客インサイトは、次のような5つの条件を満たすとパワフルになります。

  1. ハッとさせる新たな発見や驚きがある
    すでに常識となっているようなありきたりな情報ではなく、お客さんのことを 「実はそんなこと考えていたんだ」 「そう言われると確かに」 と思える気づきを与える

  2. 発想を広げるインスピレーションが生まれる
    顧客インサイトがもとになり、「それなら、こんな商品があったらワクワクする」 「こういう使い方ができたら便利そう」 といったアイデアが広がる

  3. 担当者が自分の中で心から腑に落ちている
    顧客インサイトを扱う担当者が、インサイトの内容に腹落ちできる。納得感や共感のないままでは、どこかふわふわした企画になりがち

  4. 一行で言い表せ、誰もが理解できる明確な言葉にできている
    顧客インサイトが言語化され、端的なワンフレーズで言い表せるのが理想。誰もが同じイメージを共有できるよう、シンプルな言葉に落とし込まれている

  5. 人間らしさや人間の本能・本質がある
    顧客インサイトを知って 「それって、人として自然だよね」 「そう感じるのって当たり前だけど言われるまで気づかなかった」 というような、人間の本能や本性など人としての本質とリンクしている


これらの5つの条件がそろうと、顧客インサイトはただの思い付きのレベルを超え、多くの人に刺さる発見として商品開発やマーケティングで起点となる役割を果たせます。

ファンケルの事例から学ぶ顧客インサイト


それでは、ファンケルの 「スキンコンディショニング洗顔」 に、良い顧客インサイトの5つのポイントを当てはめて見ていきましょう。

新たな発見や驚きがある

ファンケルは、化粧品についての要望を一人ひとりに徹底的に聞き取るデプスインタビュー調査からわかったのは、肌の乾燥を恐れるあまり、洗顔してすぐにスキンケアをするユーザーの多さでした (参考情報) 。定量調査からも、洗顔後5分以内にスキンケアをするユーザーの割合は全体の約6割に達していたことが判明しました。

これが意味するのは、保湿のために化粧水などを使ってスキンケアを急いですればよいと考える消費者が多いということです。

洗顔とは顔の汚れを落とすものという見立てに対して、肌の乾燥を恐れるという本音は新たな発見でした。

発想を広げるインスピレーション

ファンケルは消費者調査から得られた、洗顔後すぐにスキンケアをするという実態、その背後にあるであろう消費者心理として 「洗顔後をそのまま放って置くと肌に悪い」 「なるべく早くスキンケアをしないと肌が傷んでしまう」 といった不安から、新商品のアイデアの方針が見えてきました。

消費者の懸念を和らげるような 「洗顔後のすぐにスキンケアをしなくても大丈夫な洗顔料をつくる」 という路線に着地したのです。

消費者が保湿のために慌ててスキンケアをしなくて済み、肌のコンディションまで整えてくれるという洗顔料ならば、消費者はこれまでにない商品として魅力を感じてくれるというインスピレーションが広がりました。

そこから、組織の垣根を超えた横断チーム内でたどり着いたキーワードは 「保水」 です。洗顔時に顔を洗う水を味方につけ、保水によって肌の潤いを守り、コンディションを良くしていくという意味合いを込め、 「スキンコンディショニング洗顔」 と命名されました。

商品のコンセプトとなる言葉、実際のプロモーションで発信していく言葉、そして商品パッケージの3つが連動する商品になったのです。

担当者が腑に落ちている

ファンケルの今回の事例では、研究開発や商品企画、広告宣伝など部署をまたいだチームが最後まで消費者調査を重ね、発売を年単位で遅らせてでも妥協しなかったとのことです。

初期に見出した顧客インサイトについて、量的な確からしさ、反映した商品コンセプトの消費者の受容性など、関係するメンバー全員がインサイトを起点にした新商品について 「本当にコレはイケる!」 となるまでやり抜いたわけです。

