#マーケティング #戦略 #引き算
多くの企業は、売上を伸ばすために 「あれもこれも」 と施策を増やしてしまいがちです。しかし、戦略で本当に大事なのは 「やること」 以上に 「やらないこと」 の決断です。
今回ご紹介するスーパーマーケットのクックマートは、特売チラシもポイント制度もなし、それでも消費者から熱狂的に支持され、売上を伸ばし続けています。その理由は 「引き算の戦略」 にありました。
では、クックマートは何をやめて、何に集中したのか?その選択がどのように競争優位を生んでいるのでしょうか?
食品スーパー 「クックマート」
クックマートは、愛知県東三河エリアと静岡県浜松エリアを中心に展開する食品スーパーです。
多店舗展開を急がず、それぞれの店舗をじっくり成長させることで売上をつくる独自の戦略をとっています。
クックマートの特徴をいくつか見ていきましょう。
独自商品へのこだわり
クックマートが力を入れているのは 「商品の鮮度」 と 「魅力的なオリジナル商品」 です。
総菜コーナーやベーカリーコーナーでは手作り・できたてを徹底し、ユニークな商品が売られています。
例えば、サイズも名前もパンチが効いた 「でぶパン」 や、生クリームと果物がたっぷり挟まった 「フルーツサンド」 が人気商品です。
現場主導で生まれる新商品
クックマートでは、どのオリジナル商品も本部からの指示によるものではなく、現場の店舗スタッフのアイデアから生まれます。スタッフによる 「こんな商品を作ってみたい」 、「良いと思い試しに置いてみたら実際に売れた」 という、現場感覚を尊重する文化が根付いています。
クックマートの本部にいるスタッフは十数名と人数は少なく、各店舗のチャレンジを後押しする体制が整っています。
特売チラシやポイント還元がない
一般的なスーパーなら、集客策としてチラシやポイントカードを導入するのが定番です。しかし、クックマートはこれらを一切やっていません。
その代わりに、クックマートでしか買えないユニークな商品、品質を保つ鮮度管理、各店舗の裁量で来店客を呼び込むことに力を入れ、リピート率を高めています。安さやポイントに依存しない魅力づくりがクックマートの特徴です。
学べること
では、クックマートの事例から学べることを掘り下げていきましょう。
学べるのは、戦略とは何か、引き算の発想で生み出す顧客価値です。
戦略の本質
戦略とは、目的を達成するための 「やること」 と 「やらないこと」 の決めごとです。
戦略は目的達成のリソース配分の方針となります。リソースとは人・物・金です。個人でも同じで、何に時間やエネルギーを使うかです。
目的達成のための 「やること」 と 「やらないこと」 において、戦略の肝は後者の 「やらないこと」 にあります。何をやらないかが明確だからこそ、残ったやることにリソースを注力できるわけです。この意味において、戦略をつくるのは 「やらないこと」 を明確にするためと言ってもいいくらいです。
戦略としてやることを 「あれもこれも」 と考えられる全てに手を出すのは、戦略的ではありません。戦略の要諦は意思を持って何を捨てるかだからです。戦略では 「あれもこれも」 ではなく、「あれかこれか」 という A or B です。算数で表現すれば足し算でやることを積み上げるのではなく、引き算の発想をします。
どこに集中し、どこを捨てるのかという 「A か B か」 を選ぶ覚悟が必要です。この決断ができるかどうかで、戦略が機能するかが決まってきます。
では、戦略の考え方をクックマートに当てはめてみていきましょう。
クックマートは、短期的な売上アップに効果的ともいえるチラシやポイントといった集客策を捨て、独自さを際立たせる道を選びました。それは同時に、鮮度管理やオリジナル商品開発に一気通貫で力を注ぐ体制づくりにもつながっています。
やること
クックマートが選んだ 「やること」 は、大きく以下の3つにまとめられます (参考情報) 。
- 店舗スタッフのアイデアをフットワーク軽く商品化
- 既存の定番商品を横展開しながら、売れ行きの良い店ではさらにバリエーションを増やす
- 地元のお菓子メーカーや製造業者とのコラボ商品 (例: ブラックサンダーサンド (ブラックサンダーを製造する有楽製菓の工場が愛知県豊橋市にあることが縁で商品化) を積極的に開発して話題性をつくる
✓ 鮮度と手作りへのこだわり
- 魚や肉は地元ブランドや地元漁港・農家から仕入れ、鮮度の高い生鮮食品をそろえる
- 総菜やパンなどは店舗内で調理・製造し、できたてを提供する
✓ 店舗への権限委譲と現場主導の運営
