投稿日 2023/02/02

Google が ChatGPT に非常事態宣言。思想からして全然違う両者の戦い


今回は ChatGPT を取り上げ、Google にとって ChatGPT が何を意味するのかを掘り下げます。

✓ この記事でわかること
  • Google が社内で非常事態を宣言
  • Google と ChatGPT の違い (そもそもの発想が根本的に異なる) 
  • 検索の覇権争いはどうなる?

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

Google と ChatGPT


今回は Google にとって ChatGPT の登場が何を意味するのか、どんな影響があるかを考えていきます。

ChatGPT とは


ChatGPT は AI 研究の非営利団体 「OpenAI」 が提供する、チャット画面に質問文を打ち込むと AI が回答してくれるサービスです (ChatGPT が登場したのは2022年11月です) 。

ChatGPT の特徴は人間の質問文の意図をくみ取り、端的な回答を返す点にあります。回答文はまるで人間とやりとりしているかのように自然な文章です。

Google が非常事態を宣言


アメリカの大手メディアであるニューヨークタイムズ紙が、Google が ChatGPT に対して社内で非常事態宣言 (Code red) をしたと報じました (報道はこちら) 。

ChatGPT の登場に、ユーザー数世界最大を誇る検索エンジンを持つ Google の経営陣が事業に対する深刻な脅威への警戒を示して 「コード・レッド」 を宣言したと報じられています。

 (中略) 

Google のある幹部は、ChatGPT が従来の検索エンジンを再発明するものであり、Google の検索ビジネスを根底から覆しかねないほどの技術革新が到来したのではないかと危惧しています。

ニューヨーク・タイムズが入手したメモと音声記録によれば、Google のサンダー・ピチャイ CEO は、Google の AI 戦略を定義するための会議に参加した際に、ChatGPT がもたらす脅威に対応するために社内グループの一部を再編成し、業務内容を急きょ変更したとのこと。さらに OpenAI の DALL・E (ダリ) のような画像生成 AI の開発も従業員に課したそうです。

 (中略) 

Google のある幹部は 「小規模な企業がこうしたツールをリリースしてもそこまで懸念する必要はありませんが、Google がこの AI 開発戦争に割り込まなければ、この先業界は Google とは関係ないところで進化しつづけるでしょう」 と発言したとのこと。

ChatGPT が公開されたのは2022年11月30日でした。

Google 社内で緊急事態を意味する Code red はめったに出ないものです。それも ChatGPT リリースの翌月に緊急事態を宣言し開発体制を根底から変えるというのは、それだけ Google は ChatGPT に危機感を持ったわけです。

Google と ChatGPT の違い


では Google 検索と ChatGPT の違いについて整理してみましょう。

Google は検索結果画面からユーザー自身が適切だと思うサイトを選び、そのサイトに飛んで見に行くという検索方法です。Google が提示するのはユーザーが知りたいであろうこと (検索キーワード) に対して、Google が有益だと判断したサイトです。役に立つであろう順番にして並べてくれます。

Google の検索の体験では、自分で適切にサイトを選び知りたい答えは自分で見つけないといけません。遷移先のサイトでわかればいいですが、場合によっては知りたい情報が得られなかったりもします。

一方の ChatGPT は質問への答えを ChatGPT の画面内でダイレクトに返してくれます。回答文は自然な文章で要約されており、Google 検索とは全然違うユーザー体験です。

ネットで検索することを 「ググる」 と表現するくらい Google 検索は浸透していますが、ChatGPT は検索や情報収集にゲームチェンジを起こす可能性を秘めています。

ただし ChatGPT はまだまだ未完成です。というのも、

  • トートロジーのような単なる言い換え
  • 情報の出典が不明なので信じていいか迷うもの (結局自分で Google で検索する) 
  • 内容が間違っていると思われるもの

が普通に出てくるからです (2023年2月現在) 。

また、今のところは同じ質問内容でも、日本語よりも英語で聞いたほうが大抵は回答のクオリティは高いです。

今後 ChatGPT が進化していけば 「Google より ChatGPT でいいよね」 となる可能性は全然あります。

料理へのたとえ


Google と ChatGPT の違いをもう少し続けます。

料理にたとえるとイメージがしやすいです。

Google は食べたいメニューを伝えてもユーザーに提供されるのは食材までです。世界中から最適な食材を瞬時に提供してくれますが、使い切れないほどの食材を使って料理をするのはあくまでユーザーです。Google の検索ページにキーワードを入れ、参照情報の取捨選択はユーザー自身がやります。

