#マーケティング #マーケティング文化 #組織開発
マーケティング活動が特定の部門に限られ、全社的な顧客目線が育ちにくい社内状況になっていないでしょうか?
ヒット商品を生み出している企業ほど、開発・生産・営業などのあらゆる部門でマーケティング視点が根づいています。では、どうすれば会社全体でマーケティングを機能させることができるのでしょうか?
今回は、菓子パン市場で存在感を放つ山崎製パンの事例から、全社的にマーケティングを取り入れる組織文化のつくり方を考えます。
山崎製パン
コンビニやスーパーで多様な商品が並ぶ菓子パンは、競合も多い激戦区。そのなかで高い存在感を放つのが、山崎製パンです。
山崎製パンは、スーパーやコンビニの棚に多くのパン製品を送り込み、次々とヒット商品を生み出しています。
例えば、2024年には 「薄皮たまごぱん」 という菓子パンが年間1,900万個を売り上げました (参考情報) 。
他には、
- 生クリームやカスタードとわらび餅風の餅を組み合わせた、新感覚の食感の 「ランチパックとろリッチ生」
- 生地に生クリームを加えることで口溶けの良さを追求した 「極生ドーナツ」
- 和洋折衷のチルドスイーツとして、涼しさや和の要素を感じさせる見た目と味わいの 「涼どら」
これらユニークなパンを生み出す山崎製パンの商品開発力の背景には、独自の仕組みがあります。
具体的には、女性開発担当者を中心とした現場主導の企画や、研究所と試作設備が一体化した拠点、そして工場ごとの地域限定テスト販売などです。
山崎製パンの全社的マーケティング
では、山崎製パンの事例から学べることを掘り下げていきましょう。
全社的にマーケティングを取り入れる組織文化をつくる方法への汎用的な示唆が得られます。
山崎製パンには、次のような特徴があります。
- 消費者目線を入れる人事と現場担当
- 部門横断でスピーディーな商品開発や改良
- 小さな実験とテストマーケティングを積み重ねる学習サイクル
順番に見てみましょう。
現場に浸透するマーケティングで全員が消費者視点をもつ
山崎製パンの事例で注目したいのは、現場にマーケティングが浸透しているという点です。
例えば、工場内には女性の開発担当者が200名ほど配置されており、彼女たちが SNS などでトレンドをリサーチしながら、自ら商品を考案しているとのことです。本社で企画をし、別の場所の工場で生産ではなく、工場がマーケティングの主体になるという発想が山崎製パンには根付いています。
マーケティング部署の担当者ではなくても、実際の生活者の視点から商品コンセプトを考え、販売現場まで一気通貫でつなげているわけです。これがうまく回り出すと、会社のあちこちで試作品が誕生することが期待できます。
他の業界でも応用できるポイントは、現場の当事者意識を高めるために、ある程度の権限を委譲することです。
もし上司の許可や複雑な会議を通さないと試作やテスト販売ができないのであれば、新しいアイデアは出にくくなります。
結果としてスピード感が失われ、せっかくいい案があったのに気づいたら他社に先を越されていたなんてことにもなりかねません。
研究と開発が近い環境から実現する商品開発
研究所と試作設備を一体化しているのも、山崎製パンから学べることです。
山崎製パンには、研究と試作を同じ施設内で行える 「山崎製パン総合クリエイションセンター」 があります。ここでは新しい製法や原材料を試す際にその場でパンを焼いてみることができます。研究担当者のアイデアが机上の話で終わることなく、すぐに実物として形になります。
研究部門と開発部門が物理的・組織的に分断され離れていると、お互いの情報共有が遅れたり、試作プロセスに余計な調整がかかってしまいます。
そこで、可能な限り研究と開発を近づけるという組織や環境を導入できるといいでしょう。例えば、小規模なスペースでもいいので、研究所の近くに試作施設やテストキッチンのような設備を置くだけでも、アイデアの具体化スピードは大きく変わります。
生産と販売が一体化した組織で早く PDCA をまわす
企業が新しいことに取り組むためには、「アイデア → 試作 → フィードバック」 というサイクルをいかに早く回すかがカギを握ります。
菓子パンはトレンドの移り変わりが早く、毎月のように新商品が売場に並びます。山崎製パンでは生販一体を重視し、生産部門と営業部門がペアになって商品企画の段階から動く仕組みを採っています。
会議でアイデアだけをこねくり回すよりも、実際に製造ラインでテストロットを作り、社内外の反応を見ながら次のアクションを考えるほうがはるかに早いことでしょう。