- 本部の人員は最小限にとどめ、店舗マネージャーや担当者が現場で大半の意思決定を行う
- 各店舗ごとに異なる商圏特性や顧客層に合わせた商品の取捨選択を任せる
- 失敗を恐れず挑戦できる社風を育み、スタッフのチャレンジ精神や意欲を高める
これらの 「やること」 に対して、必要な経営資源をしっかり投じることにより、クックマートは独自性を打ち出しているのです。
やらないこと
その一方で、クックマートが明確に 「やらない」 と決めたことがあります。
- ポイントカードを運用するコストや、そのためのシステム投資をしない
- 消費者にはポイント還元ではなく、商品や店舗体験の魅力で来店してもらう
- クックマートにとっては、ポイント割引に左右されない価格設定・販売計画が立てやすい利点がある
✓ 特売チラシを発行しない
- 特売チラシを使うと全店舗で同一商品・同一価格を打ち出す必要があり、現場の裁量で柔軟に動けなくなる
- 商品部が一方的に計画しても店舗で在庫ロスや値下げにつながりやすい
- チラシ作成に割くコストと手間を、店舗オペレーションや商品開発にまわす
✓ 店舗数拡大を優先しない
- とにかく出店を増やすのではなく、既存店を 「地域一番店」 に育てる方針
- 一店舗あたりの売上高を高め、販管費の比率を下げることで利益率を向上させる
- 大型本部の管理ではなく、店舗主導の少数精鋭本部を維持できる
これらはいずれも、クックマートが商品力と鮮度で勝負するという軸を際立たせるための "引き算" です。何をやらないかがはっきりしているからこそ、やるべきことが明確になり、スピーディーな意思決定と実行ができるわけです。
リソースを集中させる対象
やらないことを捨てて余力が生まれたリソース (経営資源) は、クックマートはどこに集中しているのでしょうか?
人、モノ、金の順に見ていくと、
- 店舗スタッフに権限を与え、アイデアを実行しやすい仕組みを整える
- 本部は十数名のみで最小限の管理に徹し、店舗との密な連携が取りやすい体制を実現
- 新しい商品開発やディスプレイ演出など、来店客の買い物体験を高める活動に人材を配置する
✓ [モノ] 品揃えの拡充
- 地元魚介類や地域ブランド肉を大量に仕入れ、地場色の強い品揃えを実現
- 売り切り前提の大量陳列で、お得感と活気を演出
- 加工設備や調理機材など、店舗での手作りをサポートするための投資を惜しまない
✓ [金] 顧客価値への投資
- ポイント制度やチラシ作成に投じる予算をゼロに近づけ、その分を商品の開発費や仕入れ費、店内の演出費用に回す
- 地元企業とのコラボやイベントなど、店頭で消費者に直接訴求できる施策に投資
- 廃棄リスクを最小化するために、店舗ごとの販売データ分析・発注精度向上にも費用を充てる
こうしたリソース配分が機能することによって、豊富な独自商品、鮮度重視、現場発想、地域密着といった要素がクックマートの強みを生み出し、来店客の支持を集めています。
戦略の要諦
戦略で重要なのは、目的を達成するために、何をやり、何をやらないかを決めることにあります。
そして、やらないことを明確にすることで残ったやるべきことにリソースを集中でき、短期的な売上だけでなく長期的な消費者からの信頼やブランド力を高める道が開けます。
クックマートの考え方で根底にあるのは、品質の高い商品や接客も含めた買い物体験で来店客に喜んでもらい、たくさんの消費者に来てもらえたらさらに上を目指し、来てもらえなくなったら改善する。その繰り返しが 「商売」 であるというものです。
自らの信念である商売を体現するために、クックマートは 「やらないこと」 への大胆とも言える決断から、普通のスーパーとは一線を画す存在になりました。地域の消費者の心をつかみ、来店と買い物への熱量と高いリピート率を生み出しています。
クックマートの事例は、小売企業だけではなく他の業種の企業にとって、引き算を意識し実践する戦略に示唆があります。
まとめ
今回は、愛知と静岡にある食品スーパーの 「クックマート」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 戦略とは 「やること」 と 「やらないこと」 を決めること
- 何を捨てるかを明確にすることが大事。成功する戦略は 「あれもこれも」 ではなく 「あれかこれか」 の引き算の発想からの選択によって成立する
- すべてを追いかけるのではなく、やらないことを決めることで、強みにリソースを集中できる
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