新商品が話題を呼んでも、一時的な盛り上がりで終わり、定番商品の売上は頭打ち… 。そんな悩みを抱える事業会社は少なくないでしょう。
今回は 「ペヤングやきそば」 が展開している商品戦略から、新商品の話題性と定番商品の安定成長を両立させる秘訣を紐解きます。
ペヤングやきそばの戦略
まるか食品の即席麺 「ペヤング ソースやきそば」 が、多様な味のやきそばを出し続けています。
キワモノ味で注目を集めるペヤング
出典: 日経クロストレンド
2023年6月時点で、味のフレーバー数は累計500種類以上です。シーフードやガーリックマヨネーズ、豚バラ塩などの万人受けしそうなものから、蕎麦、チョコレートやアップルパイのやきそばもあります。
人は新しい味をつい試したくなるものです。こうした奇抜な味は話題を呼び、少なくない人々からの興味を引きつけます。
様々な味を連発する狙い
では、ペヤングが様々な味のやきそばを出し続ける狙いはどこにあるのでしょうか?
結論から言うと、ペヤングの定番品である 「ソースやきそば」 のおいしさを再確認して、「やっぱり定番品が一番」 と思ってもらうことです。
お客さんが新商品を試した後に、あらためて定番商品のほうも食べたいと定番のソース味のおいしさに気づいてもらうことで、新商品と定番品の両方を買ってもらうことを期待しています。
新商品のトライアル購入と、定番品のリピート購入の両取りを目指すうまいアプローチです。ペヤング以外は絶対に他はやらなそうな味を見ると、ついつい試したくなるという人間心理をうまく突いています。
とりわけチョコ味などキワモノ味のやきそばを買った人は 「これはたぶんおいしくないはず」 と最初から期待値が低いので、実際そうだったとしても 「やきそばじゃないw」 と笑って許せるでしょう。そして次に定番商品を食べて、「やっぱりペヤングやきそばはソース味が最高」 と満足する流れをつくり出しているわけです。
ブランドらしさからの一貫性
1つ1つの味は奇抜でやきそばとして違和感のある味でも、全体を俯瞰すると 「ペヤングらしさ」 という一貫性があります。
ペヤング自身のキャラクターや、消費者が抱いているポジショニングをうまく使い、良い意味でお客さんから 「ペヤングならやりそう」 や 「ペヤングのやきそばだから」 と受け入れられ、むしろ他にはない体験だったと満足感も得られるでしょう。
新商品と定番商品のバランス
ペヤングのやきそばの定番比率は、定番商品が8割、新商品が2割とのことです。ここには絶妙なバランスがあります。
チョコやアップルパイなどの新商品は目立ちますが、数の上で大部分を占めるのは定番品です。
10個のうち8個は定番商品という基盤ができているので、残り2個程度の新商品がたとえ短命に終わるとしても心理的に余裕を持って変わった味の新商品を次々に展開できるわけです。
両利きの経営からの “定番” と “新商品” の両立
ペヤングやきそばのアプローチは 「両利きの経営」 の視点で捉えると示唆的です。
両利きの経営とは
両利きの経営とは、企業や組織が 「深化」 と 「探索」 の2つの異なる活動を同時に進め、持続的な成長をしていくための経営理論です。
✓ 両利きの経営
- 深化: 既存事業の強化。すでにやっていることの改善を重ねる
- 探索: 新規事業の開発。領域を広げるために新しく取り組む活動
一般的には、深化 (既存の強化) と探索 (新規の開発) では、前者の深化に偏りがちになります。今までやってきたことの延長なので続けやすいからです。一方、新しい取り組みである探索は、うまくいくかわからず成果が出にくいので、後回しになりがちです。
しかし、企業は深化だけでは生き残っていけません。外部環境の変化に適応し変わっていくためには、深化だけではなく探索が大事なのです。
両利きの経営は、深化と探索のどちらか一方だけでなく、あえて二兎を追う経営です。
ここでペヤングやきそばに話をつなげると、両利きの経営の 「深化」 を定番商品、「探索」 を新商品とみなすと、ペヤングがやっていることには両利きの経営が見てとれます。
両利きの経営を成功させる5つのポイント
では最後に、両利きの経営を成功させるためにはどうすればいいかを掘り下げていきましょう。
ポイントは5つです。
✓ 両利きの経営を成功させるポイント
- 深化と探索のそれぞれで役割や明確な目的がある
- 経営陣など影響力のある人が探索活動への良い理解者になっている
- 探索には既存の資産やブランドを有効活用している
- 深化と探索活動で評価指標を分け、担当者も分ける
- 深化と探索では俯瞰すれば全体を貫く整合性がある
これら5つはペヤングにも当てはめることができます。
- 深化と探索のそれぞれで役割や明確な目的がある
ペヤングのやきそばでは、定番商品には 「安定した品質とおいしさを届けること」 があり、新商品には 「驚きや話題性」 「定番品の良さを再確認してもらうこと」 と役割が異なっている - 経営陣など影響力のある人が探索活動への良い理解者になっている
多様な味は累計500以上で、それだけのリソースを投入してきたということは、新商品の開発や展開は現場の判断だけではなく、ペヤングの経営陣も新商品を連発する意義を理解しているはず - 探索には既存の資産やブランドを有効活用している
ペヤングの新商品は、既存のソースやきそばの製造技術や生産ライン、さらにはブランドイメージをうまく活用している - 深化と探索活動で評価指標を分け、担当者も分ける
明確な公開情報はないが、定番商品と新商品では追いかける指標は異なっているのではないか。
おそらく定番商品はリピート率、新商品を販売した後で定番品も続けて買われるかを KPI に。
新商品の KPI は発売後の話題性、ペヤングやきそばのファンが買っているか、しぱらくペヤングやきそばを買っていなかった人も手に取ってくれるか、新商品を食べてやっぱり定番が良いと思って定番商品を買いたいと思ったなどを見ているのではないか - 深化と探索では俯瞰すれば全体を貫く整合性がある
定番のソース味はもちろんのこと、奇抜な味のやきそばであってもペヤングならではで統一されている。「ペヤングならやりそう」 と受け入れられ、ペヤングのブランドとしての 「らしさ」 に一貫性がある
以上のように、ペヤングの展開には 「両利きの経営」 のアプローチがあり、商品開発やマーケティングに応用されています。
新商品開発にはときにはキワモノとも言える味を 「探索」 しつつ、定番商品は安定した品質を 「深化」 させることを両立しているのです。
新商品の発売を一過性で終わらせず1つ1つの 「点」 をつなげて、ブランド全体で 「線」 にすることで、ロングセラー商品として持続的な成長ができています。
まとめ
今回はペヤングのやきそばを取り上げ、学べることを見てきました。
最後に学びのポイントをまとめておきます。
- ペヤングやきそばは戦略的に 「キワモノ味」 を連発している。狙いは話題性を生んだ新商品のトライアル購入だけではなく、定番商品の活性化。変わった味を食べた人に 「やっぱり定番のソース味が一番」 と再認識してもらうことで、定番商品への回帰とリピート購入につなげている
- ペヤングやきそばは定番品が数の8割、新商品が2割。たとえ新商品がすぐに終売になっても定番品への大きな影響はないので、新商品では振り切った開発ができる
- ペヤングのアプローチには両利きの経営がある。定番商品を 「深化」 させ、新商品を 「探索」 することで、ロングセラーブランドとして持続的な成長を実現している
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