#マーケティング #顧客理解 #仲人

ホンダが 2 ドアのスタイリッシュなスポーツカーである 「プレリュード」 を、24 年ぶりに復活させました。

今回は、この事例からマーケティングの本質とは何かを考えます。

ホンダ 「プレリュード」 の復活

出典: Car Watch

24 年ぶりにホンダが 「プレリュード」 という車名を復活させました。

ホンダのプレリュードは、1978 年に初代が登場した 2 ドアクーペです。

1982 年登場の 2 代目と 1987 年登場の 3 代目では、リトラクタブルヘッドライトを採用したスタイリッシュなデザインで大人気となり、当時の若い男性が女性をドライブに誘う 「デートカー」 として高い支持を得ました。

しかし 1990 年代に入ると、RV ブームの影響で遊びに使う車の主力が SUV やミニバンへと移行し、クーペ市場は縮小しました。

1996 年登場のプレリュードの 5 代目で、再起を図るべくスポーツ性能を強調するも不発に終わり、2001 年に販売を終了。プレリュードはその 23 年の歴史に終止符を打つことになります。

しかし、2025 年に 24 年ぶりにプレリュードが復活しました。

価格は 617 万 9800 円。趣味性の高い 2 ドアクーペで、2.0L エンジン仕様の 「e:HEV (ホンダが開発した独自の 2 つのモーターとエンジンを組み合わせたハイブリッドシステム) 」 を搭載したスペシャリティークーペで、シリーズ初のハイブリッドカーです。

月販計画 300 台に対して発売 1 カ月で計画の 8 倍の 2400 台を受注する好調なスタートを見せました。

マーケティングの 3 つのステップ

ホンダのプレリュード復活の成功は、マーケティングの基本に忠実に取り組んだ成果です。

お客さんを決める

ビジネスへの第一歩は、お客さんが誰かをはっきりさせることです。これができていないと、どんなにすばらしい商品を持っていても、買ってはもらえないでしょう。

ホンダは新型プレリュードにおいて、お客さんをひとまとめにせずに解像度高く注力顧客を定めています。

第一に、バブル期に青春を過ごした 50 ~ 60 代です。かつてプレリュードは 「デートカー」 と呼ばれ、恋人とのドライブの象徴でもあった車です。この世代の中には、もう一度クーペに乗りたいという潜在的欲求が残っていることでしょう。

第二に、Z 世代の一部である 20 代。ここには少数派ではあるものの、親が乗っていた、街中で見かけて憧れたなどの記憶から、プレリュードというブランドに共感する層が含まれます。

第三に、欧米の富裕層とアジアの富裕層です。かつて北米では 2 ドアクーペがセクレタリーカー (おしゃれな 2 ドアの小型クーペのこと) として愛された歴史があり、趣味性を求める層が一定数存在します。アジア地域でのホンダ人気の高さからも、特別感のある新たなクーペとして支持に期待できます。

ホンダは 2 ドアクーペ市場が消えたからやめるのではなく、「この車名とスタイルに意味を感じる人たち」 を丁寧に選び出したのです。

注力顧客を決める。これがマーケティングの一丁目一番地です。

お客さんのことを理解する

お客さんを決めたら、次は徹底的に理解するプロセスが必要です。

プレリュードの事例でも、注力顧客への理解の深さがはっきり見てとれます。

バブル青春世代にとっての困りごとは、趣味性のあるクーペに乗りたいが、市場から魅力的な選択肢が消えてしまったことでした。

また、Z 世代にとっては、親と共有するカーライフという最近の若者に見られる文脈があります。欧米の富裕層は、日常用途の SUV では満たされない特別感という心理的なニーズが存在します。

さらにホンダは、車に期待する価値について、2 人で過ごす移動時間の質という情緒的な価値も捉えました。子どもに手がかからなくなった夫婦の時間が戻ってくる、親子で車を共有する、趣味を共有する友人と出かけるなどのシーンで得られる価値です。

注力顧客はどんな生活をしているのか、何に価値を感じるのか。お客さんが自覚していない困りごとや満たされない感情を見つけることが大事です。

お客さんに商品の魅力を伝え、買ってもらう

商品ができたら、見込み顧客に知ってもらい、興味を持ってもらえ、購入への後押しをします。

大切なのは、お客さんの立場になって、相手の文脈に合った表現や言葉によって魅力を言い換えることです。

商品の特徴やお客さんにとってのメリットをわかりやすく伝え、相手が商品を自分ごと化でき、その価値にお金を払ってでもほしいと思ってもらえることを目指します。

ホンダは新型プレリュードのことを 「令和のデートカー」 と打ち出しました。

デートカーという言葉は昭和のイメージを持ちますが、ホンダはその意味を再定義。若い男女だけでなく、多様な 2 人連れがドライブを楽しめる車として価値を言い換えたわけです。

