投稿日 2023/03/15

ミズノが開発したおしゃれな白杖。他者貢献を原動力にする商品開発

#マーケティング #商品開発 #他者貢献

出典: ミズノ

今回は他者貢献を原動力にする商品開発という話です。

ミズノが開発した視覚障害者用の白杖 (はくじょう) から、学べることを掘り下げていきましょう。

✓ わかること
  • ゴルフクラブを応用したミズノの画期的な白杖
  • ユーザー調査から生まれたコンセプト
  • 顧客理解からの使命感
  • 他者貢献を原動力にする商品開発

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

ミズノケーン ST


出典: ミズノ

ご紹介したいのは、スポーツメーカーのミズノが開発した視覚障害者の方向けの白杖 (はくじょう) です。

名前は 「ミズノケーン ST」 といいます。

視覚障害者用の白杖


出典: ミズノ

ミズノがゴルフクラブやラケット製造の技術を生かして開発し、軽量性と耐久性、そして操作性を追求した白杖です。

機能的にも優れているだけではなく、おしゃれなデザインで今までにない白杖です。

ユーザー調査から生まれたコンセプト


ミズノは白杖を開発するにあたり、PLAYERS と共同で視覚障害者の261人に白杖についてアンケートを実施しました。調査対象の視覚障害者は、様々な障害段階で年齢や所在地も異なる人たちです (詳細はこちら) 。

さらに1年以上にわたり、視覚障害者の方だけではなく歩行訓練士やガイドヘルパーも交えてのインタビューやワークショップ、ユーザーテストなどを行いました。

調査から見えてきたのは白杖を使う障害者の方が抱える不安や不都合です。具体的には、

  • 白杖を持つことに抵抗を感じる。おしゃれなものが欲しい
  • 白杖は折れたり曲がったりしやすく、利用者は平均で1年に約1本購入している
  • 外出時に白杖が折れてしまうことに不安を感じる

ミズノケーン ST のできあがったコンセプトが 「持って出かけたくなる白杖」 です。

白杖が折れた時の付帯サービス


ミズノが調査から見出したのは、白杖の利用者は1年で平均1本を買い替えているということでした。原因は白杖が曲がったり折れてしまい、使えなくなるからです。

外出時に自分の白杖が折れてしまうのは目の不自由な方にとっては大問題です。一度経験してしまうと外出している時は常に不安がつきまといます。

そこでミズノは万が一に白杖が折れた時の付帯サービスを提供しています。

外出先で白杖が折れてしまい移動が困難になった際に移動手段としてタクシーを提供し、商品の交換対応も行うサービスです。

  • タクシー手配は購入日から2年間で2回まで、1回のタクシー代金の上限は3万円まで
  • 折損した白杖の交換は同じく購入日から2年間で2回まで

この付帯サービスは東京海上日動火災保険と開発し、タクシーの送迎は第一交通産業が対応します。

もしもの時の付帯サービスはミズノケーン ST のコンセプトである 「持って出かけたくなる白杖」 を反映しています。


学べること


では、ミズノケーン ST の事例から学べることを掘り下げていきましょう。

ターゲット顧客の深い理解


ミズノケーン ST の開発で興味深いのは視覚障害者の方にしっかりと向き合ったことです。

アンケート調査だけではなく直接のインタビュー、ワークショップ、試作品のユーザーテストを1年以上にわたって実施しました。

視覚障害者は白杖をどう使って、どのように思っているのか、普段の生活の様子、そしてどんな困りごとがあるかについて視覚障害者の方を1つずつ理解していったわけです。

解決意欲と貢献を原動力に


ミズノケーン ST の開発者へのインタビューで、開発担当者は次のように語っていました。

―― 困難を乗りこえる力の源泉は何だったのでしょうか。

清水: ミズノが白杖を開発することを視覚障がい者の皆さんに伝えると、とても嬉しそうにしてくださるんですよ。視覚障がい者の方々にとって白杖は普段から手元にある相棒であるが、今の市場にある製品には満足しきれていない。もしかしたらミズノならよりよいもの作ってくれるかもしれない。という期待を感じました。真剣に作った白杖を一刻も早く届けたいという想いが原動力になりました。

長谷川: やはり視覚障がい者の皆さんに試作品を手渡した時、驚いて喜ぶ表情を見たのは大きいですね。こんなに喜んでもらえるのなら、もうちょっとがんばってみよう、と。あと、「カッコイイ」 と言われることが多いんですよ。弱視の若い方から 「めちゃくちゃ可愛い!」 とか 「カッコイイ!」 と言っていただくことが結構あって。スポーツメーカーのアクティブさや軽快なイメージがプラスに働くようです。

視覚に障害のある方が抱えている課題への理解と共感、自分たちが解決するという使命感が商品開発の原動力になっています。

  • お客さんが喜んでくれ、感謝の言葉をかけてもらえる
  • 少しでも役に立ったことを目の当たりにしたうれしさ
  • 貢献できることへのやりがい

ミズノケーン ST の事例からの学びを一般化して表現をすると 「他者貢献」 です。

自分たちがやっていることは世の中をより良くしているのか、自社の売上や利益を追うだけではなく利他の姿勢があるか。商品開発やマーケティングの原動力にしたいことです。


まとめ


今回はミズノの白杖 「ミズノケーン ST」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

✓ 他者貢献という原動力
  • 自分 (たち) がやっていることは、世の中をより良くしているのか、自社の売上や利益を追うだけではなく利他の姿勢があるか
  • お客さんが抱えている問題への理解と共感、解決する使命感を商品開発やマーケティングの原動力にしよう


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。