#マーケティング #データ分析 #示唆だし
ビジネスの現場でデータを活用する際、どのように意思決定につなげるかは企業が抱える課題です。
今回は、ビジネスメディアの 「Harvard Business Review」 に掲載された P&G の事例から、データ分析結果を意思決定につなげる秘訣を紐解きます。
P&G がデータから導き出すもの
Harvard Business Review に 「How P&G Presents Data to Decision-Makers」 という記事が掲載されていました。記事は2013年4月のものですが、内容は古びていなく示唆に富むものです。
この記事には、P&G が意思決定に際してデータをどのように使っているかが詳しく紹介されています。
P&G では、データダッシュボード、ヒートマップをはじめとしたチャートなどを有効に活用している様子が示されます。意思決定者は、リアルタイムに近い形でデータから実績や状況を把握できるため、会議でも効率的かつ早く議論を進められているようです。
Harvard Business Review の記事で強調されていたのは、P&G が 「今何が起こっているのか (what) 」 を理解するだけで終わらないことです。その先にある 「なぜそれが起こったのか (why) 」 、そして 「次にどのようなアクションを取るのか (how) 」 こそが重要であると。
記事の中からそのまま抜粋すると、次のように書かれています。
The real goal is to help them understand quickly what’s going on in the business, and to decide what to do about it.
P&G’s CIO Filippo Passerini calls it “getting beyond the what to the why and the how.” If decision-makers have to spend too much time with the data figuring out what has happened in an important area of operations, they may never get to why it happened, or how to address the issue.
本当のゴールは、ビジネスで何が起こっているかを早く理解し、それに対して何をすべきかを決定できるようにすることだ。
P&G のフィリッポ・パッセリーニ CIO は、これを 「What (何を) を超えて Why (なぜ) 、How (どのように) を理解すること」 と呼んでいる。意思決定者が、業務上の重要領域で何が起こったのかを把握するために、データに多くの時間を費やさなければならないとしたら、なぜそれが起こったのか、どのように問題に対処すべきなのかにたどり着くことは決してできないだろう。
強調されているのが、“getting beyond the what to the why and the how.” というフレーズです。
データから 「何が起こったか (what) 」 を見抜くことでとどめず、「なぜ起こったのか (why) 」 と 「どう対処すべきか (how) 」 を突き詰めるところにたどり着くことの重要性を言っています。データ活用の本質を突いた視点です。
P&G からの示唆
では、P&G のデータ活用の考え方から、汎用的に学べることを掘り下げていきましょう。
What ばかりに時間をかけすぎる弊害
データ分析に携わっていると、どうしても what の部分、つまり 「何が起こったか」 を明確にする作業に多くの時間をかけてしまいます。大量のローデータを整形し、どのような分析方法が適切かを考え、計算ロジックや集計手順を試行錯誤しながらレポートやグラフをつくります。
このプロセス自体は決して無駄なことではなく、品質の高いアウトプットを出すためには必要な作業です。
ただし、what への作業に没頭しすぎてしまうと、肝心の 「なぜこの結果になったのか (why) 」 と 「どうやってこの状況・問題を改善するのか (how) 」 を考える時間が足りなくなる可能性があります。
データ分析やレポート作成に多大な労力を割いた結果、上司や担当役員に提出したり説明をするときにはもう締切ギリギリ…。踏み込んだ考察と提案を練る時間が確保できないという経験は、データ分析を実務で担当した方は誰もがお持ちではないでしょうか。
Harvard Business Review の記事に出てくる P&G の考え方は、こうした落とし穴を回避するうえで示唆に富みます。データ分析結果の背後にある背景や理由をつかみ、具体的な改善アクションまで導き出すためという視点まで持つことが重要なのです。
Why と How までが重要な理由
もちろん 「何が起こったか」 という what を把握することは、ビジネスにおいて必要です。
たとえば自社ブランドの売上推移がどう変化しているかを適切に把握できなければ、次の打ち手を検討しようにも判断材料が不足してしまいます。
しかし、売上が 「下がった」 と事象や結果がわかっただけでは十分とは言えません。そこからさらに一歩踏み込むことが求められます。
- なぜ変化したのか?価格が影響したのか、競合他社のプロモーションが要因なのか、そもそもの消費者の価値観やトレンドに合わなくなったのか
- その変化に対してどんな施策を打ち、どうすれば目標とする売上を達成できるのか?
このように why と how まで検討してこそ、データを活かした意思決定ができるようになるわけです。
「本当に大切なこと」 に時間を使う
ここまでの内容から、ではどうすれば what の先の why と how まで行き着くことができるのでしょうか?
データ分析において本当に大切なことに時間を使うためにはどうすればいいかを考えていきましょう。
たとえば自社ブランドやサービスの売上データを集計するケースに当てはめてみます。自分で一から集計プロセスを進める場合、次のような手順を踏むことになるでしょう。
- 分析対象となる売上データや顧客データをシステムから抽出
- 必要な項目ごとにデータクレンジングし加工
- 集計テーブルの設計と作成
- 集計結果を分析。集計エラーがないかを確認する
このように分析するローデータから集計・分析に至ります。ここで忘れてはならないのは、この作業範囲はあくまでも 「売上の結果はどうだったか (What) 」 への数字を出す工程に過ぎないということです。
あなたの多くの時間を割いてようやく分析をして売上結果、売上の要因分解を出したとしても、その先がなければデータ分析から価値を生み出せていません。
つまり、「売上結果をどう読むか」 「なぜそうなったのか」 「どこに一番のボトルネックがあるか」 などの why 、そして 「売上を回復させる課題は何か」 「具体的な打ち手への示唆は何か」 まで how を十分に考察したり議論できなければ、せっかくのデータ分析が宝の持ち腐れのようになってしまうのです。
What の先の Why と How へ
P&G が重視していることのポイントは、最終的にアクションが取れる状態にいかに早くたどり着くかです。
判断の前提となる what をつかむためのプロセスを効率化し、より多くの時間を意思決定の根拠となる why と、アクションへの示唆とする how に振り向けられる環境や仕組みを整えることが大事なのです。
事象の背景や問題の根っことなる why を考えるには、数字だけでなく現場や顧客の声、競合の動向といった定性情報とのすり合わせも欠かせません。
データ分析チームや担当者だけでなく、営業や顧客サポート、商品開発といった現場からの生の情報を集めて総合的に判断する。そして、では次に行動すればいいかという how の精度も高めていく。
そこまで踏み込んで初めて、データが意思決定やアクションに結びつき、ビジネス成果につながっていきます。
まとめ
今回は、P&G のデータ分析への考え方を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- データ分析で集計やグラフ加工に時間をかけすぎると、肝心な意思決定や改善策の検討に十分な時間を割けなくなる
- データ分析で大事なのは 「What (何が起こったか) 」 を知ることだけでなく、「Why (なぜ) 」 と 「How (どう対応するか) 」 まで考えること
- 質の高い意思決定には、数値データだけでなく現場の声や顧客の声などの定性情報も組み合わせて総合的に判断する
マーケティングレターのご紹介
マーケティングのニュースレターを配信しています。
気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。
マーケティングのことがおもしろいと思えて、すぐに活かせる学びを毎週お届けします。レターの文字数はこのブログの 3 ~ 4 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。
ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。
こちらから登録して、ぜひレターも読んでみてください!