投稿日 2021/11/01

丸井を例に 「売らないお店」 の勝ち筋を解説。ユーザー体験とビジネスモデルがカギ

出典: EGG Media

今回のテーマは、小売ビジネスとビジネスモデルです。

✓ この記事でわかること
  • 丸井の体験型店舗 「Sustainable Think.」
  • なぜ丸井は 「売らない店」 を持てるのか?
  • ビジネスモデルからの掘り下げ
  • 「売らないお店」 の勝ち筋

この記事を読んでいただきたいのは、小売のビジネスに関わっている方です。

丸井を例に 「売らない店舗」 について、ビジネスモデルの観点から勝ち筋を解説していきます。ビジネスモデルを考えたり事例を知るのが好きな方にも何か少しでも参考になればうれしいです。

丸井の体験型店舗


最初にご紹介したいのは、丸井の体験型店舗である 「Sustainable Think. (サスティナブルシンク) 」 です (公式サイトはこちら) 。

2021年3月に東京の有楽町マルイ店と名古屋パルコ店にオープンしました (ニュースリリースはこちら) 。

出典: PR TIMES

社会や環境問題に配慮した国内外の商品をそろえ、開発の背景や生産者の思いを学び、サステナブルな商品開発のエコシステムを体験できるショップです。

サステナブルな素材を開発する工場やメーカーなどが、コンセプト作成と商品開発からローンチし、店頭販売するまでを一括でできるラボショップの機能も合わせ持ちます。

扱っている商品は例えば、福祉施設に所属するアーティストがデザインしたエコバッグやネクタイ、廃棄しても完全に土にかえるパンツ、服の廃材を溶かし固めた文房具です。いずれも SDGs が意識され、ショップに来ることによって環境問題や社会課題を学べます。商品を気に入ればその場で購入もできます。


丸井が 「売らない店」 を持てる理由


丸井は、2026年3月までに売り場面積の約3割を 「売らないテナント」 に転換する方針を掲げています。今回ご紹介した Sustainable Think. もその1つです。

ではなぜ丸井は 「売らないお店」 を持つことができるのでしょうか?

この問いに、ビジネスモデルの観点から見ていきましょう。

丸井グループの決算説明資料によれば、2022年3月期の第1四半期 (2021年4月 ~ 6月) では、丸井グループの事業は大きく2つで、小売セグメント、フィンテックセグメントです。

それぞれの営業利益は小売セグメントが2億円、フィンテックセグメントが84億円です。つまり営業利益で見れば、丸井とは小売ビジネスではなくフィンテックの会社なのです。この認識はなかったので見て驚きました。

丸井のフィンテック事業の中身は、平たく言えばエポスカードです。先ほどの2022年3月期の第1四半期の決算説明資料によれば、同期間でのエポスカードの新規会員は12万人、期末会員数は706万人とのことです。丸井はこの規模の会員から、カードによる支払い決済やキャッシングによって稼いでいるのです。

ここに丸井が 「売らないお店」 を持つポイントがあります。丸井全体のビジネスモデルにフィンテックという収益の柱があるからこそ、小売事業の中の打ち手で 「売らない店」 を持てるわけです。

売らないお店で体験をしてもらい、その後に EC からのネット注文の支払いにエポスカードが使われればフィンテック事業にも貢献できます。


 「売らない店」 の勝ち筋


では最後に 「売らないお店」 の勝ち筋を考えてみましょう。

筋の良い売らない店とは、「売らなくてもビジネスモデルが成立するお店」 です。

確かにショールーミング化し体験ができるだけのお店は、ここだけを切り取れば店舗運営にコストがかかるので採算が合いません。

しかし経営の視点から見ると事業全体で相乗効果があれば、売らない店を持つ意義があります。これは店で物を売らなくても成立するビジネスモデルがあるからこそです。丸井の場合はフィンテック事業という稼ぎ頭があります。

以上の内容から 「売らない店の勝ち筋 (成功ポイント) 」 は、次のように整理できます。

✓ 「売らない店」 の勝ち筋
  • 店で売らなくても成立するビジネスモデルがある
  • そこにしかない体験ができる (来店者メリット)


まとめ


今回は丸井の 「Sustainable Think.」 を事例に、売らないお店の狙いや勝ち筋を見てきました。

最後にまとめです。

丸井の体験型店舗
  • 「Sustainable Think. (サスティナブルシンク) 」 は社会や環境問題に配慮した国内外の商品をそろえている
  • 開発の背景や生産者の思いなどのサステナブルな商品開発プロセスを学び、体験できるショップ

丸井が 「売らない店」 持てる理由
  • 丸井の事業は、営業利益の多くを小売ビジネスではなくフィンテック (エポスカード) で稼いでいる
  • 売らないお店で体験をしてもらい、その後にネット注文支払いにエポスカードが使われればフィンテック事業にも貢献できる
  • フィンテックという収益の柱があるからこそ、小売事業の中の打ち手で 「売らない店」 を持てる

 「売らない店」 の勝ち筋
  • 店で売らなくても成立するビジネスモデルがある
  • そこにしかない体験ができる (来店者メリット)


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。