#マーケティング #顧客理解 #ニッチ
自社の商品やサービスは、本当に届けたい人に響いているでしょうか?
多くの人にアピールしたいと思うほど、かえって特徴がぼやけてしまい、誰の心にも深く刺さっていないという状態に陥っていないでしょうか?
今回は、大阪梅田の飲食施設 「バルチカ03」 の事例を取り上げます。
取り残された消費者の潜在ニーズを丁寧に拾い、共感から始まるマーケティングで支持を広げた事例から、学べることを掘り下げます。
バルチカ03
大阪・梅田の一角にある飲食施設 「バルチカ03 (ゼロサン) 」 。JR 西日本 SC 開発が2024年7月末にオフィスビル内へ新規オープンした施設です。
梅田といえば百貨店や大規模ショッピングビルがひしめく激戦区です。競合の商業施設がたくさんある中で、バルチカ03は平日から多くのビジネスパーソンでにぎわっています。
注力顧客の困りごととソリューション
では、バルチカ03の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
取り残された消費者の発見
ビジネスで大切なのは、自分たちが本当に届けたい人または企業を見つけることです。世の中には、目立ちにくいけれど強いニーズを持っている人たちが実はたくさんいたりします。
バルチカ03が白羽の矢を立てたのは 「梅田で働くおっさんたち」 でした。
梅田では、女性向けのファッションや高級感のある飲食、トレンド感あふれるカフェなどが彩っています。しかし、きらびやかな梅田のイメージとは裏腹に、特に 「働くおっさんたち」 が、結構切実な悩みを抱えていたのです。
これがわかったのは地道な 「n1 調査」 からでした。一人ひとりに直接会って、じっくり話を聞く調査方法です。
梅田で働く人、遊びに来る人の中から、10代から60代まで、男女さまざまな立場の人に 「梅田で困ってること、ないですか?」 とお菓子折りを持参して聞いて回ったとのことです (参考情報) 。
バルチカ03が着目したのは、梅田周辺特有の飲食価格帯の高さや、駅ビルにありがちな華やかさから外れてしまう層でした。
具体的には40代前後のビジネスパーソンが、早くて安くてお腹いっぱいになるランチを求めていること、そして仕事終わりにはそこそこ安く飲める居酒屋にすぐ行きたいこと。こうした消費者ニーズが満たされないまま放置されていたことがわかったのです。
聞こえてきた声は、梅田で働いているビジネスパーソンからすると、毎日のランチや仕事帰りの一杯を楽しむのに、梅田は高価格帯のお店ばかりでは出費が厳しいというものでした。中には 「昼食はサンドイッチかおにぎりだけ」 や 「夜は安い居酒屋に行きたいけど、近場にはあまりないので、20分ほど梅田からわざわざ歩いて東梅田方面まで行く」 というケースもありました。
飲食施設に限らず、商品やサービスが成功するかどうかは、消費者やお客さんが何に困っているのかをどれだけ理解しているかにかかっています。そしてただ理解するだけでなく、共感し、その痛みをなんとしても解消するという姿勢が重要です。
不満を見逃さずに拾い、理解と共感を深めたことが、バルチカ03の最初の勝因です。
未充足ニーズを満たすソリューション
こうして見つかったのが 「リーズナブルに食べたい」 「夜もそんなにお金をかけたくない」 という梅田のおじさんたちの未充足ニーズです。そこでバルチカ03は、50店舗もの飲食店をバリエーション豊かに集め、昼も夜も使い勝手のいい施設に仕上げました。
この時にポイントになったのは、ただ値段を下げればいいという短絡的な発想ではなかったことです。
ある程度の料理のボリューム感、店舗ごとの個性や入りやすい雰囲気、回転率が高くても落ち着いて食べられる空間づくり、同僚や友人に 「こんな店知ってるぜ」 とちょっとした自慢ができるような気の利いたお店がそろっているといった、ビジネスパーソンが気になる複数の要素をきめ細かくカバーしました。そのうえで価格帯は比較的リーズナブル。結果的に、おじさんたちだけでなく若い女性にも好評を得ています。
注力顧客の困りごとを理解し共感し、その 「あったらいいな」 を具体的なソリューションとして提供した。これが、バルチカ03が多くのお客さんを惹きつけている要因です。
