投稿日 2025/08/21

オルビス ショットプラス。新たな販売チャネルの開拓からの新規顧客の獲得

#マーケティング #販売チャネル #新規顧客獲得

既存の販売チャネルだけでは成長の限界が見えてきた場合、新たなチャネルへの進出を検討することになります。

その際は戦略が必要です。どのようなお客さんに、どんな価格帯で、どういう形で提供するか——。これらを緻密に設計しなければ、チャネル拡大は期待した成果を生むことは難しいでしょう。

今回は化粧品メーカー 「オルビス」 の事例をケーススタディに、販売チャネル開拓と新規顧客獲得の秘訣を紐解きます。

オルビスの販路開拓


化粧品メーカーのオルビスは、2024年9月に 「オルビス ショットプラス」 というスキンケアシリーズを発売しました。

出典: PR TIMES

オルビス ショットプラスは1000円台前半という、スキンケア商品として低価格で参入しました。

オルビス ショットプラスは販売チャネルで戦略的な意味を持っています。それまでの自社 EC やオルビスの直営店ではなく、ドラッグストアや Amazon や 楽天市場といった大手 EC サイトを中心に展開している点です。

1000円台という低価格帯ながら、オルビスの高い技術が反映されたエイジングケアを体験できる商品を、これまでの直販店よりも多くの消費者に届けることを狙ってのことです。オルビスを初めて知る消費者もリーチしやすくなりました。

販路開拓から新規顧客の獲得


では、オルビスの事例から学べるポイントを掘り下げていきしょう。

新たな販路が新たな顧客接点に

新しい販売チャネルを開拓するときに大事になるのは、そのチャネルにどのような顧客層がいるのかです。

たとえばオルビスは、これまで主に自社 EC やオルビスの直営店でブランドのファンを増やしてきました。

これらの販売チャネルは、オルビスのことをよく知っていたりとオルビスに近い消費者が中心です。

それに対して、ドラッグストアや楽天市場などの大手 EC モールは、オルビスをあまり知らない消費者が日常的に利用する場所です。よく行くお店で新商品を見つけた、買いたいものがあって検索していたら、たまたま出てきたという偶然の出会いが生まれやすいところです。

消費者や企業が、普段どこで情報収集をしていたり買い物をしているのかを把握することで、既存チャネルだけでは届かなかった層との接点を見出せます。

新しいチャネル進出には売場特性への対応が必要

とはいえ、新しい販売チャネルで従来は接点がなかった潜在顧客が見つかったからといって、そのまま既存の商品設計や販売方法を持ち込んでも、うまくいくとは限りません。

チャネルによって競合状況や売れ筋商品、お客さんの来店や訪問、商品の探し方、買われ方、支払い方法までと、既存のチャネルとは違う可能性があるからです。

例えばドラッグストアなら、お店では他の競合商品のパッケージが棚にずらりと並びます。一瞬のうちに直感的に商品を選ぶ人も少なくありません。実際に手にとってもらうには、パッと見で 「何がいい商品なのか」 が伝わりやすいデザインや POP が求められます。

オルビスのショットプラスでは、それまでのミニマルなデザインにとどめず、店頭販促に適したわかりやすさを追求しました。

具体的には、化粧水のパッケージにビタミン C 誘導体やナイアシンアミドといった成分名を示し、エイジングケアに必要な成分がしっかり入っていることをアピールをしています。自社 EC であれば、商品ページに細かい説明を詳細に書くことで商品の良さを伝えられますが、ドラッグストアの店頭ではそうはいかないでしょう。

このように、どの販売チャネルに置くかが決まったら、そのチャネルの売場環境を研究し、どんな情報が必要か、どのような陳列や訴求が効果的かを考えることが大事です。

販売チャネルと製品特性の相性

もうひとつ、新たに販売チャネルを開拓するにあたっては、チャネルと製品の特性の相性も重要になります。

例えば、高級ブランドの高価格帯ラインをスーパーやコンビニに置いても、スーパー・コンビニの商品にしては高すぎると消費者が感じるでしょう。また、低価格帯の商品を百貨店で扱っても、百貨店に来るお客さんはある程度の高級感を求めているため、価格の割安感が強くなります。安すぎて不安だと思われる可能性もあります。

オルビス ショットプラスは1000円台という低価格帯です。エイジングケア技術を搭載しているので、ドラッグストアや大手 EC サイトで消費者から目にとまりやすい商品になっています。

普段からドラッグストアでスキンケア商品を買っている消費者は、限られた予算のなかでも成分や使い心地にこだわりたいと思っていることでしょう。低価格だけどちゃんとしたブランドの商品が欲しいというニーズにマッチするのがオルビスのショットプラスというわけです。

