投稿日 2025/09/27

日清食品のスルメサイクル。「空中 → サイバー → 地上」 でつなげるマーケティング循環戦略

#マーケティング #コミュニケーション #スルメサイクル

自社商品の広告に予算をかけているのに、売上が伸び悩んでいる…。SNS で話題になっても、なかなか購買につながらない…。

広告を打っただけ、または一過性のバズだけでは、消費者やお客さんに選ばれ続けるのは簡単ではありません。

お客さんの心に残り、購買行動につなげるには 「咀嚼」 と 「循環」 がカギを握ります。日清食品が展開する 「スルメサイクル」 は、テレビ CM を起点に、ネット上での話題化、そして店頭での購入へと自然に消費者を導くコミュニケーション手法です。

まるでスルメが噛むほど味わい深くなるように、消費者の関与が深まるほどブランド価値が高まるこのアプローチから、ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

日清食品のマーケティング


カップヌードルやどん兵衛でお馴染みの日清食品。カップヌードルは発売から50年以上経つロングセラーですが、日清食品は 「成長を目指さないブランドは衰退する」 という考えのもと、常に新しい挑戦を続けています。

カップヌードルなどのこれだけ有名なブランドだと、「もうこれ以上、広がりようがないのでは?」 と思えてしまうかもしれません。しかし、有名であるがゆえに当たり前になり、店頭で他の新商品に目移りされてしまう…。そんな想起されにくさという問題も抱えています。

そこで日清食品は、味や品質のアピールだけでなく 「日常生活の中でいかに思い出してもらうか」 という課題に力を入れています。カップヌードルが展開する野菜栽培キットやアパレルコラボといった施策も想起を狙ったものです。

出典: 日清食品

日清食品のマーケティングの中で、今回注目したいのが 「スルメサイクル」 と呼ばれる独自のアプローチです。

スルメサイクル



スルメサイクルは日清食品が採用している方法ですが、「空中 → サイバー → 地上」 と展開するマーケティングコミュニケーションです。消費者の関心を引き、商品の購入につなげ、ブランドへの愛着を高めるプロセスです。

起点はテレビ CM

スルメサイクルはテレビ CM が起点になります。

日清食品が展開する広告を語る上で、テレビ CM の存在は欠かせません。たとえばカップヌードルはマス層に届けたい商品であり、多くの消費者にリーチできるマス広告は変わらず有効だからです。

日清のテレビ CM でのポイントは、CM コンテンツの中に思わずウェブ検索や SNS 投稿をしたくなる仕かけを盛り込むことにあります。見て内容が気になったユーザーは CM についてスマホなどで検索し、自ら発見した CM 内のネタを SNS に投稿するというわけです。

UGC からの話題化メカニズム

こうした消費者のアクションはユーザー生成コンテンツ (UGC) を生み出します。それがさらに SNS 上で共有されたり、SNS のトレンドに入ったりまとめサイトなどに掲載されます。これにより、より多くの人たちへと情報が拡散していくのです。

さらには 「Yahoo! ニュース」 のような多くの人が日常的に使っているポータルサイトに取り上げられることもあります。そして、ネット上で話題になったテーマは最終的にはテレビ番組で紹介されるなど、より大規模な情報露出を得ることになるのです。

購買行動への影響

スルメサイクルからの一連の流れは、ロイヤルユーザー (熱量の高い既存顧客) の共感度を高めるとともに、たまにしか食べないライトユーザー、離れていってしまった離反ユーザー、あるいはノンユーザー (未顧客) の興味を惹き、新たな顧客層へのリーチと獲得につながります。

スーパーマーケットやコンビニ、ドラッグストアなどのお店での売場づくりと組み合わせることで、消費者がブランドのことを身近に感じる体験を提供し、商品購入へと導くのです。

空中 → サイバー → 地上

日清のスルメサイクルをまとめると、「空中」 の広告媒体での露出、「サイバー」 のオンラインでの情報拡散、そして 「地上」 の実店舗での体験のかけ算での波及効果から、情報が消費者の間で咀嚼され、広がっていくプロセスです。

  1. 空中 (テレビ CM や動画広告など) : 話題の火種となるような、仕掛けのあるコンテンツを投下
  2. サイバー (ネット・SNS) : 視聴者の検索や UGC 投稿を起点に、SNS 、まとめサイト、ネットニュースへと話題が拡散し増幅
  3. 地上 (店頭・リアル体験) : ネットでの盛り上がりを、店頭での購買行動やリアルなブランド体験へとつなげる