ChatGPT はメニューを注文すればすぐに食べられる状態で出てくるイメージです。とてもロボットが調理したようには見えず、料理によっては人よりもおいしく作られています。

ただしどう調理されたのか、使われた食材はお客さんには一切わかりません。もしかすると中には身体に良くない材料が使われているかもしれません。

ChatGPT の回答文は自然な表現に見えますが、情報の出典が不明なので回答の根拠や作成プロセスはブラックボックスです。

思想の違い


そもそものところで Google 検索と ChatGPT は思想からして違います。

Google は候補となるサイトを順番に並べるまでです。その後の情報収集や確認はユーザーが自分で行います。ChatGPT は答えそのものまで表示します。ただし出所情報は一切なく、また回答内容が唯一の答えのように返します。

ここには思想の違いが見て取れます。

✓ 思想の違い
  • Google は民主的。最後の答え (知りたいこと) を出すのは各ユーザーにゆだねている
  • ChatGPT は権威的。中央にいる AI (アルゴリズム) が答えまで全てを決める

Google の検索結果を表示するアルゴリズムにも AI が使われていますが、最終的にはユーザーにまかせて民主性があります。一方の ChatGPT は AI が中央集権的に決めているのです。

ChatGPT の回答 (Google と ChatGPT の違い) 


ちなみに、Google と ChatGPT の違いを ChatGPT に訊いてみると、次のように答えました。

ーー Google と ChatGPT の思想の違いは?

Google は検索エンジンとしての情報提供を目的としている。ChatGPT は言語モデルとしての人工知能による文章生成や質問応答を目的としている。

Google は公共情報を提供することを重視しているが、ChatGPT は訓練データに基づいて回答を生成することを重視している。
ChatGPT

ChatGPT は Google にとって何を意味するのか


ここまで両者の違いを見てきました。

あらためて ChatGPT が Google にとって何を意味するのかを考えてみます。

Google のミッションからの考察


Google のミッション (企業としての使命) は創業してから今まで全くブレていません。

Our mission is to organize the world's information and make it universally accessible and useful.
世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること


Google が検索でやろうとしていることはミッションを成し遂げるためです。

ミッションの文章の中の 「世界中の人がアクセスできて」 を忠実に再現しようとしているのが今の Google の検索方法です。ユーザーにサイト (情報) へアクセスしてもらうのを、Google の検索結果ページから外部サイトへ飛んでもらうという方法で実現しています。

Google がやっているのは情報への交通整理とアクセスの道案内から情報を使える状態にするまでです。最後にどう使うかはユーザーの手に委ねられています。これを自由度が高いと見るか、手間がかかり面倒だと見るかです。

Google の対抗策に注目


Google が社内で非常事態宣言を出したということは、Google はそれだけ ChatGPT を直接の脅威とみなしたわけです。緊急かつ重要な課題として全力で取り組んでいくでしょう。

ChatGPT はまだ完ぺきではなく、知りたい内容によっては今の Google の検索で調べたほうがいいケースもあります。

ChatGPT はこの先 Google を凌駕する存在になるのか、それとも Google は検索の覇権をとり続けるのか。個人的には Google が創業以来から掲げるミッションをどう体現しながら、あるいは再解釈をして進化するのかに注目したいです。


まとめ


今回は Google と ChatGPT を取り上げました。

最後にポイントをまとめておきます。

✓ Google と ChatGPT
  • Google 検索はユーザーに有益なサイトを順番に並べる。その先の情報収集や確認はユーザーが自分で行う必要がある。最後はユーザーにゆだねている [民主的]
  • ChatGPT は答えそのものまで表示する。ただし出所情報はなく回答内容が唯一の答えのように返す [権威的]
  • ChatGPT は検索や情報収集にはゲームチェンジを起こす可能性がある
  • Google は社内で非常事態宣言を出した。Google がミッションをどう体現するのか、再解釈をするのかに注目したい


マーケティングレターのご紹介


マーケティングのニュースレターを配信しています。


気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。

マーケティングのことがおもしろいと思えて、今日から活かせる学びを毎週お届けします。

レターの文字数はこのブログの 3 ~ 4 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。

こちらから無料登録をしていただくとマーケティングレターが週1回で届きます。もし違うなと感じたらすぐ解約いただいて OK です。ぜひレターも登録して読んでみてください!

最新記事

Podcast

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。