投稿日 2025/09/08

BtoB ビジネスで成果を出すための 「顧客理解 → 問題 → 課題」 のフレームワーク

#マーケティング #問題設定 #課題設定

BtoB (法人向け) ビジネスにおいては、自社製品の強みを活かし顧客企業が抱える問題を的確に解決することが求められます。

ただし、つい 「自社製品をどう売るか」 という意識に偏ってしまい、お客さんが本当に求めていることや、お客さんにとってどのような価値が生まれるかを十分に考慮できていないケースも多いのではないでしょうか。

そこで今回は、顧客理解を深め、解決すべき顧客の問題設定、顧客課題と自社課題を設定していく全体像を解説します。

問題設定から課題設定への全体像


まずはじめに全体像です。

✓ 顧客設定

  • 顧客定義
  • 顧客の置かれた状況
  • 顧客インサイト (顧客についての深い理解) 


    ↓↓ このような注力顧客を前提に…

✓ 問題設定

  • 顧客にとって好ましくない起こっている事象や問題
  • その問題はなぜ顧客にとって不都合なことなのか
  • 問題を引き起こしている根本原因
  • 問題が解決されることで顧客が得られる恩恵


    ↓↓ ここまでの問題の構造化をもとに…

✓ 課題設定

  • 問題を解決するために顧客が対処したい課題 (顧客課題) 
  • 課題のために顧客から自社が求めれること
  • そのために自社が取り組むべき課題 (自社課題) 


では順番に見ていきましょう。

顧客設定


まずは注力する顧客像を明確にします。

顧客定義

顧客を定義する際には、どの業界のどのような役職や部署の人かなどから始めます。BtoB のビジネスの場合、顧客は企業ではあるものの、その企業を代表して意思決定を行う担当者個人が存在します。

顧客の業界とは、たとえば製造業、IT 業界、物流、金融などの情報などです。加えて、部署や役職である購買担当、技術部門長、経営層、マーケティング部門などを具体的にします。さらに、担当者の特性として、例えば若手でこれから実績を積みたい人、チームを引っ張るミドルマネジメント層の人、経営の意思決定に近いポジションの人などと描写します。

こうした顧客像を曖昧にしたまま進めてしてしまうと、「誰にどんな価値を提供するのか」 がボヤけます。

顧客の置かれた状況

次に顧客が置かれている状況を具体化します。

状況は大きく分けて外部環境と内部環境があります。外部環境の例は、市場の変化、顧客の競合動向、顧客が参入している業界の規制や制度などです。一方の内部環境とは、顧客企業内における次のような要素です。

  • 部門としての期待: 会社からコスト削減や、新規事業立ち上げへの必達期日などといった目標を求められている
  • 他部署との連携: プロジェクトを進めるには他部署 (例: システム部門や営業部門) との協力が必要。毎回調整が発生する
  • 担当者の役割や責任: 新しい取り組みをリードし、成功事例を社内に示す必要がある
  • 個人の目標・葛藤: 失敗は許されないプレッシャー、でも実績を出して早く評価されたい


このように、顧客は社外・社内の事情 (置かれた状況) によって、さまざまな利害関係やしがらみ、制約を受けています。

顧客インサイト

顧客インサイトは 「顧客を動かす隠れた本音」 です。顧客が表立って語らない、あるいは自覚していないような深層心理です。中には顧客本人が向き合いたくない本音や、ドロドロした感情が隠れていることもあります。

例えば、大きな新規プロジェクトを任されたビジネスパーソンが、表向きには挑戦に燃えている言動をしていても、心の中の本音では 「もし失敗すると自分の評価が下がるのではないか」 「自分は無能のレッテルを貼られてしまうのではないか」 「自分の居場所がなくなるのではないか」 という恐れの気持ちです。

