#マーケティング #観光マーケティング #価値の再解釈
自分たちが持つ本当の強みを活かしきれているでしょうか?
魅力的な商品や良い立地があっても、それが点で終わってしまい、お客さんを次の行動へと効果的につなげられていないとしたら、実はそこには機会損失が発生しているかもしれません。
ご紹介したい神戸市の観光名所の 「布引 (ぬのびき) の滝」 は、駅から徒歩15分という滝を、街と山をつなぐ役割として再定義することで、街全体の回遊観光の動線を変えました。
既存資源を見直し、顧客動線を設計し、地域全体に経済効果を波及させるマーケティング――。
ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
神戸の 「布引の滝」
神戸というと、港街のオシャレなイメージや異国情緒あふれる街並み、パンやスイーツが有名です。新神戸駅からほど近い場所に、ダイナミックな自然を体感できる 「布引の滝」 があります。
布引の滝は、神戸市の六甲山系の麓にあり、新幹線の新神戸駅から徒歩わずか5分から15分ほどでたどり着ける滝です。
滝は1つではなく4つあります。雄滝 (おんたき) 、雌滝 (めんたき) 、夫婦滝 (めおとだき) 、鼓ヶ滝 (つつみがだき) です。散策しながらさまざまな表情を楽しむことができます。
布引の滝は 「日本の滝100選」 に選ばれるほどの美しさです。
新神戸駅から歩いてすぐのところに迫力ある滝が見られるのは、山と街の距離が近い神戸ならです。週末には多くのハイカーでにぎわい、平日にもインバウンドの訪日外国人観光客が数多く訪れるなど、多くの人々が気軽に足を運べる観光スポットになっています。
美しい滝、アクセス抜群とこれだけでも布引の滝は十分に魅力的なのですが、今回注目したいのは布引の滝への神戸市の取り組みです。
布引の滝の事例からマーケティングに学べることを掘り下げていきましょう。
布引の滝を "入口" にする集客
兵庫県の新神戸駅は、新幹線が停車する駅なので全国からアクセスしやすい要所です。関西圏からはもちろん、関東や九州、中国地方などの遠方からも移動できます。たとえば東京駅からでも新幹線に乗れば数時間で神戸に到着する距離です。
神戸の布引の滝は、新神戸駅から徒歩 5 ~ 15 分程度です。新神戸駅の改札を出てすぐに自然豊かな山へ入り込めるので、「新幹線の駅から歩いてすぐの場所に、すごい滝があるらしい」 という興味が、観光客に行ってみたいと思わせるきっかけになるでしょう。
滝へ行く途中には休憩処の茶屋などもあり、水の流れの音を聞きながらひと息つくという体験を満喫できます。海外からのインバウンドの旅行客にとっては、日本ならではの山の景観と茶屋でのおもてなしを両方に味わえます。
そして、布引の滝の観光マーケティングの仕掛けは、この "入口" だけで終わらない点にあります。
回遊観光へつなげる仕掛け
布引の滝を訪れた人たちが、そのまま滝だけを見て終わりではなく、神戸の街や山を回遊してくれるようにする仕組みが整っています。
[街から山へ] トレイルステーション神戸
まず 「街から山へ」 という動線が設計されています。
新神戸駅に隣接する 「トレイルステーション神戸」 という登山への支援拠点があります
ここで、登山用品のレンタルや荷物を預かってもらえ、周辺の観光地図ももらえます。また、登山靴やレインウェアなどをその場で借りられたり、現地をよく知るスタッフがルートや注意事項を丁寧に教えてくれます。登山用の格好や荷物がなくても、なんなら手ぶらで訪れても気軽に山歩きが始められる環境が整っています。
山の初心者でも安全にトレッキングやハイキングが楽しめる仕組みを用意されています。布引の滝に行ってみたら、もっと高いところまで登りたくなったというニーズの受け皿がトレイルステーション神戸です。
布引の滝という観光名所をきっかけに六甲山を満喫でき、神戸の街と山をつなげる動線設計です。
[山から街へ] 登山サポート店制度
山から街へという流れをつくる仕掛けが 「登山サポート店制度」 です。
神戸市では、登山客が山を下りたあとに気軽に立ち寄れる飲食店や銭湯などを登録店としてまとめています。大きいリュックサックを持っていたり、アウトドアウェアのままでも気兼ねなく入店できるようになっています。神戸市がお墨付きを与える形で 「登山サポート店」 と呼んでいるお店です。
登録店はリュックを背負ったままでも歓迎してくれる飲食店や、登山帰りに汗を流せる銭湯、帰り道にちょっと休みたい時に便利なカフェやバーもあります。登録店舗はトイレを使わせてもらえるのも観光客にとってありがたい存在です。
神戸市はこの登山サポート店制度によって登録店を一覧化し、公式サイトや案内パンフレットで周知しています。観光客は迷わずお店を探すことができ、地元地域のお店にとっても登山客を新たなお客さんとして迎え入れるチャンスが生まれます。行政が音頭を取ることで、権威付けや安心感が生まれ、お店の利用者と店舗の双方にとって恩恵があります。
