#マーケティング #想起 #買いやすさ
ブランドが強くなるとは、どういうことでしょうか。
ニューバランスが原宿にリニューアルオープンした旗艦店は、その答えのひとつを示します。
店舗は連日にぎわい、会員プログラムは 5 年連続で前年比 20% 増。その背景には、ブランドを 「思い出されやすさ」 と 「買いやすさ」 を同時に高め、顧客体験を循環させる緻密な設計がありました。
ニューバランスの新旗艦店
出典: ニューバランス
ニューバランスが、2025 年 12 月に東京・原宿の旗艦店をリニューアルオープンしました。
新しい旗艦店は単なる店舗刷新ではなく、ブランド体験の循環をつくる要としての役割を担います。
旗艦店の特徴
ニューバランスの新しい旗艦店は、ブランドの世界観を体験できる場所としてつくられています。
店内はまるでミュージアムのような雰囲気です。一般的なスポーツブランド店舗によくある派手なデジタルサイネージはあえて使わず、落ち着いた空間でニューバランスらしさが感じられます。
店内には大谷翔平選手の特別展示があり、選手の物語やブランドとのつながりを展示として楽しめます。
ここでは買い物をするだけではなく、見る、知る、感じるという体験を通じて、ニューバランスが大切にしているスポーツやカルチャーのことを理解できるようになっています。
人気のスニーカーはオンラインでは完売していても、この旗艦店では購入できる可能性があるよう、在庫や展示が工夫されています。欲しいと思ったときに実際に手に入る体験を用意することで、来店の価値を高めているのもポイントです。
加えて、ニューバランスの会員プログラムである 「myNB」 と連動した取り組みも特徴的です。店舗での会員向けのイベントや先行入店など、myNB をきっかけにお店に行きたくなるよう促しています。
にぎわっている理由は?
ニューバランスジャパンの東京・原宿の旗艦店が連日にぎわいを見せている背景には、店舗が新しくなったから、立地がいいからといった理由だけでは説明しきれない要因があります。
旗艦店は、単に商品を販売する場所ではなく、会員プログラム myNB と連動しながら、ファンの体験を循環させる要として位置づけられています。
この事例を理解するうえで役に立つのが、マーケティングの概念である 「メンタルアベイラビリティ (思い出されやすさ) 」 と 「フィジカルアベイラビリティ (物理的な買いやすさ) 」 です。
ニューバランスはこの 2 つに同時に注力し、相乗効果を狙うことにより、強いブランドをつくろうとしているのです。
では、メンタルアベイラビリティから順に見ていきましょう。
まず 「思い出される機会」 をつくる
メンタルアベイラビリティとは、お客さんの頭の中にブランドが存在し、必要な文脈になったときに自然と思い出される状態のことです。
ニューバランスは、意図的に強化しています。
「広く露出」 よりも 「絞って強く結びつける」
ニューバランスの象徴的な施策が、スポンサー契約をあえて少数に絞る姿勢です。
多くの選手や多くの大学と契約して露出を最大化するのではなく、この選手といえばニューバランス、この大学といえばニューバランスという強い連想を狙ってのものです。
この絞り込みは、逆に記憶を強くします。人は、印象が分散するよりも、結びつきが濃いほど思い出しやすくなるからです。
ニューバランスは、スポーツの文脈や走る文脈に入った瞬間に、頭の中で最初に浮かぶ候補になることを目指しているわけです。
メンタルアベイラビリティの競争は、言い換えれば 「想起の椅子取りゲーム」 です。ニューバランスは真っ先に思い出される椅子を先に押さえにいっています。
旗艦店をミュージアム化して記憶に残す
ニューバランスの原宿の旗艦店は、ミュージアムのような空間として設計されています。
一般的なスポーツブランド店舗で当たり前になっているデジタルサイネージをあえて置かず、店内にクラシックな雰囲気をつくり、ブランドの世界観を体感してもらうことを重視しています。
ここで重要なのは、体験として残すことです。人の記憶というのは、その場の空気や自分が感じたことと結びつくほど定着します。旗艦店がミュージアム風で、他にはない店舗体験ができることは、思い出されやすさを高めるメンタルアベイラビリティに貢献します。
大谷翔平選手の展示がつくる 「物語としての想起」
出典: PR TIMES
店内には大谷翔平選手の特別展示も用意されています。
物語性は、ブランドを頭の中にインストールする強力な方法です。すごい選手が使っているからだけではなく、どういう価値観で、その選手とブランドを使っているのかという文脈が入ることで、記憶に刻まれ、それだけ想起はより強くなります。
ブランド独自のストーリーを打ち出す取り組みは、競合が同じように広告を打っても簡単には再現できません。ニューバランスは、想起に物語性という要素を加えることによって、メンタルアベイラビリティの質を上げています。
「運動する時」 と 「街を歩く時」 を脳内でリンクさせる
ニューバランスの新しい旗艦店がもたらす効果は、いつ思い出すかというシチュエーションの機会をさらに広げている点にあります。