表向きには 「このプロジェクトを成功させて会社に貢献したい」 と言う一方で、内心では 「失敗だけは避けたい」 「安全策を取りたい」 という恐怖心があるわけです。

ほかの例としては、「同僚や同期に負けたくない、むしろ差を広げてドヤ顔をしたい」 という焦りや競争心、自尊心です。ここでも表向きには 「会社や売上に貢献する人でありたい」 という建前的なきれいな発言が聞かれますが、本心には 「負けたくない」 「自分はもっと評価されるべき有能な存在のはず」 という本能的な欲求も潜んでいます。

こうした顧客インサイトまでお客さんのことを深く理解できると、顧客企業の担当者や意思決定者が口には出さなくても、顧客の 「心のスイッチ」 を押し、グサッと刺さるような訴求が可能になります。

問題設定


ここまで見てきた注力顧客への理解を前提に、顧客が解決したいと思っている、または思うであろう問題を設定していきます (2つ目の大きなパートです) 。

顧客にとって好ましくない起こっている事象や問題

顧客の状況や深層心理を踏まえ、顧客が今抱えている 「好ましくない状態」 を見つけます。例えば、次のような問題があります。

  • 社内プロジェクトが当初の予定に比べて進捗が遅く、タスクが後ろ倒しになっている
  • 予算や人的リソースが不足し、競合他社に後れを取っている
  • 新規のマーケティング施策を進めたいが、社内で承認が得られずフラストレーションがたまっている
  • 他部署との連携不足により情報共有がうまくいかない。後から言った・言わない、なぜもっと早く教えてくれないのかといった意思疎通でのいざこざが多発


これらは顧客が避けたいと感じていたり、解消したいと思っている問題です。

その問題はなぜ顧客にとって不都合なのか

起こっている事象が問題だと認識されるのは、それによって何かしらのデメリットや不利益をもたらすからです。顧客視点で具体的に考えると、次のような不都合が挙げられます。

  • ビジネスインパクト: 競合他社との差が開き、市場シェアを失う可能性がある
  • 社内評価への影響: プロジェクト失敗により、担当者の評価や昇進が遅れる
  • 実務負荷増大: トラブル対応に追われ、本来の戦略的な業務に時間を割けない
  • モチベーション低下: 実績が出ず苦境に陥り、チーム全体のやる気が落ちる


最終的には顧客担当者自身の社内での評判、人事評価やボーナスなどの給与、さらにはキャリア形成にも直結してくるため、問題が放置されることは大きな痛手になります。

問題を引き起こしている根本原因

起こっている問題の表面だけを見ても、なぜそれが起きるのかを理解できなければ、適切な解決策は打ち出せません。問題発生の根本原因まで突き止めることで、初めて有効なアプローチが可能になります。

  • 経営課題と現場課題のギャップ: 経営層が描くビジョンと現場の実態が合っていない。経営理念が絵空事になり従業員はあまり共感したり自分ごと化されておらず、面従腹背をしている状態

  • リソース (人材・予算・時間) の不足: やることばかりが毎年増えていて、成果の出ない取り組みも上への忖度でいつまでも中止できていない。「やらないこと」 を決めていなく、プロジェクトや開発案件へのサンクコスト (今さらもう取り返せないコスト) にとらわれ、損切りできていない

  • 情報共有の仕組みが未整備: 縦割りの組織の弊害。自分たちの部署さえよければいいという空気が蔓延し、部署同士で足の引っ張り合いをしている。他部署のことに目を向ける余裕がなくなっている

  • 組織文化・社風: いつしか失敗を恐れる風土が強くなり、元気な若手や中途採用者も出る杭は打たれる。新しいチャレンジが生まれにくい土壌に


こうした根本的な原因は表層的な話だけではなく、組織や企業文化、社内の権限構造などにも深く根を下ろします。

問題が解決されることで顧客が得られる恩恵

顧客にとって、もし問題が解決されれば、顧客にはどのようなメリットがもたらされるを具体的に描きます。

  • 競争優位性の獲得: 競合より一歩先んじたサービス提供が可能になる
  • 社内評価の向上: 成功事例となることで、担当者の昇進や社内での存在感が増す
  • 時間とコストの削減: 効率化により、より重要な業務へリソースを振り分けられる
  • 組織の活性化: プロジェクト成功の実績から社内の閉塞的な雰囲気が少しずつ変わり、チャレンジを後押しする機運が生まれる