まさにスルメは噛むほど味が出るように、消費者が関与する度にブランドへの関心が深まり、その結果として商品の購入につながるという仕かけです。

スルメサイクルから学べること


では、日清食品のスルメサイクルから学べることを掘り下げていきましょう。

 「違いをつくり、つなげる」 

競争が激化する市場において、企業はただ製品を差異化するだけではなく、それをお客さんの心に深く根ざすストーリーへと結びつけなける必要があります。

日清食品のケースは、「違いをつくり、つなげる」 という競争ストーリーの要諦を鮮やかに示しています。

日清の CM はクリエイティブなおもしろさ自体が 「話題にしたい」 「シェアしたい」 という気持ちを生み出します。他には野菜栽培キットやアパレルコラボも、食べること以外の楽しさのある文脈でブランドとの新しい関係性を提案する 「違い」 の創出です。

そして、生み出した違いがバラバラに点在するのではなく、ひとつのストーリーと紡がれ消費者に体験してもらうことが重要になります。

日清のスルメサイクルでつながっているのは、

  • オフラインからオンライン (リアルとデジタル) 
  • 公式コンテンツ (広告) から UGC
  • 広告から店頭


という3つの異なる要素が連動しています。

CM を見て、ネットで話題にし、店頭で思い出し、購入して楽しむ――。この一連の体験が、ブランドへの愛着を深めます。

ライトユーザーとロイヤルユーザーの態度変容

スルメサイクルが紡ぎ出すストーリーは、お客さんのブランドに対する熱量の違いによって、それぞれ異なる効果をもたらします。

具体的には 「そういえば、最近カップヌードル食べてないかも」 と感じているライトユーザーにとっては、カップヌードルの CM や SNS で話題になっているのを見て、カップヌードルというブランドのことを想起するきっかけとなります。

そこから 「久しぶりに買ってみようかな」 という気持ちを喚起し、久しぶりの購入や、当時はなかった新しい味のカップヌードルのトライアル購入へとつながることが期待できます。実際に食べてみて満足すれば、継続的な購入へと発展する可能性も生まれます。

一方で、日頃から日清食品の商品を食べているロイヤルユーザーにとっては、新しい CM やネットでの盛り上がりは、ブランドへの親近感や愛着をさらに深める機会となります。「やっぱり日清は期待を裏切らずおもしろい会社」 や 「日清のことを応援したくなる」 といったポジティブな感情を醸成し、ブランドとのエンゲージメントをより強固なものにしてくれるのです。

ストーリーからの価値創出

日清食品からビジネスにおいて学べることは、単に製品を市場に出し、見える形で差異化するだけでは必ずしも十分ではないということです。

商品が生きるストーリーを生み出し、消費者1人ひとりの体験と価値創出に結びつけることにより、本当の意味での差異化が達成されます。

ストーリーを通じた価値創出は、売上向上に貢献するだけでなく、ブランドと顧客との間に長期的で良好な関係を築くための基盤となります。

お客さんがブランドのストーリーに共感し、自らその物語の一部となり発信者となってくれる――。そうなれば、お客さんはブランドを共に育て、支えてくれる "パートナー" へと変わっていく可能性を秘めています。

まとめ


今回は、日清食品のマーケティングコミュニケーションを取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 消費者の日常生活や顧客企業のビジネス活動の中で、自社ブランドや商品を 「思い出してもらう想起」 ための顧客接点ときっかけを、広告以外の手段も含めて戦略的に設計する

  • 日清は 「スルメサイクル」 から複数の顧客接点を連動させ、情報がスムーズに循環し増幅される流れを構築している

  • スルメサイクルとは、① マス広告 (空中) → ② SNS などのネットやウェブ広告 (サイバー) → ③ 店頭・リアル体験 (地上) とつなげるマーケティング

  • 企業からの一方的な情報発信だけでなく、消費者が思わず検索したり、語ったり、共有したくなるようなネタや仕掛けを用意することで、消費者の参加と口コミなどの UGC を促す

  • 顧客との関係性を深める。新規顧客獲得だけでなく、既存顧客 (ライト層からロイヤル層まで) との関係性を維持・深化させるコミュニケーションによって、商品やブランドへのエンゲージメント (親近感や愛着) を高める


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。