マーケティングの戦略や施策を考える際、どこに焦点を当てていますか?
売り手中心の発想になってしまい、その結果、どこか違和感を感じたことはないでしょうか?
今回は、子ども向けの IoT 文具 「しゅくだいやる気ペン」 を取り上げます。「木を見て森を見ず」 にならないマーケティングや戦略のつくり方、他にはデータ分析や企画書の書き方に応用します。
しゅくだいやる気ペン
出典: PR TIMES
コクヨとワントゥーテンが共同開発した IoT (Internet of Things: モノのインターネット) 文具が、「しゅくだいやる気ペン」 です。
子どものやる気を育てる IoT ペン
コンセプトは家庭学習での習慣化の支援です。
使い方は、普段使用している鉛筆に加速度センサーと LED が搭載されたアタッチメントを取り付けます。スマートフォンの専用アプリと連動させることで、子どもの日々の勉強への取り組みをアプリで確認できます。子どもの勉強への意欲を高めることを狙った文具です。
しゅくだいやる気ペンは鉛筆を使っている時間や文字を書く動作を測定し、書いた量に応じて LED の色が 「やる気パワー量」 として10段階で変化します。
勉強を終えた後にスマホのアプリ画面に向かって鉛筆を傾けると、蓄積したやる気パワーを注ぐことができます。やる気パワーの量によってアプリ内のキャラクターが進化し、リンゴを獲得できる仕組みです。
獲得したリンゴの数に応じて遊べる 「すごろく (やる気の庭) 」 も用意されています。マスごとにアイテムを獲得できるだけでなく、あらかじめ親子で設定したご褒美、例えば欲しいおもちゃを買ってもらえることも設定しておくことができます。
親へのベネフィット
また、親にも配慮された機能があるのも特徴的です。
子どもが宿題に取り組んだ日と時間をカレンダーでわかり、子どもががんばった日には花丸をつけることもできます。
宿題に取り組んだ時間量を前週と比較できるレポート機能もあります。レポート画面では保護者に対し、子どもを褒めることの重要性を伝えるキャラクターのつぶやきが表示されます。
学べること
では 「しゅくだいやる気ペン」 から、学べることを掘り下げていきましょう。
内側の気持ちから動いてもらう
学べるのは、どうやって人に動いてもらうかです。それも命令によって頭ごなしに強制するのではなく、人が自分の内側の気持ちから 「やりたい」 と思ってもらう働きかけへのヒントがあります。
子どもが行動を起こすのは、「知りたい」 「使ってみたい」 「つくりたい」 といった好奇心からです。
ただし、興味を持ったとしても、その後に何かしらの楽しさやワクワク感がないと好奇心は持続しないでしょう。子どもは関心を抱くのも早いですが、飽きるのもまた早いです。
「しゅくだいやる気ペン」 が示すのは、興味を持ってやったことに適切なフィードバックをする重要性です。
具体的には、しゅくだいやる気ペンでは、宿題をやった分だけ得られる 「やる気パワー」 、獲得パワーによって変化する LED レベルやキャラクターの進化、すごろく、親子で決めたご褒美もあります。
このようにやったことの先にメリットを用意し、もともとの目的である 「勉強をすること」 をメリットを得るための手段と位置づけるわけです。
このような、あえての 「目的の手段化」 によって人に動いてもらうアプローチは、マーケティングなどのビジネスにも応用できます。
「目的の手段化」
目的の手段化とは、よく使われる言葉の 「手段の目的化」 とはあえて逆のことを指しています。
目的の手段化をビジネスに当てはめると、売り手の目的をお客さんにとっての手段と捉える発想になります。
売り手は自社商品を1つでも多く売りたいと考えます。ビジネスなので至極当然のことです。しかし立場をお客さんに変えると、お客さんが商品を買うこと自体は目的ではないはずです。本当に欲しいのは、商品を使ったり保有をすることで得られるベネフィット (便益) 、感情的な価値です。
自社商品を 「お客さんにとっての手段」 と捉え直し、「手段の先にある本当の目的」 を理解することが、ビジネスを成功させる秘訣になるでしょう。
では、さらに着想を広げて、目的をあえて手段にする 「目的の手段化」 の例をいくつかご紹介します。
✓ 目的の手段化の例
- 戦略
- マーケティング
- データ分析
- プロダクト開発
- 企画書
順番に見ていきましょう。
[手段化の例 1] 戦略
戦略をつくることを目的と捉えるのか、それとも戦略は手段に過ぎないと見なすかです。
戦略は実行してこそ意味があります。戦略をつくるとは実行のための手段であって、実行してビジネスでの成果を上げ、目的を達成してはじめて戦略は価値あるものになります。
戦略をつくることを目的にせず、ゴールに到達するための手段にします。
[手段化の例 2] マーケティング
マーケティングも同様です。マーケティングは、つくっただけでは価値を生み出せていません。
マーケティングが価値をもたらす相手はお客さんです。目的はお客さんが成功することにあります。マーケティングとは、お客さんの成功のための手段なのです。
[手段化の例 3] データ分析
データ分析者にとっては、データを分析して新しい発見をし、示唆や結論を導き、レポートを作ることが目的になるでしょう。
しかし全体像をより広げてみると、見解や示唆から問題解決や次のアクションの方向性を示すなどビジネスに貢献することが、データ分析の本来の役割です。データ分析結果を意思決定や実行に使い、そして何よりもビジネスへの成果につなげられるかです。
全体像を広くとれば、データ分析をすることは手段なのです。
[手段化の例 4] プロダクト開発
プロダクトを開発しローンチするのを目的にするのか、それとも視野を広げて開発を手段と見なすかです。
本来の目的はプロダクトでユーザーの問題を解決することです。プロダクト開発はそのための手段にあたります。
[手段化の例 5] 企画書
企画書を書いていると、作ること自体が目的に差し替わってしまいます。しかし、企画書の作成そのものは手段にすぎません。
企画書とは作った後こそが大事です。意思と意図を持って提案した企画を通し、企画内容をビジネスで実現することが目的のはずです。
企画を考える担当者にとっては目的に見えることも、企画書をつくることは、事業や組織全体で捉えればその先の目的を達成するための手段です。
全体像をより広く見る大局観を持つことで、意図的な 「目的の手段化」 を意識するといいでしょう。
まとめ
今回は IoT ペンの 「しゅくだいやる気ペン」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後に学びのポイントをまとめておきます。
- 売り手の目的や自社商品の位置づけを 「お客さんにとっての手段」 と捉え直し、「手段の先にある本当の目的」 を理解することが大事。この 「目的の手段化」 はビジネスを成功させる秘訣
- 目的の手段化は、戦略、マーケティング、データ分析、プロダクト開発、企画書など、ビジネスの様々な領域に当てはめることができる。真の目的を見極め、それに対する手段とみなす
- 日常の業務の中で 「木を見て森を見ず」 になりがち。大局的な視点を持ち、目的を常に意識してみよう
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