これを実現するために、試作品を作るだけの余力がある生産ラインを用意しておいたり、営業が需要を予測して投入規模を検討できるなどの体制づくりもポイントです。
小さく試して学ぶテストマーケティング
パンが売れるかどうかは、地域性やターゲット層によって変わります。
山崎製パンは全国に26の工場をもち、それぞれの工場が地域限定品を出せる体制が整っています。テストマーケティングの拠点が全国に点在しているわけです。うまくいった商品は広域で販売し、結果があまり良くなければ改良や販売終了を判断します。
また、山崎製パンが運営するコンビニ 「デイリーヤマザキ」 も、自社ブランドを優先的に展開できるチャネルとして機能します。新商品を実際に販売してみながらのテストマーケティングができます。得たフィードバックを次の商品に活かし、商品開発サイクルを途切れさせることなく回し続けられます。
ここでのポイントは、小規模でスタートして、早めに消費者からの反応を得ることです。
大きな費用や工数をかけた全国でのいきなりの投入は、成功すれば得るものは大きいものの、失敗時のインパクトも大きいというリスク (不確実性) が大きいものです。そこで、リスクを最小化するテスト販売は有効な手段になります。
組織文化にマーケティング定着を促すポイント
ここまで、山崎製パンの事例から全社的にマーケティングを浸透するための仕組みについて見てきました。
最後のパートでは、これを組織文化として根付かせるうえで大事なポイントを整理します。
権限委譲と当事者意識の醸成
担当者レベルで判断できる範囲を広げることによって、現場が主体的に顧客を意識して動くようになる。企画や試作の初期段階でスピード感が生まれ、アイデアの鮮度を保ちやすい研究開発と現場を近づける環境づくり
研究所のアイデアが形になるまでに時間がかかるという企業は少なくない。研究開発と現場を近づける環境をつくり、小さな試作が可能な環境を整えることにより、研究と商品化のサイクルが早まる部門横断での情報共有
生販一体で企画から実行まで見通せるようにしておくと、販売計画の精度や改良のスピードが上がる。部門間で 「あっちの部署に話が通らないから動けない」 という社内調整の手間やもどかしさを解消するだけでも、全体最適が進みやすくなる小さく試して、早く学ぶ
テストマーケティングを取り入れ、消費者・顧客の反応を見て、顧客ニーズをキャッチする。テストを入れることで仮に失敗しても傷はまだ浅く、テストから学び、次に切り替える"マーケティングは特定部門の仕事ではない" という意識づけ
商品やサービスが世に出て、お客さんがどんなシーンで使い、どのような価値を感じるかを顧客視点を考えるのがマーケティング。マーケティングの専門部署だけに限らず、開発部門や生産部門、他には人事部門などにも全社的に必要な感覚。マーケティングが浸透することで競争力を高める
こうした取り組みを通じて、山崎製パンは常に新しいアイデアを生み出し、全国各地の工場を巻き込んだ形でスピーディーに新商品を開発・発売しています。その結果として、菓子パン業界で安定したシェアを維持し続けているのでしょう。
企業はそれぞれの業態や組織規模に合わせた取り組みが必要ですが、権限委譲、研究開発と現場の近さ、テストマーケティングからの学習サイクルといった要素を組み込むことによって、より強いマーケティング文化が育ちます。
まとめ
今回は、山崎製パンの事例から、学べることを見てきました。
最後に組織にマーケティングを定着させる5つのポイントをまとめておきます。
- 権限委譲と当事者意識の醸成。担当者レベルで判断できる範囲を広げ、顧客を意識した顧客起点での主体的な行動とすみやかな意思決定を促進する
- 研究開発と現場を近づける環境づくり。試作やテストをすばやく実行できる設備やプロセスを整え、アイデアが形になりやすい環境にする
- 部門横断での情報共有と連携。開発・生産・販売などの各部門が連携し、企画から実行まで一気通貫で進められる組織構造を構築する
- 小さく試して早く学ぶ。地域限定販売などのテストマーケティングから、リスクを最小化しながら市場や顧客の反応を早期に把握。たとえうまくいかなくても、失敗から学んで次に活かす
- 全社的なマーケティングマインド。マーケティングは専門部署だけでなく全社員の仕事であるという意識を浸透させ、顧客目線を組織全体で統一する
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