#マーケティング #真実の瞬間 #FMOTとSMOT
お店に並ぶ数多くの商品――。果たして、その中で自社商品は消費者からの 「選ばれる理由」 を持っているでしょうか?
消費者は、お店の商品棚の前でのたった数秒の第一印象で購入を決め、その後の使用体験でリピートするかどうかを判断します。
今回は日本調剤の漢方薬 PB の 「10COINS KAMPO」 の事例をもとに、店頭での陳列やパッケージデザイン、そして使用後の体験まで、お客さんから選ばれるメカニズムを紐解きます。
日本調剤の漢方薬 PB 「10COINS KAMPO」
日本調剤の 「10COINS KAMPO (テンコインズ カンポウ) 」 。2025年4月に発売が開始された、日本調剤のプライベートブランド (PB) の漢方薬シリーズです。
調剤薬局といえば処方箋対応がメインのイメージが強いかもしれませんが、日本調剤は自社開発の OTC (一般用医薬品) シリーズに力を入れています。2023年には 「5COINS PHARMA (ファイブコインズ ファルマ) 」 がヒットし、低価格ながら機能性を備えた PB 商品が売上を伸ばしました。
その流れを受けて、今度は漢方薬分野でも同様の戦略を展開しているのが 「10COINS KAMPO」 です。
一般的に漢方薬の市場では1箱あたり2000円台のものが多く、治療のためという位置づけです。一方の日本調剤の 「10COINS KAMPO」 は、1箱1100円という手に取りやすい価格帯です (100円硬貨が10枚 (10 coins) という意味ですね) 。
日々のさまざまな不調に対応できる豊富なラインナップが特徴となっています。
発売時には、ひきはじめの風邪に効く 「麻黄湯 (まおうとう) エキス細粒」 と 「葛根湯エキス顆粒 (かりゅう) S」 、虚弱体質に効く 「補中益気湯 (ほちゅうえっきとう) A エキス細粒」 、ストレスに効く 「黄連解毒湯 (おうれんげどくとう) エキス顆粒」 など、人気の高い漢方薬を15品目取りそろえました。
では、日本調剤の漢方薬 PB 10COINS KAMPO の事例から学べることを、マーケティングの 「Moment of Truth」 の観点で解説します。
Moment of Truth
Moment of Truth (モーメント・オブ・トゥルース) は、日本語に直訳すれば 「真実の瞬間」 です。
Moment of truth は消費者や企業が商品やサービスに対して抱く 「印象が形づくられる重要な接点」 を指します。
なかでも、P&G が提唱した 「FMOT (First Moment of Truth (第一の重要な瞬間) ) 」 と、「SMOT (Second Moment of Truth (第二の重要な瞬間) ) 」 の考え方は、店頭での商品との最初の出会いと、購入後の使用体験を捉えるために有効なフレームワークです。
ちなみに読み方ですが、日本語でも英語でも FMOT はエフモット、SMOT は エスモットと呼びます。
FMOT
FMOT の F は First という第一という意味があるように、FMOT は、消費者や企業がお店の棚などで商品を目にし、購入するかどうかを決めるわずか数秒間の瞬間を指します。
商品パッケージのデザイン、店頭での陳列方法、POP での商品紹介や販促メッセージなど、視覚的な情報が購買意欲を左右します。いかにして消費者の足を止め、商品を手に取ってもらうかが問われます。
SMOT
続く SMOT とは 「第二の重要な瞬間」 です。FMOT は、商品を購入したお客さんが実際に使用してその品質や価値を体験する瞬間のことです。
期待通りの効果が得られたか、使いやすかったか、満足できたかなど、商品への顧客体験がリピート購入や他者への推奨 (口コミや SNS への投稿) につながるかどうかの分かれ道となります。FMOT はブランドへの長期的なロイヤルティを構築にも関わってきます。
ここからは、日本調剤の 10COINS KAMPO に、FMOT と SMOT を当てはめて詳しくみていきましょう。
FMOT - 購入前の店頭での印象
お店で商品を目にしたとき、目をとめて手に取りたくなるかどうかは、商品を買ってもらえるかどうかに直結します。
10COINS KAMPO は、来店客 (ショッパー) が店頭の商品棚の前でこれだと思い、思わず手を伸ばしてしまうような仕掛けが見られます。
書籍の背表紙のように並べる 「ブック陳列」
お店に同じ商品のラインナップを並べる場合、一般的には正面を向けて平置きするのが普通です。
しかし 10COINS KAMPO は合計15品目もの種類を展開しているので、15列も並べてしまうと棚のスペースを取りすぎてしまいます。かといって無理に収めようとすると豊富な種類という特徴を打ち出せません。
そこで 10COINSKAMPO で採用しているのが 「ブック陳列」 です。
書店で本の背表紙がずらりと並ぶのと同じように、10COINS KAMPO の商品の側面を正面に見せ、そこに大きく表示されている漢方薬名や効能がわかりやすくする陳列方法です。
ブック陳列により、一度に多くの品目を展示しつつ全体での視認性も保っています。来店客は棚を眺めながら、まるで本を探すように目的の商品を見つけることができます。
10COINS KAMPO はパッケージの全体でのデザインを統一し、化粧品のような淡い色調で統一感を演出しました。注力顧客である30代から50代の女性に受け入れられやすい柔らかなイメージにし、漢方薬は飲むハードルが高いという先入観を和らげます。
