#マーケティング #差異化 #機能・デザイン・ストーリー

ロングセラーにとって、看板の商品体験を変えるのは危うい判断です。それなのになぜローソンは、40 年売れ続けたからあげクンの食感をあえて変えたのでしょうか?

変えたというのは、ローソンが 2026 年 4 月に発売した 「サクッと!からあげクン 塩味」 です。

今回は、差異化の 3 つの要素から、「サクッと!からあげクン」 が何を変えて、何を守ったのか、詳しく見ていきましょう。

ローソン 「サクッと!からあげクン」 

出典: ローソン

まずは、「サクッと!からあげクン」 の概要から整理していきましょう。

ローソンは 2026 年 4 月 28 日、サクッと!からあげクンを発売しました (税込み 298 円) 。からあげクンが 4 月 15 日に 40 周年を迎えたことを記念した限定フレーバーで、全国約 1 万 4000 店舗で販売されています。

サクッと!からあげクンの特徴は衣にあります。従来のからあげクンは 「ふんわり・やわらかい衣」 が特徴でしたが、今回は独自開発のオリジナル唐揚げ粉を使い、サクッとした食感に仕上げました。

ここで注目したいのは、中身の鶏むね肉は今までと同じだという点です。衣の配合だけを変え、焙焼小麦粉でグルテンの形成を抑え、粉末油脂で衣に微細な空洞を生み出すことにより、かみ切りやすいサクサク感をつくり出しています。

差異化の 3 つの要素

では、「サクッと!からあげクン」 の事例から学べる、差異化の考え方を整理していきましょう。

機能・デザイン・ストーリー

商品やサービスを差異化するときの方向性には、大きく 3 つあります。機能、デザイン、ストーリーです。

1 つ目は機能で、商品の性能や、商品としてできること (能力) です。2 つ目はデザインで、見た目の美しさやかっこよさ、かわいさ、ユーザーフレンドリーな設計を指します。3 つ目はストーリーで、開発秘話やつくり手の想い、誰が使っているかといった、商品が持つ独自の物語のことです。

デザインは 「表側」 、ストーリーは 「裏側」 

機能、デザイン、ストーリーの 3 つの要素には位置関係があります。

イメージで言えば、機能が真ん中にあり、デザインは 「表側」 、ストーリーは 「裏側」 です。デザインはお客さんの目に最初に届く要素で、ストーリーは商品の背景にある独自の文脈としてお客さんの心に伝わります。

機能面だけで違いを出すのが難しいカテゴリーでは、デザインやストーリーに独自の要素を入れることによって、新たな価値をつくり出せるのです。

 「サクッと!からあげクン」 への当てはめ

では、3 つの要素を今回の事例の 「サクッと!からあげクン」 に当てはめていきましょう。

機能の変化

1 つ目の機能では、衣の食感が大きく変わりました。

従来のからあげクンのふんわり・やわらかい衣から、サクッとした食感への切り替えです。かみ切りやすいサクサク感を生み出しました。中身の鶏むね肉は変わっておらず、衣だけの改修です。

背景にあるのは、若年層を中心に広がる食感トレンドです。具体的には、菓子市場では 「ザクザク」 「サクサク」 といった食感を強調した商品がヒットを続けています。からあげクンを即食性のホットスナックとして位置付けるなら、この潮流を取り込まない手はありません。

もう 1 つ、機能を変えるうえで開発陣が死守したのが、ローソンの店舗で調理をするフライヤーの温度や揚げ時間を通常品と一切変えないというオペレーションへの配慮です。

約 1 万 4000 店舗あるローソンでは、年齢や国籍を問わず多様なアルバイトや従業員が調理を担当します。「サクッと!からあげクン」 の 1 品だけ調理工程が違えば、現場のオペレーションに余計な負荷がかかります。品質のばらつきや現場からのクレームの温床になりかねません。

ここが押さえどころです。衣の食感は変えても、現場の作り方は変えなかった。お客さんが受け取る食体験は新しくなりながら、店舗の調理手順は今までどおりです。ローソンの開発陣が 100 回以上の試作で行き着いたのは、この 2 つを両立させる配合だったわけです。

