投稿日 2021/12/02

ブラックボックスを解消する POU データから考える、マーケティングデータの未来展望


今回のテーマは、マーケティングでのデータ活用です。

✓ この記事でわかること
  • 官民協働の 「イエナカ実証実験」 とは?
  • マーケティングの観点からの本質
  • POS データから 「POU データ」 へ
  • POU データの活用と提供価値

おもしろいと思った実証実験から、マーケティングデータの未来展望を書いています。

よかったらぜひ最後まで読んでみてください。

イエナカ実証実験


経済産業省からの委託で、三菱 UFJ & コンサルティングが 「イエナカ実証実験」 を行いました (概要レポート, 詳細レポート) 。

実験への参加はメーカーや小売、広告会社、調査会社、財団法人です。首都圏在住で子育て中の20世帯を対象に今年2021年の1月から2月で実施されました。



家での商品の利用データを収集


専用の電子タグ (RFID) を使用し商品が消費されたかどうかをタグからのデータを取り、マーケティングにつなげられる可能性があるかの調査です。

調査の内容


RFID から2秒に1度の頻度で発する電波を専用デバイス (実験対象世帯に配布) が収集し、クラウド上に送信します。RFID が付いた商品が所定の位置から移動すれば感知し、一定時間戻らなければ消費されたと判断する仕組みです。

実験では利用者に使用状況によってメッセージを送ることも試しました。例えば商品の量や在庫がなくなりそうなので 「そろそろなくなりそうです」 という情報、チョコレートの在庫がある消費者にホットチョコを勧める通知を送信したり、関連商品を使ったレシピ情報を配信したとのことです。

参加者からの評価


参加した人からは 「賞味期限が切れそうな商品を事前にお知らせしてくれたので、優先的に食べたり、それを使って料理のメニューを考えたりすることができ、無駄なく使えたのでとても良かったです」 といったポジティブな声がありました。

利用状況データから適切なタイミングで販促を送れば、追加購入や買い替えを呼び起こせることが期待できます。


マーケティングへの意味合い


イエナカ実証実験の本質をマーケティングの観点から掘り下げてみます。

本質は 「生活者の POU データの収集と価値提供」 です。

POU データとは 「Point of use」 の略です。コンビニやスーパー等で活用されている POS (Point of sales) からの対比として POU データとしました。POS データは日本語では 「販売時点データ」 で、一方の POU データは 「利用時点データ」 です。

イエナカ実証実験のマーケティングの意味合いは、「生活者の POU データの収集と価値提供」 だと私は捉えました。


利用状況というブラックボックス


販売時点データである POS データはマーケティングにも有用ですが、わかるのはあくまで販売された時点のことです。つまり、生活者に買われた商品がその後に自宅でどう使われたかまでは捉えられません。

利用状況は POS ではデータが取れず、これまではブラックボックスでした。商品の利用実態を知るためには、アンケートをしたりインタビュー調査、あるいは直接自宅へ行って訪問観察調査をやっていました。

こうした状況を考えると、POU データはこのボトルネックを解消するポテンシャルがあります。


POU データの活用


日用品や食料品にある従来のバーコード (JAN コード) に加え、イエナカ実証実験で使われた RFID の電子タグがつけられればマーケティングへの意味合いは大きいです。

大きくは次の3つの点で期待できます。

✓ POU データの活用
  • 生活者の理解 (自宅での利用状況の把握)
  • 商品開発やマーケティングのヒント
  • 生活者への価値提供


生活者への価値提供


POU データの活用を3つ目の 「生活者への価値提供」 にどこまで実現できるかがカギです。

単に利用データを収集するだけでは企業側にしかメリットはなく、生活者からすると RFID 付き商品を買う意味はありません。

イエナカ実証実験で使われた RFID タグは1個5円とのことで、この分だけ商品の値段が上がります。また、自分の利用状況をデータで取られ知られていることに不安の気持ちを持ってしまいます。

POU データからのマーケティングの未来展望が絵に描いた餅で終わらないためには、生活者メリットや価値を提供できるかです。具体的には、利用データからより良い商品やサービスが生まれる、日用品や食料品が 「そろそろ無くなりそうです」 などの通知メッセージが来る、自分にぴったりの商品がオススメされるといったことです。


まとめ


今回はイエナカ実証実験を取り上げ、マーケティングデータの未来展望を見てきました。

最後にまとめです。

イエナカ実証実験
  • 専用の電子タグ (RFID) を使用し商品が消費されたかどうかをタグからのデータを収集。マーケティングにつなげられる可能性があるかの調査
  • 参加した人からは 「賞味期限が切れそうな商品を事前に知らせしてくれ、優先的に食べ無駄なく使えたのでとても良かった」 とのポジティブな声があった

利用状況の可視化
  • イエナカ実証実験の本質は 「生活者の POU (Point of use) データの収集と価値提供」
  • POU データから期待できる活用は3つ
  • ① 生活者の理解 (自宅での利用状況の把握)
  • ② 商品開発やマーケティングのヒント
  • ③ 生活者への価値提供

生活者への価値提供
  • POU データ活用を 「生活者への価値提供」 にどこまで実現できるかがカギ
  • 具体的には、利用データからより良い商品やサービスが生まれる、日用品や食料品が 「そろそろ無くなりそうです」 などの通知、自分にぴったりの商品がオススメされるなどの生活者メリットの実現


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。