投稿日 2025/08/27

日清食品のブランディング。"変えてはいけないこと" を知っているから、全てを変えることができる

#マーケティング #ブランディング #コアバリュー

なぜあの商品は何年も愛され続けるのか――。

日々新商品があふれ、商品やブランドの寿命はどんどん短くなっています。かたや、何十年にもわたって人々に選ばれ続けているロングセラー商品も存在します。

その秘密は 「変えないこと」 と 「変えること」 のバランスにあります。時代の変化に合わせて進化しながらも、決して失わない "何か" があるからこそ、長く愛されるブランドになれるのです。

今回は、日清食品のカップヌードルやチキンラーメンを事例に、ロングセラーブランドを育てるブランディングの秘訣を紐解きます。

日清食品のロングセラーブランド


私たちの暮らしに長く存在するロングセラーのブランドは、飽きられることなく何十年も支持を得ているものです。

そうした商品には共通するのは、ただ同じものをつくり続けるだけではなく、時代や生活者のニーズに合わせて進化を遂げている点があります。

その代表例が、日清食品の 「カップヌードル」 や 「チキンラーメン」 です。カップヌードルは1971年、チキンラーメンはさらに前の1958年に誕生し、いずれも半世紀以上を経過したロングセラーです。

発売当時から今も味やブランドイメージを大きくは変えずに、しかし細かな部分では新しい要素を常に取り入れながら進化し続けていることが、長期的な支持の要因となっています。

たとえば、カップヌードルは素材を発泡スチロールから紙主体へと切り替えたり、ふた止めシールを廃止して W タブにしたりと、環境配慮や利便性に合わせて小さな変化を積み重ねてきました。

2020年に誕生した、高たんぱく・低糖質の 「カップヌードル PRO」 は、従来品より栄養面を考慮しつつカップヌードルのおいしさを維持し、消費者の健康志向の高まりに応えました。

チキンラーメンではひよこちゃんのキャラクターデザインを刷新したり、SNS にマッチする 「ひよこあにき」 という新キャラクターを登場させるなど、若年層に向けた取り組みも行っています。

学べること


日清食品の事例は、ブランディングへの示唆に富みます。

一言で表現をすれば、「変えてはいけないことを知っているから、残りの全てを変えることができる」 というものです。

コアバリューを明確にする

ブランディングを考える場合、「ブランドのコアバリュー」 を明確にすることが大事です。

コアバリューとは、商品やサービスが世の中から支持される、お客さんからブランドが選ばれる理由の根幹となる顧客価値です。

カップヌードルであれば 「カップにお湯を注ぐだけで手軽に食べられる」 「世界中で愛される味」 、チキンラーメンであれば 「お湯をかけた瞬間に広がる香りと優しい味」 「昔ながらのどこか懐かしい味」 といった部分がコアバリューでしょう。

もしここを安易に変えてしまえば、 「もうカップヌードルじゃない」 「チキンラーメンらしさがなくなった」 と思われかねません。

消費者が商品に対してどのようなイメージを抱いているのかを把握し、コアバリューをきちんと言語化することが重要です。

ブランディングに取り組む際は、お客さんは本質的に何を魅力に感じているのかを理解し、根本の価値を見失わないようにする必要があります。

 「変えてはいけない部分」 を守るからこそ大胆な改革ができる

コアバリューをしっかりと把握し、変えないと決めたら、それ以外の部分は大胆に変えたとしてもブランドイメージを毀損するまでには至りません。

日清食品がさまざまな挑戦をしている背景には、守るところを守れば、あとは変えていけるという自信があるからこそでしょう。

日清食品はこのコアバリューを決して崩さないまま、時代の変化によって生じる課題や新たなユーザーニーズに対し、柔軟に商品をアップデートしてきました。

たとえば、カップヌードルのふた止めシールを廃止して W タブを採用したときも、コアバリューである 「食べやすくておいしいインスタントラーメン」 という軸を外していないからこそ、ユーザーからの反発はなく受け入れられたわけです。味はそのままに、機能性と環境配慮の側面をプラスするだけにとどめたことで、ポジティブな印象を持ってもらうことに成功しました。

他には、日清はカップヌードルやチキンラーメンなどのブランド名やロゴなどのブランドの象徴は大きくは変えていません。パッケージが持つ色味や形状のイメージは、数十年かけて浸透しているブランド資産です。日清食品はそれらを大きく崩さないようにしつつ、キャラクターや装飾、周辺要素で変化をつけています。

また、ブランドはこうであってほしいという消費者からの認識や期待にも、日清は裏切ることはしません。

カップヌードルなら 「ワクワクしながらふたを開ける体験」 、チキンラーメンなら 「ちょっとほっこりするような愛らしさ」 です。こうした消費者の心に根付いた感覚を壊さないように配慮しています。

一方、それ以外の容器素材やシールの有無、キャラクターの設定、キャンペーン施策などは、日清は積極的に変えていく姿勢を打ち出します。

顧客と共創するコアバリュー

ブランドが築き上げてきたイメージを毀損するリスクを恐れて、中途半端な改良に終始してしまう企業は少なくありません。

しかし、消費者のライフスタイルは少しずつでも確実に変わる市場環境において、本当に守るべきものは何かを見極め、それ以外は積極的に変えていくことが、ブランドがこれからも存在意義を打ち出すために欠かせません。

ブランディングでは 「何を守り、何を変えるのか」 の線引きが肝になります。

その答えは結局のところ、消費者や顧客がどこに価値を感じているかというコアバリューに尽きます。日清食品は多角的なリサーチを行い、消費者の本音を把握しながら、変えないコアバリューを明確にしているからこそ、ブランドは長く継続できるのでしょう。

まとめ


今回は、日清食品の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にロングセラーの秘訣を、ブランディングの観点での5つのポイントにまとめておきます。

  • コアバリューを明確に定義する。商品が長く支持される本質的な理由 (顧客価値) を言語化し、一貫性を持って守り続ける

  • 変えるべきものと変えないものを区別する。ブランドの象徴 (名前, ロゴ, 基本的な顧客体験) は維持しつつも、それ以外の要素は柔軟に変化させる。時代のニーズに合わせた小さな進化を続ける

  • 消費者を理解する。消費者や顧客が本当に求めていることを探求し続ける

  • 若い世代の取り込みを怠らない。新しい顧客にアプローチする仕掛け (SNS, キャラクター刷新, 新商品の投入など) を定期的に行う

  • 顧客との共創。ブランドの価値をお客さんとともにアップデートしながらつくっていく


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。