デザインの刷新

出典: ローソン

差異化の要素の 2 つ目はデザインです。デザイン面では、からあげクンのパッケージの色を変えました。

当初の社内案では、レギュラー (黄色パッケージ) のサクッと版という位置付けで、黄色をベースカラーにする案が有力でした。しかし発売直前のタイミングで、青色に差し替えられています。

変更の理由は 2 つあります。1 つは、現場での陳列間違いの可能性の最小化です。同じ黄色だと既存品と取り違える可能性があります。もう 1 つは、既存顧客が 「いつものからあげクンが変わってしまった」 とネガティブに受け取る可能性への配慮です。

そこで選ばれたのが、黄色と補色関係にある青色でした。什器の中で強いコントラストが生まれ、今までのからあげクンとは別の新しいからあげクンだというメッセージが来店客の目に伝わりやすくなります。

注目したいのは、デザインの変更が 2 つの役割を同時にこなしている点です。

1 つは、新しいサクッと食感を消費者に伝える攻めの役割。もう 1 つは、いつもの黄色いからあげクンを既存顧客の中で守る守りの役割です。色を青に差し替えるという 1 つの選択で、攻めと守りを両立させています。表側のデザインは、見た目を変える以上に、新と旧の関係を消費者に伝える舵取り役を担います。

ストーリーの一貫性

3 つ目の差異化の要素であるストーリーは、変わっていません。

ここで言うストーリーとは、商品の背景にあるブランドの人格のことです。ローソンはからあげクンのコアバリュー (中核的な価値) を 「一口で食べられ、一粒にすべてが詰まっている」 ことだと定義しています。これを人としての人格にまで踏み込んで言い換えるなら、「小さくて、気軽で、遊び心がある」 という姿になります。

一口で食べられるサイズ感、コンビニのレジ横でつい手が伸びる気軽さ、ドラゴンクエストやポテトチップスうすしお味とのコラボに表れる遊び心。これらが重なってできているのが、からあげクンの 「らしさ」 なのです。

サクッと!からあげクンは、この人格をそのまま受け継いでいます。サイズは変わらず、コンビニで気軽に手に取れる位置付けも変わりません。サクッと食感という新しい挑戦も、遊び心のあるブランドの延長線上として消費者に届く設計になっています。

裏側のストーリーが揺るがないからこそ、機能とデザインを動かしてもブランドの軸はぶれずに保たれるわけです。

3 つの要素がつくるブランドの世界観

では、3 つの要素を当てはめたところで、もう一段引いて全体を眺めてみましょう。

3 要素は連動する

機能・デザイン・ストーリーは、単独で差異化を完結させるものではありません。

今回の事例で言えば、たとえば食感だけを変えても、見た目が同じならお客さんは新しさに気づきにくいでしょう。逆に、パッケージだけ変えて中身が同じなら、ただの装い替えと受け取られてしまいます。

3 つがそろって初めて、ブランドとしてのらしさ、世界観が立ち上がってくるのです。

からあげクンの世界観

サクッと!からあげクンを 3 つの要素で見直すと一本につながっていることが分かります。

機能ではサクッと食感という新しい体験を打ち出し、デザインでは青色のパッケージで別物の新しいからあげクンであることを伝えています。そしてストーリーでは、小さくて気軽で遊び心のあるブランドという人格を変えていません。こうして俯瞰すると、新しさと安心感が同時に届く構造になっています。

もしストーリーが揺らいでいたら、機能とデザインの変更は消費者からは 「からあげクンの裏切り」 として受け止められたかもしれません。ストーリーが守られているからこそ、機能とデザインの変化が 「らしさの拡張」 として届きます。

変えるところを変え、守るところを変えない。3 つの要素を切り分けて、それぞれの役割を設計するからこそ、ロングセラーブランドは新しい挑戦を続けられるのです。

まとめ

今回は、ローソンの 「サクッと!からあげクン」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 差異化の方向性には、機能・デザイン・ストーリーの 3 つがある
  • 機能が真ん中、デザインは表側、ストーリーは裏側に位置する。3 つの方向がそろって初めて、ブランドの世界観が立ち上がる
  • 守りたいブランドの人格が明確なら、機能とデザインを動かしてもブランドはぶれない
  • 裏側のストーリーが守られているからこそ、お客さんは新しい挑戦を安心して受け入れられる