山に行った足で街に寄り、食事をしてからお土産を買う、さらには銭湯でリフレッシュしてから宿やホテルに戻るという回遊がつくられ、神戸全体の魅力を堪能してもらえる仕組みができあがっています。
観光マーケティングへの示唆
布引の滝の事例は、地域マーケティングや観光マーケティングを考えるうえで、いくつか示唆を与えてくれます。
既存資産の再解釈と魅力の再発見
マーケティングで重要なのは、「すでにあるものの魅力を再発見し、価値への見せ方を変える」 という視点です。
神戸にとって、新神戸駅のすぐ北側に山があるという地理的条件は、昔から変わらず存在した 「当たり前」 の事実でした。
この地理的特徴を、新幹線駅近の手軽に行ける本格的な自然は 「強力な観光のへの入口となる」 と捉えなおし、山と街が近いことで山と街の回遊を生み出すポテンシャルを見出したわけです。既存の観光資源をただそこにあるものとしてではなく、玄関口として再解釈する発想です。
回遊性を高める動線設計
布引の滝という魅力的な入口を用意するだけでなく、そこから訪れたお客さんが次にどう動くか、どう動いてほしいかを考え、スムーズな動線を設計することの重要性も、布引の滝の事例から学べることです。
街から山への流れは、神戸市はトレイルステーション神戸を設置し、登山への物理的・心理的ハードルを下げています。また、山から街へは登山サポート店制度を導入し、下山後の神戸の街への回遊を促します。
想定顧客の一連の体験であるカスタマージャーニーを俯瞰し、それぞれのステップでお客さんが何を感じ、何を求め、どんな困りごとにぶつかるかを想像しながら、最適な顧客体験をデザインしていくアプローチです。
点から面へ地域経済への波及
トレイルステーション神戸や登山サポート店制度は、布引の滝という "点" の魅力を、六甲山全体、そして神戸の市街地という "面" へと広げ、地域経済全体への波及効果を狙うものです。
布引の滝へ訪れた観光客が滝を見るだけにとどまらず、登山用品をレンタルし登山を楽しんだり、下山後に銭湯に入り、飲食店で食事をし、宿泊もしてもらえるといったこうした一連の回遊によって、様々な業種や施設・店舗にお金が落ちる仕組みがつくられています。
行政の後押しによる権威付けと安心感
布引の滝は、神戸市という行政が登山サポート店制度のように、民間の店舗を巻き込み、行政からのお墨付きを与える格好となり、登山客と店舗の双方にメリットをもたらしています。
初めて訪れる観光客にとって安心感や信頼感につながります。個人商店や小規模店舗だけでは得にくい信用力を、行政の後押しで補完していることで、市が推奨しているお店なら大丈夫だろうというイメージがつくられます。業界団体や公的機関、あるいは信頼できる第三者からの評価や認定を得ることが、お客さんの信頼獲得やブランディングにおいて有効は手段です。
ここまで見てきたように、神戸の布引の滝の事例は、新幹線の駅から徒歩圏内の立地という既存の特徴を再解釈して強みとして打ち出し、顧客の行動を洞察した上で、山と街をつなぐ巧みな動線を設計が見れます。
行政と民間が連携することで地域全体の活性化を目指すという、示唆に富んだ観光マーケティングの好例です。
まとめ
今回は、神戸の自然観光名所である 「布引の滝」 を取り上げ、マーケティングに学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 既存資源の再解釈。当たり前と思われている存在も、「どう見せるか」 を考え直すことで新たな魅力になる。例えば、その土地ならではの立地、自然、文化など、見慣れた風景や景色など
- 魅力的な 「入口」 で惹きつける。お客さんが最初に訪れたくなるような、アクセスしやすく、かつ心をつかむ入口となるコンテンツや体験を設定する
- 動線を設計し回遊を促す。入口から次の行動へと自然につながる流れ (動線) をつくる
- 点から面へと効果を広げる。今回の事例では特定の観光スポットだけでなく、周辺の店舗や施設、アクティビティなどを連携させ、地域経済全体への波及効果を生み出す
- 連携と権威性で信頼感を醸成する。民間事業者と行政が協力し、行政がお墨付きを与えるなどして、観光客が安心して地域を楽しめる信頼性の高い環境を整える
マーケティングレターのご紹介
マーケティングのニュースレターを配信しています。
気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。
マーケティングのことがおもしろいと思えて、すぐに活かせる学びを毎週お届けします。レターの文字数はこのブログの 3 ~ 4 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。
ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。
こちらから登録して、ぜひレターも読んでみてください!