投稿日 2023/12/13

ボンタンアメの 「サザエさん戦略」 がおもしろい。ロングセラーの秘訣

#マーケティング #戦略 #ブランディング

ロングセラー商品が、時代を超えて愛され続ける理由はどこにあるのでしょうか?

今回はボンタンアメを取り上げます。ボンタンアメのユニークな戦略から、ロングセラーの秘訣をぜひ一緒に紐解いていきましょう。

ボンタンアメ



ボンタンアメが発売されたのは1925年 (大正14年) で、今から100年近く前です。

現在はセイカ食品がボンタンアメを製造・販売をしていますが、ボンタンアメが生まれたのは、明治時代から水アメや金平糖などを作っていたセイカ食品の前身企業 (鹿児島菓子株式会社) の時代にさかのぼります。

ボンタンアメの発売後に社名がセイカ食品に変わり、時代に合わせて甘さを控えめにするなどの微調整はあったものの、製法や原料はほとんど同じで独特の食感も変わっていません。

100年続くロングセラーのボンタンアメですが、掲げている戦略が 「サザエさん戦略」 で、おもしろいです。

 「年に1回でも、2年に1回でもいい。人生のどこかで思い出してもらって、たまに食べてもらえる商品であり続けよう」 (ボンタンアメを製造・販売するセイカ食品の玉川社長) とマーケティングの方向性を定めた。

 (中略) 

キャンペーンなどをしていなかったにもかかわらず、今年はコロナ禍前の水準まで売り上げが回復しているという。

 「社是にある『真面目』を貫いているだけ。無理して量を追わず、ピークをつくらない戦略が長寿の秘訣かも」 と玉川社長。「親子や家族で安心して見ることができて、久しぶりに見ても同じトーンで話が進んで懐かしく感じる『サザエさん』のようなブランドを目指したい」 と話している。

ボンタンアメが目指しているのは、親子や家族で安心して見ることができて、久しぶりに見ても同じトーンで話が進んで懐かしく感じる 「サザエさん」 のような存在です。

年に1回、2年に1回でもいいので、たまに食べてもらえる商品であり続けようというマーケティング方針です。短期的な売上拡大よりも、長期的なブランド価値を重視しています。


 「サザエさん戦略」 ができる理由


では、ボンタンアメはなぜ息が長く、無理をしない 「サザエさん戦略」 を貫け、実現できているのでしょうか?

後半ではこの問いを掘り下げていきましょう。

大手に真似されずオンリーワンでいられた


意図的にか結果的になのかはさておき、大手競合他社から目をつけられ、類似品を出されず潰されなかったのが、ボンタンアメが息の長い商品になっている要因の1つです。

ボンタンアメは飴カテゴリーの中で独特なポジションを築いています。

ボンタンアメのもちもちした独自の食感は、たまに食べるからおいしい、逆に言えばいつも食べたいというほどの中毒性が高いほどではありません。

このような 「たまに食べたいニーズ」 では大手の会社からすると、消費者の喫食頻度が少なく同じような飴を開発し参入する経済的なうまみがありません。大手にとっては 「年に1回、2年に1回でもいいので、たまに食べてもらえる程度で OK」 では採算が合わないからです。

結果的に競合からの 「もちもち南国かんきつ飴カテゴリー」 への参入障壁となり、ボンタンアメはオンリーワンな飴となったわけです。

セイカ食品の事業構造


他にも 「サザエさん戦略」 をとれる要素があります。

ボンタンアメを製造・販売するセイカ食品は、ボンタンアメの売上規模が全体のうち多くを占めないというのも、息の長い戦略がとれる要因です。

セイカ食品の年間売上は350億円で、そのうちボンタンアメを含む菓子製造部門は10億円弱です。決して主力事業ではなく、ボンタンアメは 「年に1回、2年に1回でもいいので、たまに食べてもらえる商品であり続ける」 という余裕のある商品戦略がとれます。

たゆまぬ企業努力


だからといって、セイカ食品はボンタンアメの事業に手を抜いているわけではありません。

鹿児島県阿久根市産のボンタン (文旦) を原料に使い、1個ずつオブラートに包む工程までは機械がやりますが、最後の箱詰めは従業員が手作業をして丁寧に作り上げています。

ボンタンアメは発売から98年が経過しても商品の基本要素は変わっていませんが、セイカ食品は時代のニーズや状況に応じて、パッケージサイズや甘さを微調整、X 線を使った異物混入検査の導入など企業努力は続けています。

小売への営業力


ボンタンアメはどこのスーパーでも売っているのを見かけますが、ボンタンアメがロングセラーになっているのは、セイカ食品の営業力も貢献しています。

セイカ食品の売上の半分近くは、菓子営業部からが占めます。菓子営業部は大手メーカーの商品を集荷し、小売店に配送する菓子卸を担っています。セイカ食品は菓子メーカーというよりは、菓子・食品卸がメインの企業なわけです。

卸売業を生かした営業力で戦前から国鉄 (現 JR) の売店や鉄道沿線の小売店に販路を広げてきました。今でも鹿児島の中堅企業が作ったボンタンアメは全国の小売店で扱われています。

消費者が 「ボンタンアメを食べたい」 と思ったときに、いつも行くお店で売られている、あるいはいつものお店に置いてあるボンタンアメを見てボンタンアメを久しぶりに食べたくなる。こうした選ばれる状況をつくり出している地道な営業も、ボンタンアメがロングセラーであり続けることにつながっています。


まとめ


今回はボンタンアメを取り上げ、戦略をテーマに学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • ボンタンアメは 「サザエさん戦略」 で長期のブランド価値を重視。消費者の 「たまに食べたいニーズ」 を満たす存在が大手企業の参入障壁を築き、結果的に飴カテゴリーでの独自のポジショニングをとっている

  • セイカ食品の事業構造ではボンタンアメの売上は全体に占める割合は大きくなく、余裕を持った長期的な商品戦略・マーケティング戦略ができる

  • ボンタンアメは品質に妥協せず、変わらぬ商品へのこだわりと企業努力を継続。セイカ食品は主力事業である卸売業を活かし、全国の小売店で売られている。消費者がボンタンアメを 「食べたい」 と思った際に手軽に購入できる環境を整えている


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。