解決がもたらす恩恵はビジネスでの売上などの直接的な面だけでなく、社内の雰囲気や担当者自身のモチベーションにもプラスに働きます。

課題設定


以上の顧客の解決したい問題を構造化したら、課題設定に入ります (3つ目の最後のパートです) 。

問題を解決するために顧客が対処したい課題 (顧客課題) 

問題を解決して期待できる恩恵を得るために、顧客はすでに解決に向けて動いているならどんなことに着手しているのか、これからなら具体的に何をしたいと考えているのか、これらを 「課題」 として整理します。課題とは問題を解決するために対処する方針です。

  • 問題発生の原因のひとつひとつに対して、解決するアクションを計画し実行したい
  • 新しいシステムやツールの導入を検討したい
  • 他部署との連携強化のための意思疎通を進めたい
  • 経営層の承認を得るための説得材料をそろえたい


こうした課題をクリアしようとすると、顧客は 「足りないリソースを補うにはどうすればいいか」 や 「自社で手に負えない部分を外部からのサポートを得たほうがいいか」 などの選択を検討することになります。

課題のために顧客から自社が求められること

顧客課題をもとに、自社に対して顧客はどのようなサポートやソリューションが求められるかが見えてきます。これが顧客が自社に期待していることです。

例えば、次のような内容です。

  • 技術的なサポート: 専門知識やシステム導入支援、開発リソースの提供
  • プロジェクト推進支援: 導入後の運用サポートや、社内調整のアドバイス
  • 経営層へのプレゼン資料作成支援: 定量的・定性的に導入効果を示すデータや事例提供
  • 外部とのネットワーク提供: 業界の先行事例の紹介や、パートナー企業との協業サポート


顧客課題の中で、自分たちはどんな便益を提供できるのか、それによって顧客はどんな価値を実感できるのかを明確にします。

そのために自社が取り組むべき課題 (自社課題) 

顧客の期待に応えるために自分たちが取り組むべきことを整理します。

自社の組織体制や事業能力の向上、製品・サービスのカスタマイズなど、社内で対処しなければならない課題が浮かび上がってくることもあります。

  • 開発・サポート体制の強化: 案件規模の拡大や高度な技術要件に応えるために、社内の人的リソースや技術基盤を再構築する

  • コンサルティング・提案力の向上: 顧客の業界特性や課題を深く理解し、解決策を具体化できる事業能力の強化、人材育成

  • スピーディーな意思決定プロセス: 長い稟議や承認フローを見直し、顧客の期待に応える意思決定プロセスの構築

  • 価格戦略や契約形態の柔軟化: 顧客の予算や導入フェーズに応じて、従来型のライセンス販売からサブスクリプションモデルへ変更する


これらの自社課題をクリアしてはじめて、顧客が望んでいる製品やサービスを適切な形で提供できる状態になります。

今回の全体像の逆からたどれば、「自社課題への対処 → 顧客課題への対処 → 顧客の問題解決 → 顧客の成功 → 自社の成功」 というサクセスストーリーです。

まとめ


今回は、BtoB ビジネスでの問題設定と課題設定の方法を整理しました。

最後にポイントとして全体像です。

✓ 顧客設定

  • 顧客定義
  • 顧客の置かれた状況
  • 顧客インサイト (顧客についての深い理解) 

✓ 問題設定

  • 顧客にとって好ましくなく起こっている事象や問題
  • その問題はなぜ顧客にとって不都合なことなのか
  • 問題を引き起こしている根本原因
  • 問題が解決されることで顧客が得られる恩恵

✓ 課題設定

  • 問題を解決するために顧客が対処したい課題 (顧客課題) 
  • 課題のために自社が求めれること
  • そのために自社が取り組むべき課題 (自社課題) 


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。