現場だけではなく、経営陣まで顧客文脈や商品開発の経緯を理解した体制があったからこそ、"保水洗顔" という新しい切り口での新商品が生まれました。

一行で言い表せる明確な言葉

スキンコンディショニング洗顔のコンセプトである 「洗顔しながら保水できるので、洗顔後にすぐにスキンケアをしなくてもいい」 というのは、一行のフレーズでわかりやすい内容まで落とし込まれています。

マーケティングコミュニケーションにおいても 「保水洗顔」 というキーワードを軸にして訴求することによって、作り手や売り手だけではなく消費者もファンケルの新しい洗顔製品は保水ができる洗顔という特徴がピンとくるようになるでしょう。

人間の本質や本能に根差している

自分の肌が荒れたりパサつくのは嫌という感覚は、多くの人が共感する人としての欲求です。さらに掘り下げると、いつもまで若々しい自分でいたい、美しくありたいという普遍的な欲求も垣間見えます。

洗顔後に肌が乾燥し無防備なままの状態にしておきたくないので、あわててスキンケアをするという行為、その奥にある気持ちは、人としての本能や本性に根ざしたものです。

顧客インサイトの重要性


では最後のパートでは、なぜ顧客インサイトが重要なのかについて整理して終わります。

日本の多くの商品やサービスのカテゴリーでは、品質面はある程度均質化し、どれを選んでも大きな不満が出にくい状態にあります。極端に粗悪な商品はほとんど見かけることはなく、そうなると消費者は、これが絶対欲しいというほどの強い動機をなかなか抱きにくくなります。

このような市場環境下において、どの商品も他と似たようなものと思われれば自社商品は埋没してしまいます。そこで重要になるのが、顧客インサイトという 「人を動かす隠れた本音」 に刺さることです。

お客さんが自覚していない心のスイッチポタンを掘り起こし、心に響くメッセージを伝えることが、商品の存在意義を明確にします。

顧客インサイトを発掘でき、5つの条件を満たせば、その恩恵は計り知れません。

顧客インサイトがあることで、欲しいと思われる商品の開発ができます。消費者の潜在的な悩みや望みを叶える商品を生み出せます。

また、効果的なコミュニケーション展開につながります。顧客インサイトにもとづいた訴求はお客さんの共感を呼びやすく、見せられれば 「これこそ自分が欲しいもの」 と思ってもらえます。

お客さんの中に隠れている顧客インサイトを洞察できるということは、それだけ自分たちのお客さんのことを深く理解できる能力や体制が社内にあるということです。

顧客インサイトは、自社の競争優位を確立します。

参入しているカテゴリーでは消費者からすると同じような機能をもった商品が並ぶ中でも、顧客インサイトをいち早く発見し、的確に打ち出した企業は消費者から評価され、競合よりも優位に立ちやすくなります。

ファンケルの 「スキンコンディショニング洗顔」 も、洗顔による乾燥を不安視し、それを避けるためのスキンケア習慣の奥に消費者の隠れた本音を突破口にしました。顧客インサイトを起点に、水を味方にする保水洗顔という新しい特徴的な洗顔製品を生み出したのです。

たとえ成熟市場であっても顧客インサイトをしっかりつかむことにり、消費者は 「その商品を選ぶ理由」 に気づき、共感や納得のうえで手に取りたくなるでしょう。

まとめ


今回は、ファンケルの "保水洗顔" を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

✓ 顧客インサイトとは
  • お客さんを動かす隠れた本音
  • 表面的な言動や自覚している顕在ニーズではなく、消費者自身も言語化できていなかったり、あるいは意識すらしていない深層心理や本能的な欲求のこと
  • 品質が均質化した市場環境において、顧客インサイトまでの深いレベルで顧客理解ができると、魅力的な商品開発ができ、共感を呼ぶコミュニケーションなどマーケティングも可能に

✓ 良い顧客インサイトの5つの条件
  1. ハッとさせる新たな発見や驚きがある
  2. 発想を広げるインスピレーションが生まれる
  3. 担当者が自分の中で心から腑に落ちている
  4. 一行で言い表せ誰もが理解できる明確な言葉になっている
  5. 人間らしさや人間の本能・本質に根差している


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。