投稿日 2023/12/20

サントリープレモルに学ぶ、ブランドの "らしさ" を保ちながら進化する方法

#マーケティング #ブランド #変えるものと変えないもの

変化の激しい変わりゆく時代において、ブランドやマーケティングはどうアプローチすればいいのでしょうか?

今回は、サントリーの 「ザ・プレミアム・モルツ」 の事例から、ブランドが長く生きる道とは何かを探求します。

ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

人々の変化とブランドの鮮度


人々の価値観は、時代と共に変わります。

かつて大切に思っていたことや価値を見出していたものが、今では異なる意味合いを持つこともあるでしょう。その変化は、人々の心理や感情に影響を与え、行動や習慣にも変化をもたらします。

ブランドからの訴求や広告においては、こうした時代の空気感やお客さんの生活感に合った描写が不可欠です。お客さんが抱える現実の課題、喜び、日常の中で感じることの変化を捉え、心に響くメッセージから共感を生むことが、マーケティングでは重要です。

ただし、すべてを新しいものに変えてしまうと、ブランドの核となる部分が失われてしまいます。何を変えず、何を変えるのか、この判断がブランドの舵取りでは大事です。ブランドの 「らしさ」 を維持しつつ、時代遅れにならないような鮮度を保つバランス感覚が求められます。

ここまでの文脈を踏まえ、実際の事例に当てはめて見てみましょう。


ザ・プレミアム・モルツ


ブランドを変えていくパランス感で興味深いケースなのが、サントリーのビール飲料 「ザ・プレミアム・モルツ」 です。

ザ・プレミアム・モルツ (プレモル) が発売されたのは2003年です。

プレモルは発売当初から一貫して、重厚的で豪華なイメージのあるプレミアムなパッケージデザインや広告を展開してきました。商品名にも 「プレミアム」 を入れ、プレミアムビール市場で存在感を確立してきたブランドです。

ブランドリニューアル


そんなサントリーのプレモルがパッケージデザインをリニューアルしました。


サントリーは、世の中での 「プレミアム」 の言葉の意味が時代と共に変わってきていると見て、新しいプレミアムの意味を探求してのリニューアルです。プレモルのデザインやロゴは保持しつつ、新しい価値観に合わせた変更を加えました。

発売当時から使用している、金と紺の色使い、三段表示のロゴ、タンブラーを模したデザインは、プレモルの象徴として変えてはいないものの、タンブラーシェイプは傾けたデザインにしました。

メッセージの変更


プレモルは10年以上前に打ち出した 「金曜日はプレモルの日」 を使い続けてきました。月曜日から金曜日までは仕事で働き、金曜日の夜のご褒美としてプレモルを飲んでもらうという位置づけです。

リニューアル後は、「週末のごほうび」 というメッセージに変えました。

テレビ CM


従来のプレモルでは、かっこよくて憧れの存在になるような俳優を起用し、重厚さを伴ったプレミアムなイメージを押し出したマス広告を展開していました。しかし今回のリニューアルでは、より親しみ要素のあるプレミアムを目指しています。

テレビ CM や Web 動画では、より今の時代に合った描写からの共感を狙っています。


メッセージを伝えたい相手として設定したのは 「ワークライフアクティブ層」 です。

30 ~ 40代で仕事も生活もかんばっている中で、CM や動画広告を自分の毎日と照らし合わせ、忙しい日々の中で週末のご褒美としてプレモルを選んでほしいという思いからです。

CM では 「無言の父たち」 というストーリーを描きました。子どものいる夫婦の日常の中で、寡黙にがんばる父親像を描き、毎日が忙しくがんばっている自分たちをねぎらい、プレモルを飲むという内容です。

リアルな日常を切り取った内容で、日常生活の中の小さな達成感やご褒美としてのプレモルを強調しています。

以上のように、プレモルはブランドの核となる部分は変えずに維持しつつも、時代の変化やターゲット層に合わせて変えたのです。


ブランドの生き様


お客さんが置かれている環境や、何に価値を見出しているのかの価値観は、少しずつではあっても常に変化していくものです。

人々が共通してやっている行動、その行動の奥にある心理、抱える課題感、望んでいることは時代の空気やトレンドをつくり出します。

そこで、共感を呼ぶ課題感や商品の利用シーン、ブランドからの価値提案は、トレンドの変化に合わせて変えていくことが大切です。

ブランドの核となる 「Why」 、つまり理念や世界観は変わらなくても、ターゲット顧客である 「Who」 、提供する価値の 「What」 、そしてその方法や見せ方の 「How」 は、時代やお客さんの変化に合わせて柔軟に変えていくべきなのです。

何を変えずに、何を変えるか。ここにブランドの生き様が問われます。


まとめ


今回はサントリーの 「ザ・プレミアム・モルツ」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • 人々の価値観や行動は常に変化している。マーケティングにおいて、トレンドやお客さんのライフスタイルに合わせた心の琴線に触れる訴求ができれば、お客さんからの共感が生まれる

  • お客さんの価値観や心理、行動に合わせて、ブランドの Who (ターゲット顧客) 、What (提供価値) 、How (マーケティング施策) を変える柔軟性は必要。ただしブランドの核となる Why (ブランドの理念や世界観) はブレないようにする

  • ブランドのリニューアルではすべてを変えるのではなく、ブランドの軸は変えない。ブランドの 「らしさ」 は残しつつ、時代に合わせた変化を入れて鮮度を保つパランス感のある舵取りが大事


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。