ニッチで生き残るマーケティング
最初の狙いはニッチだとしても、実際に背後にはそのニッチに共感する人たちが多面的に広がっていくことがあります。
少人数でも深い不満や欲求があればビジネスは成立する
ニッチ戦略というと 「規模が小さい」 や 「お客さんが増えない」 というイメージを持つかもしれません。
しかし、実際には大勢のマスに向けたサービスの陰で困っている人や、不満を抱えている人は一定数で存在します。その人たちの困りごとをすくい上げ、自分向けだと思われる解決策を提供できれば、十分にビジネスは成り立ちます。
バルチカ03はその成功例です。大きな施設ではカバーしきれない価格帯やボリューム感に絞って備えた店をそろえることにより、「こういうお店をずっと探してたんだよ」 と思う人たちの受け皿になりました。
自分たちの本当のお客さんは誰か
大事なのは 「自分たちの本当のお客さんは誰なのか?」 という問いを突き詰めることです。
初めは男性ビジネスパーソンとざっくり決めたとしても、さらに条件を絞っていくと、例えば JR や地下鉄などの公共交通機関をよく利用する、平日のランチはボリュームと提供の早さと価格を重視、夜はオフィスからなるべく近場で飲みたいなど、より具体的な顧客像や求める便益が見えてきます。
仮説が立ったら、検証していきます。バルチカ03は、n1 調査で 「実は梅田のおじさんたちが困っている」 という仮説を得た後、さらにアンケート調査やクラスター分析で 「どんなおじさんたちなのか」 を具体的に理解を深めていきました。
データ分析はもちろん重要ですが、それだけでは見えてこない気持ちや顧客文脈があります。バルチカ03のように、データ (定量調査) と、直接話を聞くこと (定性調査) を組み合わせることによって、自分たちの本当のお客さんの輪郭がよりはっきりと見えてくるのです。
顧客の困りごとへの強い共感
そして、これも大事なのが 「顧客の困りごとへの強い共感」 です。
マーケティングでは手法やテクニックの話になりがちですが、マーケティングは突き詰めると 「誰かの役に立ちたい」 や 「誰かの悩みを解決したい」 という気持ちが原点にあるはずです。
バルチカ03が 「梅田のおっさん、ランチ困ってるらしい」 「夜飲む場所も探してるみたい」 「なんとかしてあげたいな」 と、彼らの状況や困りごとに本気で共感したからこそ、多くの人を惹きつける場所が生まれたのでしょう。
注力顧客への共感があるから、「どんなお店があったら嬉しいかな?」 「どんな価格帯がいいか?」 「どんな雰囲気が落ち着くのだろう?」 などと、お客さんの目線になり、とことん考え抜くことができます。その熱意が、商品やサービスに宿り、お客さんにも伝わるはずです。
バルチカ03が、当初ターゲットとしていた梅田のおじさん層だけでなく、トレンドに敏感な若い女性など、当初の想定外の消費者層にも支持されているのは、共感からの本気度や熱量が伝わっているからでしょう。
誰かの困りごとに、本気で寄り添い、共感する――。これが、これからも重要になってくる視点だと、バルチカ03の事例は教えてくれます。
まとめ
今回は、大阪梅田の飲食施設のバルチカ03を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 目立たないけれど困っている人を見つけられれば、ビジネスのチャンスがある。市場の中の "声の大きい人" だけでなく、取り残された少数派にも注目することで、競合が少ない領域を見出せる
- お客さんの置かれた状況を理解する。直接話を聞く n1 調査とデータ分析を組み合わせ、表面的には見えない顧客の本質的なニーズが明らかになる
- 少人数でも刺さる価値提供ができれば、ニッチでも支持は広がる。そのお客さんにとって "ぴったり" を実現すれば、熱量は口コミや共感を通じて波及する
- マーケティングの原点は 「誰かの困りごとへの共感」 。手法や理論にとらわれすぎず 「この人たちのために何ができるか」 を本気で考え実行することが強いブランドや支持を生む
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