新規顧客を既存ブランドへの誘導

新しい販売チャネルで、新たなお客さんに最初の商品 (ブランドへの入口となる商品) を買ってもらえたら、そのお客さんに次にどう自社のほかのラインナップやサービスにつなげるかが大切です。

オルビスの場合は、低価格ながらもしっかりとした商品品質でオルビスへのブランドの信頼感を高め、今度はもう少し高い価格帯の美容液も試してみてもいいかもしれないと思わせる誘導をするというふうにです。

重要なのは、新規のお客さんがどんな行動をとりやすいかを具体的にイメージすることです。

  • まずドラッグストアでオルビス ショットプラスを購入
  • もっと詳しい情報や上位商品の評判を調べる。比較サイトや口コミを見たり、自社公式サイトを訪問する
  • そこで別の商品を見つけて、自社 EC で購入してくれる
  • 気に入ったらそのままリピートしてくれる


こうした流れをつくるために、商品のパッケージや EC からの配送での同梱物、SNS などで、「公式 EC をチェックしてみませんか?」 とさり気なくでも導線を用意しておくといいでしょう。また、店舗スタッフに情報を共有し、お店に来てくれたお客さんに、より高機能な商品もあることを自然に案内できる体制を整えておくのも手です。

新しいお客さんがせっかくブランドとの接点を持ち、初めて買って使ってくれたのに、そこで終わってしまったらもったいないですよね。気になったタイミングで顧客接点があれば、ブランド全体のファンへと成長してもらうチャンスを逃しにくくなります。

新チャネル進出によるブランドへのリスクと注意点


では最後のパートでは、販売チャネルを拡大することで起こり得るリスクや注意点についても整理しておきましょう。

販路の特性に合わせた商品展開

販売チャネルごとの売場特性を十分に把握せずに参入すると、在庫が増えてしまったり、価格帯のミスマッチで売場にそぐわなくなる事態を招きます。

ドラッグストアやスーバーでは食品や日用品、化粧品などは、競合が多い割にお店での商品棚のスベースや陳列が限られているので、販路の特性に合った商品を展開することが大事です。

販売チャネル間での競合

既存の直営店や自社 EC の売上が、新しいチャネルへシフトしてしまう可能性もあります。もともと自社 EC で買っていたお客さんが、ドラッグストアのほうが便利だからと買うお店を変えてしまうケースです。

オルビスのケースでは、ショットプラスはあくまで新規顧客の入口商品と位置づけ、自社 EC や他のチャネルの商品との棲み分けを意識しています。ある程度の販売チャネルの重なりは起こり得ますが、最小限に抑えトータルで販売チャネルの最適化をすることが重要です。

ブランドイメージの一貫性

新しい販路や、これまでとは違う価格帯の商品を出した結果、今までのブランドイメージ (例: 高品質なイメージ) が薄れる場合があります。特にハイブランドの場合は、購入者が 「安っぽい」 とか 「ブランドの価値が下がった」 と感じるかもしれません。

オルビスはショットプラスをあえてドラッグストアに向けた商品と位置づけし、従来の自社 EC や直販店と違いをつくることによりブランドイメージへのブレが生じること防いでいます。

* * *

以上が、オルビス ショットプラスの事例から学べるポイントです。

新規の販売チャネルの開拓は、新たに出店すればあとは売れると思われがちかもしれません。しかし、実際は売場特性、チャネル間の全体最適、ブランドイメージの維持など、さまざまな要素を総合的に考える必要があります。

これらをしっかり分析したうえで進めることによって、今まで届かなかったお客さんとの新しい顧客接点をつくれ、さらにブランド全体を成長させるチャンスをつかむことができます。

まとめ


今回は、オルビスの販売チャネル開拓の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 新たな販路は新しい顧客接点を生む。既存チャネルでは届かなかった見込み顧客にリーチできる

  • 販売チャネルと製品特性の相性を考えることが大事。 販路チャネルごとの顧客行動や売場環境 (競合商品や見せ方・売り方) を理解し、販路ごとの売場特性に適応する

  • 新規顧客を既存ブランドへ誘導する仕組みをつくる。新規チャネルで獲得した顧客を一度きりの購入で終わることなく、自社 EC や他の商品ラインナップへ誘導し、ブランド全体のファンになってもらう

  • 販路拡大に伴う既存チャネルとのカニバリを防ぎ、ブランドイメージを損なわないよう売りものと売り方で全体最適を図る


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。