本来、スポーツブランドは例えば走りたい時やジムに行くなどの運動する時に思い出されるのが王道です。しかし、ニューバランスはそこに留まりません。
大谷選手という最高峰のスポーツ (機能性) のアイコンに加え、旗艦店のミュージアムのような洗練されたカルチャー (ファッション性) を同居させています。これにより、旗艦店は、お客さんの頭の中で 「運動」 と 「タウンユース」 という 2 つの文脈をリンクさせるための接着剤のような役割を果たします。
運動しようと思った時はもちろん、今日はおしゃれをして街を歩きたいと思った時にも、ニューバランスが自然と思い出されることを目指しています。思い出されるきっかけの幅を巧みに広げています。
思い出したときに 「買える」 を用意する
一方で、どれだけ思い出してもらっても、買えなければ売上にはつながりません。ここがフィジカルアベイラビリティの考え方です。
フィジカルアベイラビリティとは、消費者が 「買いたい」 と思った瞬間に、実際にその商品を買い求めやすく、物理的な入手のしやすさを指すマーケティングの概念です。
ニューバランスは、想起が高まった瞬間を逃さないための買えるフィジカルアベイラビリティの設計にも力を入れています。
オンライン完売でも 「旗艦店なら買えるかもしれない」
印象的なのが、人気モデルのシューズが自社 EC サイトで完売していても、原宿旗艦店では購入できる可能性があるという点です。
これは単なる在庫の話ではありません。欲しいと思った瞬間に、手に入る可能性がある場所を用意していること自体が、フィジカルアベイラビリティの強化なのです。
お客さんの購買は、気分やタイミングに左右されます。今ほしいと思ったのに買えない体験が続くと、他のブランドに流れてしまったり、次に思い出してもらえる確率も下がります。
逆に、お店に行けば完売しているこの商品も買えるかもしれないという期待があると、お店への強い来店動機になります。旗艦店は、その行動の受け皿になっているわけです。
原宿という立地が、生活導線上の顧客接点に
原宿という場所も重要です。ファッション、カルチャー、スポーツが交差し、人が歩き回る街。ニューバランスが掲げるスポーツとカルチャーの交差点というコンセプトとも親和性が高い立地です。
つまり原宿の旗艦店は、単に良い場所にあるのではなく、想定するお客さんの生活導線上にブランドを置くことで、見つけやすく、立ち寄りやすい状態をつくっています。
フィジカルアベイラビリティの本質は、どこに置くか、どれだけ見つけやすいか、買いたい瞬間にアクセスできるかです。原宿旗艦店は、その条件を満たす拠点として機能しています。
2 つの相乗効果
ニューバランスの強さは、メンタルとフィジカルを別々に考えるのではなく、循環させている点にあります。
「思い出す」 と 「買える」 を循環させる
ニューバランスは、マラソン大会や地域のランニングイベントといった場で、顧客接点をつくっています。そこでは myNB への会員化につなげ、会員向け特典で再び店舗へ誘導し、店舗体験で世界観を深めるという流れが設計されています。
ここで起きているのは、メンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティの連動です。
- ブランド体験が増えるほど、思い出されやすくなる (メンタルが上がる)
- 思い出したときに行ける場所がある (フィジカルが支える)
- 行って買えた体験が、また記憶を強める (さらにメンタルが上がる)
このように、メンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティが互いを押し上げる状態が生まれます。この循環が回り続けることで、ブランドが強くなります。
店舗は 「循環の要」 となる
ニューバランス原宿の新旗艦店が示しているのは、店舗の役割の再定義です。
店舗は商品を売る場所に留まらず、「思い出されるきっかけ」 と 「買える状態」 を同時につくり、体験を循環させる要になり得ます。
メンタルアベイラビリティで想起の席を取り、フィジカルアベイラビリティで買える状況を担保し、その両方を myNB という会員プログラムの仕組みで回し続ける。この設計が、競争が激しいスニーカー市場でニューバランスが独自路線を貫き、ファンを増やしている背景だと捉えられます。
まとめ
今回は、ニューバランスが原宿に新しくオープンした旗艦店を取り上げました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 強いブランドとは、思い出されやすく (メンタルアベイラビリティ) 、買いやすい (フィジカルアベイラビリティ) 状態が同時に実現されている
- ブランドの想起を高めるには、「特定の文脈」 との結びつきを強くすることが有効
- 思い出される瞬間に買える状態をつくることで、購買機会を逃さず顧客体験の質を高められる
- 店舗の内装や体験そのものを 「メディア」 として捉え、記憶に残る空間づくりをすることが想起につながる
- メンタルとフィジカルは別々ではなく、顧客体験の中で互いを強化し合う循環として設計することでブランドが持続的に強くなる