また、プレリュードの運転のしやすさ、快適な乗り心地、十分な積載能力という具体的な顧客メリットを伝えることで、お客さんが商品を自分ごと化できることを狙っています。

商品のスペックそのものを売るのではなく、お客さんの生活文脈や物語の中にプレリュードを置き直すという、相手の文脈に合わせた魅力の伝え方です。

マーケターの役割

お客さんに選ばれる状態をつくるために、私が大切にしている考え方があります。

Knowing the user, knowing the magic, and connecting the two.

私の前職は Google でした。Google には 5 年 5 ヶ月いてマーケティング部に所属していました。

Google のマーケティングの考え方に、こんな言葉があります (参考情報 / 詳しくは Google のグローバル マーケティング担当責任者とマッキンゼーとのインタビュー対談記事に書かれています) 。

英語ですが、「Knowing the user, knowing the magic, and connecting the two.」 。顧客を知り、自社の魔法を知り、その 2 つを結びつけるーー。

この考え方を一言で表すなら、「マーケターとは縁をつくる "仲人 (なこうど) " のような存在である」 ということです。

ここで少し、腕のいい仲人さんを思い浮かべてみてください。お見合いをする 2 人の片方のプロフィールだけを見て、「この人は年収が高いからオススメです!」 なんてことは決して言わないはずです。

その人の価値観、人生で大切にしていること、どんな未来を望んでいるのかを深く理解しようとします。同時にもう一方のことも、その人の素敵なところ、ユニークな魅力、譲れない想いを深く理解しようとするでしょう。

そして、両方を深く知っているからこそ、「この 2 人なら、きっと素晴らしい関係を築けるはずだ」 と確信をもって引き合わせることができるわけです。

プレリュードがつくった 「縁」 

では、プレリュードの事例に当てはめてみましょう。

ホンダは、まず 「User」 (お客さん) のことを深く知りました。それは 「もう一度クーペに乗りたい」 というバブル世代の情熱であり、「親と共有したい」 という Z 世代の現代的な価値観です。

同時に、自社の 「Magic」 (魔法) も深く知っていました。「プレリュード」 という車名が持つ歴史とブランド力、シビックタイプアール譲りの高い走行性能、そして e:HEV がもたらす静粛性や快適性という現代の技術です。

そしてホンダは、お客さんの顧客文脈に合わせて魔法を翻訳し、「静かで快適な 2 人の移動時間」 「令和のデートカー」 という、注力顧客が求めている価値として結びつけたのです。

だからこそ、600 万円を超える価格であっても、計画の 8 倍もの 「縁」 (受注) が生まれたのでしょう。

マーケティングの本質

マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 です。活動全般と言っているように、マーケティングを広く捉えています。

お客さんに選ばれるとは、商品を買ってもらえる、使ってもらえる、来店してくれる、指名されることです。こうしたことへの 「選ばれる理由」 をつくり、商品やサービスがお客さんから選ばれ続けることによって、商品は生き残っていけます。ひいては自分たちのビジネスも存続できます。

そして、忘れてはならない前提があります。

選ぶという行為の主体者はお客さんであり、最終的な決定権は、常にお客さんにあるということです。企業側の論理だけで 「これが良い製品だ」 「この機能が優れている」 と主張しても、それだけではお客さんの心は動きません。

マーケティングの出発点は、常にお客さんです。

 「誰に」 「どんな価値」 を届けたいのか、そしてそのお客さんは 「なぜ」 他の商品ではなく自社の商品を選んでくれるのか。お客さんの立場に立って、深く、そして具体的に理解することが求められます。

お客さんを決め、お客さんを理解し、文脈に合わせて価値を言い換える。そして、ユーザーとブランドの魔法を結びつけ、縁をつくる。これこそが、マーケティングの役割です。

まとめ

今回は、ホンダの新型プレリュードの事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 
  • お客さんに選ばれるとは、商品を買ってもらえる、使ってもらえる、来店してくれる、指名されること
  • こうしたことへの 「選ばれる理由」 をつくり、商品やサービスがお客さんから選ばれ続けることによって、商品は生き残っていける
  • マーケティングの出発点はお客さんであり、「誰に」 「どんな価値で」 「なぜ」 選ばれるかを解像度高く理解することが大事
  • マーケターは、顧客を知り (Knowing the user) 、自社の魔法 (顧客価値) を知り (Knowing the magic) 、その 2 つを結びつける (Connecting the two) という役割を担う