投稿日 2023/08/15

ブランドとは約束と信頼。スープストックトーキョーの表明文に学ぶ、ブランドをつくる秘訣

#マーケティング #ブランド #アイデンティティ


自社商品は、お客さんへの約束と信頼を証明する 「ブランド」 になっていますか?

ブランドとはただのロゴや名前ではありません。その背後には哲学と世界観があり、ブランドは複数の要素が融合してできあがるものです。

今回は Soup Stock Tokyo (スープストックトーキョー) の事例を通じて、商品やサービス、あるいは企業が、どのように価値と信頼をつくり出すことでブランドになるかを、ぜひ一緒に深めていきましょう。

スープストックトーキョーの表明文


取り上げるのはスープストックトーキョーです。

スープストックトーキョーの代表取締役社長である松尾真継さんへのインタビュー記事からです。

スープストックトーキョーが発表した 「離乳食後期の全店無料提供」 は、SNS を中心に様々な反響を呼んだ。想定外の事態を受けて同社が発したメッセージは、多くの広報・マーケティング関係者から 「完璧な対応」 と称賛された。

スープストックトーキョーが全ての店舗で、赤ちゃんの後期 (生後 9 ~ 11ヶ月ごろ) の離乳食の無料提供をしたところ、多くの賛否が起こりました。今回の話は、同社の姿勢を公式発表文として公開ことからの、マーケティングに学べることです。

理念 「世の中の体温をあげる」 


まずは前提情報として、スープストックトーキョーの企業理念から見ていきましょう。

当社では 「世の中の体温をあげる」 という理念を掲げています。スープの提供はあくまで体温を上げる手段の一つであり、Soup Stock Tokyo でスープ市場のシェアナンバーワンを目指しているわけではありません。

目の前にいる人の心の体温を上げるために、店頭で働くパートナー (アルバイトスタッフ) は日ごろから様々な工夫をしてくれています。たとえば、リクルートスーツを着た就職活動中のお客様に応援の一言を伝えたり、マタニティマークを付けたお客様に白湯を差し出したり。保護者の方が温かいスープを召し上がることができるように、泣き出してしまったお子様のバギーを揺らしながらあやすパートナーもいました。

これらの対応にマニュアルは一切ありません。理念に共感した各人が進んでアクションを起こしてくれているのです。Soup Stock Tokyo で離乳食の無料提供を開始した背景には、世の中の体温を上げるための "公式アイテム" をパートナーに授けたい思いがありました。

表明文の公開プロセス


以上の背景を踏まえ、「離乳食後期の全店無料提供」 への反響に対する表明文の公開プロセスを見ていきましょう。

── 反響を受けて4月27日に Web サイトで公開された表明文からは、書き手による熟考の跡が感じられました。あの表明文を世に出すまでの一部始終をお聞かせいただけますか。

想定外の反響ではありましたが、私自身は平常心でした。中止は頭になく、「どうすれば続けられるか」 しか考えていませんでしたね。

続けるためにはこの取り組みが思い付きによるものではなく、文字通り毎日言い続けてはパートナーと実践してきた企業理念 「世の中の体温をあげる」 に裏付けされたアクションであることを知らせる必要があります。発言のタイミングや場所を間違えると意図しない反応が生まれると考え、表明文の公開前は全ての取材依頼をお断りしました。

表明文を作成するにあたり、私の頭の中にあった言葉を紙に一旦書き出してみたところ、A4 用紙6枚分のボリュームになってしまって。そこから推敲を重ね、信頼する顧問の方と何度もやりとりしながら1枚弱に収めました。

表明文の公開タイミングをランチタイムに設定したのは、一人でも多くの方に読んでいただきたかったからです。ブランドサイトを訪れ、全文を読んでくださった方から徐々に広がっていくことを願い、SNS の公式アカウントではあえて告知しませんでした。

