投稿日 2021/12/30

卓上 AI カメラ PowerShot PICK に見る、「そうそう、これが欲しかった!」 な商品をつくる方法

出典: GIZMODE

今回のテーマは、商品開発とマーケティングです。

✓ この記事でわかること
  • キヤノンの卓上 AI カメラ PowerShot PICK とは?
  • 開発背景は 「家族写真の不」
  • PowerShot PICK の提供価値の本質
  • 商品開発やマーケティングに学べること

おもしろいと思った AI カメラをご紹介し、提供価値の本質をマーケティングの視点で掘り下げています。そこから商品開発やマーケティングに学べることを解説しています。

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

キヤノンの卓上 AI カメラ PowerShot PICK


今回ご紹介したいのはキヤノンのカメラ 「PowerShot PICK」 です (公式サイトはこちら) 。

出典: Makuake

PowerShot PICK の紹介動画はこちらです。



特徴は、周囲にいる人物の顔をカメラが認識し、適切な構図で自動撮影することです。

従来のカメラと比べて撮影される側 (被写体) が身構えないので、より自然な表情を撮れます (正確に表現すれば 「撮られる」 ) 。

出典: Makuake

PowerShot PICK は静止画と動画の両方の撮影ができます。

キヤノン独自のアルゴリズムにより自動で被写体を認識・追尾し、適切な構図に調整します。人の顔を自動で登録する機能を搭載しているので、特定人物の写真や動画を優先的に撮影することも可能です。

スマートフォンのアプリと無線接続し、アプリから撮影した写真を見返せます。他に機能の特徴は、音声認識もでき、「ハローピック、写真撮って」 としゃべりかけると撮影をしてくれます。

公式オンラインショップなどで販売され、販売価格は4万5980円 (税込) です。


開発背景


PowerShot PICK の開発の背景は、カメラでの 「写真撮影の不」 でした。

具体的には、これまでのカメラやスマートフォンで撮影した家族写真で、家族の全員がそろっている写真は少ないことです。例えばお父さんが撮影する役が多く、家族写真なのにお母さんと子どもしか写っていません。

また、写真撮影のために手を止めて皆がカメラのほうに向くことで、いつも同じようなポーズをした写真ばかりというのもあります。

こうしたことから、家族の思い出として写真や動画に残せていない 「大切な瞬間」 や 「大切な表情」 があるのではないかとの問題意識からの開発でした。

キヤノンの PowerShot PICK の開発背景は、「子どもたちの輝いた “自然な表情” を撮りたい」 、そして 「家族そろった形で大切な思い出を映像に残したい」 という親の気持ちからでした。


PowerShot PICK の提供価値


ここからは、PowerShot PICK の提供価値について見てみましょう。

整理をすると、次のような価値を提供しています。

✓ PowerShot PICK の提供価値
  • PowerShot PICK が自動で被写体に合わせ、自然な雰囲気のまま撮影をする
  • その場の全員が写真の中に入る
  • PowerShot PICK が良い写真をセレクトしてくれる
  • 後から偶然できたベストショットが見つかる


価値の本質


さらに PowerShot PICK がもたらしている価値の本質を掘り下げてみましょう。

一言で表現すれば、本質は 「人とモノの主従関係を本来の姿に戻したことによる価値提供」 です。

人とモノとの主従関係とはカメラの場合で言えば、従来は人のほうが写真・動画撮影のためにカメラに合わせていました。つまりモノ (カメラ) が 「主」 で、人は 「従」 なのです。

これにより起こっていた不は、家族がそろっての写真が少ない、同じようなポーズをした写真ばかり、家族の大切な思い出が実は残せていないことでした。

しかし本来の望ましい人とモノの関係は、人が人を 「主」 で、モノが 「従」 であるべきです。人の動き、良い撮影のタイミングでカメラが人に合わせて撮影するという主従関係です。

PowerShot PICK は人とモノとの本来の関係を提案し、より良いカメラ体験を提供しているのです。


学べること


では最後に PowerShot PICK から、商品開発やマーケティングの観点で学べることを整理してみましょう。

一言で言えば、学びは 「生活者や企業が当たり前のように受け入れていることに、見過ごされている不満・不便・不都合はないかを考えてみよう」 です。

PowerShot PICK は写真を撮影し、後から写真や動画を見るユーザー体験において、「もはや当たり前すぎて問題だと思われていなかったが、実は何とかしたい不」 を解消しました。

人とモノの本来の関係性をあらためて問い、人を 「主」 にしてカメラを 「従」 にした具体的な商品に落とし込み開発をし、世に出したわけです。

卓上 AI カメラの PowerShot PICK は、「そうそう、これが欲しかった!」 という商品になりました。多くの人や会社が気づいていなかったり、自覚していないことでも、実は不があるところにビジネスチャンスは眠っているのです。


まとめ


今回はキヤノンの卓上 AI カメラ PowerShot PICK から、商品開発やマーケティングに学べることを見てきました。

最後にまとめです。

カメラの不
  • 従来は人のほうが写真・動画撮影のためにカメラに合わせていた。モノ (カメラ) が 「主」 で、人は 「従」 だった
  • 本来とは逆の主従関係になっていたことで、家族がそろっての写真が少なかったり、同じようなポーズをした写真ばかりなどの 「家族の大切な思い出が実は残せていない」 という不があった

PowerShot PICK の提供価値
  • 本質は、人とモノの主従関係を本来の姿に戻したことによる価値提供
  • 自動で被写体に合わせ、自然な雰囲気で撮影された写真
  • その場の全員が写真の中に入る
  • 後から偶然できたベストショットが見つかる

学べること
  • PowerShot PICK は 「問題だと思っていなかったが実は何とかしたい不」 を解消した
  • 多くの人や会社が気づいていないことでも、実は不があるところにビジネスチャンスは眠っている
  • 生活者や企業が当たり前のように受け入れていることに、見過ごされている不満・不便・不都合はないかを考えてみよう


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。