投稿日 2021/07/12

[プライシング解説] 売値の前に 「価格戦略」 と 「収益モデル」 が大事


今回は価格設定についてです。

✓ 売値を決める前に重要なこと2つ
  1. 価格戦略 (Why) 
  2. 収益モデル (Who, What, How) 

ぜひ最後まで読んでいただき、お仕事での参考になればうれしいです。

売値を決める前に重要なこと2つ



プライシングという売値を決めることは、商売や事業の存続に直接影響を与える大事な要素です。

だからこそ価格の意思決定は慎重になるべきです。そこで今回の記事でお伝えしたいことは、プライシングを決める前の重要な 「価格戦略」 と 「収益モデル」 の2つです。

5W1H のフレームで表現すると、売値という How much を決める前にある Why, Who, What, How の重要性です。

Why とは価格戦略です。残りの3つ Who, What, How が収益モデルです。この2つがあって How much であるプライシング設定をします。

では価格戦略と収益モデルについて順番に見ていきましょう。


価格戦略


そもそも戦略とは何でしょうか?

戦略とは、目的を達成するための 「やること」 と 「やらないこと」 の決めごとです。ポイントは 「やらないこと」 です。やらないことを決めるために戦略はあります。

考えられることの全てをやるのは戦略的ではありません。「あれもこれも」 ではなく 「あれかこれか」 で、足し算ではなく引き算の発想です。先に 「やらないこと」 を決めて、残った 「やること」 に有限なリソースを投入します。

価格を決める時にも戦略的であるべきです。戦略では 「やらないこと」 が肝だったように、価格においても何を捨てるかです。価格を決めるとは 「捨てること」 や 「やらないこと」 を見極めることでもあります


戦略的に捨てるもの



では、価格決定で捨てることの具体例を見ていきましょう。

例えば価格を上げる場合です。背景は、これまで安売りしすぎていた価格を適正水準に戻すためです。

戦略の文脈で価格を上げることの意味は、「ただ安いから買っているお客」 と決別することを意味します。価格を上げることによって、本当に大切にしたい顧客を絞るという考え方です。

では次に、価格を意図を持って下げる場合に当てはめてみましょう。

この場合に捨てるのは短期的な利益です。「損して得取れ」 という言葉があるように、意図的に短期的な利益は得ずに、後から回収します。確かに短期的に見れば赤字ですが、利幅を削っても中長期での収益、お金ではなく信用や信頼を獲得するためです。戦略的に短期の利益を捨てているわけです。

戦略に唯一の正解はなく、価格戦略も同じです。戦略の上位にある目的に対して、現時点で最適だと言える 「やること」 と 「やらないこと」 を決めるのが戦略です。

価格設定には、そもそもの目的である Why を明確にすることから始めるといいです


収益モデル



それでは収益モデルについても見ていきましょう。

プライシングを決める前に解像度を高くしておきたいのは Who, What, How からなる収益モデルです。

例えば収益モデルには、売り切り、従量課金、サブスク、フリーミアム、ダイナミックプライシング (状況によって細かく価格を変動させる) があります。これらは、Who, What, How の3つの組み合わせによって設計することができます。

✓ 収益モデル
  • Who: 誰から課金するか (顧客全員 or 一部の顧客) 
  • What: 顧客への何の提供価値に課金するか
  • How: 課金をどうやって、いつのタイミングでするか

3つからの収益モデルについて、いくつかの具体例からご説明しますね。


収益モデルの具体例


3つを順番に見ていきましょう。

Who と What


1つ目の Who の 「誰から」 とは、例えばフリーミアムモデルでは顧客を無料の人と有料の人に分けます。具体的なサービスに当てはめると身近なところでは Amazon のプライム会員です。プライム会員からお金をもらい、無料会員は会費はタダです。

2つ目の What である 「何に対して」 では、無料の範囲はここまで、有料サービスはここまでと、どの価値に対して課金をするのかを決めます。

サービスの例では、本の要約サービス flier (フライヤー) です。有料会員の1つにゴールド会員があり、サービス内の全ての要約を読むことができます。無料会員は要約の途中までしか読めません。

How


3つ目の How 「どうやって」 「どのタイミングで」 は、例えばサブスクであれば、定額課金としてタイミングは毎月に設計をします。タイミングには前払いか後払いもあり、ユーザーや顧客にとって顧客心理に微妙な影響を与えます。

例えばネット通販での前払いと後払いです。前払いの商品がなかなか到着しない時の 「いつ届くんだろう」 という不安やモヤモヤ感と、到着後の後払いでいい商品の到着遅れへ精神状態 (顧客心理) では、お金をいつ払うかだけの違いですが、ユーザー体験の良し悪しにつながります。

提供者側に視点を変えると、前払いは売り手にとっては先にキャッシュが得られる一方で、顧客にとっては価値を体験する前の支払いになり、価値への期待は先にお金を払った分だけ高くなります。

以上のような Who, What, How という 「誰から、何の提供価値に対して、どうやって収益を得るか」 という収益モデルの構築が重要です。

プライシング設定はここまで見た価格戦略と収益モデルがあって、その後に売値を決めていくといいです。


まとめ


今回は価格設定についてでした。

最後にまとめです。

売値を決める前に重要なこと2つ
  • プライシング (売値) は、商売や事業の存続に直接影響を与える重要な要素
  • 売値を決める前に重要なのは価格戦略と収益モデル

価格戦略
  • 戦略とは、目的を達成するための 「やること」 と 「やらないこと」 の決めごと
  • 価格を上げるとは 「ただ安いから買っているお客」 との決別。価格を上げ本当に大切にしたい顧客を絞る
  • 価格を下げるとは戦略的に短期の利益を捨てること。後からの中長期での収益やお金ではなく信用や信頼を獲得するため

収益モデル
  • Who: 誰から課金するか (顧客全員 or 一部の顧客) 
  • What: 顧客への何の提供価値に課金するか (無料範囲と有料範囲の設計) 
  • How: 課金をどうやって、いつのタイミングでするか (例: 前払い, 後払い) 


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。