店頭陳列とデザインを一体化させることにより、お店での手に取りたくなる感覚や自宅にも置いておきたくなると感じさせる効果を狙っています。
店舗ごとに柔軟な展開
10COINS KAMPO は758ある日本調剤の店舗のうち、まずは400店舗でフルラインナップ (全15品) を展開し、それ以外の店舗では7品目からスタートしました。お店ごとの棚の広さや顧客ニーズを見極めつつ、売れ行きが良ければ順次アイテム数を増やしていく方針とのことです。
店舗ごとに導入の度合いを調整することによって、在庫コストを抑えながらも消費者に向けてブランド全体の存在感を高める狙いでしょう。最終的には 10COINS KAMPO は最大30品目を目標としており、買ってくれたお客さんが次は別の漢方薬を試してみようと思ってもらうことを目指してます。
10COINS KAMPO は、ブック陳列と統一されたパッケージデザインは、店頭での第一印象 (FMOT) を最大化する施策を進めました。
10COINS KAMPO は競合製品がひしめく店頭においても埋もれることなく、注力顧客の興味を引きつけ、最初の 「真実の瞬間」 で購入へと導く力を高めているのです。
SMOT - 購入後の使用体験
店頭での第一印象 (FMOT) で購入を決めたお客さんが、次に迎えるのが SMOT という買った後の使用体験が起こる瞬間です。
購入後の体験は、商品やサービスの効果効能だけでなく、パッケージの扱いやすさからブランド全体に対する印象まで、多岐にわたります。FMOT においてお客さんが 「買ってよかった」 や 「また買いたい」 と感じるかどうかが、商品やサービスが長く続く成長を左右します。
パッケージの使いやすさ
店頭でのブック陳列を前提とした 10COINS KAMPO のスリムな箱型デザインは、家庭での保管のしやすさにもつながります。薬箱の中でかさばらず、本棚の隅に立てておくなど、整理しやすいからです。
ブック陳列で背表紙を見せているのと同じように自宅で置いてあっても、本棚感覚で取り出しやすいパッケージデザインです。
漢方薬は継続して飲むことが大切ですが、続けるためにはどの症状にどれだけ効くかをわかりやすく把握しておく必要があります。10COINS KAMPO のシリーズでは箱の側面に効能や成分を表示しています。
パッケージの側面 (背表紙) に薬品名や効能が明記されていることは、使うときにも便利です。複数の種類を買った場合でも、並んでいる中から目的の商品をすぐに見つけ出すことができます。
服用方法や注意点なども、分かりやすく記載されていることも、使用時の安心感をもたらします。
一貫したブランド体験
10COINS KAMPO は、1100円均一という低価格を実現しつつも、厳選した生薬と国内メーカーによる製造にこだわっています。
店頭での FMOT (第一の瞬間) でわかりやすいパッケージや価格に惹かれて購入したお客さんが、実際に使ってみて品質の高さを実感できれば 「安かろう悪かろう」 ではなく、「高品質なのに手頃な漢方薬」 というポジティブなイメージにつながることでしょう。こうした期待を超える体験こそが、SMOT (第二の瞬間) において重要な要素です。
1100円均一という価格設定は、家計への負担を軽減し、継続利用のハードルを下げます。品質への満足感と価格の手頃さが両立することにより、これなら続けられるという気持ちが生まれ、リピート購入が期待できます。
10COINS KAMPO は、すでに先に販売されている 「5COINS PHARMA」 や、日本調剤という企業全体への信頼感にも波及効果をもたらす可能性があります。
日本調剤に対して、品質と価格の良い医薬品の PB というイメージが結びつけば、処方箋受付といったサービス利用にも好影響を与えます。
このように、10COINS KAMPO は購入後にもお客さんが継続して利用しやすく、SMOT においてもうまく機能しています。
FMOT で消費者を引きつけ、SMOT で期待を超える体験を提供する――。FMOT と SMOT での一連の流れを通じて、細かな工夫が集まることで 「なんとなく手に取ったら、使いやすくて良かった」 と感じる利用者が増え、結果的にブランドへの好感度やロイヤルティが高まる構図が生まれます。
まとめ
今回は、日本調剤の漢方薬 PB の 「10COINS KAMPO」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- Moment of Truth (真実の瞬間) とは、消費者が商品やサービスに対して印象を形成する重要な接点のこと。購買行動や長期的なブランドロイヤルティに影響する
- FMOT (First Moment of Truth) は、消費者が店頭で商品と出会い、わずか数秒間で購入を決断する瞬間。パッケージデザインや陳列方法などの視覚的要素が購買意欲を左右する
- SMOT (Second Moment of Truth) は、消費者が商品を購入後に実際に使用して品質や価値を体験する瞬間。期待通りの効果が得られたかどうかがリピート購入や口コミにつながる
- 効果的なマーケティングのために、FMOT では消費者の目を引き、手に取ってもらうための工夫を、SMOT では購入後の満足度を高める使用体験の向上を意識した一貫性のある取り組みが重要
- 成功するブランドは FMOT と SMOT の両方で消費者の期待に応え、ときには期待を超える体験を提供する。顧客からの 「買ってよかった」 や 「また買いたい」 という感情を生み出し、継続的な成長を実現する
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