── 表明文の結びを松尾さんの名前ではなく 「株式会社スープストックトーキョー 一同」 としていた点も印象的でした。

私はブランドを一人の人格として捉えています。表明文は 「Soup Stock Tokyo さん」 が語る言葉であり、社長の私は人格の一部に過ぎません。そして 「世の中の体温をあげる」 という理念の実現を担っているのは、紛れもなくスープストックトーキョーの従業員一同です。この表明文はステージに立つ皆の決意表明だと考えました。

 「一同」 と書いた以上、勝手に公開することはできません。公開予定日にオンラインで行った朝礼で、表明文を公開する意図や込めた思いを私の口から皆に伝えました。朝礼の終了後、発言内容を文字に起こして社内のコミュニティサイトへ即時アップしたのは、朝礼に参加できなかったメンバーに対しても情報を共有するためです。

ブランドへの学び


ではスープストックトーキョーの事例から、マーケティングに学べることを掘り下げていきましょう。

ブランドに学びがあります。

ブランドとは


ブランドとは、お客さんへの価値提供への約束を表し、信頼への証明です。

中心にはブランドの軸となる哲学や目指す世界観があります。これらはブランドの核心であり、ブランドとしての振る舞う全ての行動や価値提供につながるものです。

スープストックトーキョーのブランドコア


スープストックトーキョーのブランドの軸は 「世の中の体温をあげる」 です。経営や事業の意思決定、現場でのオペレーションやお客さんの対応まで、この一言が中心に据えられています。

具体的には、店舗スタッフはリクルートスーツを着た就職活動中のお客さんに応援の一言を伝えたり、マタニティマークを付けたお客さんに白湯を差し出したりしています。他には、泣き出してしまった子どものバギーを揺らしながらあやすパートナー (アルバイトスタッフ) もいます。これら全ては 「世の中の体温をあげる」 を具現化した行動なのです。

今回の事例である 「離乳食後期の全店無料提供」 への多くの賛否に対する表明文も、「世の中の体温をあげる」 に立ち返って生まれたメッセージでした。

こうしたスープストックトーキョーの一貫した姿勢は、ブランドの軸となる哲学を持続的に実践しているからこそできることです。

ブランドの構成要素


ブランドを構成するのは、次の5つの要素です。

✓ ブランドの構成要素
  • 「ブランドアイデンティティ」 という軸 (コア) が中心にある
  • ブランドを人に見立てた 「パーソナリティ」 
  • 具体的な提供価値の約束である 「ユーザーベネフィット」 
  • ベネフィットがなぜ実現できるかの 「エビデンス」 
  • ブランドを伝える 「メッセージ」 

5つをスープストックトーキョーに当てはめると、

  • アイデンティティ: 「世の中の体温をあげる」 
  • パーソナリティ: 表明文では 「Soup Stock Tokyo 一同」 と社長や従業員の総体としてスープストックトーキョーという真摯な人物として1人の人格を与えた
  • ベネフィット: おいしい料理を食べられる。スープストックトーキョーでの体験から温かい気持ちになれる。前向きになれる
  • エビデンス: 経営から現場までが 「世の中の体温をあげる」 という理念にもとづいて判断と行動がされている
  • メッセージ: 「Soup for all!」 からあらゆる人にスープを届け、スープの体験を通して 「世の中の体温をあげる」 

これらを通じて、スープストックトーキョーはお客さんに価値を提供し、結果としてお客さんの頭や心の中にブランドとしての約束と信頼を形成しているのです。


まとめ


今回はスープストックトーキョーの事例から、マーケティングに学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • ブランドは価値提供の約束と信頼の証明

  • その中心には哲学や目指す世界観が、全ての行動や価値提供につながる軸として存在している

  • ブランドの構成要素は5つあり、アイデンティティ、パーソナリティ、ユーザーベネフィット、エビデンス、メッセージ。これらに一貫性を持たせることで、価値を実現し、約束と信頼を形成する


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。