今回は P&G とドラッカーのマーケティングの考え方をそれぞれご紹介します。2つの共通点からマーケティングの役割を掘り下げていきましょう。
✓ わかること
- P&G 流 「マーケティングとは経営そのもの」
- ドラッカーのマーケティング論
- P&G とドラッカーに学べること
よかったら最後までぜひ読んでみてください。
P&G のマーケティング
日経 MJ の2022年12月16日の一面記事は P&G のマーケターに焦点を当てた特集でした。P&G 日本法人のブランドマネジメント本部長の小林洋貴氏へのインタビュー記事です。
マーケティングの役割について次のように語っています。
―― P&G の中でマーケティング部門はどんな役割を担っていますか。
「一般的に『マーケティング』と言うと広告やキャンペーンだけを想起する人も多いが、P&G では最高経営責任者 (CEO) として、『ブランドという会社』を経営する役割をマーケターが担う。ブランドを育てるのは全部署の仕事だが、マーケターはその中で戦略を立てリードしていく存在だ」
「広告を作るのはマーケターの基本的な仕事の一つだが、ごく一部にすぎない。クッキー作りに例えると、最初の生地が企業のすべての業務。そこから研究開発、ファイナンス、生産部門など様々な部門の業務をそれぞれ型抜きし、そして最後に残っている生地にあたるもの、つまりバリューチェーンに関わる業務全てがマーケティング部門の業務内容だ。会議一つとっても、招集から進行、進捗確認に至るまでを指揮するリーダーシップが求められる」
マーケティングとは広告やキャンペーンだと見られる傾向がありますが、これらは一部にすぎません。事業のバリューチェーンに関わるあらゆる業務が、マーケティング部門の業務内容であるというのが P&G の考え方です。
ドラッカーのマーケティング論
この話とつながるのはドラッカーの指摘です。
現代の経営[上](P F ドラッカー, 上田惇生) という本に書かれていたことです。
企業の目的
ドラッカーのマーケティングの話に入る前に、前提となる 「企業の目的」 について押さえておきましょう。
ドラッカーは 現代の経営[上]の中で企業の目的を 「顧客の創造」 と言っています。
企業とは何かを理解するには、企業の目的から考えなければならない。
企業の目的は、それぞれの企業の外にある。事実、企業は社会の機関であり、その目的は社会にある。企業の目的として有効な定義は一つしかない。すなわち、顧客の創造である。
市場は、神や自然や経済によって創造されるのではなく、企業によって創造される。
ドラッカーは企業の目的をたった一言で 「顧客の創造」 と言い切っています。
ちなみにもともとの英語の原文では 「the purpose of business is to create a customer」 と表現されています。注目したいのは、顧客を customers と複数形ではなく、単数形で 「a customer」 としていることです。まずは1人のお客さんからつくっていくべきであると。
顧客の創造とは1人ひとりのお客さんを獲得し積み重ねていくことで、これが企業の目的になるとドラッカーは主張しているのです。
企業の2つの機能
ドラッカーは企業の目的を 「Create a customer」 とした上で、企業には2つの基本的な機能があると指摘しています。
企業の目的が顧客の創造であることから、企業には二つの基本的な機能が存在する。すなわち、マーケティングとイノベーションである。この二つの機能こそ起業家的機能である。
マーケティングは企業に特有の機能である。財やサービスを市場で売ることが、企業を他のあらゆる人間組織から区別する。教会、軍、学校、国家のいずれも、そのようなことはしない。
財やサービスのマーケティングを通して自らの目的を達成する組織は、すべて企業である。逆に、マーケティングが欠落した組織やそれが偶発的に行われるだけの組織は企業ではないし、企業のようにマネジメントすることもできない。
マーケティング活動の範囲
ここまでを踏まえてドラッカーのマーケティングの捉え方を見てみましょう。企業の中でのマーケティングの位置づけについてです。
マーケティングは企業にとってあまりに基本的な活動である。
そのため、強力な販売部門をもち、そこにマーケティングを任せるだけでは不十分である。マーケティングは販売よりもはるかに大きな活動である。それは専門化されるべき活動ではなく、全事業に関わる活動である。
まさにマーケティングは、事業の最終成果、すなわち顧客の観点から見た全事業である。したがって、マーケティングに対する関心と責任は、企業の全領域に浸透させることが不可欠である。
ドラッカーが書いているのは、マーケティングは専門化された機能にとどまらず全社的に関わる活動だということです。
P&G の話ともつながります。
広告やキャンペーンの対応はマーケティングの一部でしかなく、バリューチェーンに関わることの全てがマーケティング部門の業務内容というのが P&G の捉え方でした。
ドラッカーの言っていることも踏まえると、マーケティング活動をするのはマーケティング部だけではなく、マーケティング部以外の企業内のあらゆる人がやるべきなのです。
学べること
では P&G とドラッカーのマーケティングの話の共通点から、学べることを掘り下げていきましょう。
マーケティングとは
今回の話はマーケティングとは何かに示唆があります。
結論から先に書くと、マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 です。
マーケティングのことを 「活動全般」 と表現していますが、P&G やドラッカーの話の文脈にも沿っています。マーケティングは社内の一部門だけがやるものではなく、会社全体で取り組む活動であるべきものです。
たとえマーケティング部門ではないとしても、直接的にお客さんと接する機会がない部署においても各業務は 「お客さんに選ばれるため」 につながっていることが大事です。
お客さんから選ばれる活動
ドラッカーの言う企業の目的は 「顧客の創造 (Create a customer) 」 でした。
A custoer という1人のお客さんを獲得するためには自分たちがお客さんから選ばれることが必要です。それもたまたまの偶然で選ばれるのではなく意図的に選ばれる状況を目指し、そうなる仕組みをつくることが求められます。
「自分 (たち) がやっている仕事は、最終的にお客さんに選ばれることにつながっているか」 。
マーケター、ドラッカーの考え方で言えば全てのビジネスパーソンが持っておきたい問いかけです。
まとめ
今回は、P&G とドラッカーの話からマーケティングに学べることを見てきました。
最後に学びのポイントをまとめておきます。
✓ マーケティングの位置づけ
- マーケティングとは、お客さんから 「選ばれる理由」 をつくる活動全般
- たまたまの偶然で選ばれるのではなく意図的に選ばれる仕組みをつくる
- たとえマーケ部門や直接的な顧客接点がない部署でも、やっている仕事はお客さんに選ばれることにつながっているかを意識してみよう
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